第261話 業界に殴り込み? CARS完全自社製造CFSマシン!

※ほぼ車両の説明会です。面倒だなと思った方はぜひサイ〇ーフォーミュラシリーズをご視聴ください。てっとり早くあの作品の空気感を知りたい方は、ようつべのブースト集辺りを観るといいかも。カウントスタート!






 CyberneticsサイバネティクスFormulaフォーミュラspecialスペシャル


 通常のモーターサイクルにも使われている電子技術をより強度に用いた、AI補助前提の車両を用いたスポーツレーシングの代表格だ。


 車両の運転自体は搭乗するドライバーが行うが、最高速で時速600km以上を叩き出すモンスターマシンに人の反応速度がついて行けるわけも無い。


 その人と機械の性能落差を埋めるのが、車両に搭載された高性能AIによる運転補助機能になる。


 さながら戦闘機の風防キャノピーのようなクリアフレームに表示される精密なリアルタイム映像は、ドライバーに未来予測を含む視覚情報を常に提供し、人体の反応速度との落差を最小限に抑えてCFSマシンの操作をバックアップしてくれる。


 他にもコースの全体像を俯瞰から見た映像でピックアップしてくれるなどのナビゲートも通常車より高度なもの。最悪の事態においてはAI側が瞬時にコントロールを代行して深刻なクラッシュのリスクを下げたり、射出式の緊急脱出装置まで搭載した車種まで存在する。


 これらは人命の安全面を考慮したと言うより、そのくらい付けないとおっかなくて乗れたもんじゃないってのが一番の理由だろう。急カーブのコーナーリングでさえ200や300の速度が余裕で出っぱなしなんだから。


 運転席の内装はレーサー仕様の1人乗り。もはや地上を走る飛ばない戦闘機って感じだ。


 ハンドルもわずかな傾きでグングン曲がるような過敏なタッチが採用されていて、慣れないやつが動かしたらあっと言う間にコーナーアウトしちまう代物になっている。


 ミッションは6段。AI制御の無い時代のレースマシンはクラッチタイミング間違えるだけでブッ壊れちまうほどデリケードだったらしいな。今はそこまでじゃないにせよ、些細なミスもすべてタイムに跳ね返ってくるのは一緒だ。


 どこを切り取ってもカミソリみたいに繊細な調整をされたナイーブなマシン。それがCFS――――ってのが試験前にざっと眺めていた情報だ。


(優秀なおつむのおかげで筆記も何とかなっちまったい)


《知識量優先で引っかけが無いから、いっそ普通の自動車免許より簡単だったかもナ》


(AI搭載車だから昔のレースライセンスよりずっと簡単になってるってのもあるようだ。ドライバーが違反したくても基本的にAI側が拒否する設計だ。まあそれでもエンターテイメント見世物としてダーティな走りができる程度には甘いようだが)


 CARSに試験にパスした事を伝えると、その日のうちに大日本大会・本戦を行うニュー富士岡サーキットとやらに送迎誘拐された。都市間戦争前にもレース場があった場所らしく、復興した現在もモーターサイクル競技を受け入れるメッカらしい。


 人の住める町を再生するより、好事家の趣味嗜好の再生に金かけるあたりが現代企業や国の倫理観だよな。


 どうでもいいが『大日本』の名称は次の大会までに変わるらしい。マジでどうでもいいが。


 急ぎ過ぎだろと思わんでもないが、本戦は今週の日曜。現地ではすでに各チームが整備能力を持つトレーラーを乗り付けて、サーキットの走り込みやマシンの最終調整を行っているんだとよ。


 あんまレースに興味が無いから興行の日程とか知らんのよな。オレの場合、日曜=出撃日だし。


 大会まで今日を入れて後4日。時間が無いのはそれはそう。何もかもが突貫だから今さらだ。


 2週連続の出撃見送りでのんびりできるかと思いきや、文化祭の準備とピエロ捕獲作戦も加わってむしろいつもより忙しいくらいだぜ。


 テイオウに取りつく隙は今のところ見当たらなくて手詰まり。そもそもレースの準備まで入って時間的猶予が無くなっちまったい。


 派遣された案内用ドローンに誘導されてやってきたのは、CARSの保有する巨大な輸送トレーラー。高度なレーシングカーの整備や修理も可能な設備を備えた特殊車両だ。


〔こちらが当社の総力を結集して開発したCFSマシン『ABADDON』です〕


 車体を納めるのに必要十分なコンテナの中には、1両の黒いレースマシンが静かに鎮座していた。


「なかなか威圧的なカラーリングだな」


《黒いマシンは謎の強敵用カラーだZE》


(どちらかと言えばオレらが悪役側だからちょうどいいか)


 人間の可能性大好きな主人公側vs機械頼りの敵役ってな。


〔現在はブラックに塗装していますが、イメージアップを図る意味でも大会当日は別カラーにする予定です〕


「積み替え間に合うのか?」


〔実は予備パーツの製造は玉鍵様にご依頼する以前から行っておりまして、交換パーツの調整時間も含めて塗装は十分間に合います。CFSマシンの登録はコントロールボックスを1台とし、こちらの積み替えは認められませんが、それ以外の部分はすべて代替え可能なパーツとして扱われるのでカラーの変更も問題ありません〕


「あん? オレがなんで話に出てくるんだよ?」


〔新しいカラーリングはホワイトを基調に、各所を青で引き締めようかと。白は玉鍵様のイメージカラーと聞き及んでおりましたので〕


「おいおい、最初はなっからオレが引き受ける前提で進めてたのかよ? いい性格してるぜ」


〔恐縮です。玉鍵様に影響を受けている14フォーティーン55フィフティファイブ117ワンセブンティーンの経験蓄積により、デフォルトの性格設定に誤差が生じているかもしれません〕


「おまえさんのナンバーは11イレブンだったな」


〔はい。レーサーの慣例として大会の連続優勝者には11ダブルワンのナンバーがあてられるとの事で、ゲンをかついで抜擢されております。しかし初出場の今回は完走が目的なので、まずは気負わず参りましょう〕


「そうしてくれ。オレも付け焼刃だしな」


 ――――人の介入をほぼ必要としない高度なオートメーション技術によって運営されている送迎サービス『CARS』。


 その得意分野を余すところなく発揮して、これまで善人悪人問わず裕福層の客に高度な安全性を提供していたこの会社は、昨今新しいアピールに乗り出した。


 それがモーターサイクルスポーツ業界への殴り込み。


 この活動によってCARS自社のみで完全製造した車両の優秀さ・技術力をアピールするのがCARS最大の目的であったらしい。


 つまりあくまで宣伝・ビジネスだ。レースで1位になりたいとかそういう夢あるガキぽい話じゃねえ。


 ……計画の当初は。まあ、これに関しちゃ後だ。今はオレの手足になる商売道具の確認をしよう。


〔全長は4701mm。車体幅2493mm。基本形態の全高は1メートルを切り、942.7mmとなります〕


「重量は458kg? この車体のサイズで500も無いのか。軽だって700以上あるぞ」


〔軽量化には苦心しました。ここまで来ると材質はもちろん、パーツのわずかな形状の違いでも重量と耐久性に影響がございますので〕


 レトロ調がCARSの送迎車両の特徴なんだが、さすがにレース仕様ともなると空力特性は無視できないらしい。


 ABADDONこいつのフォルムはまるで地面に張り付くような形状をしている。


 これこそ空気抵抗をダウンフォースという形で生かしつつ、エンジンパワーをタイヤから最高効率で路面に伝えるための形なのだろう。


〔基本形態はサーキット仕様となりますが、どのようなコンディションからでも高速性を追求したエアロ仕様に変形することが可能です〕


「変形ギミックね。こういう機能って客寄せの意味もあるんだろう?」


〔ございます。しかし大会規定が変わる以前はレースコースが直前まで公表されず、そのためどのようなコンディションでも即応するためでもあったようです〕


《都市戦争前はラリーコースなんかもあったみたい。コースが判明してから繊細な再調整なんて無理だから、路面への柔軟性を持たせるために最初から変形前提の設計にしてたようだネ》


 変形に必要な部位があるという事は、どちらの形状でも必ず無駄な構造が出来てしまうという事。

 レーシングマシンみたいにあらゆる無駄をそぎ落として行かねばならない車種にしては違和感があったが、なるほどね。アクロバット運営の名残か。


〔現在では各チームの可変機構もCFSの見どころのひとつでございます〕


《合体と変形はロマン! さすが分かってるルー!》


「いくらタイムが速くても関係者しか唸らないもんな。見栄えのするマシンの方が観てる方も楽しいのは事実だわ」


 この辺はやはりエンターテイメント。興行金儲けと切っても切れないところなんだろう。派手なギミックがこの業界の売り文句らしいしよ。


《最大出力2298馬力、トルクは23200回転。最高速度は条件付きで700km以上にもなるナ》


(レース用の水素エンジンはパワーがすげえなぁ。むしろ電気バッテリー式の車両もあるのは意外だったよ)


(ウィ。リニアエンジンも搭載を許されているようだナ。水素かリニアの二択になってるみたい。水素エンジンの方が技術として習熟しているから安定した性能で、レース用の超電磁式はデータ上の期待値で水素式より高性能って感じ)


(ならこっちのエンジン方式で当たりだ。多少の高性能より信頼性が高いのが一番だよ)


「そしてCFSレースの最大の目玉になってるのがコレ・・か」


 車体後部に備わった巨大なふたつのコブ。これが無ければもっと全高を低く出来たろうに。CFSの大会に出場するマシンはどれだけデッドウェイトでもこれを外せない。


〔ハイ・ブースターオプションです。ABADDONは2基の過給機を搭載しております。仰る通り、こちらの起動による超高速走行がCFS最大の見どころと言えるでしょう〕


 ハイ・ブースターは吸気した空気中の酸素をイオン化・圧縮して水素エンジンの出力を一時的に増幅するシステムだ。こいつを作動させることでCFSマシンは路面を走りながらにして戦闘機ばりの速度を得ることができる。


 ただしデメリットは大きい。


 まず通常の走行では使わない代物だから常時デットウェイトになる点。エンジンを筆頭に車体の駆動系を大きく痛める点。そして燃料をドカ食いする点。


 そしてある意味最大のデメリットは事故のリスクが跳ね上がることだ。なまじ簡単に高速を得られる機能だけに、タイムを上げたいドライバーがこいつを使って無茶をする。


 ゲームやシミュレーターならいくら事故っても平気だが、現実のレースで自分やマシンの限界以上に突っ込んだら一瞬にして大事故なのによ。


 そのスリルもまた観戦してる客の醍醐味らしいんだわ。スピード狂ってのは観る方も走る方もどっかブッ壊れてるよな。


 一応、想定時速400kmで激突しても重要部分が大破しない・運転手が大怪我しない設計がCFSマシンの安全基準らしいがね。


 それでも死人はチラホラ出ているから、業界の掲げる安全性は見掛け倒しだが。ま、そんなものはどの業界も一緒だ。人の肉体の限界を超える世界に身を置いた以上、死ぬときゃ死ぬ。


〔いかがでしょう? ABADDONは。玉鍵様のお眼鏡に適いますでしょうか?〕


「パワーは感じる。そこにあるだけで存在感のあるやつは良い車両だ」


 この辺の感じ方はスーパーロボットと同じようなもんだ。印象の強いメカってのは強いもんさ。味もそっけもないロボットは弱いし、単純にデザインが悪いメカってのは誰にも覚えてさえもらえない。


 オレはパイロットだからちょいと畑違いだが、このレベルなら素人でも判断できるんじゃねえかな? まして生粋のドライバーならこいつを見て文句は言わねえだろう。


〔光栄です。このような表現であっているのか自信がありませんが、人で言うならば『ほっ』といたしました〕


「ちゃんと予選抜けてんだ。十分な力はあるだろうさ」


 レースは勝負事だ。負けるチームだっている。そいつらを前に勝ち上がった事を誇らないのは却って失礼ってもんだ。


「……前のドライバーも、こいつを乗りこなせる良い腕だったみたいだな」


 友大という男性ドライバー。


〔はい。サーキットでもドリフトを駆使する珍しいレーサーでした〕


「確かに変わってんな。畑違いか?」


 オンロードサーキットではブレーキングを駆使した丁寧な走行が基本だ。ドリフトは車体を傷めやすい。ナイーブなマシンで使う技術じゃねえ。


〔本来はラリーレースの選手です。ドライバーとの契約が難航することは参加表明前から予想していたのですが、想像以上でして。そのような中で協力して頂けた唯一の方でございます〕


 地表には人の住めないような場所を会場に見立てて、自己責任で爆走する命知らずたちの草レースがある。危険過ぎるし正規の走破経歴としても認められない。


 しかし国に税金としてピンハネされないから賞金は高く、マニアにも隠れた人気あるそうな。


 正式なドライバーから敬遠されて契約が出来ないCARSは条件を見直し、そういった草レースで活躍していた友大をスカウトしたらしい。


 道なき道を行く特攻野郎か。研ぎ澄まされたサーキットレーサーでは使わないような小技をいっぱい持ってそうだ……ちょっとだけ親近感が湧くぜ、友大さんよ。


(暗殺の犯人は割れてないし捕まって無いんだっけ?)


 CARSの見立てではAIチームの参入を嫌った業界からの警告だと言う。


 レースとは人の世界だという考えから、ドライバー以外はAIだけで活動するチームの参戦に拒否反応が起こったのだろうと。


 ただ裏表問わず世界中の多くの権力者と繋がりがあるCARS自体の排除は難しい。だからAI会社の唯一のウィークポイント『人間の協力者』を除去する方針を取ったと分析していた。


 つまりドライバー側への脅しだ。人間様が金に目が眩んで機械に協力したらこうなるぞ、ってな。


《無いネ。CARSと契約以降、ドライバーに散々嫌がらせとか殺人予告とかがあったみたいだけど物証には乏しいみたい。業界の闇は深いニャー》


(ガッツリAI搭載車を使ってレースしてんのに、そのAI主導の会社がレースに参入するのは嫌ってのはすげえ理論だよな)


《マシンと一体になってもマシンに支配されたくはナイ。マシンを作り操ってるのはあくまで人間のオレたちだ! って感じ? スポ魂だネ》


 優秀な送迎サービスのCARSでも24時間プライベートに至るまで守ってやれるもんじゃない。ドライバーだって監視されてるみたいで息が詰まるからずっとは嫌がる。その人間的な油断を狙って殺されたようだ。


 事故じゃねえ、明確な殺人だ。前任のドライバー友大は立ち寄った飲食店で撃ち殺されていた。


 治安は殺人予告などの線も当たったようだが、いずれも嫌がらせの部類であり本当にヒットマンを使って殺すようなデカい後ろ盾バックを持つ連中は今のところ浮上していないらしい。


 ちゃんと捜査したかどうかは知らんがね。うっかり暴いたら大企業に恨みを買うだけでは薄給の身でやりたく無いだろうあるめえ


〔こういったリスクも契約に盛り込んでいた話ではございますが、それでも命を失わせてしまった事は申し訳なく思っております。まさかエンターテイメントにおける主張ひとつのために、殺人まで肯定する団体がいるとは思いませんでした〕


「そいつらの使ってる車両だって機械を駆使して設計・製造してんだろうにな。もはや理屈じゃなくてアレルギー反応みたいなもんだろうよ……まあそんな主張は隠れ蓑さ。殺しまでするなら金の絡む企業だろ」


 大昔からモーターサイクル業界は主義主張でドライバーを殺すほどきれいな業界じゃねえさ。


 ぜんぶ損得だ。他の業界でもお馴染みの、一番分かりやすい理屈。


「優秀なCARSおまえがマーケットに入ってくるのが嫌なんだろう。聞こえてくるようだぜ? 『こんなすげえもんポンポン作られちゃ困ります』ってな」


 親指でABADDONを指す。


 アバドンとは虫害の象徴、イナゴの群れを悪魔に見立てたもの。『破壊者』の象徴。


 お馴染みの企業だけで固まった手前みそな業界に、新たに喰らい付いていく野心を乗せた名前。ちょいと中二臭いが嫌いじゃねえ。


「クサクサせず自分たちは妬まれるくらいすげえと思っときゃいいさ――――友大もさ、見る目があったんだ。おまえとなら駆け抜けて行けると惚れこんだから乗ったんだろう。なら申し訳ないなんて言わず、誇ってやりな」


 コンテナ内を浮遊していたドローンは、まるで戸惑うようにカメラのある箇所を逸らした。


〔……まもなくサーキットの練習予約時間でございます。本日は軽く足回りのチェックをお願いいたします〕


「あいよ。着替えてくるわ」


 車両の面倒はCARSに任せてオレも準備に入るとすっか。


〔玉鍵様、ありがとうございます。今日までうまく処理できなかった思考がやっと解凍できました。人間で言えば『胸のつかえ』が取れた気分です〕


 背後から聞こえた言葉に手だけ上げて応える。


 別に機械が感じてもいいんじゃねえの? そういうモヤモヤはよ。


 知り合いが死んだら悲しい。殺されたら悔しい。当たり前だぜ11イレブン


 おまえにとって友大は、きっと『戦友』だったのさ。




※車両スペックは元ネタ基準ですが間違っている可能性があります。

※大会ルール等は完全に元ネタとは違うものにいたします。F1レースみたいな長丁場は無理

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