第六章

第30話第六章6-1ノヘルの港町

6-1ノヘルの港町



 船に乗る事三日、俺たちは東の大陸イージム大陸に到着していた。


 

 「ふん、変わらんなここは」


 船から降りるとザシャは面白くもなさそうにこのノヘルの港町を見渡す。

 古くからあるここは何処にでもあるような港町。

 特段変わった様子は無い。


 ザシャは面白くもなさそうに教会を見る。

 俺たちはそんな彼女を尻目に「鋼鉄の鎧騎士」を船から降ろし近くの酒場に入る。



 「さて、ここからイザンカ王国までは近いが馬車で一週間と言った所かな?」


 オクツマートは運ばれた酒を飲みながらそう言う。

 もともとイージム大陸出身のオクツマートはその昔こっちで冒険者をしていたらしくこの辺にも詳しい様だ。


 「イザンカ王国か、こちらは昔と変わらんな」


 「ザシャ、あんたもイージムに来た事があるのか?」


 遅れて入って来たザシャは果実酒を頼むと面白くなさそうにテーブルにつき言い放つ。

 俺は思わず聞いてしまった。


 「もともと我々ダークエルフの隠れ里はこのイージム大陸、イザンカ王国の東の森にあった。私はそこで生まれ育った」


 そう言いながら運ばれてきた果実酒に口をつける。

 それを聞いたオクツマートは思い出したかのように話す。

 

 「そう言えば昔はダークエルフがいたって聞いた事があったな。しかし今はノージムに里があるって噂だが?」



 「それなら百年前に壊滅した。あの女神のせいでな!」



 だんっ!



 ザシャは面白くなさそうにテーブルに杯を叩き付ける。

 そう言えばだいぶ今の女神に不満を持っていたな?

 俺は何となくまた聞いてしまたった。


 「なんでそんなに女神を恨む? お前さんも俺と同じく神に見捨てられた口か?」


 するとザシャは俺を睨み面白くなさそうに語りだした。


 「もともと我々の族長は無益な事はしないつもりだった。しかし女神教が世界に広まり狂信者どもが我らの里を見つけ出し襲ってきた。女神との約束があるから我々は人間に手出しをしてこなかったのに奴等は!」


 杯を持つ手がわなわなと震える。

 しかし、女神と約束だと?


 「あんた、もしかしてその女神に会っているのか?」


 「ああ、あいつはもともと人間だった。ただ異常に力をつけそして天秤の女神アガシタ様が力を使い果たし眠りに落ちその代行として女神をやっているんだ」



 ザシャから聞かされたそれは驚く事だった。

 俺たちが知っている女神とそのアガシタとの関係など知らない事ばかりだった。

 俺たちは顔を見合わせオクツマートがザシャに聞く。


 「女神様ってのは沢山いるのか? 俺たちが聞いていた話とだいぶ違うな?」


 「それは今の女神教が約三百年前から徐々に伝承を変えて行ったからだ」


 そう言って残りの果実酒を一気にあおる。

 そのまま次のを注文するザシャを見ながら俺は思う。



 アガシタは彼女と戦うと決意したと言っていた。

 それは紛れもなく今の女神だろう。

 なら何故俺に加担する?

 「魔王」とやらが作ったというオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」まで与えて。


 俺はザシャを見ながらゆっくりと聞く。


 「ザシャ、あんた俺がそのアガシタから受け取った『鋼鉄の鎧騎士』について知っているか? 『魔王』なんて物騒なモンが作ったって本当か? それに元ガレントのモノだってのも」


 ザシャは面白くもなさそうに次に運ばれてきた果実酒に口をつけながら俺を見てぽつりぽつりと語りだした。



 「『魔王』と言うのも元々は人間でその魂を持つ転生者が人間の時代にあの『鋼鉄の鎧騎士』を作り上げたんだ。今までのどの魔道具よりも強力でお前たちも見た『巨人』でさえ倒せるほどの力を持っている。今の『鋼鉄の鎧騎士』など劣化したレプリカ同然だ。オリジナルの足元のもお呼ばん。だがそのオリジナルも聞くところによると女神が人だった時代に更に強化して並の人間には扱える物ではなくなってしまったらしい。その後事有るごとに戦場で見かけたが全てガレントを守るためのガーディアンのような役割をしていたが国境付近である日突然その姿を見なくなったと聞き及んでいる」



 そこまで話すとザシャはまた果実酒を飲んだ。

 

 全く、結局は神がらみか‥‥‥


 俺は胸糞悪くなり残りの酒をあおる。

 だが俺についたのは悪魔のアガシタだ。

 今回は神ではない。


 

 アガシタは俺に何をさせようとしているのだろうか?



 俺はただ生き残るためにあいつの手を取った。

 そして流されるまま今ここにいる。


 「なあザシャ、お前は俺に手を貸し何をしようとする?」


 「なんだ? 言わなかったか? 私は今の女神が気に入らない。だからアガシタ様が言う今の秩序を壊す為にお前に協力する。お前はその為にアガシタ様に選ばれたのだからな」


 そう言いながら真剣に俺を見る。

 その瞳の奥には憎しみの炎のが間違いなく揺らいでいた。



 ここにも神ではなく悪魔にすがる者がいる。




 俺は無言のまま酒をあおるのだった。 

 

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