第24話 能力の考察

 三戸は、死海上空の瘴気の穴から湧き出る魔物を撃ち落としながらも、ドローンから送信されてくる地上組の戦闘の様子をモニタリングしていた。操縦桿を握りながらそんな事をできるのも、アンジーのサポートがあってこそであるが。


「二人とも、エグい能力だな、おい」


 『地形操作』とも言うべきリチャード一世のエクスカリバーと、『重力操作』のサラディンのジハード。これらは一度に多数を相手取るには非常に効力を発揮する。対して、ジャンヌのブリューナクと関羽の青龍偃月刀は、強大な敵単体に対して威力を発揮する能力だ。


「そうですね。私達の戦いは常に多数を相手にしますから、心強いのでは?」


 実を言えば、リチャード一世のエクスカリバーの能力は飛んでいる敵には効果は薄い。サラディンのジハードの方も、動きを阻害するという点では無類の強さを発揮するが、通常使いでの殺傷力という点では疑問が残る。

 詰まるところ、ジャンヌや関羽を含めて、それぞれの能力は一長一短である。しかし、まとまって一本の槍の如く戦えば、それぞれの短所は補える。


「あの二人のコンボ技があってこそ、真価を発揮するような感じだな」

「神様はそれを見越してあの二人をこの場所に?」

「さてな」


 アンジーの問いに答えながら20mm機関砲で魔物を撃ち落とし、操縦桿を倒して次の敵へとターゲットを移す三戸。


「ここに来るか否かは個人の意思だからな。もっとも、能力に関しては神様の介入はあるだろうが」


 道を違えたが、張角の能力にしても使い方を誤らなければ強力なものだった。


(問題は、救世者メサイア同士では効果がない能力のはずが、俺だけ例外な事だ。しかも、人型になれるのもアンジーだけだしな)


 救世者メサイアの持つ『相棒』の特殊能力は、救世者メサイア本体には効果がない。それは張角の時で立証済みだ。このエルサレムに降り立った際、リチャード一世とサラディンが馬鹿正直に一騎打ちなどしようとしていたのも、既にそのことを知っていたからなのかも知れない。

 もちろん、能力が効かなくても武器は武器だ。切られたり突かれたりしたら普通に死ぬだろう。


(ん? 俺は勘違いをしていたか?)


 そこまで考えたところで、三戸は一つの仮説に辿り着いた。『相棒』の特殊能力は無効化するが、武器そのものの性能がなくなる訳ではない。となれば、自分が張角を狙撃したのも純然たるスナイパーライフルの性能であり、アンジーの特殊能力とは言い難い。弾数無限とかいうチートな能力はあるが、それが狙撃に影響を与える事はなかっただろう。


「なるほど。俺のアドバンテージは遠距離攻撃と大火力か。フッ」

「マスター?」


 仮説ではあるにしろ、ひとつの結論に辿り着いた三戸が笑った。


「いや、あの神のヤツ、救世者メサイアの中でも敵に回るヤツがいるって事、見越してたんじゃねえかな?」

「?」


 アンジーがモニターの向こうでキョトンとしている。その可愛らしい表情に、思わず笑みを浮かべてしまう三戸だが、説明を続ける。その間も、操縦桿とトリガーは休みなく働いていた。


「今のところ、近代兵器と呼べるものを使う救世者メサイアとは出会っていないだろ。そうなると、張角みたいに暴走しちまった救世者メサイアを確実に仕留められるのは俺達だけって事だよ」

「なるほど! B29爆撃機に竹槍で突撃しても勝てないって事ですねっ!?」


 古い例えで立場も逆だが、まあそういう事だろうと苦笑しながら頷く三戸。つまり、敵の攻撃範囲外から一方的に狙撃できる三戸に、対処できる者は今の所いないという事だ。


「時代が現代に近付く程、面倒な事になりかねないのは覚悟しとかなきゃな。流石に大戦中の兵器とか出てきたら油断はできないだろ」

「そういった方が、敵に回らねばよいのですが」


 モニターのアンジーは心配顔になっていた。本当によくできたAIだと、三戸は今更ながら感心する。そして、そういう事を言ってフラグを立てるな、と心の中で突っ込みを入れたその時。


「マスター!」

「ああ、ようやくお出ましだな」


 コックピットの中にあっても感じる重苦しい瘴気。赤黒い瘴気が渦巻く穴の中から何者かが飛び出してくる。


「虫……ですか?」

「ああ……ほぼトンボだな」


 出てきたのは巨大なトンボのような魔物だった。ファントムの優に二倍はある。巨大な複眼はトンボそのもだし、細長い体もトンボに酷似している。

 しかし、翅ではなく翼といった方がよいだろうか。昆虫のものより蝙蝠のような、悪魔的な印象がする翼が背中に六枚。六本の足は昆虫というよりは動物に近く、筋肉も発達しているし物も掴めそうな形状だ。


(トンボってことは、スピードは一級品、急加速、急制動、ホバリング、なんでもござれの可能性が高いな。こりゃ厄介だ)


 三戸は生前によく見たトンボの動きから、トンボ型魔物の性能特性を予測する。


「問題は火力だが……」

「マスター! 熱反応!」

「おう!」

 

 考察中にアンジーからの警告。三戸は咄嗟に左に機体を傾けながら降下して躱す。


「なんだありゃ? 魔力ビームか?」

「そのようですね。あの複眼で魔力を収束させ、撃ち出しているようです」

 

 先程まで自分達が飛んでいた場所を、赤黒いビームが通過していった。と言っても、純粋な光学兵器とは違い、物理的に魔力を打ち出しているために、『見えた時には当たっている』といった類のものではない。反射神経と操縦技術で避ける事は可能だと思われる。


「よし、やるか! 相手にとって不足はなさそうだ!」

「はいっ! マスターの愛情を受けてパワーアップしたファントムの力を見せてやりましょう! せきはらぶらぶ「それは違う!」」


 こうして三戸達は、並行世界に来てから初めての、ファントムを操縦しての空中戦に突入した。

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