第256話 学校行事? サイタマ学園にも文化祭はありまぁす!

 大統領要請で月曜から本格的に訓練を開始する。決行予定は16日後の火曜だ。オレやロボットの仕上がり如何でこの期間は伸びる可能性があるがね。


 これは作戦の性質上非公式の話であり、知り合い連中含めて他言は一切無用のものとされた。しばらく付き合いが悪くなるからアスカやミミィたちがうるせえかもな。


 そんな訳でやれ今週から忙しくなるぞと思った矢先、さらに別の問題が湧いた。正確には予定が被った。


(サイタマ学園の文化祭、ねえ)


 学校祭だか文化祭の類は一般層でとっくに終わってたから思考の外だったぜ。学校行事だけにエリート様でも文化祭はあるんだと。


 本来の開催時期は第二学校と近いんだが、今年はテロやらなんやらで延期。そのまま中止の流れだったようだ。


 この決定にイベント大好きの陽キャ生徒どもが抗議した結果、規模を縮小するという条件付きで開催が許されたらしい。いるよなぁ、イベントだけは死ぬ気で食いついてくるグループ。


《テロに加担して逮捕・行方不明になった生徒と教師がいるからぜんぜん人手が足りなくて、学園全体を使ったイベントという訳にはいかないみたい》


(そらそうだ。1年坊のオレらと2年のはずの春日部がちょっと前まで一緒の教室にいたくらいなんだからよ。これで前年度と規模を同じになんかしたら、出し物と出し物の間のスペースがさぞ寂しいだろうよ。スッカスカだぜ)


《その代わり備品の貸し出しや出店場所で争わなくてよさそうだナ》


(余るくらいじゃね? ああ、そういやオレらのクラスは平気だったが、第二の他のクラスや学年はまあまあ揉めたらしいな。備品)


 うちのクラスは必要な備品に関してパイロットのマネーパワーで強引に解決したクチだ。


 なんせ同学年のパイロットを集めたクラスだからな。だいたいのパイロットは他の生徒より金はある。売上から回収できるならと、準備金としてカンパしてくれるやつが結構いた。


 メニューはカレーとコーヒーのふたつだけとはいえ、なんせ用意する調理器具が数もサイズも店舗規模だったんでよ。生徒の家から家庭用のキッチン用品をチマチマ集めてなんて作ってられなかったんだ。一応ほとんどはレンタル品にしたのが他のクラスとの妥協点かねぇ?


 考えてみりゃ他の学年やクラスから『反則じゃねえの? 成金が』と言われそうなやり方だったな。まあ今更だ。


 寄付分を差っ引いてカンパ分をそれぞれに返して、残りの売り上げを折半したら『小遣いレベル』としては良い線行ったぜ。オレの分は打ち上げでパーッと使っちまったわ。


「喫茶!」


「お化け屋敷!」


「屋台!」


 で。昼の飯時にクラスで頭突き合わせて、出し物について喧々囂々とやりあってるアホが3人と。


「こういうのはやっぱ喫茶店が一番でしょ! みんなでおしゃれな服を着てお茶やケーキを出す店よ!」


 椅子に片足上げて戦時下の指導者みたいに力説してるアホ。アスカ。さっきからチラチラ高そうなパンツ見えてんぞ。


「お化け屋敷がいい! お化けの恰好して驚かしたい!」


 癇癪起こした園児みたいに机をバンバン叩いてるアホ。ミミィ。中学にもなってうーうー唸るな。見っともねえ。


「グラウンドのスペースがまるまる余ってるんです! 文化祭の景観のためにも屋台横丁を作りましょう!」


 理論武装してるようでいて自分の食い気だけで主張してるアホ。初宮。おまえそんな性格だったっけ?


 文化祭の出し物なんて普通はもっと前から決めている。だが御覧のあり様ってやつで、人がゴッソリ減っちまったから計画自体が白紙になった。予定した規模で出来なくなったし、家から持ち出しの備品の担当者がいなかったりではな。


 そんで今日のうちに計画を決めて学園側に提出せにゃならん。


 中止予定だったものを無理に再開するんだ。スケジュールがカツカツになるのはしょうがねえわ。


 他のクラスメイトはアホトリオの剣幕に負けて最初からケンに回ってる。その中の知り合いだと花代がミミィ寄り、勝鬨かちどきが初宮寄りっぽい。


 孤軍奮闘のアスカはその他の勢力クラスメイトを抱き込んでる形。数では勝ってるかね。


(案外割れたな。アスカがクラスの音頭とってそのまま決まるかと思ってた)


《カリスマと発言力はあるけどリーダーするのは嫌がってたからニィ。クラスで調整役してたミズキちゃんやベルちんの方が人望があるっぽいナ。むしろ一番健闘してるのははっちゃんだネ》


(初宮は一般層の出身とバカにされないくらいには実力を示したからな)


 テロの時はアスカたちと一緒にアーマード・トループスで戦って度胸を。出撃ではオレらとゼッターに乗り込んで十分に根性を見せている。これでもバカにするやつがいたらそいつこそ真性のアホだ、アホ。


 ……そのアホどもがテロの件でゴッソリ消えたのも大きいか。


 悪党ってのは善人以上に声がデカいもんだ。そいつらがクラスにいて初宮をバカにしてる限り、どっちつかずの連中も初宮を遠巻きにするって悪循環が起きていただろう。


 腐ったオレンジの理論は本当の事だこった。声のデカい馬鹿がのさばると周りも馬鹿をやるようになる。ガンを除去すりゃこんなもんだろうよ。


「タマ! あんた誰につくのよ!」


「(うっせーなぁ。こっちは)やる事があるから手が出せない。割り振られた仕事はやるから(好きにしろよ)」


《低ちゃんや、それだと決まらんぜヨ》


(いいだろ別に。そうやってクラスであーだこーだ言い合ってるのもイベントの内だ)


《争えー、もっと争えー。愉悦ぅ!》


(決めさせたいのか混乱させたいのかどっちだよ)


《別に? スーツちゃんは女子の衣装にさえ口を出させてもらえればオールオッケー♪》


(この野郎……)


《こんなスーツちゃんに一言だけ言わせてほしい》


(久々だけど許可したくねえ)


《バニーかミニチャイナが着れる出し物でオナシャス!》


(却下します)


 この無機物、何かというとバニーバニーって。バニー衣装に異様な思い入れでもあんのか! ぜんぜん諦めねえな!


《コス1回の権利》


(ぐっ……てめえここで使う気か。家で着るだけでいいだろ)


《ヤダナー。むしろこういう場面で使うべきでショ? スーツちゅわん、クラスでぇ、争いはよくないと思うノぉ》


(ブリブリした口調で宣うな。虫唾が走るわ。野郎がみんな媚びてる女が好きってわけじゃねえぞ)


「この! 名前がタマだからって玉虫色の発言してんじゃない」


「はい! たまちゃんさんはミミィに付いてくれるって決まってるよ!」


「決まってません。玉鍵さんはみんなを考えて判断してくれます。屋台を出したほうが一番売上が良いって」


「由香は由香で好き勝手な妄言吐いてんじゃないわよ!」


 あ゛ーうっせー。


《バニーorミニ・・チャイナ?》


(ミニに拘ってんじゃねえよ。スーツちゃんの興味ってなんか下半身主体だよな。男が年取ると胸より尻に興味が移るらしいぜ)


《失敬な! 若い子は鼠径部を出そうシンパなだけでゴワス!》


(せめてそこは足と言え)


「(あーもう。)だったら全部(やりゃいいだろ全部)」


「「「え?」」」


 グラウンドが広く使えるならかなり面積に余裕がある。ならお化け屋敷の中に休憩スポットとしてお化け喫茶でも屋台横丁でも作りゃいい。


 オレたちゃパイロットでATだって使えるんだ。出来さえ欲張らなきゃ結構大きなテーマパークを作れるさ。


「花代、他でまだ揉めてるクラスがありそうなら声かけてみろ。うちの案に一枚噛まないかって」


 どうせこじんまりとするんだ。いっそひとつの出し物の密度を上げようぜ。


《Hey! それでどっち? スーツちゃん答えを聞いてまセン!》


 あ゛あ゛後だ後! バニーでもチャイナでもせめて暗く見え辛いフィールドになるのが確定してからな!









 今回の基地での訓練は座学が主体だ。なんせ実際の宇宙ステーションに侵入するわけで、建造物の知識が無いとそれだけで自分もステーションも危険になる。なるべく構造を知っておかないといざって時に躊躇って無茶ができねえ。


 都市間戦争の前後に完成したという、衛星軌道上に浮かぶ研究用のラボラトリー。


 なるべく少ない回数でパーツを宇宙に打ち上げるために徹底して軽量化したこともあり、極めて繊細な構造物だ。この中や周囲でドンパチしたらちょっとした破片や流れ弾で簡単に壊れちまうだろう。


 また重力圏の把握も重要だ。今回扱うロボットの推力では自力で引力を振り切れない。位置を間違えるとあっと言う間にヤンデレ全開の地球の抱擁に捕まって、そのまま空気摩擦で焼け死ぬ事になる。


(技術者から懇切丁寧な受講を受けるのはいいんだが……参ったな。思ったより隙がえ)


 オレが今回の要請を引き受けたのははっきり言って欺瞞ブラフだ。


 逮捕なんざ知ったことか。基地の保安の目を盗んで『テイオウ』に乗り、そのままあいつの持つ超技術の結晶『次元融合システム』を用いた必殺技、『テイオウ攻撃』でピエロだけをピンポイントで消し飛ばしてやるつもりだった。


 だがこの目論見を達成するためには、何重にもクリアしないといけない難関が立ち塞がっていると早々に痛感することになる。


《テイオウの格納されている場所はサイタマ00基地格納庫の最深部。いっそ直線距離だけなら第二都市からの方が近いくらい下の層だナ》


 テイオウは発見時に収まっていた忘れ去られた格納庫ではなく、正式かつ厳重な警備が敷かれた00基地の格納庫に移動されちまっていた。見つからずに入り込むにはジャパニーズニンポーが使えるニンジャ! にでもなるしかねえってくらいガチガチのトコだ。


 前に一般層でブッ殺してやりたかった整備士が入れられていた牢程度にも近付けなかったオレにはとても無理だ。バレる前提ならいけるかもしれんが、それもまた別の問題が立ち塞がる。


 物理的なセキュリティ。つまり隔壁だ。ロックされたら短時間で突破できるもんじゃない。そしてモタモタしてる間に赤毛ねーちゃんに報告が行くだろう。


 ……何のかんの世話になってるから巻き込みたくねえんだよな。オレの独断って事にするためにはまったく知られないのが一番だ。


 なんとか格納庫まで入り込んでもここでまだ問題がある。チラッと聞いた話じゃ『テイオウ』の操縦席を外部から金属パネルで囲ってロックを掛けているらしい。


 それも人間程度の腕力では持てない重さのパネルでだ。強引に外すなら重機でも使って蹴飛ばさないといかん。


 どう持っていくかはともかくも、功夫クンフーファイターでもあればなぁ。


(世界はよっぽど『テイオウ』が恐いらしい。厳重に蓋をしやがって)


《世界というか、世界を牛耳る権力者たちが怯えてるんだろうネ。『テイオウ』を使われたらどんなところにいても、どんな戦力で守っていてもそれで終わりだモノ。むしろ封印するより完全に破壊しろって言い出す人も多いと思うデ》


(『次元融合システム』さえ無ければ図体がデカいだけの旧式ロボでしか無いんだがな)


 オレ以外が本格的に動かそうとすると次元融合絵システムメインスフィアが自壊する仕掛けについて、赤毛ねーちゃんたちは他の都市にまだ伏せてるようだった。


 ――――『テイオウ』が王の力を発揮するにはオレってパイロットが必要だ。


 同じく、もしも『テイオウ』が心臓を失ったなら王に再び心臓を与えられるのも物質転換機指輪を使えるオレだけ。


 低、なんてしょっぺえあだ名がついてるオレと同じ音読みなのは皮肉だな。ええ? テイオウさんよ。本来は帝王とでも書くのかね。


 あの日、せっかく日の目を見たのにまた地下に押し込まれるとは不憫なもんだ……深い深い掃き溜めで泣きながら這ってた最初のオレみたいによ。


 なあ『テイオウ』。おまえまた外を見たくないか? 外だってそりゃ嫌な事もあるがそこ・・よかマシさ。


 ……ああ、低や帝だけじゃねえか。テイって底とも書けるんだ。


 ドン底で、ていってよ。底に這いつくばったのに、まだ偉いつもりの道化のような王。


 なんだろうな。おまえとは他人のような気がしないぜ。


 ここまで技術者の講義はずっと続いている。けどせっかくの座学が頭に入ってこない。


 ――――なんか、疲れた。今日は大人しく切り上げる。作戦立てないとあの厳重な警備はどうにもならねえ。


『テイオウ』。おまえはどうしたい? オレは出たぜ。夢も希望もない真っ暗な穴倉から。


 そこは絶望だけが木霊する世界だから。


 這い上がろうぜ。あともう一歩だけでも。








<放送中>


 日夜実験に次ぐ実験によって急ピッチで進められているS技術の開発。それらは書類上別々の案件として扱われているが、その実ある時点を持って1機のスーパーロボットの建造のためにすべての技術が結集する手筈となっている。


 よりコンパクトに。よりシャープに。必要な性能を維持しつつも軽量化に軽量化を重ね『たった1度動けばよい』の大前提の下に各パーツの根本的な耐久性さえ削り取っていく。


 なにせ本体と武装、すべての重量を合わせて化学ロケットで衛星軌道まで打ち上げるためだ。極論で無く本気で1グラムたりとも余計な重量は積みたくないのだ。


「そんな訳ですから! パイロットにも協力をですね!」


「バカ言うな! おまえ10代の女の子に髪を切れって正気か! しかもスキンヘッドとかふざけんな!」


「どうせ生えてくるでしょ! こっちは何年待とうが積載量ってのは自然と生えてこないんですよ!」


 先ほどから諤々と言い合っている二人の職員は、報告から戻ってきた主任の事などお構いなしで怒鳴りあう。


「それでなくても彼女の髪は長すぎる! あれをパッサリやれば何グラム浮いてくれるか!」


「そもそも小柄な子だろ! 髪の毛分よりよっぽど重量を節約してくれてる! この上まだ削れってか! ミイラ打ち上げるんじゃねえんだぞ!」


「うるせえ! 今から打ち上げまで断食してほしいくらい――――」


 あまりの言い分に相手からブン殴られた職員だったが、それでも彼は止まらなかった。


「こっちは地獄みたいな性能要求とノルマで苦しんでんだ! パイロットにもお裾分けして何が悪い!」


「まだ言うかテメえ!」


「おい、何してる?」


 戻ってきた上司に呑気な声を掛けられた二人は先ほどから言い争って興奮していた事もあり、発作的にストレスの頂点に達して同時に上司へ向けて喚き散らした。


 彼らからすれば状況の説明をしているつもりだったかもしれないが、このプロジェクトの責任者には発狂しているサルにしか見えなかった。


 だがここまで同じプロジェクトに苦労している同士。言語化できなくとも訴えたい事は分かっていた。


「ならもうクリアだ。実験成功で許可が出たぞ。こっちの方法ならもっともっと積載量ペイロードが稼げる。さあ、自分のデスクに戻った戻った。追加の割り振り重量を見て驚くなよ?」


 あしらわれたと感じた二人はついさっきまでケンカしていた事も忘れて主任を罵ろうとして――――やめた。


 このプロジェクトにおいて目の前の上司以上にキレている人間などいないのだ。それを彼の血走った眼を見て思い出したからである。


 アウト・レリック捕縛作戦用スーパーロボット『スカルゴースト』。その予定性能は職員たちの正気度を削り取りながらも着々と更新されていた。

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