第237話 World’s Curse

<放送中>


 病室のベッドでふてくされながら横になっている老人の名は獅堂フロストという。


 エディオンの発進騒ぎに巻き込まれ高所から落下した彼は、その際に腰を痛めて医療室に担ぎ込まれた。


 幸いにして怪我は大したことはなかったものの、日頃から溜まっていた疲労と睡眠不足の指摘をドクターから受けて、長官命令で3日間の完全休養を言い渡されることになった。


 それでも知り合いに頼んでコッソリ持ち込んだ整備士用の大型端末を弄り続けるなど、彼のワーカーホリックな面は治りようがないのだが。


<受け取ったデータのブラッシュアップはこちらでやっていいんだね? 改善や破棄もボクの権限だけで>


 通信先の少女は独自規格の暗号ソフトに符丁を入れ、解凍した資料を別モニターで軽く流し見しながら画面向こうの老人に確認を取っていた。


「ああ、儂は入院中こんなじゃしな。細かいデータ弄りもおまえさんのほうが得意だろ――――儂はどこまでも整備であって、開発は畑違いと痛感したわい」


 先の地下都市を舞台とした戦闘において、獅堂が開発に参加した拠点防衛用スーパーロボット『クンフーマスター』は確かな戦闘力を発揮した。


 だがその設計はやはり古く、クンフーマスターと近い運用思想を持つ未登録のスーパーロボット『ガイサイガー』に明らかな後れを取っていた。


 単純な戦闘面では言い訳できる。


 クンフーはほぼ最小サイズの10メートル級で、30メートル代とはいえプリマテリアルを潤沢に使ったハイエンドクラスに属すると思われるガイサイガー相手では分が悪い。


 だが獣型ビーストタイプから人型への変形機構を持つ20メートル級を素体とし、さらに合体機として柔軟な運用が可能なガイサイガーは明らかに設計段階から防衛用スーパーロボットとしてクンフーに勝っていた。


 飛行ユニットとのドッキングで空を飛び、掘削ユニットによって地中の移動の獲得や、単純に戦闘能力を引き上げることさえできる。


 完全合体後の武装もいたってシンプルで、強力なエナジーシールドを持つ一方で二次被害をもたらしやすい射撃兵装を持たないなど、拠点防衛のコンセプトに沿っていた。


 拠点を傷つけないように配慮したオプションにおいても、その落差は大きい。


 クンフーは周辺への移動の衝撃を緩和する装置を標準搭載している。だがガイサイガーは強力なガジェットによる空間干渉能力によって、拠点全体を戦闘の被害そのものから守るという驚くべき発想を持っていた。


 もしクンフーにこのガジェットがあったなら、過去の自爆型と暴走した味方機との戦いでも都市の被害がもっと抑えられただろうに。


 そこに考えが至ると、獅堂はどうしても己の才能の限界に気が付いてしまうのだ。


 小手先の技術では及ばない。これは『発想』という技術の出発点、スタートラインにこそ差があると。


<あなたでも気弱になるんだね。以前はボクの意見に真っ向から反論したというのに。まあ内容は感情論が過分ではあったけどさ>


 画面の向こうにいる10代の少女――――『三島ミコト』の生意気な言動に老人は腹を立てることはしない。


 なにせ相手は獅堂が認める天才であり、これまでの実績で口ばかりではないとすでに証明していた。


 さらに今吐かれた言葉もまた、事実だからである。


「おまえさんのは最大公約数ばかり追ってるところが鼻につく。少々つまらんロボットだと思っただけよ」


 三島の設計は従来の『スーパーロボット』の枠をいささか離れ、理屈と合理性を求め過ぎるきらいがあると老人は指摘した。そしてそれこそが三島ミコトという天才の破るべき殻であると考えている。


 彼女はこれまでスーパーロボットの追加オプションなどの開発には成功しているが、いまだ根幹技術の開発には成功していない。

 これは彼女が天才であるがゆえに、脳に刷り込まれた現実の科学知識の下地が邪魔をして、常識という枷を振り切れないからではないかと獅堂は思っていた。


 ――――柔軟な発想こそがスーパーロボット技術の開発の肝。


『Fever!!』から与えられた『プリマテリアル』と呼ばれる未知の物質は、人のイメージによって物理法則を超えて不可能を可能とする。


 ゆえに人によって賢者の石とも称されるが、老人などはむしろこれは愚者の石と呼ぶべきではないかと思っていた。


 プリマテリアルを使う者には三つの適性が必要と言われる。


 それは知識。それは狂気。そして自信。


 科学的な理屈もそこそこに必要でありながら、それでいて非科学的な発想を肯定するという、『相反した理屈を融合する』強いイメージが必要なのだ。


 科学的に出来ないはずの事を、さも出来るように荒唐無稽な理屈を捻り出す狂気。


 そして生み出した狂気のアイディアを自己肯定する絶対の自信。


 己が生まれ育ってきた自然法則に唾を吐くが如き身勝手な思想。己の計算こそ法則と断言するような『傲慢さ』と言い換えてもいい。

 まさしくマッドサイエンティストの思考。自然ではありえない物理法則を正しいと思い込む狂気が必要なのだ。


「Sワールドを往く機体は『カッコよく』なければいかんぞ? それこそ『F』の要求だからの」


 かつて疲弊し切り滅びかけていた人類に対し、極めて一方的に君臨した上位存在は軽い口調で言ったという。


『カッコいいメカに乗って敵を倒せ』と。


 それから多くの技術者が大国の指導者の命令の下に、まず既存の兵器の延長を目指した。Sワールド用の戦車や戦闘機などを開発したのである。


 だがそれら現実世界の戦争で磨かれてきた『兵器』は、性能が押し並べて低かった。


 数度の実戦によって小型の敵でさえまともに倒せない事が分かると、当時の開発者たちは揃って頭を悩ませることになる。


 そんな中で、ある小国の狂人科学者がサブカルチャーに脳を犯されたとしか思えない『珍兵器』を開発した。


 後に『スーパーロボット』とカテゴライズされるようになるその兵器は、その非合理極まりない設計からは想像できない高性能を発揮し、人類に初めての『戦果』をもたらすことになる。


 これこそが世界初のスーパーロボットであり、その後に続く『Sワールド用戦闘兵器』の方向性を示したのだった。


 ここからサブカルチャーに登場する仮想技術の研究が行われ、その非科学的な理論の多くをプリマテリアルが受け入れることが分かると兵器の姿は大きく様変わりした。


 すなわち、現実の科学を超えて空想の産物、『カッコいいメカ』にシフトしたのだ。


 そうして『カッコいい』を試行錯誤し辿り着いたメカこそ『有人式の戦闘ロボット』であり、その多くは人型をしていた。


<そこは悪癖として反省しているさ。どうもボクは自分で思うより常識人だったとね>


「おまえさんで常識人となると世界は非常識で溢れかえっちまうがの」


<まあ狂気を得ようなんて考える時点で、ボクのキの字の才能は低いがねぇ。出来て狂人のフリがせいぜいだろう。なら、ボクはボクの抱く正気の世界でなんとかしていくさ>


「……出来そうか?」


 画面の向こうの濁った瞳を持つ少女は、老人の大事な問いを含む言葉に答えず小さく肩を竦める。


 今の質問はこのような雑な通信で言質を出していいものではない。暗にそう告げている三島に、獅堂は迂闊な事を聞いた自分にやや気恥ずかしくなる。


(こんな静かなところに寝てると気が逸っちまうな。何もかもに置いてきぼりを食ってるようでよ)


 その後は簡単な申し送りをして三島との通信を終えた。


 ――――Sの根幹となる基礎技術の開発が可能な存在は、世界中にただ1人とされる。


 その名は原始のスーパーロボットを開発した狂人科学者『アウト・レリック』。あらゆるS技術は彼女の手を経て初めて現実のものとなる。


 しかし、その唯一無二を過去のものにする可能性を持つ天才の存在を獅堂は知っている。


 その名は三島ミコト。彼女は獅堂に協力する形で新型ロボットの設計開発に当たっている。


 だがそれは表の計画。


 裏において密かに行っているもうひとつの計画を知る者は少ない。


 それは三島の類まれなる才能から、かねてから可能性だけは見込まれていた話。


「……儂のような老人では駄目だ。嬢ちゃんたち・・若者の力で、あのピエロの呪縛から世界を解き放ってくれ」


 世界で2人目のSの根幹技術を開発できる人材――――否、『創造』を可能とする才能の開花がついに現実味を帯びていた。


 獅堂の悲願。ワールドエースの新たな乗機手足の開発と共に。





『ワーカーギャリー』。次のオレの新しい手足はこいつか。


 すでに格納庫の奥の方から引っ張り出されたふたつのコンテナ。そこから積み下ろされた2機の分離機の保管状態は目で見る限り良好に見える。


 学校を終えて基地に到着したとき、オレの機体の整備はもう始まっていた。


 今はまだ分離されているが、3Dホログラフで見れるシルエットでは相撲取りのような体形のずんぐりとしたロボットになるようだ。


(ミリタリーグリーンよりずっと明るい緑の機体色のせいもあってか、より膨張して見えるな)


《スモーレスラー体形だし多少はネ?》


 名前に労働者ワーカーとつくように、こいつの初期設計は戦闘ロボというより重機や運搬車が近い。


 元は鉱物資源輸送用のトレーラーにロボットへの変形機構を持たせた代物で、どちらか言えばトレーラー運用が主であり、ロボットへの変形機構はSワールドでの自衛用としての付加であったらしい。


 コンセプトとしては前に綺羅星きらぼしが使っていたダモクレスが近いか。あっちに比べるとトレーラーってか、もっと粗野な感じでトラックっぽいが。


 どっちにしろ期待した資源がSワールドから直接採掘できないと分かって、意味が無くなっちまったんだがな。


 じゃあなんでそんな役立たずが今も残っているかと言うと、使うやつの腕が良ければ妙に強かったからだ。


(頑丈で程よく動いて、銃火器は実体弾のみ。玄人好みのロボットだな)


 後の完全な戦闘用と比べると全体に雑な作りなのは否めないものの、その雑さがパワーと頑丈さとなって現れたギャリーは雑に強かった。


 乗りこなせるパイロットがいなくなっても、基地の奥に保管しちまうくらいにな。


《合体変形機構も単純な作りで、少々泥や砂を噛んでも可変に問題は無いみたいだネ》


 そりゃありがてえ。機械は高性能より堅固で故障しないのが一番だ。


 照準サイトが機械処理を噛まさない、大昔の機関砲みたいな十字照準ってのはやり過ぎだがな。


 巨大ロボットでアイアンサイトを使って狙えってのは、さすがに原始的過ぎる。そりゃ強くてもパイロットから嫌がられるだろうよ。


(2機合体だが分離機としての戦闘力は低いようだ。単品同士では使わないほうがよさそうだな)


 どちらも分離機状態では機関砲くらいしか使えない。これは元の運用思想の名残だろう。Sワールド用としてはちょいと火力不足だ。


《ボトムは無人でもトップに追従できるタイプだヨ。ただ無人戦闘は無理。基本は連結した状態でトレーラーとして運用したほうがよさ気かナ》


(出撃枠対策だろうよ。本来ならもっと単純化して分離はせず、可変するだけにしたかったんじゃねえかな)


 巨大なフローターのついたトップが上半身。荷台側が下半身になる構成の陸戦機。こいつが今回、サイタマでの乗機予定を取ったオレのロボットになる。


 2機合体の20メートル級スーパーロボット。登録は単座にしている――――本来オレは一般層のパイロットなんだが、体調不良もあってなんとなく第二基地に戻るタイミングを逃しちまった。


 第二は第二で戦闘の片づけでちょっとゴタついていて、連絡を入れた細メガネのおっさんの話を聞く限りだと、オレの知ってる整備のガキたちに新規のロボットを整備する余裕は無さそうな雰囲気だった。


 まあ気にしていたサンダーたちに関しても、そのS課の細メガネのおっさんが請け負ってくれたので、ひとまず底辺直行とはならなくて済みそうだ。


 それで少し気が抜けて落ち着いたのもある。オレひとりでサイタマと第二の間をウロウロしてもしょうがねえってな。


 問題のピエロの件は赤毛ねーちゃんたちが世界単位で動いているようだ。詳細に関しては機密でもあるのかサイタマのおっさん長官は言葉を濁していたが。


 あのピエロに関しちゃオレの体はいつでも空いていると伝えておいたので、パイロットが必要なら遠からずお呼びが掛かるだろう。


 ……でなきゃオレから行くだけだ。もう生かしておけるかよ、あんなタコ。犯罪になろうが落とし前をつけさせてやる。


 ただねーちゃんたちが動いているという話を聞いて、多少なりと期待感があるから動くのは少し待つつもりだ。


 こっちもミミィや初宮たちの事もあるし、オレはオレで生理のせいか体調がよくないしな。しょうがねえから何かしらの結論が出るまではいつもの日常を送ることにした。


 日常。オレにとっていつもの日常ってのはパイロット業の事だ。


 Sワールドへ出撃して戦って、そこそこ稼いで帰るって繰り返しこそオレの日常。人間でいるための金と人権を担保してくれる唯一の仕事。


 となればもう次の出撃に向けて準備せにゃならん。別に生理だって何日も続かないし、戦闘勘を鈍らせないためにも間は置きたくないんだ。


(運ぶ物も無いのにトレーラー型か)


 自販機で買ったオレでも飲める果汁系飲料に軽く口をつけながら、各部のチェックを始めているギャリーを眺める。CARSの常備してる銘柄と比べるとあんまりうまくねえ。


(いや、追加の兵装を荷台に積むから無駄ではないのか?)


 コンテナの無いトレーラーってやたらスカスカに見えるな。他は伐採した木とかをワイルドに運んでるイメージかね。ギャリーはここに持ち替え用の武装を積めるらしい。


《携行する銃火器としてバズーカとか、ブーメランの形をしたミサイルランチャーがあるデ》


(ミサイルランチャーなのにブーメラン?)


《撃ち切ったらそれで叩いたりできる合理的な複合武器でゴワス》


(それは合理的じゃなくて合体事故ってんだ)


 サーベルに拳銃つけた銃剣ならぬ剣銃みたいなもんだろ。一見すると同時に使えて便利そうだが、銃としても剣としても使い辛いってんで、すぐ将兵から嫌がられた考えの浅い代物だ。


 ちょっと考えれば当然だよな。拳銃の握りの上に刃が伸びてるんだぜ? 銃を構えたらブレードが重いし、剣として使うと暴発が恐いだろ。


(まあいいか。ブーメランみたいなトンチキ武器を持ってるロボットってわりとあるもんな。この程度の事を気にしてたらロボットには乗れねえ)


 むしろ実体系の投げ物を武装として持ってるロボットってのは、わりと強い傾向がある。大重量の得物を敵にブン投げるパワーがあるってことだからな。


 例えばゼッターのアックスブーメランとかその典型だったわ。正直ブーメラン系は好きな武装じゃねえんだが、前回も前々回もなんのかんので世話になっちまってるから、こりゃ宗旨替えのタイミングかねぇ。


 ――――そのゼッターガーディアンは前回の戦闘後にフォルムが激変したことで、機体の調査のために当面は使用停止措置が取られた。


 あの戦いで計測された炉心のエネルギーもGの限界を軽く突破していたとかで、過去にゼッターの調査をしたサイタマの研究員らが大騒ぎだったらしい。


 そのエネルギーが最高値を記したのは、やはりゼッターGが最後に放った攻撃だった。


 何度も復活する敵の再生を阻むため、そのエネルギーの源になっていた星ごと消滅させるという力技。


 Gのデータに一切無い、『存在しない必殺技』。


 あれはゼッター光によって極限まで収束させた、恒星並みの巨大なエナジーの塊ではないか、というのが研究員らの推測らしい。


 ……オレの中にまだ燻っているこの嫌な感覚を起点として放った、ゼッターの未知の超攻撃。『スーパーサンシャイン』。


 攻撃につけた名称も、なんでそれが出来たのかも、今のオレは説明ができない――――あの瞬間のオレには、確かに分かっていたはずなのに。


 この辺りの感覚は以前に放った『チャージスパーク』と同じだ。


 違う点があるとすれば、なぜか分からないグツグツと煮えたぎる怒りや憎しみを抱いたような、酷く不愉快な感覚をまだ引き摺っていることか。


 まるで魂の隅々まで塗りこめた憎悪とでも言うように、いつまでもいつまでも腹の底に張り付いて。訳も分からず不快感が拭えない。


 たぶん生理と被ったからだろう……たぶん。だから期間が終わればこのイライラも消える、はずだ。


《ちなみに武装はマウントというか、まんまロープとかで荷台に括りつける模様》


 ……いつもスーツちゃんとやってる乗機の評価を題材にしたこの雑談は、オレにとって大事な機体情報の自己整理でもある。そのロボットの性質や傾向を大まかに頭に叩き込む作業だ。


 特に学のまったく無かった初めの頃は、性能の見方なんかデータを見ても分っかんねえから、こんな感じにスーツちゃんから教えてもらう情報がすべてだった。


 オレの相棒。命綱。最底辺に転がっていた痩せこけたガキが、『人権を得る人間になる』ために掴んだ悪魔の手。


 こいつが何者かなんてどうでもよかった。


 人の名前がほしい。人の暮らしがしたい。人として認められたい。


 ただそれだけの、当たり前のはずの望みが叶わない人間がどんなおぞましいものを掴んだとしても。


 それでこの願いが叶うなら。どうでもよかったんだ。


 それがボクで――――オレで。


 ……久々にはっきり思い出したな。


 リスタートはだいたい5週そこらで毎回死んでいたから、6度目の今だって大して時間は経っていないはずなのに。


 まるで何百回、何千回、何万回と繰り返しているような。遠い遠い昔の事に思える。


 ありえないことだ。そんな昔にSワールドもロボットも無いんだから。


 チッ、ホルモンバランスが崩れるってのはマジで最低だな。自分でもよく分からん思考になっちまう。この雑談だって生き残るための学習みたいなものなんだし集中しねえと。


(……ウェポンラックみたいなもんだろうよ。雑だなぁ)


 あまり一般的じゃないが、支援機に複数の携行武装を積んで現地で状況に応じて換装するってロボットもいるっちゃいる。Sワールドで連戦するためのひとつの方法だ。


 個人的にはオススメしない戦法だがね。疲れたまま敵を探し回ったあげく、思わぬ難敵ババを引くケースは存外多い。


(都市間の運び屋とかも、こんな感じのデカいトレーラーを転がしてるのかね)


《運送業を運び屋と称すると妙にアウトローっぽくなるナ。いかがわしい商品を運んでそうデス》


(いかがわしい品ねぇ。例えば?)


《塗料》


(イカ違いです)


《ゲソとかあたりめとカ?》


(もうイカそのものじゃねえか)


《ちょっと待って低ちゃん。このお題、意外と思いつかなイ》


(大喜利してんじゃねえよ。なんか整備が呼んでるし、もういいな? やめやめ)


《くっ、以下イカ略!》


(やかましいわ)


 スーツちゃんのひとり大喜利を打ち切って、担当整備士と細かい調整の段取りを詰めていく。


 ワーカーギャリーは思考で細かい動きをサポートする形式なため、搭乗するパイロットごとにチューニングが必要だ。これには数日・複数回が必要になる。

 人の思考にはコンディションで波があるから、日を分けていくつも見本を取ることでブレを潰すんだろう。


 なにせこいつはロボットなのに丸ハンドルで動かすからな。他もレバーとペダルとスイッチだ。ハードスイッチは好きなタイプだがよ。さすがにレトロ過ぎるだろ。


「貴女にはこんな倉庫で埃を被っていた機体より万全の状態のゼッターをお渡し出来れば……それが最上なんですけどね」 


 よくわからん理屈で苦笑いをする整備士。青年というくらいの齢かね。オレはまともに動けばそれでいいさ。


 サイタマの整備士はなんか個性が無いから覚えられねえな。全員が揃って同じツナギで同じ帽子だしよ。第二のガキ共と違って栄養状態も良さそうだ。


 ああ、整備と言えばジジイが腰やって入院したんだったか。細メガネのオッサンがそんな事を言ってたわ。


 ああいう仕事一筋のジジイってやつは、仕事を離れると一気に老け込むから心配だな。


 38サーティエイトも壊しちまったし。近いうちに詫びのひとつも入れとくか。



















《……そろそろステージを上げようかな? どっちでもいいけど》

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