第14話第三章3-3切り捨て
3-3切り捨て
翌日この簡易砦に本国からの「鋼鉄の鎧騎士」が二体到着した。
ホリゾン公国製の「鋼鉄の鎧騎士」。
最新型では無いらしいが黒を基調とした赤とオレンジの混ざったその巨体はそれでも古さを感じさせる事は無かった。
「バッカス隊長、元気だったか?」
「まさかこんな所で会うとはな、お前さんこそ元気だったか、ガザルよ?」
バッカス隊長は嬉しそうに本国から来た「鋼鉄の鎧騎士」の操縦者と拳をぶつける。
そしてやって来た旧型の「鋼鉄の鎧騎士」を見上げる。
「こいつもあの頃と変わっておらんな? 追加装備はどうした?」
「全部新型に予算を持っていかれたよ。おかげでこいつのメンテナンスでさえ一苦労だ」
笑いながらそれでもその「鋼鉄の鎧騎士」は錆一つ無い。
相当乗り込んでいてそしてよく整備されている証拠だろう。
俺たち小隊長は呼び出しをされて集まっていた。
そしてバッカス隊長が話を始める。
「いいか、この簡易砦と土豪はあくまでもガレントの足を止める為のモノだ。状況が悪くなればここを放棄してサボの港町前に出来た前線にまで撤退する。だがガレントの『鋼鉄の鎧騎士』は残り七体。相手の『鋼鉄の鎧騎士』さえ数を減らせればこの戦い後方支援の無いガレントに勝てる! いいか、無理はするなよ?」
そう言ってそのまま作戦会議を始める。
作戦はザシャがまた木々を動かし相手の「鋼鉄の鎧騎士」が森を抜けにくくして可能な限り一列でこちらに向かうように導く。
そしてその頭をこちらの「鋼鉄の鎧騎士」二体でつぶしていく作戦だ。
その間俺たち小隊は周りに罠を仕掛け可能な限り相手の「鋼鉄の鎧騎士」を揺さぶり動揺を与えるのが仕事だ。
俺たちはこの簡易砦までの間にまた罠を仕掛け、ザシャの精霊魔法で準備を整える。
そして二日後の朝がやって来た。
「来たぞ! ガレントの『鋼鉄の鎧騎士』だ!!」
物見やぐらで見張りをしていた奴が大声を上げる。
急いでそこへ登り状況を見ると先頭を最初から「鋼鉄の鎧騎士」で進軍をしてきていた。
「小細工の罠を警戒していきなり『鋼鉄の鎧騎士』で出て来たか! 数は‥‥‥ 七っ! 後ろにも兵士たちがついてきている、ここを一気に攻め落とすつもりだぞ!!」
俺は状況をそう見て判断し、大声で仲間たちに言う。
すぐにこちらの「鋼鉄の鎧騎士」たちも搭乗して起動を始める。
対峙場である開けた場所の近くには既にこちらの「鋼鉄の鎧騎士」用の武器が数々置かれ、武器が破損してもすぐに代用が準備出来るようになっている。
そしてあの鐘撞きの様な大木の仕掛けも準備されている。
「見えたぞ!!」
見張りからそう警告が発せられる。
俺たちは罠の発動をさせる準備をしていた。
そんな時だった。
簡易砦の左右から騒ぎが起こった。
「うわっ! 『鋼鉄の鎧騎士』がこちらからも来たぞ!?」
「馬鹿なっ! こちらからも来たぞ!? しかも二体も!!」
一体どう言う事だ?
俺たちは慌てて物見やぐらの奴に聞く。
「どうなっているんだ!?」
「正面の『鋼鉄の鎧騎士』が四体に減っている!? 他の三体が見当たらない!!」
「なんだと!?、左右から来たのは計三体! こっちに回っていたぞ!? どう言う事だ!?」
そうこうしているうちに正面の『鋼鉄の鎧騎士』がこちらに突っ込んできた!
すぐに俺たちの「鋼鉄の鎧騎士」も応戦するが流石に四対二では応戦だけで手いっぱいだ。
丘の上の簡易砦はすぐさまガレントの「鋼鉄の鎧騎士」の攻撃を受ける。
「土豪は役に立たん! 引くぞ!」
後ろでバッカス隊長の声が響く。
そして傭兵部隊はそれを合図に一斉に蜘蛛の子を散らすかのように逃げ始めた。
「アイン、俺たちも逃げよう! バッカス隊長たちはもう逃げだしたぞ!」
「しかし、こちらの『鋼鉄の鎧騎士』が!」
「俺ら普通の兵士に何が出来る! 悪いが俺は逃げるぞ!!」
仲間の奴からそう言われ「撤退だ!!」と大声で叫ばれる。
俺は目の前で戦っている「鋼鉄の鎧騎士」たちを見て周りを見る。
既に仲間たちは逃げ始めていた。
正面にばかり気を取られていたがどうやら幻影魔法か何かだろう。
「鋼鉄の鎧騎士」にばかり注意していたのが仇となった。
こうなってくればもうここはダメだ。
俺たちも慌ててバッカス隊長たち同様撤退を始めようとしたのだが既に退路もふさがれている。
俺たち小隊が慌てて逃げようとした時だった。
『付いて来い! 逃げるぞ!!』
こちら側の「鋼鉄の鎧騎士」一体が丘を駆け上り突破口を作る。
後ろをちらりと見れば体中に剣を刺されたもう一体が膝を落として動かなくなっていた。
残ったこちらの「鋼鉄の鎧騎士」は丘上を占領し始めているガレント軍の一般兵士をなぎ飛ばしながらガレントの鋼鉄の鎧騎士に体当たりをしてその首をはねる。
そして右腕を犠牲にしたその機体でそのまま丘を下りサボの港町に向かって走り出す。
俺たちの小隊もそれに続き逃走をするのだった。
* * *
『畜生、魔力が残り少ない。残念だがこいつはここまでだ』
先を走っていた「鋼鉄の鎧騎士」がいきなり徒歩になりその動きを遅くする。
乗っていたミケインとか言う操縦者はそう言いながら後ろを振り返る。
と、その顔に槍が飛んで来て突き刺さりそのまま大地に縫い付ける。
「なんだと!? もう追って来たのか!?」
見ればガレントの「鋼鉄の鎧騎士」たちが槍を持ってこちらに向かっている。
ガレント兵も到着したのだろうかやたらと【炎の矢】や弓矢が飛んでくる。
「アイン駄目だ! もうこっちの『鋼鉄の鎧騎士』は動かねえ!」
「くっ、バッカスの野郎、俺たちを見捨てやがったか!? このままでは囲まれる!」
―― これも試練なのかもしれんな ――
何が試練だ!
何が神だ!!
そんなモノに祈ったってすがったって助けてなどくれない!!
「くそうっ! 神なんざくそくれえだっ! 」
「アイン! だめだまわりこまれた!!」
弓矢で応戦したり魔法を使える奴は魔法を放つが多勢に無勢。
俺たちは取り囲まれてしまった。
「アインあそこに逃げよう!」
「あんな遺跡に行って何になる!?」
俺がそう叫んだときそいつの頭に【炎の矢】が突き刺さり一気に燃える。
「くっそうっ!」
残った仲間たちはじりじりとあの遺跡に追い込まれその物陰に隠れながら無駄な抵抗をしている。
仲間が一人、また一人と倒れて行きそしてこちらの「鋼鉄の鎧騎士」にとどめを刺さんとばかりにガレントの「鋼鉄の鎧騎士」が群がりその体に剣や槍を叩き込んでいる。
「ぐっ、ここまでか‥‥‥ 神よ、今あなたのもとへ参ります‥‥‥」
「馬鹿野郎! 神なんざにすがるな! 死ぬなっ! おいっ!!」
魔光弾を受けたそいつを引きずりながら遺跡の壁に隠れる。
そしてそいつを揺さぶるが既に息をしていない。
くそっ!
神なんぞに最後にすがりやがって!
ここまでか!?
俺はどうしようもない怒りに叫んだ。
「畜生っ! だが俺は神なんざにすがらねえぇぞぉぉぉぉおおおおぉぉぉっ!!!!」
それは魂からの俺の叫びだった。
テグに生まれ奴隷戦士となりアーシャにも出会えた。
この人生もこれで終わりか。
バッカスの野郎、最後に裏切りやがって俺たちを見捨てた。
しかしもういいさ、俺もここで終わりだ。
「アーシャ、今俺も行くぞ‥‥‥」
そう言った時だった。
「とうとう見つけたよ」
その女の声がいきなり耳元に響いたのだった。
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