第16話第三章3-5鬼神

3-5鬼神


 目の前に現れた銀色の機体の「鋼鉄の鎧騎士」。

 それは今まで見て来たものとはあからさまに違う。

 銀色の外装、きめ細やかな文様の様な魔法文字、細微どころか塵一つ付かないそれは鈍く光り輝いている。

 俺は開かれたその胸元の扉の中を見ながらつぶやいた。

 

 「俺は『鋼鉄の鎧騎士』何ぞ操縦できんぞ?」


 すると彼女は今日の天気でも話すかのように何気なく言う。


 「なに、まずは乗ってみなよ。君はもうそれの扱い方を知っているから」


 俺は一瞬彼女の顔を見るがあのにやけた笑いが張り付いている。


 まさしく悪魔の笑い。

 俺は意を決して「鋼鉄の鎧騎士」に乗り込む。


 中には半立ちの椅子の様な物が有る。

 俺はそこへ背をつけ両手両足をオーブの上に載せる。

 すると俺を待っていたかのようにこいつは俺を拘束するかのように体を固定する為の鎧の様な物が取り付く。


 だが恐怖は感じない。 

 

 むしろそれがあたりまえかのように俺はそれを受け入れる。

 胸を、腰を、両手両足を固定されてゆく。

 最後に頭に兜の様な物がかぶさり目から上を覆う。


 そして意識が「鋼鉄の鎧騎士」に繋がる。



 ブンっ!



 途端に俺の目に外の様子が映る。

 そして体中が「鋼鉄の鎧騎士」の感覚を感じ取る。



 「これはっ!」



 俺の魂から魔力が流れ込みこいつはまるで生き返ったかのように目を覚ます。

 胸の扉を閉じる。

 足に力を入れ周りを見ながら立ち上がる。

 それは当たり前のような感覚。


 そしてそんな俺にガレントの魔導士どもの【炎の矢】が、魔光弾が殺到する!



 しゅぼぼぼぼぼっ!

 しゅぼっ!

 しゅぼっ!



 ぼんっ!

 どがっしゃぁぁああぁぁぁんっ!



 着弾と同時に炎がはじけ、衝撃波が襲う。

 だが今の俺には蚊にでも刺されたかのように何ともない。



 「武器はっ!?」


 『君の腰につるされているよ』



 彼女の声が聞こえた。

 見れば腰に長剣がある。

 俺は腕を動かしその剣を引き抜く。


 と、目の前にガレントの鋼鉄の鎧騎士が大剣を振り上げ襲ってきた!!



 「くっ!? んっ? なんだ相手の動きが遅い?」



 俺は半歩引き左手にある小さな盾でその攻撃を難なく弾き抜いた長剣をガレントの「鋼鉄の鎧騎士」に突き刺す。



 どがっ!



 それはあっさりと相手を貫いた。

 そして剣ごとそいつを振り払う。



 ごがぁんっ!



 地面に倒れたそいつはそのまま動かなくなった。

 そしてそんな俺に次々とガレントの「鋼鉄の鎧騎士」が襲いかかる。



 「ちっ!」


 俺は迫りくる「鋼鉄の鎧騎士」の頭を掴み力任せに振り投げる。

 すると簡単にそいつは首がもげ後続の「鋼鉄の鎧騎士」にぶつかりよろめく。


 踏み込み長剣を一閃する。



 ざんっ!



 その一閃はまるで紙でも引き裂くかのように簡単に二体同時にその胴体を上下に切り裂いた。



 「凄い! なんて力だ!!」



 思わずつぶやいてしまった。


 が、その隙をついて来た槍が俺の胸を貫く!?

 そのはずが、その槍の矛先が刃こぼれをおこし俺の「鋼鉄の鎧騎士」の胸の装甲に弾かれた。


 見れば少しむこうにガレントの「鋼鉄の鎧騎士」が槍を構え投げていた。

 俺はそこへまた踏み込むと一足でそこまで届いてしまった。


 左手でそいつの胸を押し倒し後ろで槍を構える「鋼鉄の鎧騎士」をまたも長剣でなぎ倒す。

 そいつは先ほど同様に吹き飛ばされながら体を真っ二つにされる。



 「凄いぞ!! これがオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』の力かっ!?」



 叫びながら先程押し倒した「鋼鉄の鎧騎士」に剣を突き刺す。

 わずかにびくんと手足が跳ね上がりこいつも動きを止める。



 一瞬にして四体を仕留めた俺だが周りを見ると向こうにガレントの「鋼鉄の鎧騎士」が三体槍を構えこちらの様子をうかがっている。


 

 俺はゆっくりと立ち上がる。



 何と言う事だ、あれほど苦労していたガレントの「鋼鉄の鎧騎士」がこの一瞬で四体も倒せてしまった。

 

 俺が残り三体を見るとそいつらは一斉に俺に襲ってきた。

 しかしその動きが遅く見える。



 「こんなものかぁッ!?」



 叫びながら俺も踏み込むと俺の「鋼鉄の鎧騎士」は一瞬で間合いを縮め一体目を袈裟切りに、そしてその勢いを殺さず振り回した長剣がまた次の一体をから竹割にする。

 そして突き刺さった長剣をそのままに手を放し槍を構える最後の一体の懐に飛び込むと俺の動きに対応できないそいつは身動き一つ出来ないまま俺の手刀をその胸深くに受ける。



 ずしゃっ!



 手刀は背中まで突き抜け操縦者の血で真っ赤に染める。

 びくんと一瞬震えて最後の「鋼鉄の鎧騎士」も動かなくなった。


 俺はその「鋼鉄の鎧騎士」を腕ごと振り投げ手刀を抜く。



 「ば、化け物だぁっ!」


 「き、鬼神だ! 逃げろぉっ!」


 「一瞬で七機もの『鋼鉄の鎧騎士』がやられたぁッ!!」



 ガレントの兵士たちは口々に叫びながら撤退を始めた。


 俺はそんな様子を高い視線から眺めていた。

 そして振り向くとあの遺跡からよろよろと生き残った数人の仲間たちが出てきた。



 「ア、アインなのか?」


 「あれだけの『鋼鉄の鎧騎士』をたったの一騎で‥‥‥」


 「お、俺たち生きているんだよな?」



 残った仲間は信じられないものを見るかのように俺を見上げる。

 俺は「鋼鉄の鎧騎士」に片膝を地面に付けさせ胸の装甲を開く。


 そして体を拘束している鎧の様な物を取り外し外へ出る。



 「お前ら大丈夫か!?」



 「アイン! やはりそうだったか!」


 「生きてる、生き残ってるぞ!!」

  

 数少ない仲間たちの歓声が上がる。




 『ふふっ、それでいい。その『鋼鉄の鎧騎士』は君にしか使えない様にした。さあ、彼女の作った秩序との対決だ。大いに期待するよ』



 また彼女の声が耳元でする。

 俺は慌てて周りを見るものの既に彼女の姿は見えない。


 「悪魔との契約か‥‥‥」




 俺はそうつぶやいて片手をあげ残った仲間たちと生き残った事を喜び合うのだった。 


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