第15話第三章3-4アガシタ
3-4アガシタ
―― 2342年9月 ――
「とうとう見つけたよ。君、僕と契約しないか?」
その声は唐突に俺の耳に入って来た。
俺は驚き周りを見るとすぐ近くに一人の少女が立っていた。
俺は死んでいった仲間の骸を地面に置く。
俺の前に現れたこの少女 年の頃十二、三歳くらいか?
短い銀髪で年齢にしてはやたらと胸がでかい。
こんな状況下でなければ見とれてしまうほどの美しさを持っている少女だが半そで半ズボンに皮のジャケットを羽織ると言うボーイッシュなスタイルがこの場に似つかわしくない。
だが魔法の【炎の矢】や魔光弾が飛ぶ火中にこの娘は平然としていた。
いったい何モンだ!?
俺は思わず聞いてしまった。
「誰だお前は!?」
するとこの少女はまるで我が意を得たりという感じでうっすらと笑って答えた。
「僕? 僕は天秤の女神アガシタさ。君、異界からの転生者だろ?」
女神だと!?
こんな少女の姿をしたのが?
そして俺の前にまた神か!?
それに今こいつは俺のことを「転生者」と言った?
「やめてくれ、俺は神を信じない! 大体にしてあっちの世界でもこっちでもお前らはいつも俺を裏切る!! お前らを信じて好い事があったか!?」
すると彼女は更にうれしそうにニヤリと笑う。
その笑みはこの年の少女にとても似つかわしくない。
「まぁまぁ、そういきり立つなよ。君の魂の叫びのお陰で君を見つけられた。ずっと待っていたんだよ、君の様な者が現れるのを。それに君ならできるはずさ、丁度ここに封印されているんだよ、『鋼鉄の鎧騎士』がね」
嬉しそうに笑いながら言うその笑顔は女神と呼べるものでは無かった。
まるで自分の悪さを見つからず微笑んでいるかのようなその様子。
俺は内心ぞっとしながら言う。
「封印だと? 『鋼鉄の鎧騎士』だと? いまさらそんなモノが有ってもこの戦況は変わらん!!」
しかし彼女はふっと真面目な顔をして言い出す。
「でもこいつはオリジナルだよ? 知っているかい、こいつは『魔王』が作った十二体の一つだ。この世界で初めて作られた本当の『鋼鉄の鎧騎士』なんだよ? さあ、僕と契約しよう。そうすれば君は『魔王』が作った世界でたった十二機しかないオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』を手に入れられるんだよ?」
そう言ってそいつは嬉しそうに右手を差し伸べる。
俺はその手を見てから彼女の顔をもう一度見据える。
「‥‥‥何故俺なんだ?」
どう考えても出来過ぎている。
これだけのピンチで『魔王』とやらが作ったというオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」を俺に渡す?
何か裏があるとしか思えない。
だが彼女はまたあのニヤリとする笑みをする。
「君が彼女と同じ異世界からの転生者だからさ。この世界は偏り過ぎた。確かに世界を安定させることを僕は彼女に要求したし代行をさせた。だけど偏り過ぎた世界は破滅へと動き出す。だから僕は彼女と戦う事にしたんだ」
こいつ、俺が異世界からの転生者と知って俺と契約をしたがる?
異世界から転生した事がそんなに特別なのか?
確かに俺には前世の記憶があるがそんなものがこの世界で十二分に活躍できるとは到底思えない。
それにこいつは女神と言っていた。
そう、神だ。
女神だと?
ふざけるな!!
俺は彼女を睨みつけながら言い放つ。
「お前たち神はいつも俺を裏切る。向こうの世界でも、こちらの世界でも記憶を取り戻した俺にいつも『試練』と言う呪いをかける! だから、だから俺はお前たち神を信じない!」
全く、前世もこの人生もこいつらに俺がどれだけ振り回されそして運命をもてあそばれたことか!
俺の殺意さえ込められたその視線を平然と受け止めこいつは嬉しそうに笑う。
「最高だ。待っていたよ君の様な者が現れるのを。神に十二分に不信感を持ちまだ知られていない君の本当の力を活用できるのなら、神が嫌いなら僕は悪魔でもいい。その神に抗うが良い! さあ、僕の手を取り契約をかわそう。そうすれば君は悪魔の力を手に入れこの絶体絶命の戦況を覆せる。保障しよう、君の少なくなった仲間も助けられるよ?」
こいつっ!!
だが俺は周りを見る。
もう仲間は数人しか残っていない。
こちらの「鋼鉄の鎧騎士」だって先程破壊された。
どう考えても俺たちに勝ち目などないのに‥‥‥
こんな状況下で!
だがこいつはそんな俺の気も知らずかうっすらとした笑いを顔に張り付かせたまま言い出す。
「僕の望みは一つ、今この世界に出来つつある新たな秩序を破壊して良きも悪くもバランスを取ってもらえばいい。女神の教えとか言って一か所に力が集まり過ぎるのは良く無いからね。それに人間の事は人間に任せるのが一番なんだよ。彼女にはそれが理解できないのかもしれない。本来僕たちが作った世界はバランスが重要なんだ。天秤は、世界は揺れているのが一番安定するのだから‥‥‥ だからその為になら僕は今の彼女の新しい秩序の中で『悪』でもいい。そう、悪魔でも良いのさ!」
こいつは、女神であるこいつはそう言い張る。
どうやら女神にもいろいろ有るようだが確かにこいつは女神には見えない。
そのにやけた笑いは正しく悪魔に見える。
悪魔か‥‥‥
そう、神で無いなら。
俺は意を決して差し出された手を取る。
そして皮肉いっぱいに言う。
「ふん、良いだろう、神で無いのならば!」
「契約成立だ、君にオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』を与えよう!」
嬉しそうにこいつはそう言った途端だった。
この遺跡の足元が光り魔法陣が現れる。
「人間が封じた程度の封印、僕にとっては無いも同然だよ!」
びきっ!
ビキビキっ!!
何かが割れる音がした次の瞬間だった。
空間にひび割れが出来まるでガラスが割れるかのように落ちそこからそれは出てきた。
その『鋼鉄の鎧騎士』は普通のモノとは見ただけで違う。
全身が光る銀色の鎧で見るからに強そうなオーラを発している。
装飾もちんけなものでは無くよくよく見れば体中に魔術の文字が刻まれている。
「さあ、受け取るがいい! 『魔王』の作ったオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』を!」
彼女は嬉しそうに俺に言う。
だが問題がある。
俺には「鋼鉄の鎧騎士」を動かす方法が分からない。
「だが俺は『鋼鉄の鎧騎士』を操作できないんだぞ!?」
「大丈夫、ほら」
そう言って彼女は俺の額に手をあてるすると何かが俺の中に入り込む!?
いや、これは俺の魂にまで届いている。
それは俺の中を駆けずり回り何かの枷を外していく。
そして俺は感じた。
この体の中を駆け巡る力を!
「こ、これは一体‥‥‥」
「やっぱりね、君もギフトが与えられている。並の人間には到底届かない高み。君には人では手に入れられない膨大な魔力がある。それは女神に最も近いほどに」
そう言って彼女は鋼鉄の鎧騎士を指さす。
それは俺の前に現れ静かにその胸元を開き俺を呼び入れるのだった。
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