第81話第十五章15-5最強の鋼鉄の鎧騎士

15-5最強の鋼鉄の鎧騎士



 俺はボヘーミャの街を出て北に在るガレントの砦を目指している。



 「ちょっと、まさか何も考えずに突っ込む気じゃないでしょうね!?」


 『流石にそこまで馬鹿じゃない。だが軍が集結していると言うのならとにかく状況が知りたい。砦まで走るからしっかりとつかまっていろよ!!』


 俺は肩口にしがみつくシャルにそう言って「鋼鉄の鎧騎士」を走らせる。

 身の丈六メートルくらいある巨体だ、そいつを走らせれば馬くらいのスピードはゆうに出る。

 このまま走れば二日もかからないだろう。


 シャルの不満の声を無視して俺は走り続けるのだった。



 * * * * *



 「どう見るの?」


 「まさかあそこまで軍を集めるとはな…… 野営のテントまであんなに有りやがる。こりゃぁ完全に此処で待ち構えていやがるな」


 俺とシャルは茂みに身を隠しながらもその様子を見る。

 砦にはかがり火がたかれ、兵士たちが往来している。

 

 シャルの話では俺がボヘーミャあたりにいるという情報は既に流れているだろうと言う事だった。

 そして更にシャルから聞いた情報ではエルフは森を焼かれて早急にガレント王国に異議を申し立て盟約の破棄をしたとの事だった。


 アルファードはその事を糾弾され更に俺の存在により国防を強化する必要があり現国王から命を下されたらしい。

 結果あれだけ時間が有りながらアルファード自身は本国の首都に戻れずここで防衛の強化の陣頭を取る羽目になっているようだ。



 「遠征が失敗、同じオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』の俺に追い回され、そしてアインシュ商会の支持する第三王子が頭角を現し始めたってところか?」


 「その辺は詳しく分からないけど、エルフのネットワークの情報は確かよ。あそこに間違いなくアルファードはいるわ」



 シャルのその言葉を受けて俺は茂みから隠してある「鋼鉄の鎧騎士」の方へと戻る。

 それを追いかけながらシャルは俺に聞いてくる。



 「あれだけいるのよ? 真正面からは無理だわ」


 「そりゃそうさ。だから奴の場所を特定して奇襲をかける。一気に奴を倒して離脱する。まっとうにあいつらの相手なんかしていられるか」



 それを聞いてシャルは変な顔をする。



 「てっきり自分の命も省みず飛び込んでいくかと思った」


 「それは無い。俺は死にたくは無いからな。抗って生き延びる、それが死んでいった奴等の手向けになる。奴隷戦士だった頃はそう教えられた」



 俺がそこまで言うとシャルは視線を外す。



 「じゃあ、終わった後はどうするのよ?」


 「そうだな、戻れるならイザンカあたりにでも戻るか。また傭兵家業でもするさ」


 「ふーん、そうなんだ……」



 とりあえず携帯食を取り出しそれにかじりつく。

 水筒に水はまだあるからそれで携帯食を腹に流し込む。


 「ほんと、人間ってよくそんな不味い物食べれるわね? はい」


 「なんだ?」


 手渡されたのは新鮮な果物だった。

 シャルは腰のポーチに手を突っ込みあからさまにポーチより大きな果物をゴロゴロと取り出した。


 「食べなさい。そんな不味い物よりずっといいでしょ?」


 「なんだそのポーチは?」


 「これ? エルフの作った魔法のポーチよ。この中にはポーチより大きなものが入れられるし、入れた食べ物は腐らないで新鮮なままなのよ。凄いでしょ?」


 言いながらにっこりと笑う。

 シャルと一緒に行動してきたがこう言った笑顔は初めて見るかもしれない。


 人間にしたら成人したかどうかくらいの少女。

 初めて彼女にそんな少女らしいものを感じた。


 俺はその果物を受け取ってかじりつく。



 シャリ



 「甘いな、確かに新鮮でうまい」


 「美味しいでしょ? 私の一番のお気に入りよ?」


 俺がそう言うと上機嫌でシャルもその果物をかじる。

 甘い食べ物何て久しい。

 そう言えばアーシャは甘いものが大好きだったな……



 「あのさ、これが終わったら私もついて行っていいかな?」



 いきなりシャルはそう言ってきた。

 一体どう言う事かと首を傾げシャルを見る。


 「こ、これが終わるとまたエルフの村に戻らなきゃならないの。でも戻ったら次は何時外の世界に出れるか分からないし私はもっと外の世界を見ていたいの。姉さんがやってきたように」


 「しかし俺に付いて来たって楽しい事なんぞないぞ?」


 「そうかもしれないけど、とりあえず付いて行っていい?」


 上目遣いでしおらしくそう言ってくる。

 別段断る理由も無い。

 俺は生半可な返事ではあったが承諾した。


 「好きにするがいいさ。とは言えまずは奴の居場所を見つけるのが先だ」


 「ほんと!? じゃあ風の精霊を使って砦の様子を調べるわね!」


 一体どう言う風の吹き回しか、いきなりそう言って立ち上がりシャルは風の精霊を身にまとうのだった。



 * * * * *


 

 砦はそれほど大きなものでは無かった。

 もともと魔術学園ボヘーミャとガレント王国は良好な関係であったらしい。

 なので国境の砦も形式的なものでそれほど仰々しいものでは無かったらしい。


 「そこに今は二千を超える兵士と四体の量産型『鋼鉄の鎧騎士』に奴のオリジナルが一機か…… 国防どころか戦争が始められる規模だな」


 

 兵士自体はそれほど多くないが「鋼鉄の鎧騎士」が合計五機もいるのではまさしく戦争が始められる。

 それを知った俺は闇夜の中、ここが森だと言う事を利用して静かに「鋼鉄の鎧騎士」を操作して砦の北側にまわる。


 闇夜でも「鋼鉄の鎧騎士」を介して見るそれは昼間と同様に良く見えるのだ。


 国境には所々結界が張られていて侵入者が有ればすぐさまに知らせが入る仕組みだったが同調をしてその魔力の流れが見える俺にはそれが筒抜けだった。

 さらにシャルが風の精霊魔法で「鋼鉄の鎧騎士」の音を消してくれている。


 これだけの巨体でも物音一つ立てずに動けるのだ、誰だって俺が北側から攻めて来るとは思ってもいないだろう。


 そしてシャルには頼んでおいた爆弾を持たせて砦の南側に設置をして炎の精霊でタイミングを見計らって着火してもらう段取りになっている。



 「便利な時限爆弾の出来上がりという訳だな。さてと、そろそろだな」



 「鋼鉄の鎧騎士」の中で俺はそう言って胸の扉を開く。

 そして砦の向こう側にいるシャルに合図をする。


 これだけの距離だと普通は見えないが、エルフの視力は闇夜でも遠くても見えるから便利なものだ。


 俺が手を振ってしばらくすると砦の南側から爆発音が鳴り響く。


 途端に砦が騒がしくなる。

 そして待機していた量産型の鋼鉄の鎧騎士が動き出し門を通って砦の南側にまわる。



 『よしっ!』



 俺は完全に「鋼鉄の鎧騎士」を立ち上がらせ一気に砦に向かう。

 見れば銀色のオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」も動き出している。


 間違いなくアルファードの奴だ!



 『悪いが他の連中は退場してもらおう!』



 言いながら俺は魔力を更に連結型魔晶石核に注ぎ込む。

 すると封印が解かれたそれはもう一つの連結型魔晶石核と共鳴を始めこの機体の性能を飛躍的に上げる。

 俺は大きく飛び上がり砦の壁に手をつき砦の中庭に降り立つ。

 そして地面に手をつきながら力ある言葉を発する。


 ばっ!


 ダンっ!!

 ざっ!



 『いけぇ! 【地槍】アーススパイク!!』



 ずばずばずばっ!!



 「鋼鉄の鎧騎士」の手から地面に魔力を流し込むとそれはキリのような鋭い突き刺す槍の様になって無数にアルファードの前に在る門を塞ぐ。

 それに驚き奴の「鋼鉄の鎧騎士」が振り向く。



 『なんだこれは!? 外は陽動だとっ!? 貴様いつの間に!!』


 『決着をつけに来た! 覚悟しろアルファード!!』


 


 大剣を引き抜き俺の「鋼鉄の鎧騎士」がアルファードの「鋼鉄の鎧騎士」の剣を向けるのだった。

   

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