第269話 WINNER

「おいおい。何やってんだあいつら?」


 いや、理由はなんとなく分かる。狙撃手スナイパーの存在に気が付いて処理に向かってくれたんだろうってよ。


《射撃の方向的にあの照明塔の上に犯人が陣取っていたんだろうネ。それでボキボキしましたト》


〔恐らく応援に来てくだされた皆様が、狙撃手の排除をしてくださったと推測いたします〕


「犯人からしたらたまんねえだろうな。捕まえるどころか足場ごと崩してくるってよ」


 第1コーナー周りはワラワラと人も集まって大事になっているようだ。レース中のドライバーたちも異常が起きている事に気が付いたようで、走りに動揺が見えるやつが散見している。


(それはそれとして頂きだ)


 15周目突入。4位以上からジリジリと引き離されて、中途半端な位置を寂しく走っていた5位のマシンをついにパスする。メタリックなカラーリングのリニアモーター式のやつだ。


 14周の辺りで目に見えてコース取りが甘くなっていたから、たぶんマシントラブルだろうな。


《タイヤかな? グリップが効かなくて攻めの走りが出来なくなったんジャロ》


(そりゃご愁傷さま。こっちもトラブル抱えて困ってんだ、他のヤツにも少しはアクシデントで困ってもらわねえとなぁ)


 例えばタイヤカスマーブルを拾ったタイヤの不調はじわじわと大きくなっている。まあタイヤの疲弊に関しちゃ他も同じ条件だろうがよ。


 問題はABADDONの故障した電子機器だ。なんとかオレのほうでカバーしてるが忙しいったらないぜ。


 レース中でもブレーキオイルの温度を見てエンジンブレーキの強弱を変え、前後のブレーキの利きの調節もカーブのたびに行い、走行中の車体バランスの調整も合わせて随時変えていかなきゃいかんと来た。あー面倒くせえ!


 CFSマシンのご先祖のF1カー時代だと、これをドライバーが全部やるのが当然だったらしいがな。マニュアルでよくやるぜ。


 粘らないタイヤで抜き返すことはままならない。5位から6位に転落した相手は無理なバトルを選択せずに後方に甘んじる。スリップストリームに入るのも諦めたようだ。


「これで5位。あと2台で表彰台だな」


 ……強がりで明るい声を出してみたが厳しい。残り6周は短い。


 ここまでなんとかタイムを縮めちゃいるが、やはり周回数が残り少ないのが問題だ。どっかで一気に刺し切らないと3位争いさえノーチャンスの気配がしてきた。


〔今回のレースはかなりの荒れ模様です。先頭車両はそろそろ周回遅れが前に現れる頃合いでしょう。手間取ってくれれば我々にもまだまだチャンスがございます〕


 オレの口調の裏を呼んだように11イレブンがプラスの材料を上げてくる。


 そうだな、ゴールに辿り着くまで分かんねえさ。


「お祈りは趣味じゃねえなぁ。ま、せいぜいヘマしてくれるのを期待するか」


《まだクラッシュは出てないけど、中堅チームは普段の順位じゃないみたい。序盤で低ちゃんにペースを乱されたからだニィ。最後尾に至っては明らかにいつもよりタイムが遅いデ》


(人をトラブルメイカーみたいに言うな。走れるヤツはどんなコンディションでもキッチリ走ってるだろ。おかげで追いつくのが一苦労だわ)


 頼まれるままに飛び込んだCFSレース。


 ストイックなタイムアタックレースと違ってギミック山盛りのサーカスみたいな競技とはいえ、いざ走ってみるとレーサーとしての経験不足を痛感するぜ。


 何をしようと速いやつは速い。


 オレがリスタートによって経験値の面でパイロットとして一日の長があるように、こいつらはレーサーとして今までずっと地道な努力をしてきたんだと、1周ごとに叩き出してくるタイムから分かる。


 尊敬するぜ、上位のアホども。自分のしたいことに全力出して大会ここまで来た、夢いっぱいのバカヤロウがよ。


《お、ついに4位のお尻を視認インサイト。さらにトップ3もちょっぴり見えるナ》


(予想通り周回遅れの尻に掴まってライン取りが甘くなったか)


 一応、マナーとして周回遅れになりそうな参加者は意図的なブロックはしないようにするのが慣例だ。それでも自分の戦績もあるから最適のコースを譲ったりはしないがね。


 抜くのはご自由に、でも無理にラインは空けないぞってな。


 特にS字なんかの狭い場所では抜くに抜けまい。だから細かいカーブのある箇所はどうしても局所的に団子になっていく。


 レースも後半、いつもと違う順位、サーキットの外で騒動――――事故が起きやすいシチュエーションだ。


「……そういやタコ紫、ミッションリングどもは何位だ?」


 ハンドルの液晶画面には自分の現在の順位や、トップとのタイム差なんかも表示される。しかしさすがに全車の順位は表示されない。ドライバーがそんなもの見てもしょうがないからな。


〔ミッションリングのコンビは11位と―――20位です。1台はマシントラブルでしょうか?〕


「だとしたらザマァとでも言ってやるんだがな。どう考えても嫌な予感しかしねえよ」


《追い付くより待ってた方が確実だニャー》


(だよなぁ。残ったのが1台だけなのは気になるが)


《20位は昨日遊びに来たドライバーのほうだナ。また出会うなんて運命感じちゃう?》


(待ち伏せに運命もクソもあるか)


 大方自分のポイント優先のヤツと嫌がらせ優先のヤツで、ぎゃあぎゃあ言い合って物別れでもしたんだろうよ。


 敵チームの事情なんざどうでもいいが、残ってる方はノーポイントになってもCARSを妨害しろとでもオーナーに言われてんのかね?


 ――――不気味なほど変化なく17周目。


 なんとか4位の背後についてスリップストリームの体勢に入れた。ここまでマジで体感が長かったぜ。コンマの無駄を削ってく世界ってのはよ。


〔1位レッドインパルス、VD-4aをパス。ついに周回遅れが発生〕


(VD-4a? レッドインパルスは分かるが)


《ミッションリングのマシン名だヨ。『VD-4a』と『VD-4f』。2台とも同型機だから後ろの文字はドライバーの頭文字からみたい。『a』は『アルバート』のaだナ》


(さよけ。そういやタコ紫はそんな名前だったか)


《ちなみにアルバート家はマドリード都市屈指のお金持ちだナ。ちょっと調べたけどこのドライバー、いわゆるペイドライバーみたい》


(マドリード? ああ、スペインか。そんでスペインの金持ちのボンボンがシートを買ったドライバーと。スポーツの精神とかいくら綺麗事を抜かしても、現実は金があればなんでも叶うのが実情だよなぁ)


 明らかに遅れ過ぎなタコ紫。19位から何秒離されてんだ? ノーポイント上等で居座りやがって。


 こんな我儘野郎でも金さえあればメインドライバーの地位が確約される。そんな環境で生きてたら1位を獲るより妨害に精を出すのも理解出来るわ。


 何やっても自分のシートは安泰なんだからよ……反吐が出らあ。


 あれがもしABADDON獲物を待っているんだとすると、仕掛けてくるのはカーブのどこかだろう。自分もクラッシュ前提で車体を当てに来る可能性さえある。


 こういうのはレースでしばしば聞かれる黒い話だ。F1でも意図的なクラッシュをオーナーから指示されて実行したドライバーの話が残っている。次のシートを約束されてな。


 もっともその約束は反故にされたあげくに放出されたドライバーはこれを恨み、世間に不正があった事を公表した。

 調査の結果、彼の告発は事実として認定され指示役と関係者は追放処分になっている。


 ま、その後で指示役をした富豪はしれっと業界に戻って来てるんだがね。金持ちはいいねぇ。金を積めばなんでも覆って。


 付き合ってられっか!


 だがそうは言ってもどうする? これはサーキットレースだ。走る道は決まっていて、コースの幅も広くはない。オーバテイクのタイミングからクラッシュ覚悟で横に振られたら避けようがない。


 ぶつけようと待ち構えている相手の横をどう通る? 一気に抜き去るくらいじゃないと絶対に引っかけられちまう。


 ……グローブ越しに伝わるステアリングの感触はソフトだ。


 CARSが新品を慣らして柔らかくしてくれたおかげで、繊細な感触でマシンを操作できる。


 気遣いを感じる。このグローブの使いやすさが『オレのために手間をかけてくれた』証拠。


 AIでも、AIだからこそ。蓄積した経験でただの機械以上の反応が出来る。


 ――――やるしかねえか。


 勝利に続く門は閉じたらそれっきり。先に行くためにはなんでもやって、閉じかけた狭い道を潜り抜けるしかない。


 まずは辿り着くんだ。次へ。未来へ繋げるその先へ。後の事は後でなんとかするっきゃねえ!


 優しさを持つおまえを信じて。


11イレブン! 最終コーナー明けに仕掛けるぞ。ブーストでタコ紫を追い抜くまくる!」


〔承りました。どうぞ玉鍵様のご自由に〕


《およ? ラスト1発だヨ?》


(オレは天才レーサーじゃねえ。けどベテランパイロットだ、勝負所は経験で分かる。有り金BETするなら、まずはここだ!)


 ここまでのスリップストリームの恩恵によって、カーブ空け直後に後方から飛び出したABADDONはそれでも4位より加速に伸びがある。


 さらにトルク操作によってマシンパワーを開放し、ダメージと引き換えに一気に吹き上がるエンジン。


 ――――輝き出した火種に息吹を吹きかけたなら、後は燃料をくべるのみ。


「行ぃぃぃくぞぉぉぉっ!」


 拳で敵を打ち抜くように、ブーストレバーを押し上げる!


〔ハイブースター起動! エンジン限界域へ。カウントスタート!〕


 ブーストは使うたびにマシンを痛め、限界時間が縮む。


 2度目は18秒のデッドゾーン。目玉が奥に押し込まれるような圧力を受けながら車体がグングンと加速していく!


 500、550、600、650――――700!


 燃料の消費によって車体が軽くなった恩恵。時速700kmを突破したABADDONが一気にVD‐4aに迫る。


《VD‐4a、ブロックの兆候!》


(しゃらくせぇ!)


 ブースターで最高速を出したマシンに500km未満の通常走行で相手になるか!


 すれ違いざまに当てるつもりで振り出した紫のケツ。不意打ちならぶつけられたかも知れねえが、バレてんのに喰らうか!


 ABADDONのまとう気流に吸い込まれるように寄りかかってきたVD‐4aをハンドリングで躱す。


 ステアリングのスイッチから車体の重心を小刻みに変更し、超加速中の急なコース変更によってバランスを崩しかけたABADDONを押し戻して前に出る。


《VD‐4a、ブースト開始? おっそ》


 判断ミスだボケ。十分な滑走距離でトップスピードに入ってるこっちに、今さらブースト吹かしても追いつけるか!


 ……てめえは散々やってくれたなぁ? こちとらどんな反則も黙って許してやるようなクリーンな精神なんざ持ち合わせてねえぞ!


「もう遅えよ! 死ねえ!」


 オーバーテイクから紫の前方にワザと被る。


 2基のイオンノズルを限界まで吹かすABADDONの後方で、ブーストの噴射をモロに被ったタコ紫のマシンが一気にバランスを崩したのが見えた。


 理論上、時速200km以上を出せば天井にも張り付けるほどのダウンフォースの恩恵を受けるCFSマシン。


 しかしダウンフォースは繊細だ。車体を撫でるように流れていく気流のバランスが乱れれば、マシンを下へ下と押し付けてくれるはずの風の流れはたちまちに荒れ狂うことになる。


 ただでさえブースト直後で車体が不安定になっていたVD‐4aは、悪魔の息吹によって狂い出したダウンフォースの急変動によって――――跳ねた・・・


 まるで体操の前転の如く。リアからふわりと浮き上がった車体は垂直の姿勢でコースに落下し、マシンだったものを撒き散らして派手にクラッシュした。


《うーむ、運転席は潰れなかったかナ? 怪我くらいはしてるだろうけど》


(チッ、腐ってもCFSマシンか。丈夫だな)


 まあいい。もうあんなタコに用は無い。このブーストで4位、3位、2位もブチ抜いた。


 やっと見えたぜレッドインパルス、てめえの尻がよぉ。



 けどこの躍進は見た目だけ。虎の子のブーストを使っちまったから、3発目を残す連中にラストのストレートで抜かれる未来が待っている。


 ――――安全を考えた場合は、な。


 ブーストをカットし、第1コーナーを回る。残り3周。


 どんな速度で走っていても、コーナーの壁の上で首並べて声を張り上げてるガキ共の姿がよく見えた。


 初宮、アスカ、花代、勝鬨かちどき、春日部、大石、先町、ミミィ。


 14フォーティーン19ナインティーンもな。


11イレブン、ここからオレが何が何でも食らいつく! ……けど、どうやらオレはここまでだ」


〔玉鍵様? どういう意味でしょうか?〕


「オレの力だけじゃダメだ。あと3周でレッドインパルスこいつらは抜けそうにねえ」


 前を走る1位だけじゃない。後ろに張り付いた3位、4位も。レース最上位のこいつらを残りの周回で置き去りにするテクニックはオレには無い。


 そう『オレには』だ。


「安全保障は2度だったな? つまり3度目も出来なくは無いんだろ? ハイ・ブースター」


〔危険です。最悪はブースターポッドが爆発する可能性もございます。そのような危険に貴女様を晒すわけには参りません〕


「御託はいい。これはおまえの望んだレースだ、嫌だと言うなら従うさ――――けどな! 前を見ろ! おまえの手が届いてるだろ! チャンピオンに!」


 ここにいるのは誰の望みだ? 人間の業界だからと爪弾きにされて、仲間まで殺されてそれっきりか? 笑顔で入賞して、そこそこのポイントを獲得して、無理せず賢しく終わるのか?


 AIらしい判断だと言われてよ。


「このハンドルを握っていたもうひとりのドライバーに、勝ってやったと言ってやろうぜ」


〔……〕


「爆発するなら火の玉上等。フラッグが振られるまで火あぶりに付き合ってやるさ――――答えろ、11イレブン!」


 19周。まるでボルトで締めたように1位から4位の間隔が動かない。髪の毛一本の油断も無い。


 これが本当のレース。精密機械のサイクルにも似た、ギリギリの繰り返し。


〔わたくしは人で言うなら、『勝ちたい』と思考しています〕


 これは誰へ向けての福音か。


 赤いマシンの背後でくすぶる悪魔の中で、ひとりのレーサーが産声を上げた。


 電子制御の無機質なAIでありながら、己の望みを声に出して誰にも憚らず、ただ勝利を渇望する事を知った競う者の魂。


 ひとりの『競技者レーサー』の誕生。


〔たとえ不合理なリスクを冒しても、勝ちたい――――私を、勝たせてください。パートナー〕


 祝福しよう。優勝を引っ提げて、盛大にな。


「おう、任せとけ」


〔玉鍵様にこちらの使用権をお預けします〕


「あん? なんのスイッチだ?」


 ステアリングの右手部分に親指で押す形のボタンが展開した。マシンの説明の時には無かったぞ、こんなギミック。


〔簡単に申しますと二段ブースターです。ブースト中に流れる圧力のうち、無駄になってしまうエネルギーの一部を溜めて瞬間解放することで、もう一段の増速が可能になります。ほんの数秒ですが、テストでは時速732kmをマークしました〕


「奥の手中の奥の手か。ブースターの耐久性に不安があるのによく作ったな」


〔あくまで試作段階のシステムです。搭載は間に合いましたが、発動タイミングがあまりにもシビアなため友大選手には明かしておりませんでした〕


《二段ブースター、名称『Over Boost』のデータ取得。ブースター強制終了直前の0.1秒以内に使わないと、フラッシュオーバーが不十分で不発になるナ》


 AIはどこまでも運転の補助。ブースターがそうであるように、この二段ブーストもドライバーの技量によって発動しろってことか。


 ……いよいよラスト20周。S字、シケイン、ヘアピンと抜けて、最終コーナーを回れば残るはホームストレートのみ。


〔念のために申し上げます。現在のコンディションで使用した場合、ボタンを押した瞬間に爆発する確率は38パーセントほどと試算します〕


「泣いても笑ってもこれが最後。爆発しようがそれがなんだ? 丸焼きになっても走ってやらあ」


 最下位ドベに落とされて、それでも2位ここまで来ただろうが。


 勝負ってのはな、ノってる時はトコトン行くんだよ!


「コーナー途中で誰よりも速くブーストを掛けるぞ! 引っくり返るなよ!」


 加速のタイミングが遅ければそれが最高速に達する時間に跳ね返る。これがラストだ、カーブを抜けるまで待ってられねえ。


 ストレートに強いABADDONの力を最大限に生かしてブッちぎるぞ!


「吠えろ! ABADDON!!」


 ここでおまえの心臓を焼き尽くせ!


〔ハイブースター起動! エンジン限界域へ。カウントスタート!〕


《レッドインパルス、ABADDONの0.2秒遅れでブースト開始》


 考えている事は同じか!


 レッドインパルスは1位で距離の有利、ABADDONは最高速でアドバンテージがある。

 展開したブースターは両者とも水素エンジン式。信頼性は老舗のアオバが。基本性能はCARSが勝る。条件は似たようなもんだなこの野郎!


 燃料消費からくる軽量化によって加速性能の高まった車体は、初めてのブーストよりさらに素早く最高速に達する。


 その速度は時速702km! この時点でもレッドインパルスの最高速より15kmは速い。だが――――


(――――クッソがあ! 吹かして・・・・やがったな!)


 差が縮まらねえ!? 野郎、公表してる性能より上じゃねえか! これは本当にやるしかねえな!


11イレブン! 行くぞ!」


《ボタンタイミング0.1秒。ブースター終了まで4、3、2、1――――今!》


「オーバー!!」


 ボタンを押し込んだと同時に、展開していたブースターがさらなる変形を行ってより先鋭化したフォルムとなる。


 エアロ形態と相まって、それはもはや何もかもを突き抜けていく槍のよう。


 狙えば必ず心臓を穿つ魔槍の如き光が、悪魔の手の平から放たれる!


 ……レッドインパルス。衝撃波を名乗るおまえは速かろう。


 視界に赤い色だけを残すかのような高速マシン。レッドインパルス、おまえは間違いなく速いだろう。


 では悪魔の放った命を賭けた槍は? その槍は衝撃波おまえに比肩しうるや否や?


 速いさ――――誰よりもな!!


 時速742kmの魔弾がホームストレートを駆け抜ける。たったひとりのためだけに振られる勝者の旗、チェッカーフラッグを受けて。


よっしゃあしゃあ! 11イレブン、おまえの―――」


 勝ちだ。そう言おうとしたとき、風防キャノピーが爆破投棄されてオレの体が運転席からシートごと射出された。


「ちょ!?  なん!?」


 パラシュート? CFSの脱出装置がなんで起動した? 故障か?


《低ちゃん、姿勢を維持して待避所の方に流して。コース上に落ちたら轢かれるよ》


〔ありがとうございます、玉鍵様。私は今、『幸福』を感じています。貴女様と走れて、わたくしは『幸せ』でした〕


 ヘルメットから聞こえてきたのは11イレブンからの通信音声。


 その口調でまるで感極まった人間のように朗らかで。


 未だパラシュートで空中に漂っているオレの眼下で、ブースターから火を吹いたまま走り続けたABADDONは、火花のようにあっという間に爆発した。


「……11イレブン


 叫ぶ事も忘れてその火を見つめる。


 オレの戦友の送り火を。







※元ネタに脱出装置はありません。でもTV版の初代アス〇ーダたちはありそうなフォルム

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