第10話第二章2-4作戦
2-4作戦
バッカス隊長は俺を見ながら聞く。
その表情はまるで俺を値踏みするかのようだった。
「アイン、お前はあのガレントの船の秘密をどこで知った?」
その質問に俺は一瞬答に詰まったがすぐに昔仲間内での話を思い出し話す。
「確かその昔奴隷戦士として戦場を回っていた時に仲間内の誰かから聞いたんだ。南の商人の持つ鉄の船の話をな」
バッカス隊長はそう答える俺をしばらく見ていたがおもむろに話しだす。
「そうか、商人の船がヒントだったか。正直あれには驚いたが俺も知らん情報だったのでな。まあいい。それより今はもっと厄介な話がある。ん? ラルバスも来たか」
見ればテントの中に別の小隊の隊長ラルバスがやって来た。
これで呼び出しを喰らっていた小隊長が集まった訳だ。
「バッカス隊長、来たぞ」
「よく来たラルバス。さて、たった今入った情報だがガレントが動いた。量産型の『鋼鉄の鎧騎士』を大量に北に派遣し始めているそうだ」
「それは本当なのか?」
俺は思わずそう言ってしまった。
バッカス隊長の話が本当であればガレント王国はもうじき本国からさらなる「鋼鉄の鎧騎士」を北の砦に送り付ける事になる。
「ああ、間違いないだろう。うちの斥候がそれを確認して今戻って来た。俺はこれから上層部と会議だがアイン、お前たちには先にやってもらいたい事がある。アインの小隊とラルバスの小隊は前線の更に先に土豪を築き襲撃に構えてもらう」
本来ならそんな事は魔導士同伴での作業。
それを傭兵部隊の俺たちにやらせるというのは何か有った時の本体の戦力消耗を最小限にしたいからだ。
傭兵部隊の俺たちに割り与えられる割りの悪い仕事だ。
「バッカス隊長、俺らに死ねと?」
「バカモン、先に準備をしておかなければここで死ぬ羽目になる。お前らはやばくなったら逃げて来い。正規の連中では面子ばかりで逃げる事にもいちいち理由が必要だ。無駄死にしろとは言わん。だがこのままではこの前線で俺たち含め無駄死にする羽目になる」
一緒に呼ばれていたラルバス小隊長は思わずバッカス隊長に聞くが、バッカス隊長の言う事も一理ある。
正規の連中はやたらと自尊心だけは高い。
だから引くことが下手だ。
だが俺たち傭兵部隊は違う。
生き残ってなんぼ。
やばく成ればすぐにでもバラバラに逃げる事も出来る。
「しかしバッカス隊長、魔導士がいなければ俺らだけでは大した土豪も出来んぞ?」
「それには心配するな。出て来てくれ」
バッカス隊長はそう言うと奥から一人の女性が出てきた。
そして俺たちは驚く。
「ダ、ダークエルフだと?」
「お、俺初めて見た!」
「‥‥‥」
ラルバスもベニルもその女性に驚く。
それもそのはず、噂位でしか聞いた事の無いダークエルフが目の前にいるのだ。
「ふん、小童どもが騒がしい。バッカス、こいつら大丈夫なのか?」
「ああ、こう見えてもこいつらは優秀だ。ガレントの鉄の船を止める方法を考えたんだからな」
バッカス隊長にそう言われそのダークエルフの女性は俺たちを値踏みするかのように見る。
「まあいいだろう、それでこいつらと共に行けばいいんだな?」
「ああ、頼むザシャ」
ザシャと呼ばれたダークエルフ。
銀髪の長い髪に褐色の肌、切れ長な瞳に気の強そうな表情。
ダークエルフ特有のでかい胸の前で腕を組んでいる。
しかし、下手に手を出せばその代償は自分の命で償わなければならない。
だが、確かに身震いするほどのいい女だ。
ホリゾン公国は北の大地と言う事で栄養が少ないのか、普通の女たちにはここまで見事な胸はいない。
上級階級でも無ければお目にすらかかれないようなその胸の谷間を扇情的な衣服で惜しげなく見せつけてくる。
「すっげぇ‥‥‥」
思わずベニルが声を漏らす。
「ふん、わっぱが欲情でもしたか? 二百年早いわ、愚か者が!」
そう言ってザシャは手を振るとベニルが途端にぶるっと震えてその場で倒れた。
慌てる俺とラルバス。
そして倒れているベニルを見るとうっすらと黒い靄の様な物が離れて行き霞のように消えた。
「おい、ザシャよ手加減してやってくれ。いきなり精霊魔法を喰らったんじゃこいつらのレベルじゃ抵抗なんざできんぞ?」
「ならば鍛えろ。男だろ?」
面白くなさそうにザシャはそっぽを向く。
どうやら一瞬のうちに精霊魔法をかけられたようだ。
「これが精霊魔法か‥‥‥」
実際見るのは俺も初めてだった。
そしてベニルがこうも簡単にやられるとは驚きでもある。
「これでわかっただろう? ザシャがお前らと同行してくれる。土豪はザシャが作ってくれるからその護衛と土豪の整備をして来い」
バッカス隊長からそう言われて俺たちは頷くしかなかったのだった。
◇ ◇ ◇
「驚いたな、こんな所にも遺跡があるなんて」
ラルバスはそう言って馬から降りる。
ガレントの北の砦まではまだまだ距離があるのにこんな森の中に静かにその遺跡は有った。
「それほど古くは無いのか? 創りはまだ新しい様にも見えるが‥‥‥」
遺跡を見ながらラルバスはそう言う。
俺も馬を降り小隊に小休憩の指示を出しながらその遺跡に行ってみる。
「なんの遺跡だ?」
「分からん、だいぶ小さいが祠でも無いし、ほとんど崩れていない。何なんだ?」
ラルバスに聞いてみるが中に入って出てきた奴は首をかしげる。
「ザシャ殿、これは何かわかるか?」
「ふん、見た所何かの封印でも有るようだが、この地ではその昔古き女神と悪魔の神が戦った。私もあの時はそれを見ていたがそれの物では無いようだな」
ザシャはそう言って遺跡をぐるりと回ってみる。
そして嫌そうな顔をする。
「こいつは女神が関係している。きっとろくでも無いものだ!」
いきなりそう言ってその場を離れる。
俺は首をかしげ聞いてみる。
「女神が関係しているとは、放っておいて大丈夫なのかザシャ殿?」
「むしろ関わり合うな。あの女神は厄介この上ない!」
思い切り不機嫌になる。
ダークエルフは人間では考えられないくらい長生きだ。
そして先ほどの話では古き時代の女神と悪魔の神にもかかわっていたようだ。
見た目は二十歳そこらではあるが俺たち人間からすればすっと年上なのだ。
そんな事を思い出させる。
俺たちはその遺跡には手を触れず更に先へと進むのだった。
* * * * *
先ほどの遺跡からしばらく行った所に小高い丘があった。
そしてそこだけは木々が少なく見晴らしも良い。
「この辺が良いだろう、ここから前線までなら早馬でもすぐだしな」
ラルバスはそう言いながら小隊に指示を出し始める。
俺も自分の小隊に指示を出しながら周りの索敵をさせる。
そして待つ事約二時間、この周辺の地理も分かって来た。
近くには小さな沼が在りこの丘より先は岩山になってくるらしい。
場所的には岩山を超えて来たガレントが一望できそうな所なのでここに土豪を設置して簡易の砦でも作れば足止めにも使えるだろう。
「おい、アイン! この辺はやたらと動物が多いぞ! 肉が喰える!!」
わざわざ向こうの部隊からラルバスと共にベニルもやって来た。
ベニルは嬉しそうに弓の様子を見ている。
「アインよ、ここで土豪を作るが良いだろう?」
「ああ、ここは岩山からの動きも見える。先ほど索敵してきたうちの連中が近くで沼も見つけたそうだ」
「飲み水も確保できそうか? だとするとここに砦でも作った方が良いくらいだな」
やはりラルバスも同じような事を考えている様だ。
俺は頷きさっそくザシャを呼ぶ。
「ザシャ殿、ここで土豪を作り簡易の砦を作ろうと思うのだが良いだろうか?」
「ふん、わっぱにしては良い判断だ。戦で大切なのは情報。いち早く敵の動きが分かれば戦いようも有る。ここは向こう側の動きが見えるからな」
そう言って何やら呪文を唱える。
すると途端に地面がうねり近くの木々がこの場を離れる。
「す、すげぇ‥‥‥」
ベニルでなくても驚く。
あの樹木たちが勝手にこの場を動き退いて行くのだから。
そして今度は地面がせり上がり土豪が出来ていく。
人がすっぽりと入れるようなその溝は左右に展開していきそして二重構造になり、連絡用の溝もしっかりと出来上がる。
「さて、これ位で良いだろう。まずはこれを基準に柵や石垣を築け。簡易の物見やぐらも作るがいい」
そう言って向こうへと行ってしまった。
俺たちは驚きに目を見開いたままお互いの顔を見るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます