第十五章

第77話第十五章15-1:魔法学園ボヘーミャ

15-1:魔法学園ボヘーミャ



 「本当なのそれは、シャル?」


 「ええ、もう知っているでしょユーリィなら」



 食事をしながらシャルとユーリィ当主はその話をする。

 そうエルフの森が焼かれた話だ。


 ユーリィ当主は口元をナプキンで拭きながらグラスに入った葡萄酒をかかげる。

 そして中身を回しながら見てしばし考える。



 「ガレントの王子が暴走しているとしか思えないわね…… あの国が長い間平穏の中女神様の教えと言いながら私利私欲を肥やした家臣は多いわ。でもそれは必要悪として今までは黙認されてきたけど……」


 「その結果ホリゾンは宣戦布告したんだろ? イザンカにだってあんな絡み手を使って来るとは」



 俺のその言葉にユーリィは小さくため息をつく。



 「人の世で一番の大義名分である女神様の教えは捉え方次第で何とでもなるわ。しかしそれは結局人間同士の問題。ガレントの国力を押さえる為に封印されたと言われるオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』が動き出すと言う事は時代が女神様に現状を訴えているって事かしらね……」



 「商人のあんたがそれを言うのか? 今ならアインシュ商会がぼろもうけできる時だぞ?」


 俺がそう言うと彼女は興ざめしたように俺を見て言う。



 「我がアインシュ商会はシーナ商会に並び一国並みの財力と力が有ります。しかしそれは今のこの世が安定しての話。誰がそんな一刻の利益の為に誤手を踏みますか?」


 「悪かった。前言撤回する。あんたがまっとうな商人で安心したよ、だから俺に協力してくれるのか?」


 「我々の行動には『義』が必要よ。でなければアインシュ商会は滅びます」



 そう言って一気に葡萄酒をあおる。



 「で、結局なんでユーリィは協力してくれるのよ?」


 「シャル、人間界に出ているならもう少し人間とのやり取りを勉強することね。あなたのその純粋さは素敵よ。あの頃と変わらない。でもこの人に関わるならもう少し勉強するべきよ?」


 「何それ?」


 「あなたが見誤らなければエルフの森は燃えなかったわ。第一王子であるアルファードに対してもあなたはあなたの姉であるシェル様の口添えのお陰で対等に話をする事が出来たはずよ?」


 「そ、それは……」


 シャルはそう言われて言葉を濁す。

 そう言えばシャルの姉ってのは同じエルフのはずだよな?

 それがガレント王国に口出しできるなんてどう言う事だ?



 「シャル、お前さんの姉ってのは一体何なんだよ?」



 「姉さんは……」


 「シャルの姉、シェル様は女神様の伴侶よ」


 ユーリィ当主はいきなり変な事を言い出す。

 俺は思わず彼女の顔を見る。


 「シャルの姉って男か?」


 「そんな訳無いでしょ! 姉さんは女よ!!」


 俺は余計に困惑する。

 この世界には女神と言う神が実在する。

 それはあの悪魔のアガシタを見れば十分に理解できるが、前の世界でも神に身を捧げるという神話くらいは俺も知っていた。

 だとするとこの世界もそう言ったモノが有るのか?



 「シェル様は女神様の僕でもあります、あの黒龍様と同じく」


 「黒龍が女神の僕だって? いったい今の女神って何モンなんだ?」



 俺は神を信じない。

 だから今までこの世界の女神についてだって気にした事すらない。

 しかし今までの事でその女神と言う存在に違和感を覚える。

 

 それはあまりにも人の世に直接的にかかわっていたという事だ。



 「女神様は、エルハイミ様は慈悲深きお方。伝説では元は人の身ながら女神様にまでなられたというお方。我々アインシュ商会もあのお方のお陰で発展してきたと言っても過言では無いのです」


 「姉さんは女神様にべったりなんだけどね……」


 ちょっと待て、まるでこいつらその女神に会ったかのような言い草じゃないか?

 確かに俺もアガシタと言う元古き女神に会った事が有る。

 しかしこいつらは今の女神に会った事が有るというのか?



 「その言い草だとあんたら女神に会っているのか?」


 「ええ、いつ会えるかは分かりませんがふらりと現れますね。私は今までに二度ほどお会いしてます」


 「エルフの村にいた時は結構遊びに来ていたわね、姉さんと一緒に」



 俺は思わず頭を抱えた。


 なんだそれは?

 今の女神って何考えていやがるんだ?


 今のこの現状をどうにでも出来そうなのに何ふらふらと遊び歩いていやがるんだ!?




 「アガシタと言う悪魔…… いや、古い女神について何か知っているか?」



 「アガシタ様? 一度だけ会ったけどあの銀髪のちっちゃい女神様?」


 「古い女神様の一人ですね? 今の女神教はエルハイミ様の一神教にまとめられましたがそれ以前の主神であるのはアガシタ様でしたね」


 俺はそこまで聞いて大きくため息をついた。

 そして腹を割って話しをする事を決める。



 「俺はそのアガシタにあの『鋼鉄の鎧騎士』を譲り受けた。オリジナルと言っていたアレをな。そしてアガシタは俺に今のこの秩序を崩せと言っていた。俺は生き延びる為にあがいていたが結果アガシタの思惑通りになっているようではあるがな……」



 そこまで言うと流石にシャルもユーリィ当主も思わず目を見開く。


 

 「嘘、あなたのオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』ってアガシタ様からもらったの?」


 「アガシタ様があなたにそのような事を?」

  

 俺は頷き続ける。


 「ああ、本当だ。俺の乗るあの『鋼鉄の鎧騎士』はガレントの北部の祠から出て来た。そしてアガシタと契約を結ぶことにより俺はあれが扱えるようになった。そして裏切られ生き延びる為に此処まで来た」


 そこまで言うと流石にシャルもユーリィ当主も黙る。

 アガシタと言う存在が俺に加担をして今の秩序を崩せというのだから当然だろう。

 しかしユーリィ当主は注意深く口を開く。



 「あなたの目的は、今の世界の秩序を崩す事ですか?」



 「いや、俺はただの傭兵だ。戦う事でしか飯を食う術を知らない。だが、俺にも俺の決まりが有る。ガレントのやる事は気に入らないし、アルファードには恨みが有る。ただそれだけだ」


 俺がそう言うと彼女はほっとしたように息を吐く。

 それは隣にいたシャルも同じだった。


 「ならば私たちの目的は同じですね。少なくとも今のガレント王国の第一王子アルファードには退いてもらう必要があります。我々アインシュ商会は第三王子であるヤリス様につきます。あのお方の理念には『義』が有りますので」


 「とりあえずあなたの目的はこの世界の破壊では無いのね? ならいいわ、私たちもアルファードにはけじめをつけてもらわないといけないからね。姉さんにもその旨はもう伝えてあるしね」


 グラスにもう一度葡萄酒を注ぎユーリィ当主は掲げる。



 「では今のところ我々の目的は同じと言う事で、成功を祈ります」



 そう言って俺たちはグラスを傾ける乗った。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 鉄の船は流石だった。

 以前ガレントの鉄の船である戦艦を奪い取った事が有るが、商船であるこの鉄の船は更にいろいろと充実していた。



 「大きさもガレントの比じゃないな。まるでタンカーだ」


 「たんかー? 何それ?」



 生前の記憶の中にある石油を運搬する為の船。

 その大きい船はあの世界の海を縦横無尽にうごめいていた。

 俺たちの土地の地下から汲み上げたあの真っ黒な油を積んで。



 「でかい船の事さ、それよりもしかしてあれってウェージム大陸か?」


 水の精霊と戯れていたシャルは手の上でふよふよとうごめく水球を海に放り投げてからそちらを見る。


 エルフ族は目が良い。

 俺たち人間には見えない距離も良く見えるらしいのでうっすらと見えて来た影について聞く。



 「そうね、間違いないわ! ウェージム大陸よ、ボヘーミャの港や学園塔も見える!!」



 俺は苦笑する。

 それが見えるのはエルフ族だけだとは流石に言わない。


 しかしとうとうウェージム大陸に着く。

 問題はこの後だ。



 アルファード、俺は必ず貴様に追い付いてやる。



 そう、まだはっきり見えないウェージム大陸を見ながら思うのだった。 

 

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