第23話 二人の能力

 三戸達がドッグファイトを始めてしばらく経った頃。


「見えてきましたね」

(キイィン)

「フフフ。中々の数。手加減はいらぬな、これは」

(ガガガガ)


 それぞれの得物を手にしながら、迫る魔物の群れを見据えて話しているジャンヌと関羽。しかし、互いに話しかけているのは己の武器であるブリューナクと、青龍偃月刀である。ジャンヌと関羽が【会話】をしている訳ではない。


「ブリューナクは何と言っておったのだ?」

「はい、『燃やし尽くす』、と」


 関羽の問いに苦笑しながらジャンヌが答えれば、関羽もまた同様に苦笑しながら言った。


「フフ。それがしの青龍も『喰らい尽くす』と言うておったわ」

「まあ、頼もしい事ですね」


 それを横で聞いていたリチャード一世が会話に参加してくる。


「やはりお前達も武器と『会話』ができるのか。余のエクスカリバーは気位が高くてな。手懐けるのに一苦労であったわ! はっはっは!」

(ビィィィィン)


 リチャード一世の話を聞いていたエクスカリバーが『鳴いた』。


「あらあら、リチャード陛下。エクスカリバーさんは『手懐けられた覚えなどない』と言っていますよ?」

「ぬっくくく……こやつめ」


 ブリューナクから『通訳』をされたのか、可笑しそうに返すジャンヌにリチャード一世が悔しそうな表情だ。


「ふん。『会話』ができるという事は、武器も主を認めておるという事じゃよ。ほれ、先制攻撃はお主の土俵じゃろう? さっさと数を減らして欲しいもんじゃな、獅子心王よ」


 そこに、さらに横からサラディンに茶々を入れられる。


「むう、分かっておるわ! 貴様はそこで見ておれ!」


 そう言いながら、リチャード一世は腰のエクスカリバーを抜き放ち、ツカツカと数歩前にでた。


「我がエクスカリバーが操るは大地の力! 喰らうが良いぞ、異形の魔物共!」


 彼は上段に剣を構えると、そのままブンッと振り下ろす。


「ほう……これは凄まじい。大地を割るか」

「ですが、これは被害甚大ですね。色々な意味で」


 振るわれたエクスカリバーの威力に、関羽は感嘆し、ジャンヌは苦笑する。

 振るった際の衝撃波なのか、はたまた魔法的な力が働いているのか、リチャード一世の十メートル程前方から放射線状に大地が裂けている。どこまで裂けていったのか、肉眼では確認できない程だ。

 その裂けた部分は底が見えない程に深く暗い。向かってきていた魔物の多くがその『奈落』とも言える地割れに飲み込まれていった。


「騎士ジャンヌよ。お前が気にしておるのは、この土地が使い物にならなくなるという事であろう? なに、心配には及ばん」


 今度はエクスカリバーを横に薙ぐリチャード一世。


「――ッ!!」


 ジャンヌが目の前で起こった光景に息を飲む。多くの魔物を飲み込んだ地面の裂け目は、地響きをたてながら徐々にその幅を狭めていき、やがてピッタリとくっつき裂け目は消えてしまった。


「これで元通りよ。死体の処理も気にしなくてもよい。便利であろう?」


 リチャード一世は超絶のドヤ顔だ。そんな茶目っ気を出した彼に対し、ジャンヌの方は真剣な表情だ。


「確かに。使いどころを選ぶ力ではありますが、我々の戦いは常に多数を相手にするものですからね。これは心強いです」


 ジャンヌの言う通り、リチャード一世の一撃で魔物はかなりの数を減らしている。


「ほっほっほ。では次は、儂の出番かの?」


 今度はサラディンが前に出た。手にするはシャムシールと呼ばれる曲刀。


「儂の『ジハード』の能力はこういうものじゃ」


 彼がジハードを振るうと、特定の範囲にいる魔物達の足が止まった。動きたくても動けない。そんな風に見える。


「動きを止める力……?」

「まあ、そういう使い方も出来るがの。本質は違うかのう?」


 魔物達を興味深そうに見ている関羽に答えるようにそう言ったサラディンは、さらにもう一撃、剣を振るった。

 すると、なんとか動こうともがいていた魔物達が、何かに圧し潰されるように地べたに這いつくばって動けなくなっている。


「このジハードの能力は重力操作! このまま魔物を圧し潰す事もできるが、こんな芸当もできるのじゃ」


 今度はジハードを下から救い上げるように振るう。すると、魔物達はふよふよと地面から浮き上がり、かなりの高さまで上っていった。


「なるほど。では今は、重力の干渉を受けていないという訳か」

「うむ。それで、あの高さの敵に重力を再びかけてやるとじゃな……」

 

 サラディンは関羽の言葉に頷きながら、上から下へとジハードを振るう。


「こうなる訳じゃ」


 宙に浮いていた魔物が急降下を始めた。おそらく通常の数倍の重力をかけているのだろう。魔物達には抗う術はない。地面に叩きつけられて死ぬのを待つばかりだ。


「余も大道芸の手助けをしてやろう」


 リチャード一世がサラディンの隣に並び立ち、エクスカリバーを下から上に振るった。


「……ふん。余計な事をしおって」


 大地からいくつもの石柱が盛り上がってくる。先端は鋭く尖っており、まるで地面から石の槍が生えてきているようだ。剣山さながらの地面へ向かって落下してくる魔物達は次々と串刺しにされていく。

 サラディンはドヤ顔のリチャード一世と対照的に、つまらなそうな顔でそれを眺めているのだった。


 

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