第247話 人影
「くっそっ、弾がもう無い!」
引っ提げてきたバズーカは期待通りの威力を発揮し、大半の敵は1発で薙ぎ倒してくれた。
しかしこのテの大型火器の泣き所、装弾数が少ない点はどうしようもない。装填弾数4発はこのタイプの武器としちゃ十分だがな。
《同じサイズの敵はライフルを使うべきだったネ。こっちはマガジンひとつ15発だデ》
「数が多いんだよ! こういうときは大火力でとっとと敵の数を減らさにゃ包囲されちまうだろうが!」
ひとまず開幕で立て続けに4機を落として包囲網の完成は防いだ。おかげでバズーカの残弾はゼロ。後は予備マガジンがひとつだけ。
なんせ装填するのがロケット弾だからデカくて重い。それが連なってるんだから猶更で、他の銃火器をマウントする事を考えるとこんなもの何個も持ってこれなかったわ。
《その敵はまだまだいるデ。正面を陸上戦艦からの砲撃で蓋をして、横と後ろに2、3機で編隊を組んで回り込んでくる》
敵はこっちと同程度のサイズの30メートル級が多い。デブのアヒルみたいな体形のやつと、細身でスキー板を履いたみたいなやつがそれぞれ同じ機種同士で組んでいる。
まさしく得意分野ごとに部隊を割り振った感じだ。足並みを揃えるなら機動力が第一指針だからな。速いやつと遅いやつを組ませたら速い方の意味が無い。
……この敵の構成と動きには知恵がある。ロボットの得意と不得意を鑑みた運用。戦術。戦いにおける基本中の基本が出来ている。
今までの敵にはほとんど無かったものが部隊単位でキッチリやれてやがる。
「最近は頭の良い敵が多いなオイ! 前なら射線の事なんて考えずにゾロゾロとまっすぐ向かってきたのによ」
《Sワールドもそろそろ3面くらいってことでショ》
「大昔のゲームアミーズメントかよ。だいたいはコイン1枚で1面は接待、2面で遊ばせて、3面から殺しに来る仕様だったんだってな。それならSワールドに入ってからの時間や撃破数でカウントしてくれや。今日はこれが
弱そうな敵をチラ見させて追ってきたところを囲んで叩くとか、どんな鬼畜仕様だこのやろう。地図上で放つ兵器の常套手段みたいな事をしやがって!
曳光弾から見える火線を逃れ、艦砲の着弾でくぼんだ荒野を右往左往。死に物狂いで操縦席のハンドルを掴んでは手袋が擦れ切れそうなほどにブン回す。
パワーとスピード、どちらが大事な場面かが秒単位で切り替わり、それはそのままギア変更の必要性に直結する。
クソ固いクラッチを殴る様にガチャガチャと切り替え、フットペダルを蹴っ飛ばしてと忙しいわ!
《トータル計算かもヨ。低ちゃんは毎週くらいの頻度で出撃してるし、撃破数も段違いデショ。ベテラン判定で難度が上がるのはお約束》
編隊を組んだ敵からの火力も厄介だが、一番の問題は正面に陣取る陸上戦艦からの砲撃だ。絶え間なく撃ってくる対機動戦力用の機関砲ひとつ取っても、こっちの銃口の数とは比較にならないハリネズミ。
当然威力は言うまでもないだろう。どれひとつ取ってもカスッただけでロボットの手足がもげるぞありゃ。
幸い敵はフレンドリーファイヤはしない習性がある。近くに友軍がいれば誤射を憂慮して射撃が緩むから、それでなんとか敵の火線のコントロールが出来るのだけが救いだ。
仮にお構いなしに撃って来たとしたらオレはもう死んでるぜ。十字砲火を捌くだけで手一杯だっての!
「それもあったらしいなっと!」
砲撃避けに使っていたアヒルが撃ち込んできた機銃の射線から身を躱し、バズーカのフォアグリップを握っていた左のマニピュレーターでブン殴る。
雑なパワーを誇るワーカーのパンチは、デブの胴体にある比較的脆そうなクリアパーツ部分をブチ抜いた。こいつの頭部に見えるのは単なる機銃座で、本命の操縦系統は腹回りにある部分と見た。
黒煙を上げてよろけた敵から離脱すると、数秒のタイムラグを経て爆発が起きる。
今さらだがこいつら軒並み操縦席が見えるな。
……人が乗らないはずの敵のロボット。それなのに実際に使える操縦席があるのはなんでなんだ?
敵の基地から奪ったエディオンは確かに動いた。その基地を守っていた警備のロボットにも操縦席を確認している。あれだって動かそうとすればおそらく動いたろう。
無人機にとって操縦席なんてものは無駄もいいところのはずなのに。
まるで有人式であることが前提で、その後になんらかの理由で止む無く無人機として運用されるようになったとでも言うのか?
《パワーアップするほど難度が上がったりネ。最高段階は逆にショットの性能が悪くなるのに敵だけ強くなるって、リターンの無いパターンもあったナ》
「機械の魚みたいなやつが出るシューティングだったか? 他にも生きてる時間の長さと撃破スコアで難度が上がるってやつとか、無駄に連射してるとそれだけで難度が上がるタイトルもあったとか」
《シューターはだいたいドがつくMなんじゃないかナ――――上空っ》
「チッ!」
さっきから生意気に空を飛んでるやつがいやがるのが面倒だぜ。
網膜に投影されたスーツちゃん提供の三次元レーダーを頼りに、ギャリーを切り返して背面ローターを全開。そのまま後ろ向きにジャンプする。
ちょうどオレの斜め後ろから機銃掃射を仕掛けようとした円盤野郎は、逆にジャンプで上を取られたことで弱点のローター上面を晒した。
そこにギャリーの顔の横にある12.7ミリ機銃と、腰にある20ミリの機関砲をダブルで浴びせて叩き落とす。
装甲で埋めようが無い飛行用ローターの
《戦艦からの機関砲掃射! 回避回避!》
「おおっと」
空に生まれた複数の火線が波うちながら近づいてくる前に、グリーンの装甲に太陽に煌めかせてギャリーを急速降下させる。
《撃破。飛行タイプ残り2》
「やっと1機か。空飛ぶやつは厄介だ」
あークソ、やっぱこの円盤に手足付けたみたいなダッセぇロボットに上を取られるのが鬱陶しい。小型のロケット弾やマシンガンをばら撒くだけで基本は空から降りて来やしねえ。
さっきみたいに不用意にジャンプすると、待ってましたとばかりに戦艦からの弾幕が飛んでくるからたまんねえや。
今の不用意な
《武装の変更を提案。バズーカで空を狙うのはちょっと無理ジャロ。ひとまず包囲網は突き崩したし、チョコマカするのはライフルで先に落とすんダナ》
「こういうときこそバラまける機関砲の出番なんだがなぁ。あの野郎、思ったより硬くてやんなるぜ」
円盤野郎は攻撃機みたいな設計のようで、陸の敵に晒すことの多い機体の真下、下面装甲が思いの外に厚い。12.7ミリ程度の豆鉄砲じゃ抜けやしない。
腰の20ミリは下からでもある程度効いているようだが、こっちは配置的に動きながらだと狙い辛くて射撃機会が少ないのが難点だ。
まあいい。あとどのくらい機動戦力を繰り出してくるか知らんが、武器を持ち替えるくらいの余裕は出来たぜ。
《ライフルに持ち換える前にバズーカの再装填を済ませとくんだナ。陸上戦艦に有効打になりそうなものはそれくらいジャ》
「あいよ。別に戦艦は撃破はしなくてもいいが、対空機銃の類を潰しとかないとうっかり帰りのシャトルが呼べねえしな」
持ってきたバズーカは戦地でも再装填が可能なマガジン式。ロケット弾を連ねたデカい弾倉を機体のラッチから外して込め直す。この4発が最初で最後の予備弾だ。
ただし問題はそこからだ。人が乗ってるなら
有人なら何百、何千と乗る大型の乗り物ってのはこういうところが厄介だ。どっかをメチャメチャに壊しても別の部分は普通に動く場合が多い。
エンジンを壊そうが
それに艦ってやつは基本的に頑丈だ。アニメみたいにやられたからってポンポン爆発するもんじゃねえ。人が乗ってないなら猶更しぶといだろう。
《30ミリオートライフル。装弾数15。ロングバレルだから精度はいいけど射撃モードは
ジャンプからの着地で後ろ滑りをしながらバズーカをラッチに押し込んで、代わりにライフルを持ち出す。
「先に銃のクセを掴むぞ」
シミュレーションと現物とでは微妙にズレがある事が少なくない。チョコマカ動く飛行型に向けてブッツケで撃つには不安がある。
まずは手近なところを走っていたスキータイプの股関節を狙って初弾を放つ。数さえ減っちまえば包囲する形もただバラけてるのと変わりない。もう各個撃破の対象だ。
《命中。俯角マイナス0.6、左に0.3度のズレあり。とりあえず照準のほうで修正》
30ミリもの大口径を誇るライフルから放たれた実弾によって、装甲らしい装甲の無い股関節を1発で壊された敵は走行する間に右脚部が脱落し、大きくバランスを崩すと土煙を上げて転がっていった。
「騒ぐほどのズレじゃねえが……ギャリーとのマッチングが悪いのか?
《精度を犠牲にして頑丈にしてあるんでナイ? Aで始まる世界屈指のベストセラーライフルも性能そこそこの代わりにとにかく頑丈ヤン。それでもセミオートにしては悪いけどナー》
フルオートなら精度もクソも無いが、単射式のライフルにしては良くないな。ロボットもライフルもしばらく倉庫に入ってたせいか擦り合わせが甘いらしい。
「まあBULLのときよりマシだ。こいつで
鉄の風呂桶でも入ってんのかと思うような防御力を持つ飛行型も、貫徹力重視のロングバレルライフルの1撃を貰えばスパンと抜ける。
変に耐えた場合も命中の衝撃で一時的にコントロール不能になるようで、グルグルとロールした機体にもう1発入れてやれば勝手に落ちた。
《飛行型をすべて撃破。残り敵戦力、見えている限り戦艦1、陸戦機6》
「頃合いか。仕掛けるぞっ」
ギャリーの重いスロットルを目いっぱい踏んづけて、戦艦のハルダウンしている窪地に突進する。
ここまでただバカみたいに逃げ回ってたわけじゃねえ。
遮蔽物の無いこの荒野。戦艦からの攻撃を受けないためには敵の機動戦力を盾として利用し、射線を塞ぐまでせにゃならん。
同時に戦艦の砲撃を受けずに本丸に肉薄するためには、点でいいから身を隠せる場所が数ヶ所いる。最低でもふたつ。
――――用意したぜ。逃げ回りながら相手の位置を調節して、敵部隊の生き残りって遮蔽部をな。
「さっきのジャンプでチラッと見えたが、やっぱ
《全長168から170メートルと推定。二基ある大砲はどちらも二連装型で口径は200ミリ。サイズのわりには機銃関係は少ないかナ。対空戦闘はあまり想定してないかも》
それでもまだ上を取ってはダメだ。飛行型相手にジャンプした時も目敏く機関砲が飛んできた。このままギリギリまで平面で進む。
敵の陸上戦艦は双胴の艦首という珍しい形状をしており、両先端に1基づつ二連装の大砲が備わっている。甲板には70ミリから80ミリくらいの機関砲が左右に2基。同じく無駄に高い構造物の両端にも40ミリクラスの機関砲が片方2基づつある。
にも拘わらず、あいつは横向き。艦隊戦で言うなら弱点である船の腹を見せている状態。
第二次大戦あたりの戦艦ならむしろ最大火力になる体勢だが、こいつは艦の左右に大砲と機関砲がある異形の戦艦。正面こそもっとも攻撃力が出る設計。
なのに今のこいつは横向きだ。オレが攻める側とは反対にある火力は自分の体が邪魔で使えない。これだけで火力は半減だ。
おそらくハルダウンするための窪みがこっちに正面を向けるには足りないんだろうよ。艦橋を隠すための岩との兼ね合いもある。自然環境を利用した戦法はやっぱり自然任せだ、使うヤツの望み通りとはいかねえ。
敵に接近しては盾になってくれた礼代わりにライフルで撃ち抜き、足を止めずに次の遮蔽物となる敵へと突き進む。
《敵主砲の最低射程の内側に到達。機関砲はまだまだ元気》
「あの銃座だけ高いところにありやがるから射線が通っちまうな。まあ2基くらいならなんとでもならぁ」
艦橋とほぼ水平に近い位置にある2基の機関砲と甲板部左の機関砲の片割れ。こっち側を向いている3つの銃座が狂ったように撃ってきやがる。
特に高い場所にあるふたつが面倒だ。撃ちおろしだから接近するほど角度がついて、敵の肉盾の効果が薄くなっちまう。
《それにしてもヘンテコな形だネ。船体から上に伸びてる構造物がロボットの上半身みたい。艦橋も顔みたいに見えるゾイ》
「んなアホな……機関砲のある場所が両肩か折り畳まれた腕ってか? うわ、嫌な予感がしてきたぞ。おかしな事になるまえに潰しちまおう」
ここまで来れば後は覚悟の時間だ。機関部を射抜かれて半端に擱座した敵にライフルを投げつけ、マウントしていたバズーカを再度取り出す。
《ロータージャンプ用意。照準、
「GOッ!」
倒れかけのデブを踏み台として跳躍し、後押しに背面ローターを最大で回して空を駆ける。
このバズーカは速射が利く。1度のジャンプで生まれる射撃機会でも3つの目標を狙うのは難しくない。
空中で3連続発射されたロケット弾はそれぞれ角度をつけて飛翔し、ふたつの40ミリ機関砲座を破壊。
もう1発は甲板にある70ミリクラスの1基を狙ったが、こちらはやや逸れて破壊しきれなかった。まあ砲身が曲がっちまえば用は済む。
さすがに飛んでる最中に振り回す武器じゃねえか。だが第一目標の高所にある機関砲は黙らせた。そしてもうこの方向と距離なら戦艦からの反撃は出来ないだろう。後は好きに料理できる。
取りつかれた戦艦ほど惨めなもんは
ギャリーの滑空限界が来る前に、もうもうと黒煙を上げる機関砲の残骸がついている戦艦の
生きている砲はまだあるが、この位置なら攻撃
普通はどんな武装も自身を狙う事は無いよう角度限界が設定されているもんだ。まだ動く大砲も機関砲も、オレがここから離れない限りはバタバタと虚しく砲身を動かすだけ。
「……やっぱ
艦橋部の窓らしきスリットから覗く船内は空洞で、それこそ人が何人も乗り込めるだけのスペースがあるようだ。角度が悪くて中をハッキリとは覗けないが、天井らしき部分には配管が見えた。
「こっちの残弾は?」
《12.7ミリが88発。20ミリが49発。バズーカが残り1発と、ウェポンラックにマウントしたブーメランランチャーの小型ロケット弾が13発。後はその発射機のブーメランが最後の武装かナ》
「戦艦潰すには炸薬がちと不足か。目と足、観測機器のありそうな艦橋と、後は適当にエンジンだけ壊して逃げちまおう」
そうと決まればとっとと動くか。ドンパチしたからには他の場所にいる敵も気が付いて寄ってくるかもしれねえ。
さっと戦ってさっと帰る。これが凡人パイロットが生き残るコツってもんよ。
軽くジャンプして
「っ!?」
飛び上がった視線の先には思った以上にしっかりした操縦席、いやさ操舵室があった。だがオレの目はそれとはまったく別の物に吸い寄せられて離れない。
「人が乗――――」
《背後! 回避!》
艦橋のスリットから見えた光景に思わず頭が白くなったところに、ハンマーでブン殴られたみたいな強烈な衝撃を受けて空中でギャリーが大きくバランスを崩す。
「しまっ」
人型の物体が空中で姿勢を維持するのは簡単ではない。まして安定性を担保する背面のローターが千切れ飛んでは。
急速に揚力を失いジワリと落下を始めた操縦席の中で、攻撃を放った敵の正体を見る。
甲板の潰し損ねた機関砲がその曲がった砲身を生かして、撃てないはずの角度を強引に撃ってきやがった!
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