基地 3

 基地の正面入り口は、明かりが消えたままだ。

 停電したままなので、当たり前と言えば当たり前である。

 ハンドールが扉を開いて中を確認してから、デュークとリンダは中に入った。

 広いホールには誰もいない。

 基地は二階建てで、居住区と研究棟に分かれている。ハンドールの話では、スタッフのほとんどは一階の食堂に閉じ込められており、見張りが三人ほど交代でついているらしい。数名は、本社との通信や猫丸号の通信をやりとりするために他の部屋につれていかれたらしい。

 定期的な本社とのやりとりを怠っては、あっという間に異常を察知される危険がある。連邦宇宙軍に通報されるようなことは避けるためだろう。

 外から見れば何事もない『平穏』を装う。

 彼らの目的は、おそらくラマタキオンだ。

 ラマタキオンが奪われれば大きな損害になるし、惑星開発は少なくとも当初の予定通りには進まず、サンダース氏はいろいろな意味で打撃を受けるだろう。

 情報を流したのは、間違いなく反サンダース派の者たちで、ひょっとしたらサンダース氏にかなり近いものなのかもしれない。

 そうでなければ、彼らの行動の迅速さが説明できないのだ。もっとも、その件に関しては、三毛猫商会のあずかり知らぬことである。

 東側は研究棟。西側が共有スペースらしい。

 食堂、通信室、娯楽室そして、客室などが全て西側に集中している。

「東側には誰もいないと思ってよさそうね」

「はい。おそらくは」

 ハンドールが頷く。

「我々が閉じ込められていたのは一番奥の食堂です。食堂の見張りは二人でした。停電で私が呼び出されたときには、娯楽室にいたのは三人くらいだと思います。夜なので、交代で休んでいるのではないかと」

「なるほどね」

 リンダは顎に手を当てた。 

「まず、通信室をおさえましょうか」

「はい」

 ハンドールはライトで照らしながら、通路を歩いていく。

 外の音はあまり聞こえないが、窓の外から時折、雷光が照らす。嵐はまだ続いているようだ。

 通信室は、二階。階段を上がってすぐだ。扉はしまっており、通路には誰もいない。

 扉は分厚いが、カギはかかっていない。

 リンダとデュークはレイガンを構え、ゆっくりと扉を開いた。

「誰だ?」

 椅子に座っていた男が声をあげる。

 正面には大きなモニターがならんでいて、計器にぼんやりと明かりが灯っている。

 通信に関しては、バッテリーが用意されているため、計器は生きているのだ。

「動かないで」

 リンダは声を上げ、レイガンを構える。

 中は一人のようだ。

 リンダに目配せをされたデュークが男を椅子に縛り付け、猿ぐつわを噛ませる。

「ここはとりあえず、一人だけのようね」

 リンダは辺りを見回して、ため息をついた。

 猫丸号と通信していた時は、フジモトが常に応対していたが、ここに彼の姿はなかった。猫丸号からの通信はもうないということで、他所に移されたのだろう。

「奴らのほとんどは、娯楽室の方にいるのだと思います。いえ、今の時間でしたら、客室で休んでいるのかもしれません」

 ハンドールが答える。

 ハンドール自身はほぼ食堂に閉じ込められていたので、彼らがどこにいるかは正確には知らない。ただ、傭兵といえども、休息はとるはずだ。

「そうね。そうなると客室で休んでいる奴らもいると考えたほうが良さそうね。そいつらをまず、部屋から出てこられないようにする方法はないかしら?」

「客室はすべて二階です。通信室に用事がないのであれば、階段の防火扉の鍵をしめてしまえば、簡単には出られません」

「いいわね。そうしましょう」

 リンダは頷いて、階段の防火扉を施錠した。

 もちろん、階段だけを封鎖しても、外に出る方法は他にもある。気休めに過ぎないが、最短ルートはこれで防げる。大事なのは、一気に敵がやってくることだ。

 人数で負けている以上、できるだけ各個撃破すべきである。

「さて、どうしようかな」

 リンダは一階にもどると、避難経路図の書かれた案内図を見上げた。基地の間取りの簡易図だ。

「娯楽室は、通路側に扉があるほかには、奥に食堂へ抜ける道があります。食堂の入り口は、厨房へのものと、食堂へのものの二つです」

「つまり、食堂に行くには、厨房か、娯楽室を通らないといけないけれど、娯楽室には奴らがいるってことね」

 リンダの言葉に、ハンドールは頷いた。

「厨房は外からでも入れるのね。デューク、食堂と娯楽室、どちらを先にするのが賢いかしら?」

 リンダは顎に手を当てた。

「さあて。どっちにしろ人質がいます。一筋縄ではいきませんよ」

 デュークは肩をすくめる。

「そうねえ。人質を有効に使われたら、手も足も出ないわ。ここはまず、人質の解放から手を付けるべきね」

 雨脚は少しおさまりつつあるようだった。

 再び外に出てぐるりと回って、厨房の扉を開ける。

 中は真っ暗だった。

 できるだけ光が漏れないように気を付けながら厨房を見回す。保存食がほとんどだが、多少は料理ができるように調味料などもおかれているようだ。コンロも鍋もある。

 食堂側の扉はぴたりと閉まっていて、向こう側の様子をうかがうことはできないようだ。

「ねえ、ハンドールさん。火災感知器って、停電でも作動するわよね?」

「……はい」

 リンダはハンカチを取り出して、油をしみこまる。

「社長、ここまで忍んできたの、台無しじゃないですか」

 デュークの文句をリンダは聞こえないふりをして、火をつけたハンカチを感知器に向かって投げる。

 やがて。基地全体に警報音が鳴り響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る