第11話第二章2-5反撃の狼煙

2-5反撃の狼煙



 サボの港町を占領して既に二週間が経った。

 そして前線の更に前に作られた簡易砦と土豪に俺たち傭兵部隊はいる。



 「しかしウェージム大陸は良い所だ。こんなにも森が豊かだとはな!」



 同じ小隊の隊長であるラルバスは上機嫌でイノシシの肉にかぶりつく。

 ここでは狩りに出てもすぐにでも獲物が捕まえられる。

 それだけ獲物も多く、豊かな森と言う事だ。


 「だからこそこの地を死守する必要がある。たとえあいつらが攻めて来てもな」


 バッカス隊長はそう言ってうまそうに酒を飲む。

 そして同じくイノシシの肉にかぶりつく。

 

 あの後この立地条件に満足したバッカス隊長は上層部とかけ合ってここに前線の砦を築く事にした。

 ダークエルフのザシャが協力してくれたおかげで工事は順調に進んでいる。

 後ふた月もすれば石造りのしっかりとした砦が出来あがるだろう。


 本陣の魔術師たちも数名こちらに回してもらったし、予定ではもうじき旧型だが本国から前線防衛の為の「鋼鉄の鎧騎士」も到着する。


 そして驚いた事にそのうちの二体もこの砦にまわしてもらえるらしい。



 「そう言えばバッカス隊長、例の交渉はどうなったんだ?」


 「ああ、あれか。雲の上の事は分からん。だが本国から『鋼鉄の鎧騎士』まで送って来るのだから優位に話が進んでいるという訳では無いのだろうな」



 今のこの世界で「鋼鉄の鎧騎士」が戦場に出ると言う事は国の威厳と力を誇示する為でもあるが大戦になりそうなときは必ずと言っていいほど出て来る。

 そして「鋼鉄の鎧騎士」同士の戦い始まれば普通の兵士たちは邪魔にしかならないのでその戦いの行く末を見守るしかない。


 逆にどちらか一方にしか「鋼鉄の鎧騎士」がいない場合は数に物言わせて「鋼鉄の鎧騎士」を倒すかそいつに皆殺しにされるかのどちらかだ。


 

 「ここが激戦地になる可能性が有ると言う事か‥‥‥」


 「否定はせんがこちらとて『鋼鉄の鎧騎士』を投入してくるのだ、それに俺たちには『巨人』もある。ここを死守できればいくらガレントでも大人しくなるだろう。それにもうじき冬になる。噂ではあの岩山の向こうはホリゾン以上の豪雪地らしく冬の間は動きが取れなくなるらしい」


 バッカス隊長のその話に俺たちも思わず岩山の方を見る。

 ホリゾン公国の有る北の大地、ノージム大陸の冬は厳しい。

 だが雪はそれ程積もらず、寒さだけがすべてを凍らせる。

 このウェージム大陸最北部のここもノージム大陸に近い事もあり、冬は同じく厳しいらしいが豊かな大地の陰で冬でも意味が違う。


 「早く冬が来ると言いな‥‥‥」



 誰が言ったかは分からないかったがそれは多分ここにいる全員の思いだろう。



 * * * * *



 「おい、あれはなんだ?」



 物見やぐらや柵の建設、そして樹木の伐採などで土地の確保をしている時だった。

 ダークエルフのザシャが声を上げる。


 見ればむこうの方、岩山の方に何か大きなモノがうごめいている。



 「ガレントの『鋼鉄の鎧騎士』だ!!」



 誰かが声を上げる。

 それは岩山をどんどんと越え列を成してやってきている。

 そして森に到達するとその場で止まりその後ろをぞろぞろと兵たちが続く。



 「ガレント軍が来たぞ!! 『鋼鉄の鎧騎士』が何体もいるぞ!!」



 物見やぐらで様子を見ていた奴が大声で警告を発する。

 その場で作業していた者はすぐに手を止め、一番前に土嚢を積み始める。

 それと入れ替わりに弓矢部隊が前衛に周り物見やぐらに更に数人が登る。



 「ガレントが来ただと!? 数は!? 『鋼鉄の鎧騎士』は何体来ている!?」


 バッカス隊長もテントから飛び出して来て高見台の上に上がる。

 しかしガレント軍は森の入り口で止まったまま動きが無い様だ。



 「あそこに陣取るつもりか? しかし、『鋼鉄の鎧騎士』があんなにも‥‥‥」

 

 「確認! 『鋼鉄の鎧騎士』数十! ガレント軍おおよそ二千!」


 伝令がこの簡易の砦に叫びまわり状況を知らせる。


 「とうとう来たか‥‥‥ 『鋼鉄の鎧騎士』が十体もだと‥‥‥ 神よ、これも試練なのか?」


 「やめろバッカス隊長! こんなのが試練であれば俺たちに死ねと言っているよなものだ!!」


 つぶやくバッカス隊長に思わず俺はそう言ってしまった。

 だが神に祈った所で好転するわけでもなく、あいつは救いの手を差し伸べる事は無い。

 何時も「試練」と言いながら俺たちから希望を奪う。



 「ふん、窮地になるとすぐに弱音を吐く。それでは好い男に成れんぞ? 頭を使え!」



 俺たちが動揺をしていると後ろからザシャがそう言ってくる。

 彼女は続けて周りを見ながら言う。



 「いいか、いくら『鋼鉄の鎧騎士』が強力でもこの森林を抜けるには大木が邪魔だ。動きも制限される。そしてこちらには私がついている。お前たちは傭兵だろう? 元冒険者もいる。だったらまっとうに戦おうとするな! 地の利を生かせ! 罠を仕掛けろ!!」



 そのザシャの剣幕に誰もが驚く。

 しかし、彼女の言っている事はそのとうりだと思う。

 そしてこのままここで相手を迎え撃とうとすればまだ「鋼鉄の鎧騎士」が到着していない子の最前線はまず持たない。

 このまま待ち構えるの不利だ。


 「確かにこの辺は俺たちの方が詳しい。よし、バッカス隊長俺が出る。ザシャ殿手伝ってもらうぞ!」



 俺はそう言ってこのダークエルフを見るのだった。

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