第29話第五章5-6:海を渡る

5-6:海を渡る



 ザシャの警告に俺は「鋼鉄の鎧騎士」を止める。

 一体何がったというのだろう?

 そう思いザシャに聞く。


 『どうした?』


 するとザシャは向こうの方へと指をさす。

 そして指さされた方を見ると人型の大きなモノがそこに立っていた。



 『まさかホリゾンの【鋼鉄の鎧騎士】か!?』


 「いや、違うな。人の姿だが毛むくじゃらだ‥‥‥」



 ルデンもそれに気づいたのかその人型を見る。

 「鋼鉄の鎧騎士」よりは背の低いそれはそれでも大きな巨体を揺らしながらこの先にある港町に向かっている。

 と、ここでザシャはその正体に気付いたかのように言う。


 「まずいな、あれはビッグフットだな。山から下りて来たか?」


 ザシャはそう言って周りを見る。

 すると左の山間の森林からやはり同じようなのがもう数体出てきた。



 「ちっ、食い物が少なくなったから山から下りて来たか? おいわっぱ、早く止めないと港町が壊滅するぞ? あいつらは人も食うからな」



 それを聞き俺は慌ててみんなを降ろす。


 『全く、俺は正義の味方じゃないんだがな‥‥‥』


 「イージムに渡るのだろう? この『鋼鉄の鎧騎士』を乗せられる船も必要ならここで恩を売っておいても損では無かろう」

 

 不満を言う俺にそれでもザシャは言う。

 確かに、ごもっともな意見だ。

 俺はすぐに大剣を抜いて走り出す。




 既に先頭のビッグフットが港町に入り込んだ様だ。


 途端に町中は大騒ぎになっている。

 このノージム大陸でもこいつらはそうそう人里になんぞ出てこないはずなのだがな。


 町が騒ぎに揺れる中、奴は夢中になって住民を襲っている。

 俺は手近な奴に剣を叩き込む。



 ざしゅっ!


 

 「うぎぃいいいいいぃぃぃっ!!」



 自分たちが完全に有利と思っていて油断していたのだろう。

 俺の一撃で手近な奴背中に大きな傷を負ってすぐに倒れる。

  


 「ウギ―ッ!!」


 「ぎぃぃいいいぃぃっ!!」



 数体いるこいつらは俺の「鋼鉄の鎧騎士」を取り囲むように威嚇を始める。

 しかし所詮は大猿みたいなもんだ。

 動きは素早いがその爪や噛み付きは全くと言って良いほど俺の「鋼鉄の鎧騎士」には効かない。

 

 

 『無駄だ!』



 ざしゅっ!



 またまたビッグフットを切り裂く。

 袈裟切りに振った剣はあっさりとビッグフットの体を切り裂き二つにする。


 どさっ!


 血しぶきを上げながら地面へと倒れる。

 ここにきてこいつらは俺にかなわないと見てか慌てて逃げ出した。

 俺はそいつらが完全に山の方へ逃げて行くのを確認する


 そして足元に転がる虫の息のビッグフットを見る。

 俺はトドメとばかりに切り伏せた二体に剣を突き立てるのだった。



 * * * * *



 「いや、助かりました。まさか軍がこんな所に来ているとは思いませんでしたよ」


 「俺たちは軍ではない。雇われの傭兵だ」



 港町の被害は数人の死者と数人のケガ人で済んでいた。

 あれだけの集団に襲われたにしては被害が少ない。

 だが、聞けば最近よく襲われるそうだ。


 港町としても困っていて冒険者を雇ったり近隣の国に助けを求めていたがなかなか支援をしてもらえていなかったらしい。



 「雇われの傭兵? 『鋼鉄の鎧騎士』をお持ちの?」



 「それ以上は聞くな。『雇われの傭兵』と言う事にしておいてくれ。軍にはそう言われている」


 俺が更に口を開こうとしたらそれを遮り、ザシャがそう言ってそれ以上を言わせないようにした。


 「わ、分かりました。私はこの町の町長をしていますドビルザードと申します。今回は本当に助かりました。今まで襲ってくるのは一体だけだったのですがまさか数体一度に襲ってくるとは‥‥‥」


 ここ数年世界的に作物の出来が悪い。

 勿論それは自然界も同じだ。

 だからあいつらも山を下りてこんな所まで来たのだろう。


 「最近多いのか?」


 ザシャは町長にそう聞く。


 「ええ、ここ数年山も食べ物が少ないのでしょう。最近は頻繁に町を襲っていたんです。ですから追い払ってもらえて大助かりですよ」


 「かまわない、ついでだ。それより町長、私たちはイージムに渡りたい。融通してもらいたい」


 ザシャは言葉巧みに町長を誘導する。


 「それでしたら丁度港に大型船が来ております。今から私から話をしておきましょう」


 そう言って町長はすぐに港の方へ行ってしまった。



 「ふん、これでイージム大陸へは渡れるだろう」


 「うまいもんだな。しかし助かった」


 面白くもなさそうにザシャはそう言って港を見る。

 何処かの商船だろう。

 「鋼鉄の鎧騎士」を乗せても十分に余裕のある大型船だ。

 


 とにかくこれでこのノージム大陸から逃げ出せる。

 俺たちはその商船を見るのだった。 


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