第四章

第17話第四章4-1仲間たち

4-1仲間たち



 「見えて来た!」


 「助かった!!」



 俺たちは前線が張られているこのサボの港町付近まで戻って来た。

 流石にすぐには攻めては来ないだろうと思うが、仲間たちの遺体を回収する事も出来ずとにもかくにもこの前線まで戻って来た。


 だが、いきなり警戒の笛が鳴りホリゾン公国の「鋼鉄の鎧騎士」たちが出てきた。



 「まてよっ! 俺たち味方だぞ!!」


 「アインの小隊の者だ!!」


 「おい、アイン!!」



 考えてみれば当たり前か。

 こんな見た事も無い「鋼鉄の鎧騎士」がいきなりやって来ればそうもなる。


 俺はこの『鋼鉄の鎧騎士』を通して声を拡大して呼びかける。



 『俺はアイン! 傭兵部隊小隊長のアインだ! 訳有ってこの【鋼鉄の鎧騎士】を手に入れた。こちらに抵抗する意思はない。俺たちの隊長、バッカス隊長に会わせてくれ!!』



 どう言う原理かは知らないが俺の声がこの「鋼鉄の鎧騎士」を通して拡大される。

 途端に動揺の動きがみられる。

 何やら大声で騒いだり、更に兵が出液たりとしている。

 そしてバッカス隊長が出てきた。



 「アイン! アインなのか!? ならばその『鋼鉄の鎧騎士』を座らせ中から出て来い! 話はそれからだ!!」



 俺は苦笑しながらこの「鋼鉄の鎧騎士」を跪かせ胸の扉を開く。

 そしてそこから出てバッカス隊長を見る。


 バッカス隊長は驚いた顔をしたがすぐに何時もの表情に戻り手を振りホリゾンの「鋼鉄の鎧騎士」と一緒にこちらへやって来た。



 「アイン‥‥‥ またお前が有り得ない事をしでかしたな‥‥‥ これは一体どう言う事か説明してもらうぞ?」


 「ああ、ちゃんと安全な所でなら話をするぞ」



 俺はそう言って残った仲間たちと一緒にバッカス隊長に付いて行くのだった。



 * * * * *



 「つまりあれはそのアガシタとか言う女神様からもらったというのだな? そしてその力でガレントの『鋼鉄の鎧騎士』残り七体を倒したというのだな?」



 「ああ、間違いない」



 「そうだぜバッカス隊長! おかげでここまで戻れた!」


 「凄かったぞ、あの『鋼鉄の鎧騎士』一体で次々と相手の『鋼鉄の鎧騎士』を圧倒して倒していったんだ」


 「アインがいればガレントなんざ怖くねえぜ!」


 俺のに答えに生き残ったルデン、ベリアル、オクツマートも興奮気味にそう話す。

 バッカス隊長は苦虫をかみつぶした表情でひかえていた魔術師に聞く。



 「そのアガシタとか言う女神様は何なんだ?」

 

 「その名の女神様は現女神様の前にこの世界の主神となっていたお方です。悪魔の神との戦いで傷つき今の女神様に全権をゆだねたと聞き及んでおります」



 魔術師のその答えにバッカス隊長は大きく息を吐く。

 そしてザシャを呼ぶ。



 「ザシャ、それは本当なのか?」


 「全く、とんでもないものを見つけ出してくれたなわっぱよ! 間違いない、あれは元ガレント王国の『鋼鉄の鎧騎士だ』! あの女神が関わったとんでもない化け物だ!! まさか今次あいつに関わるとは‥‥‥」



 ザシャはものすごく嫌そうな顔をしている。

 それを見たバッカス隊長は俺を見て言う。



 「アイン、お前は休め。いや、お前ら全員休んでくれ。今の話を上にしてくる」



 そう言ってパチンと指を鳴らす。

 途端にこのテントに剣を持った傭兵たちが入って来た。


 「大人しくしていれば悪い様にはせん」

 

 それだけ言うとバッカス隊長は立ち上がりこのテントを出て行く。


 

 「おいっ! バッカス隊長!!」


 ルデンが叫ぶがすぐに傭兵たちが剣を向ける。

 俺たちはその場で動きを封じられ手足を縛られ木製の檻へと連れていかれるのだった。



 * * * * *



 「アイン、おい、アインっ!」



 どれだけ時間が経っただろうか?

 既に日も落ち薄暗くなったテントの横で木製の檻の中に俺たちは捕えられていた。


 「ベニルか? どうなった?」


 「まずいぞ、バッカスの野郎お前が女神と契約なんざできるはずがない、お前は悪魔に魅入られているとか言ってたぞ。上の連中も先ほど簡易砦の付近で相手の『鋼鉄の鎧騎士』が倒されているのを確認してお前の持ち帰ったあの『鋼鉄の鎧騎士』を大そう気に入ったようだぞ?」


 俺は舌打ちをした。

 バッカスの奴、俺をお払い箱にでもするつもりだな?



 「それでアインよ、俺にはこれしか出来ねえ。お前らも逃げた方が良いぞ? バッカスも上の連中もアインの事をやたらと警戒しているぞ」


 そう言ってベニルは俺にそっとナイフを手渡す。

 それは同郷のよしみで最大の手助けだった。


 多分上の連中もバッカスも俺をうとましく思い場合によっては殺されるかもしれない。

 俺は自分の縄をベニルに切ってもらい、ルデンやベリアル、オクツマートの縄を切ってやる。



 「もうここにはいられないな。俺は逃げるがお前たちはどうする?」



 「アイン、俺たちどうなるんだ?」


 「いや、アインに付いて行くしかないだろう。このままじゃきっと‥‥‥」


 「そうだな、傭兵は切り捨てられる。俺たちの数人いなくなったところでどうと言う事はない。良し、ちょっとそこ退いてくれ」



 そう言ってオクツマートはブーツの中に手を入れ針金を引っ張り出す。

 そしてこの木の檻にかけられている鍵を難無く開いた。



 「逃げるなら早くしろよ? 俺はここまでだ」


 「ああ、恩に着る。ベニル、死ぬなよ!」


 「ああ、お前もな、アイン!」


 俺たちはそっと拳をぶつけてこの場を離れる。

 そして近くにある道具や剣、食い物を持てるだけもって夜の闇に紛れこの前線を離れようとした時だった。




 「どこへ行くつもりだ?」




 ぱっ!



 いっせいに魔法の明かりがともる。

 そして見れば物見やぐらにゾルダ将軍が立っていた。


 「確かアインとか言ったな? 話には聞くがお前程珍しいテグはいない。大人しく我らに従いあの『鋼鉄の鎧騎士』の動かし方を教えるならば命だけは助けよう」



 どさっ!


  

 そう言った後に兵士たちが何かを俺たちの前に投げ出した。

 俺はそれを見て息を呑む。



 「ベニルっ!」


 「ア、アインかぁ‥‥‥ しくじ‥‥‥ った‥‥‥」


 見れば背に剣を突き立てられているベニルだった。

 俺がベニルに駆け寄ろうとすると兵士たちが剣をこちらに向ける。



 「くっ!」



 「お、おい、アイン‥‥‥」


 ベリアルが情けない声を出す。




 「テグはテグらしく言う事を聞いていればいいのだ」



 ゾルダ将軍はそう言って手を上げると更にその後ろからホリゾン公国の「鋼鉄の鎧騎士」たちがうごめいた。




 俺はゾルダ将軍を睨めつけるのだった。


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