第80話第十五章15-4ガレント王国

15-4ガレント王国



 「はっ!?」



 気が付いた。

 そして慌てて起き上がる。



 「あら、気付いたようね?」


 「だから言ったろ、それほど心配する必要は無いって」


 「アガシタ様、それでもユカの一撃を喰らったんだ、気絶程度で済んだのは良い方だよ」



 周りを見るとシャルやアガシタ、エリリアがいた。

 そして俺はベッドの上で寝たいた様だ。



 「起きましたか? 腕は…… もう大丈夫のようですね?」


 言われてそちらを見ると学園長の彼女だった。

 相変わらず目元を隠す仮面をかぶっていやがるが、こいつ本当に強い。

 腕を動かすと確かに完治していた。



 「これで私の役目は終わりましたね? 習得した事を忘れないように」


 「……あれがこの世界の真実だというのか?」


 「そうです、私たちの居た世界とこの世界の根本的に違う所です。彼女も動き出したようです、後はあなた次第ですね。私もアガシタ様同様に第二の故郷であるこの世界の安定を望みます」



 そこまで言ってから彼女はそのままこの部屋から出て行ってしまった。


 俺はそんな彼女の背中を見送る。

 まったく、日本人というのは良く分からない。

 が、ふと思った事を口ずさむ。


 「……第二の故郷だと?」


 「ユカはその昔戦争の為に異世界召喚されて英雄として戦ってきた。戦争が終わり一旦は元の世界に戻れたがあちらの世界でも時間が過ぎていたからね、なんだかんだ言いながらこちらに戻ってきてしまった。本来はそう言う事はして欲しくないけど、今の女神の容量なら問題無い。結果彼女はこの世界で三百年近く学園長を続けているね。相方のエルフの生が続く限りね」


 アガシタは聞きもしないのにそんな事を語る。

 そしてそれにエルフが関わっているだと?


 「エルフが何だって?」


 俺がそう聞くとアガシタは何も言わずにシャルを見る。

 すると途端に赤くなってシャルはそっぽを向く。


 なんなんだ一体?



 「さて、こちらも君の『鋼鉄の鎧騎士』の封印が解けたよ。腰部に在る連結型魔晶石核とメインの魔晶石核が同時に共鳴を起こしかなりの力が発揮できるだろう。但し、その分持っていかれる魔力量は相当なモノとなるだろうけど異界の魂を持つ君ならその内包した魔素のお陰で何とかなるだろうね」


 「ご苦労、エリリア。これで駒はそろったという事だな」


 エリリアとアガシタは俺を見下ろしそう言う。

 俺はため息をつきながら言う。



 「これでお前の思惑通りって言う事か?」


 「君だって同じこと考えているのだろう? それにユカに鍛えられエリリアが封印を解いたんだ、君は今まで以上にあの『鋼鉄の鎧騎士』を扱えるんだよ?」



 そう言ってあのにんまりとした笑いをする。

 まさしく悪魔的な笑いだ。



 「結局はお前の手の上で踊らされているって事か……」


 「それは違うよ、前にも言ったけどこれは君が決めた事だ。そしてその結果僕が求めていた事と一致しただけだ。僕は別に君をどうこうするつもりはないさ」



 物は言いようか…… 

 しかし今はそれで好いだろう。

 あのアルファードの奴をぶちのめせれば。  


 

 「そうそう君の『鋼鉄の鎧騎士』の外装だけどね、出来れば早い所あれは取り換えた方がいいよ。今はエルフの多重結界で押さえられているけど魔力の高い者がアレを使うと『魔人』に取り込まれるからね」


 エリリアがそう言いながら眼鏡を外し俺を見る。

 初めて見る素顔だがとても美しい少女だった。


 「しかしそうそう簡単には外装など変えることなどできないぞ?」


 「まあそうなんだけどね」


 言いながらメガネを拭いてまたかけ直す。


 「エルフの封印で押さえられてはいるけど、もし君が同調をしてその呼びかけに答えると話は別だよ。奴は君の魂から出る魔力を糧に君自身を取り込み依り代にするだろう。そうすればエルフの封印は破られ君は『魔人』となってしまうだろう」


 それはあの時の事を俺に思い出させる。

 仲間を俺の手で殺したあの時を。



 「もう、もう二度とあんな事にはならない。押さえて見せる!」



 「ふむ、だそうだよ、アガシタ様」


 「そうか、まあ彼女も動き出している様だし、大丈夫だろう。君の動きに期待をするよ」


 アガシタにそう言われおればベッドから立ち上がるのだった。



 * * * * *



 「ああ、いたいた。アイン、良い知らせと悪い知らせが有るわ」


 「悪い知らせは?」


 「普通は良い知らせから先に聞くもんじゃないの? まあいいわ。ここから早馬で二日くらいの場所にガレント王国との国境があるわ。そこに在る砦に今ガレント軍が集結しているそうよ」


 国境に?

 ガレント軍が集結しているだと?


 「それは本当か?」


 「ええ、間違いないわね」


 だとするとガレント王国に入るのは難しくなる。

 まさか俺に警戒してか?


 「それで良い方の話は?」


 「その砦にアルファードが留まっているって話よ」



 「何っ!?」



 既にアルファードがこのボヘーミャを発って一週間以上が経っていると聞く。

 だから俺としては何とかしてガレント王国に忍び込み最悪は王都まで行くつもりだった。

 しかし奴は国境の砦に留まっている。

 そしてガレント軍が集結しているという。

 となれば国境警備の量産型「鋼鉄の鎧騎士」以外にも「鋼鉄の鎧騎士」が集まっているという事か?



 「もしかして俺をそこで迎え討つ気か?」


 「だろうね、そうか、彼も意を決したか。君があまりにもしつこいから勝負に出たと見る。これはますます面白くなってきたね」


 アガシタはいつの間にか俺の近くに立っていて腕組みをしながらそう言う。

 まったく、俺に取り憑いた悪魔の思い通りか?



 「いいだろう、今度こそ決着をつけてやる!」




 そう言いながら俺は「鋼鉄の鎧騎士」に乗り込むのだった。

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