第13話第三章3-2快挙

3-2快挙



 ざしゅっ!

 ゴゴゴゴゴ……


 ばたーん!



 そのバケモノは俺の胴体くらいある樹木を手に持つ剣であっさりと切り倒してしまった。



 「ガレントの『鋼鉄の鎧騎士』だ! 逃げろ!!」



 俺は打ち合わせ通りそう敵にも聞こえるように大声で叫びながらわざと見えるように逃げはじめる。

 周りの仲間たちも同じように逃げ始めそれにつられるようにガレント兵や「鋼鉄の鎧騎士」が俺たちを追ってくる。


 よし、ここまでは予定通りだ!


 俺たちは敵に見えるか見えないかくらいの距離を保ちつつ時折弓矢などを放って抵抗するそぶりを見せる。

 そして案の定木々が少ないルートを「鋼鉄の鎧騎士」はやって来る。



 「アイン、もうじき沼だ。策はあるのか?」


 「ああ、ザシャ殿を頼りにしている、いくら「鋼鉄の鎧騎士」が強力でも中にいる人間はそうではないだろう? 沼に引きずり込んだら『鋼鉄の鎧騎士』を沈めて放さないでくれ。水中で呼吸できる魔法が無い限り乗っている人間は溺死するはずだ!」



 俺は考えていた秘策をザシャに伝える。

 すると彼女は鼻で笑いながらも言う。


 「ふん、悪くない! 良いだろう私が手を貸してやる!」


 そう言って素早く俺たちより先に沼の方に駆け抜けていく。

 この辺は身軽なダークエルフ流石だ。

 あっという間に姿が見えなくなる。


 俺たちもなんだかんだ言ってガレントの兵たちを誘導して沼の近くにまで到着する。

 さあ、ここからが正念場だ。



 予定通り俺たちは沼を左右に分かれ逃げながらガレント兵をおびき寄せる。

 中には沼に膝までつかり初めてその存在を知るような敵兵もいるが動きが鈍れば格好の的だ。

 待機していた弓矢部隊の洗礼を受けガレント兵が次々と倒れていく。

 


 そして奴がやって来た。

 よくよく見ればなんと三体もこちらにやってきている。



 「鋼鉄の鎧騎士」がガレント兵の前に出て弓矢の脅威から守っている。

 ここで俺たちも次の手を打つ。


 「よし、魔法使い頼む!!」


 控えていた魔法使いたちはファイアーボールや炎の矢をガレント兵と「鋼鉄の鎧騎士」に向かって放つ。

 勿論弓も続けて放ち威嚇を続ける。


 しかしこんな攻撃一般兵ならまだしもバケモノである「鋼鉄の鎧騎士」には全く効いていない。

 矢は簡単に弾かれ魔法だって【対魔処理】されている装甲のお陰でよほどの大魔法でもない限り効く事は無い。

 それに大魔法なんて大魔導士や賢者でも無ければ扱えるわけもなく、こちらにいる普通の魔法使いの魔法なんて全く効く訳も無かった。


 「鋼鉄の鎧騎士」は右に二体、左に一体に別れ沼を回って対岸のこちらに攻め込もうとしてきた。

 勿論その間も無駄とはわかっていながら攻撃を続ける。


 「鋼鉄の鎧騎士」の頭がこちらを見る。

 表情が無いくせに笑っているようにも感じる。

 三つの目が俺たちを見てあざ笑うかのように輝いたその時だった。


 

 「よしっ! 今だっ!!」



 ちょうど仕掛けの場所までやって来たこいつらに対して俺たちの渾身の罠を発動させる。

 足元に貼ってあるロープに「鋼鉄の鎧騎士」が引っかかると途端に仕掛けておいた投網が「鋼鉄の鎧騎士」たちに投げつけられる。

 そして足元の足首を引っ掛ける罠も発動してその動きを鈍らせる。



 「魔法使いどもやれぇっ!」



 ちょうど「鋼鉄の鎧騎士」たちの近くに隠していた油樽に向かって【炎の矢】を放たせる。

 途端にその近くが火に包まれガレント兵たちが逃げ惑う。

 しかし「鋼鉄の鎧騎士」には全く効いていない。


 が、油断した連中が体に巻き付いた投網やロープを切り裂こうとした時だった。



 「本命、いけぇっ!!」



 俺の号令にそれはいっせいに「鋼鉄の鎧騎士」に向かって放たれた。

 大木を綱で吊るして鐘を打つような感じで振り込まれる。

 いくつも準備したそれに流石の「鋼鉄の鎧騎士」も何度も打ち込まれ、よろめきとうとう一体が倒れ沼に沈み始めた。


 先に確認したがこの沼はそれほど深くはない。

 だが倒れればいくら「鋼鉄の鎧騎士」でも水に沈む。


 俺たちの狙い通り次々と「鋼鉄の鎧騎士」たちは沼に倒れ半分以上が水に浸かっている。

 三体とも沼に落ちた時だった、先に沼地に来ていたザシャが笑いながら幹の上の枝に立ちながら精霊魔法を使い始める。



 「ははははっ、見事なものだ! 後は私がやってやろう。水の精霊よ、土の精霊よ我が敵を捕らえよ!!」



 ザシャが精霊魔法を放つと同時に沼の中の泥が更に「鋼鉄の鎧騎士」たちを沈み込み動きを鈍くする。

 そして水の精霊たちがまるでスライムのように「鋼鉄の鎧騎士」たちを全て包み込む。

 もがいていたり空いた手でその水をかきむしるような動きをする「鋼鉄の鎧騎士」たち。

 しかし体のあちらこちらから空気の泡を出して捕らわれた水の中でもがいている。


 それがしばし。

 誰が見ても苦しみうごめいている。

 だがとうとう終焉を迎えたようだ。



 あの化け物たちがその動きを完全に止めた。




 「アイン、ガレント兵が引いていくぞ!」


 仲間の誰かがそう言った。

 見ればもうほとんど火が収まっているそこにはガレント兵の姿が無くなっていた。

 流石に虎の子の「鋼鉄の鎧騎士」を三体もやられたのだ、ここは一旦下がるだろう。



 「よし、一旦戻るぞ!」


 「おおっ!!」



 勝鬨をあげながら俺たちは簡易砦にまで戻るのだった。



 * * * * *



 「なんだと!? 『鋼鉄の鎧騎士』を三体も仕留めただと!?」



 簡易砦に戻りバッカス隊長にそう報告すると大いに驚かれた。

 しかしそれが事実であることをザシャが証明する。


 「間違いない、この先の沼で三体沈めている。引き上げられた様子が無いので確実に中の人間はくたばっただろう」


 それを聞いた他の連中もうなる。


 

 「大したものだ、これも女神様のお導きか。早速ゾルダ将軍に報告だ。おお、それとこちらの『鋼鉄の鎧騎士』が明日ここへ二体届く。ガレントも三体もやられたんだ、これから先ここもただでは済まんだろうがそれでもこちらにも『鋼鉄の鎧騎士』が最前線に投入される」



 そう言いながらバッカス隊長は全員に「備えろ、本気の攻撃が来るぞ!」と言いながら指示を出している。 

 

 俺もその指示を受けながら次の準備をしていたのだがバッカス隊長に呼び止められる。



 「アイン、少しいいか?」


 「どうした、バッカス隊長?」



 バッカス隊長は俺を呼び寄せ今回の「鋼鉄の鎧騎士」を倒した方法を聞く。

 そして唸りながら自分なりに理解をする。



 「要は水攻めと同じ原理か?」


 「ああ、それで間違いはない。だが同じ手はもう効かんぞ?」


 「分かっている‥‥‥ しかしアイン、お前は何処でこれらの方法を考えつく?」

 

 「どこと言われてもな‥‥‥」


 まさか俺の中にこの世界でない記憶が有ると言っても信じてもらえないだろう。

 そして今までの戦法はあの世界での知識をフルに使ったものだ。

 いくら陸上最強の兵器である戦車だって水に沈めば中の人間は溺死する。


 今回はその記憶をもとにこの作戦を立てたのだ。

 もっとも、ダークエルフのザシャがいなければここまで上手くはいかなかっただろうが。



 「そうか‥‥‥ お前にも女神の加護があると良いな‥‥‥」


 「やめてくれ、俺は神を信じない。あいつらはいつも俺を裏切るからな!」




 そう言う俺にバッカス隊長は一瞬俺の顔を見てから何も言わず向こうへ行ってしまった。

 まあ、バッカス隊長は女神教の信者らしいからな。



 俺は今度こそ自分のやる事を始めるのだった。


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