第三章

第12話第三章3-1露払い

3-1露払い



 俺たちの小隊とザシャは対峙するガレント軍がいる森の中を駆け抜けていた。



 「もうじき沼が見える。そしてこの辺は湿った台地だ、重いものが足を取られる」


 事前に調査していてこの辺の地形は頭に入れている。

 俺はそう言いながらガレント軍とこちらの簡易砦の間にある沼を指さす。

 

 この辺は木々が密集している。

 それをザシャの精霊魔法で自然な感じに木々を移動させ減らさせる。


 「ふむ、それでこの後どうする?」


 「歩兵ならいざ知らず『鋼鉄の鎧騎士』の様なデカ物は樹木の少ない所を通りたがるだろう? だからここへおびき寄せる。いくら『鋼鉄の鎧騎士』でも沼にはまれば動けなくなるだろう?」



 わざと木々を少なくして通りやすくし、他のルートは木々を密集させ『鋼鉄の鎧騎士』が通りにくくする。

 そしてそれ以外の場所に数々の罠を仕掛ける。


 俺はその考えをザシャに言いながら仲間たちにも指示を出す。



 「とにかく簡単なものでもいい、罠を沢山仕掛けるんだ、足止め程度でも構わない。相手に警戒させるように罠を張ってくれ!」



 俺たちは簡単な落し穴や宙吊り、引っ掛け等おおよそできる限りの罠を仕掛ける。

 そしてそれが終わる頃には夕刻へと時が迫っていた。



 「ガレントに動きは無い様だな? おい、アイン。私は更にガレントの様子をさぐってくる。お前たちは夜目が効かない、これが終わったら戻れ」


 ザシャはそう言うとすぐに姿を消した。


 流石はダークエルフと言った所か?

 その鮮やかな消え様に俺たちは素直に驚きそして片付けをして戻っていくのだった。



 * * * * *



 「どうやらむこうもあのへんに簡易の駐留地を作っている様だ、やぐらや柵が出来ていた」



 夜半に戻ったザシャの報告を聞いてバッカス隊長他、俺たち小隊長も集まっていた。

 テントの中で開かれた地図を見ながらザシャはガレントの動向詳細を伝えてくれる。


 「どうやらガレントとしては冬になる前にサボの港町までの奪還を考えている様だ。準備が出来次第に『鋼鉄の鎧騎士』含むガレント軍の進行が予想される。既にこの事はサボの港町のゾルダ将軍には連絡を入れている」


 バッカス隊長はそこまで言ってから俺たちを見る。


 「こちらの『鋼鉄の鎧騎士』は後三日で到着する。そこまでここを保てば本陣から『巨人』を投入できる」


 「何故最初から『巨人』を投入しないんだ?」


 ラルバスがあたりまえに思う疑問をバッカス隊長に聞く。

 あれだけの戦闘力を持ったものだ、それは当然の考えだろう。


 「あれはな、奥の手なんだそうだ。どうやら使うのにもいろいろと制限があるらしい」


 「しかしここで使わなければ意味が無いだろうに!」


 バッカス隊長のその言葉に他の小隊長も声を上げる。

 当然と言えば当然だ。

 ガレントは「鋼鉄の鎧騎士」を十体も投入してきているのだ。

 前回の戦闘なんてもんじゃない程こちらが不利なのだから。



 「あれは連続稼働できる代物ではない、休ませてやらなければ寿命が縮まる」



 俺たちの会話にザシャが割って入り、そう言う。

 その言葉に思わず俺たちはザシャを見る。



 「あの『巨人』は本当に奥の手だ。それでも改良型だから寿命が延びた方なんだがな。一回の戦闘でもそれほど長くは使えない」


 「詳しいなザシャよ。ではやはり可能な限り『鋼鉄の鎧騎士』同志でやるしか無いのか?」



 バッカス隊長のその言葉にザシャは静かに頷く。



 「ちっ! あの化け物の様な『鋼鉄の鎧騎士』を十体も相手かよ!!」



 誰がそう言ったのか、しかしそれは誰もが思う本音だった。

 バッカス隊長は俺を見る。

 そして他の小隊長を見てからため息をつきペンダントを引き出し撫でる。


 「これも試練なのかもしれんな。しかし我々は生き残らねばならない。アイン、お前が先陣でその仕掛けた罠に誘導をしてくれ。他の小隊は沼におびき寄せた『鋼鉄の鎧騎士』の足止めとアインの小隊を抜け出した連中の始末だ」


 バッカス隊長はそう言って俺たちの杯に葡萄酒を注ぎ込んでくれる。



 「奴らが動き出したら数を減らせ! その間にこちらの『鋼鉄の鎧騎士』を何としても到着させ応戦だ! 行くぞ!!」


 『おうっ!』



 俺たちはその葡萄酒を一気にあおって杯を机にたたきつけるのだった。



 * * * * *


 

 「動いたぞ!」



 斥候をしてくれていた俺の部隊の人間が戻って来てそう伝えてくれる。

 俺は小さく手を振って仲間たちに準備をさせる。


 ザシャの話では俺たちの仕掛けた罠のルートを大人数や大型の『鋼鉄の鎧騎士』で動くのは難しいだろうと言う事だ。

 そうなれば樹木の少ないルートに自然と行くだろう。

 そうであれば俺たちは仕掛けた罠の近くで待ち伏せをしてそちらのルートに誘導する必要がある。


 ガレントが岩山の前に陣取って二日目。

 いよいよ奴らが攻めてきたのだ!!


 

 「来たようだぞ!」


 仲間の誰かがそう言う。

 見れば森の中を斥候部隊だろうか?

 下草を切りながら進んでくる。

 俺たちはその様子をかたずを飲んで見守る。


 よし、そのまま‥‥‥



 がさっ!


 どさっ!!



 「うわぁっ!!  ぐっ!」



 よしっ!

 まずは落とし穴に引っかかった。

 中には木で出来た槍が有るので運が悪ければ串刺しだ。

 途端にガレントの兵たちが騒ぎ始める。

 しかしその頃には俺たちの放つ矢が次々とガレントの兵たちを襲う。


 奇襲を喰らったガレントの斥候部隊は大声をあげながら逃げていくがそうするといよいよ団体様のお出ましだ。


 俺たちは直ぐに次の所まで下がり罠に誘導する。



 と、いきなり森の奥から【火球】ファイヤーボールが飛んで来た!



 それは着弾と同時に近くの草木を燃やす。

 落とし穴を隠していた枝や葉っぱが燃えてその場所をあらわにする。



 「ちっ、もう魔術師が出て来たか! 全員次の所まで下がれ!」


 俺は指示を出しながら次の場所へと下がる。

 そして次の罠で迎え撃つ準備をする。


 だがそんな俺たちは聞いてしまったあの足音を。



 「ちぃ! もう出て来やがったか!? 俺たちを露払いするにはずいぶんとご大層なものが出て来たもんだな!!」




 俺たちはその巨体を見上げるのだった。 

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