第49話第九章9-5ザシャの声

9-5ザシャの声



 『逃げろザシャ! がはっ!』


 

 俺は吐血しながらそう叫ぶ。

 だが俺は「鋼鉄の鎧騎士」を動かす事が出来ない程のダメージを受けていた。


 『見つけたぞ精霊使い!!』


 俺の叫びをかき消すかのようにアルファードは雄叫びをあげながら俺ではなくザシャに向かってオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」を走らせる。



 「くっ! このぉっ!!」


 向かい来る奴のオリジナルにザシャは精霊魔法をぶちかます。

 それは大地から錐の様な鋭い土の槍をいくつも発生させアルファードの「鋼鉄の鎧騎士」を貫こうとするが全くと言って良いほど効いていない。


 いくら間接的に物理攻撃に変えてもオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」に通じるはずもない。

 しかしザシャはそれでも精霊魔法を使い続ける。



 『鬱陶しいわぁっ、精霊使い!!』



 ドンっ!



 まるで「操魔剣」を使ったかのようにアルファードの「鋼鉄の鎧騎士」が跳躍をしながらその剣を振る。

 俺はそれをスローモーションを見るかのようにただ見る事しか出来なかった。


 奴の剣がザシャに大きく振り下ろされる。


 ザシャなら避けられる速度に感じるがそれは俺がこのオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」に乗っているためで実際にはそのスピードは達人のその速度でさえ超えている。


 そんな中ザシャは懸命に精霊魔法を使って奴の「鋼鉄の鎧騎士」を束縛でもするかのように無駄なツタや大地の束縛を仕掛けている。


 だがそれも振り下ろされる奴の大剣にその幕を閉じる。



 『ザシャぁっ!!』



 叫ぶ俺が最後に見たのは剣がザシャの頭上に振り下ろされる瞬間、俺を見てほほ笑んだ顔だった。



 ぐしゃぁっ!

 どがぁあぁぁぁんッ!!



 俺はこの瞬間ほど自分の乗っている「鋼鉄の鎧騎士」が恨めしく思ったことは無い。

 「鋼鉄の鎧騎士」の視覚のお陰でザシャが剣でつぶされそのまま建物の屋根と共に押しつぶされる瞬間がはっきりと見取れた。



 ドクンっ!



 心臓が大きく鳴った。

 そして体を虫唾が走るな様な嫌悪感が襲う。



 『ふん、手を煩わせおって‥‥‥ ぬっ!? なんだこれは!!』


 剣を破壊した建物から抜き出そうとした奴の動きが止まる。

 それもそのはず近くの大木も建物に使われる柱も石もレンガもまるで奴の剣や足、腰を取り込むかのように巻き付いたり剣先に重りの様に固まり引っ付いている。



 ―― アイン、今がチャンスだ ――



 ザシャの声が聞こえたような気がする。


 それと同時に俺の胸の奥底から湧き上がるような苛立ちと虫唾が走るような痛みがこみ上げてくる。



 『アルファぁぁドぉぉぉぉおおおぉぉっ!!』



 ドクンっ!



 今度は心臓ではない、胸の奥、いやもっと深い所で何かが鼓動した。

 そしてそれは俺の奥深くから湧き上がり俺の肉体を支配してゆく。


 魔力がみなぎる。

 いや、それだけではない。


 そう、これは俺の魂が吹き出て来るかのような感覚。

 そして俺の髪の毛一本、爪の先までそれが広がっていく。



 キンッ!



 その瞬間俺の目に映る世界が変わった。


 全てのマナが見える。

 そして奴の動きも。


 いや、奴の意思に対してその後をマナが追従していきそしてさらに遅れて肉体が動いているのが見て取れる。


 アルファードの奴はザシャが最後に使った精霊魔法の拘束から機体を解き放ちながら俺に向き直る。



 だが、



 どがぁぁあああぁぁぁんっ!



 『ぐっ!? なんだと!?』


 俺の「鋼鉄の鎧騎士」が奴のオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」の頭を左手で押さえそのまま押し倒し近くの建物に押し込む。


   

 『よくも‥‥‥ よくもまた‥‥‥ 神を名乗る連中のせいでまた俺は失った‥‥‥』


 『お、おのれっ! ぐぁっ!?』


 俺は奴の「鋼鉄の鎧騎士」を片手で宙に放り投げる。

 そしてそのまま自分の「鋼鉄の鎧騎士」も飛び上がり剣で奴をぶっ叩く。



 どがっ!


 バキッ!!


 ドガぁんッ!!



 宙で俺の「鋼鉄の鎧騎士」に剣でぶっ叩かれた奴の「鋼鉄の鎧騎士」はそのまま地面にたたきつけられ大地にめり込む。


 俺はすぐさまその上に飛び降りそのまま大剣をまたぶち込む。



 ドン


 どがっ!

 どどががっ!!



 『ぐぁっ! ぐわぁぁああぁっ!!』



 いくら切り付けても同じオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」、俺の時同様に傷一つ付ける事は出来ない。

 だが俺のめちゃくちゃな剣撃に打ち飛ばされ地面に転がりそしてまた打ち飛ばされる。


 

 『お前は、お前はぁぁああああぁぁっ!』



 自分でも何を言っているのか訳も分からず叫びながら何度も奴の「鋼鉄の鎧騎士」を叩きのめす。


 するととうとう奴の「鋼鉄の鎧騎士」は動かなくなる。


 俺は奴の「鋼鉄の鎧騎士」の頭を掴み片手で持ち上げる。

 何度も俺に打ち倒され埃まみれになった銀色の機体。

 あれだけやったにもかかわらずその表面にはやはり傷一つ無い。


 だが俺はこいつだけは許せない。


 剣を振り上げこいつにまたそれをぶち込もうとすると、のろい動きでガレントの「鋼鉄の鎧騎士」が槍を振りかざしながら俺に突っこんでくる。



 『邪魔だ!』



 俺は剣をそいつに振り切ると衝撃波が発生してあっさりとその「鋼鉄の鎧騎士」を切り裂いた。



 だがそこまでだった。


    

 がくんっ!


 

 いきなり俺の「鋼鉄の鎧騎士」が動きを止める。

 

 『なっ!? どうした、おいっ!』


 だが俺の「鋼鉄の鎧騎士」はどんどんその機能を停止させ掴んでいた奴の「鋼鉄の鎧騎士」まで手放してしまった。

 そして外とつながっていた視界も切れ、感じていた「鋼鉄の鎧騎士」との感覚も切れてしまった。



 「どうなったんだ!?」



 俺は慌てて目元まで覆う兜を外し薄暗いこの「鋼鉄の鎧騎士」の中を見渡す。

 すると背もたれの後ろの辺にある心臓部の連結型魔晶石核が俺の魔力を吸い過ぎてオーバーロードをしている!?



 「畜生! おい、動け、動けぇっ!!」



 操作の為の両手両足を乗せるオーブにもう一度手や足を乗せ再起動を試みるが一向に復帰する様子は無い。



 がんっ!


 ごごごぉ‥‥‥

 ずっ、ずずぅぅぅ‥‥‥



 俺の「鋼鉄の鎧騎士」に何度か衝撃が起こるがそれだけだった。

 何か重いものを引きずるかのような音にアルファードの野郎の気配がどんどんと遠のく。



 「ちぃっくしょうぉおおぉぉぉぉっ!!」


 がんっ!



 俺はただこの薄暗い「鋼鉄の鎧騎士」の中で操作用のオーブを叩くだけだったのだ‥‥‥


 

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