第十章
第50話第十章10-1覚醒
10-1覚醒
戦場が静かになった。
何度操作をする為の水晶を叩いただろうか?
俺の手は水晶を叩くことで血がにじみ出していた。
俺は動かなくなった「鋼鉄の鎧騎士」の中から這い出て外を見る。
そこは既に焼ける匂いと瓦礫が積み重なる破壊された街並みだった。
そして未だ俺の目に映る光景は今までのモノとは違い全てのモノに宿るマナが見える。
その異常な光景にしかしザシャが潰されたその建物の方へ眼を向けてもザシャのマナは感じられない。
『アイン! 生きているのか!?』
イグニバルの「鋼鉄の鎧騎士」が近くにまで来て剣を大地に突き刺しながら俺に聞いてくる。
俺は何と無しにイグニバルの鋼鉄の鎧騎士を見る。
そして感じる。
通常の素材を使い、真似して作った連結型魔晶石核の運転状況など確かに俺の「鋼鉄の鎧騎士」に等遠く及ばない。
「これでは張子の虎だな‥‥‥」
誰とに無くそうつぶやくのだった。
* * * * *
戦況はアルファードの奴が俺に倒された為、他のガレントの「鋼鉄の鎧騎士」に担がれ逃げ去った事によりこのユエバの街は取り戻せた。
但し住人の大半が異端の信者としてあの教会で焼き殺された。
残った住民をイザンカの軍が誘導して暫定のテントを張り収容している。
「アイン、もう一度瞳を見せて見ろ」
戦いが終わり俺はビブラーズ傭兵隊長のいるテントに呼ばれた。
そして何が有ったのかを話す。
それからそう言われ目を見開き顔を向ける。
ビブラーズは俺の瞳を確認してから言う。
「ではアレをやってみてくれ」
言われ俺は一呼吸してからあの時を思い出し胸の奥底に眠る自分の魂を探す。
それは何度かすることにより更に容易に出来るようになっていた。
一旦自分の奥底に意識を集中して見つけ出した自分の魂を感じ取り、今度はその魂から力が噴き出すイメージをする。
すると奥底から力が湧きだし爪の先、髪の毛一本の先まで魔力があふれ出る。
そして俺にはわからないが瞳の色が金色に淡く光り輝いているそうだ。
「間違いない、これは英雄の力だ!」
ぱんっ!
ビブラーズ隊長はそう言って自分の膝をその手の平で叩いた。
もっとも俺にはその動きが普通の様には映っていない。
この世界は魔素が充満していてそれを魔力に練り、溜める事によりマナとなり、そのマナが物質に宿る事により構成されているそうだ。
それはその昔にエル何とかという女性の大魔導士が解明したらしく「英雄」はその魂が上位の神々に繋がっていて、そこから力が分け与えられる事により超人的な力が発揮されるらしい。
そして英雄たちは自分の魂と肉体の繋がりを強固にすることにより爆発的にその力を示す。
それを「同調」と呼ぶらしい。
「同調」をすると今の俺の様に瞳が金色にうっすらと輝きマナが見える。
アルファードの奴の時もそうだったがそれのお陰で次に相手がどう動くかがわかる。
意思が魔力を、マナを動かすから肉体的な物質が動く前にマナが動く。
だからその動きが先読みできる事になるのだ。
俺は大きなため息をつく。
「ビブラーズ隊長、もし仮に俺がその英雄と同じ事が出来たとしても期待しないでくれ。俺の様な奴が繋がっているのが神であるはずがない。良い所悪魔か何かだろう」
事実俺はアガシタと言う悪魔の少女に魅入られた。
そしてあの「鋼鉄の鎧騎士」を手に入れたが失うものの方が多い。
今の女神が広めた教えをガレント王国は歪曲して私欲の限りを尽くすモノになっている。
それ自体はよくある話だが問題はその秩序を他国にも押し付ける事だ。
言う事を聞かなければ異端とみなし制裁をする。
俺は生き延びる為に今までそれに抗って来た。
それが神とつながる英雄様だと?
有り得ない。
心底あり得ないと思った。
「しかしアインよ、これはイザンカ王国に対して非常に有利な話になる。たとえ傭兵でも今この戦いの中で英雄が生まれ出たという事はこの戦いに、そして対外的に大々的に我らに正義が有ることを示せる。そしてお前の『鋼鉄の鎧騎士』がガレントの『鋼鉄の鎧騎士』を撃退させたという事実はガレントに不満を持つ国々に対して絶大な影響を与えられるのだぞ?」
ややも興奮気味なビブラーズ隊長は俺の肩に手を置きながら力説する。
俺は苦笑してその手を払う。
「勘弁してくれ。俺に英雄なんて役は柄じゃない。それに俺の『鋼鉄の鎧騎士』は当分動けないのだぞ?」
そう、あの後俺の「鋼鉄の鎧騎士」はその原動力となる連結型魔晶石核が俺の与える魔力にオーバーフローを起こし停止してしまった。
おかげでそれが落ち着くまで機体は動かせない。
アルファードがあの戦いで仕留められたとは思えない。
出来ればすぐにでも追撃に移りザシャの仇を取りたかった。
しかしそれは出来ない。
「悪い話ではないぞ? お前が英雄の力に目覚め誰が見ても異常なほどの強さを誇る『鋼鉄の鎧騎士』を操っているとなればイザンカ王国でさえお前を正式な英雄として迎え入れてくれるのだぞ?」
言いたい事は分かる。
自国が英雄を抱えるともなればその宣伝効果は絶大になる、そう正義は我らに有りと。
しかしそれは諸刃の剣にもなりかねない。
ガレントにしてみれば俺は偽の英雄でなければならない。
そうしなければ奴等の秩序であり正義が守られなくなってしまう。
が、そんな事に俺はふと思いついてしまう。
「英雄を名乗ればアルファードの奴を引っ張り出せる‥‥‥ いや、英雄の名の下に大義名分でガレントの秩序を、女神の秩序とやらを崩せる?」
そんな思い付きに思わず俺は考え込む。
イザンカと言う国の後ろ盾でガレントの秩序を崩せる?
「悪くは‥‥‥ないかもしれないな‥‥‥」
大義名分は人々を引き付ける。
それは前世の世界でいやというほど味わって来た。
「そうか、そうか! その気になってくれたか!!」
ビブラーズ隊長は嬉しそうに俺の肩にまた手を置き笑いながらバレン指揮官やジバル将軍に引き合わせると言い始めた。
そんな彼を見ながら俺はこぶしを握る。
必ずアルファードの奴を仕留めてやると。
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