第236話 どこかの家族の後始末? とある犯罪者の、その身内たちのエピソード

<放送中>


 あまりにもショッキングな知らせを受けて酷く疲れた顔をした腹違いの妹を庇い、サンダーバードは長兄として厳しすぎる現実に相対していた。


 雉森ミナセとサンダーバードはS課の応援要請を受けて出動した治安部隊に拘束されている。これは2人だけでなく、それぞれの家族もまた同様である。


 訳も分からぬままに突入してきた武装した大人たちに雉森は母と祖父母を。サンダーはすでに一人暮らしだったが別口で母と祖母が拘束されていた。


 そこから数時間の放置を受けて、2人の状況を知った高屋敷の要請で出張った釣鐘つりがねの指示のもとに治安部隊からS課に身柄が引き渡されたのは、月曜の昼を過ぎた時刻である。


「応援を要請した私が言うのも何ですが、どうも彼らは張り切り過ぎですね。恐い思いをさせて申し訳ない」


 対面の簡素な椅子に座るサンダーに軽く頭を下げたのは、爬虫類を人にしたような顔をした細身の男、釣鐘つりがねである。


 見る者に無意識の恐怖と警戒心を呼び起こすような面持ちをした男を相手にして、それでもサンダーは特に身構えることなく面会に来てくれたことへの礼を言った。


 なぜならS・国内対策課の課長である彼とサンダーはかねてから面識があるのだ。むしろより深く、『共犯者の関係』と言ってもいいだろう。ならばそこまで気負う間柄ではない。


「現在、第二基地の高屋敷長官と連携して正式にサンダー君たちの身柄を法的に解放する筋道をつけています。身の安全のためにも、念のためもう二、三日程度お付き合いください」


 眼鏡の奥に光るその眼は獲物を狙う蛇のよう。しかしこれでも彼はごく普通にサンダーたちを知り合いとして、また健全な公務員として前途ある若者とその家族たちを心配しているだけ。


 このように釣鐘つりがねの物言いは柔らかかったが、逆に言えばサンダーたちを外に出すには相応の手順を踏まえて筋道をつけねばならないような事態という事。彼の言葉の意味を正しく理解した兄妹の表情は暗かった。


「花鳥……あの子。なんでこんな事に」


 どうしようもない苦悩が独り言となってミナセの口から吐露される。横のサンダーが肩を支えなければ椅子から崩れ落ちていたかもしれない。


「お辛いでしょうが気を強く持ってください。関係者として妙な言質を取られると、こちらで庇うのが難しくなります」


 すっかり消沈し、痛ましい様子を見せる少女に釣鐘つりがねが優しく優しく声をかける。インテリヤ〇ザのような顔つきはともかく、その態度からは『できればもっと早い段階で治安部隊から引き渡してもらうべきだった』という後悔が滲んでいた。


「これから個別に別都市のS課系列から尋問があります。しかしおふたりに手を出すような真似はしないし、我々がさせませんので頑張ってくださいね」


 Sに関わる事は国際的な大犯罪。場合によってはひとつの都市だけでなく、他の都市群から代表として派遣された別のS関係を取り締まる組織からも尋問を受けることがある。


 そして残念ながら今回はそのケース。都市ひとつを崩壊させんとする大事件に協力した血縁者が出たことは、この小さな島国にある都市の意向だけでは片付かない問題であった。


 ……釣鐘つりがねは2人の前で決して口にしないが、花鳥ノリアキ・雉森ミナセ・サンダーバードは出生の問題も各都市から突っ込まれている。


 彼らはかつて大日本を腐敗させていた忌まわしい一族、『銀河』に連なる『星天』という一族のさらなる分家。『月島』の血を引いていた。


 月島は異性を篭絡して操る事に長けた家であり、2人の母親もその月島に人生ごともて遊ばれた女性だった。


 そんな彼女たちが子供には罪は無いと、シングルマザーとなって産んだのがサンダーたち。


 つまりサンダーら兄妹たちは星天の月島家の、引いては銀河の人間の血を引いていることになる。その事実はかの忌まわしい一族の復興の可能性でもあった。


 これがとかく国際的に心象が悪かったのだ。銀河滅亡によって世に次々と知れ渡った一族の悪行によって、銀河の血筋というだけで拒絶反応を示す者がいるのは無理からぬことかもしれないが。


 釣鐘つりがねはこうしたサンダーたちのような月島の落とし子の全員を知っているわけではないが、他都市ではすでに見つけ出された者が問答無用で底辺落ちさせられた話もあった。


「他都市のS課はともかく、私たちはサンダー君たちの味方です。時間が経てば尋問は十分として介入し、面と向かって助けに入れます。だからいいですか? 何を言われても気力負けしないように」


 ピュルリと蛇の長い舌を出しそうな目つきだが、本当にサンダーらを励ましてくれると感じられる年上大人の男性にサンダーは頷く。


 2人はかつて物質転換機という至宝の入った容器を整備長と共に隠匿し、後ろ暗い一族に牛耳られ腐敗した国に明け渡すことなくひとりの少女に託すという暴挙を行った仲。細いながらも釣鐘つりがねとサンダーの間には確かな信頼関係があった。


 ――――少しだけサンダーという青年の内面をおもんばかれば、母子家庭で育った彼にとって頼れる年上という父親の偶像に憧れていた面もある。


「もうひとりのBROTHER、エイジはどうしてます?」


 もっとも重要な直近の話題が終わり、次いでサンダーはここにいないもう一人の兄弟を話題に出す。


 月影エイジ。花鳥より年下の彼もまた、遅れて見つかったサンダーらの腹違いの弟にあたる14才の少年だ。そもそもサンダーたち4人とて自分に異母兄弟がいるなどパイロットになるまで知らなかった。エイジは5人目である。


 交流当初はさすがにギクシャクしたものの、彼は髪型のわりに外連味のない性格で思いのほかすんなりと兄弟の輪に入ることが出来ていた。


 ただ、その事で花鳥がより疎外感を感じていた面もあったかと、長兄としてサンダーは今さらながらにこれまでの事を思い返し悔いている。


「もちろん保護しています。こちらはチームメイトの大剣君らが自宅に庇っていたので治安は経由せず、私たちが直接身柄を保護しました。午後に面会の手配をしておきましょうか?」


「THANKS、お願いします……あの先輩には本当に頭が下がるな」


 二十歳未満の若造とはいえ、ドレッドヘアの大男が深く安堵の溜息を漏らす姿に釣鐘つりがねが微笑という名の凶相を返す。それを見たミナセがわずかに椅子から仰け反ったが、大抵の人間のいつもの反応なので彼は別に気にしなかった。


「大剣君は基地を守るためにも尽力してくれました。彼が初動を押さえなければもっと被害が出ていたでしょう。隠れたMVPですよ……いろいろな意味で」


 あまりにも被害が大きかったらサンダーたちを庇うことは出来なかったろう。メガネのブリッジを持ち上げてそう暗に仄めかす公務員にサンダーたちも感謝と共に頷く。


「そうそう、玉鍵さんからも連絡がありました。おふたりを気にかけていましたよ」


「TAMAから? そ、そう言えばあいつは怪我とかしてませんか!? 38サーティエイトは大破しちまったし、次に乗ったのがあのゼッターだ」


 サイタマから地面を掘って突っ込んでくるという暴挙をしたゼッターガーディアン。あの戦いの当時、サンダーは異常事態に飛び起きて基地に向かおうとしていたが、セントラルタワーまでも襲撃を受けて交通網が麻痺しており、途中で立往生するしかなかった。


 そして止む無く避難していた建物で見たのだ。自分にとって馴染み深い38サーティエイトが破壊された姿を。


 ゼッターの登場で完全な撃墜は免れたものの、あれほどに大破してはパイロットが負傷していてもおかしくは無い。


「話を聞く限り怪我は無いようですので、そこはご安心を。いや、相変わらずすごい子ですねぇ。敵の前で乗り換えたうえに、これ以上の被害を出さないようサイタマからSワールドまで引っ張って行くんですから」


 敵を投げ飛ばしたのは別のパイロットが操っていた形態だが、間違いなく彼女の指示だろうと釣鐘つりがねは確信していた。なにせ玉鍵には似たような実績があるのだから。


「よかった……あの子、いつも無理ばかりするから」


 釣鐘つりがねの話を聞いたミナセが思わず涙声になって無事を喜ぶ。ミナセたちにとって玉鍵はチームを組んだ戦友であり、今も大切な恩人なのだ。


「『必要なものがあるなら用意する、諦めるな』だそうです。ああ、これは私どもにも言っている話でしょうかね。おふたりには『入用な物があるなら調達するから』という意味で。我々には『他都市の追求を躱すための材料なら用意するから、細かい事はなんとかしてくれ』という意味でしょう――――良い友達を持ちましたねぇ、二人とも」


「たま゛か゛ぎざぁん……」


 大統領公認で地表と行き来できる身分になっても気にかけてくれる少女の気遣いに号泣する妹の肩を抱き、サンダーは自分も鼻をすする。


「男として情けないな……あいつにも助けられてばっかりだ」


「では今日のところはこれで。必要なものはすぐに言ってくださいね」


 そうして湿っぽくも暖かい空気に包まれた部屋を静かに後にして、釣鐘つりがねは抱えている別の問題のために忙しなく動き出す。


 廊下を追行する部下に向けて自分の端末を指し示した彼は、そこに表示された文面由来の苛立ちをぶつけるように画面を軽く叩いた。


「サガの加藤君から連絡がありました。これから・・・・機械化した山賊が出るようなので、我々も行って潰してしまいましょう。逮捕した政治たちの護送車両を狙っているようです」


 サガに派遣していたS課きっての度胸の持ち主からの連絡は、基地の私物化をしようとした罪で逮捕した政治家その他の護送をかねての帰還の報告。


 しかしそこには奇妙な一文が混じっている。それは護送前から襲撃を受けることを予言した文面。


 だがそのからくりを知っている釣鐘つりがねたちに驚く要素は無い。


「予知というのは便利ですねぇ。頼り切りはよろしくありませんが、問題にいち早く対処できるチャンスが増えると思えば十分有用です」


 今の日本列島には地表と地下を合わせて6都市がある。しかし人の生存圏という意味ではこれにいくつかの例外となる土地があった。


 それは都市間にわずかながら存在する都市棄民たちの集落である。そして彼らと思しき賊の集団が物資を求めて都市間を行きかう車両を襲撃することがたびたびあった。


 ――――確たる証拠はないものの、そういった集落には都市の権力者の身内から出た犯罪者が底辺に落とされず、秘密裏に匿われているという噂もある。


「機械化……やっつけの改造車両ではなく、軍払い下げの装甲車でも持っているのでしょうか?」


 加藤からの文面にあえて機械化という単語が使われていたことで、部下はゲリラが使うような一般車両に重火器を括り付けたあり合わせの代物でなく、型落ちながらもまともな装備を持つ相手ではないかと推測する。


「そのようです。大日本時代の横流しでしょうかね――――ああ、そういえば大統領閣下がこの列島に統一宣言するときは、国名から『大』を抜いて『日本』と改名するそうですよ」


「……昔の呼称ですね。私の祖父が子供の頃の時代です」


「個人的には変に凝っているより良いと思います。自分の住む国に神聖とか大げさな肩書がついていたら、私だったら発作的に亡命したくなるかもしれません」


 肩をすくめた体から疲労を感じるコキコキという音が鳴るのを聞き、課長と部下は互いに苦笑しながら歩みを止めることなく廊下を抜けていった。









 火曜。アスカと初宮はまだヘロヘロ気味だったが普通に歩く程度はできるってことで、全員で登校することになった。


「クイズでぇーす! 私は誰でしょー!」


 そんな訳で扱いに困ったのがミミィだ。こいつ考えなしにオレにくっついて飛び出した通りに後先を考えていなかった。


 件が落着したらサガに戻るかと思ったら居座りやがんの。サガにいる訓練ねーちゃんや赤毛ねーちゃんは忙しいようで、アスカも連絡があまり付かないらしく『とりあえずその子はタマとなんとかしていて』と言われただけだったらしい。


 なんとかって何よ! とかベッドの上でキレてたわ。筋肉痛でも何でもツッコミだけは忘れないおまえスゲーよ。


 まあねーちゃんたちが忙しいのは分かるし、他都市から来た知り合いのガキを文無しで放り出すわけにもいかんから当面の金銭的面倒はオレが見ることにした。


 それ以外は権限のある大人たちに応相談って事で、他はガキが出来る範囲でなんとかした。


 例えばこっちの学校に通うための手続きとかな。さすがにアスカん家にひとりでポツンと置いておくのもアレだしよ。精神年齢的に危なっかしいというか。


 というわけでサイタマ学園とピンクの通ってたサガの教育機関に基地経由で話を通して、とりあえず簡易な留学扱いって事で通わせることにしたんだわ。


 パイロットはガキでも大人同様、一丁前とみなされるから意外に簡単だった。金さえあれば賃貸とかも保証人なしで契約できるし、事前の筆記が通れば問題ないようだ。


 むしろ地下からアクシデントで上がって来てエリートの学校に通う事になったオレより、問題解釈ははるかに楽だったとさ。


「ピンポーン! ミミィちゃんっス!」


正解せぇかーい!」


 ただこいつは15才で学年がオレより1コ上だから、さすがに教室で面倒は見れねえ――――と思っていたらなんかいる・・わ。オレんとこの教室に煩いのが2人も。


(同じ2年の春日部までなんでいる?)


《流星会に賛同した生徒とか教師とか、その周りの人間の調査とかで通ってる人数がのぉ。とりあえずシロの生徒と学校関係者だけ固めた、みたいナ?》


(そこまで行ったら普通は休校にするもんじゃねえの? オレは学校嫌いじゃねえし別にいいけどよぉ)


 学校来てもそんなにやることえけどさ。でも音楽とか工作とかは結構好きなんだよなぁ。あと球技も。グラウンドでボール転がしてるだけでもいいもんさ。


「馬鹿が増えた……」


「ベル、ちょっと言い方」


 朝からお気楽で明るい春日部とピンクの陽キャオーラに充てられたのか、眼鏡を曇らせてゲンナリしている勝鬨かちどき


 その相方の花代はまだ耐性があるか。どっちかと言うと人付き合いのうまい花代は陽キャ向こう側だもんな。


《仲良し美少女が教室に満載とか素晴らしC 》


(何人か打ち上げられたオットセイみたいにグッタリしてるけどな)


《アオ、アオッ、アァン♪》


(後半は絶対にオットセイの真似じゃねえだろ)


《言うてはっちゃんたちだけじゃなくて、クラス全体が沈んでるっぽいけどナー》


 まあな。いつものように通学したら同窓生や教師が自分に銃を向けるテロリストになってんだ。日常が壊れたショックはデカいだろうさ。


 しかもただでさえゴタゴタ続きのところに今度はピエロの暴走だ。あの狂った道化師の持った戦力を考えると、サガの離反やテロリストの事さえ小さく見えるぜ。エリート様と言えど将来に不安が出てくるのも分からんではない。


 ――――思えばサイタマのテロもサガの離反も、何もかもあのピエロの思惑通りなのかもしれねえ。確証があるわけじゃないが……そんな気がする。


「「いえーっ」」


 こんなジトッとした空気の中でハイタッチしているアホが教室に2人。


(春日部とミミィを除いてな)


《ギャルの体力はオタク君の5倍以上のエネルギーゲインと決まっておりマス》


(春日部はまあギャルっぽいが。ピンクはギャルというよりアホの子じゃね?)


《うぅぅぅむ、暗黒面のギャルに夜の遊びに引き込まれるシチュなら、アホの子より堅物委員長のほうが滾りマス》


(スーツちゃんの歪んだ性癖は聞いてねえよ)


《まあまあ。どうせ自習なんだしミィちゃんのサイタマ学園デビューのアイドリングにちょうどいいんでナイ? 顔合わせしとけばいきなり学園のカースト最上位にケンカを売ったりしなくて済むやん》


(悪うござんしたね。毎度知らん相手に初日からケンカを売ってよ)


《ダイジョブダイジョブ。勝てばよかろうなのダ》


(まーなー。勝てば官軍よ)


 考えたら地下でも初日に頭悪い感じのタコいガキ共とケンカしたんだったなぁ。別にあれは反省も後悔もしちゃいないがよ。


 たまに識者ぶった大人が宣う、全体の和のためなら理不尽を我慢しろって理屈のほうがおかしいんだよ。


 郷に入っては、だったか?


 そんなに和がいいならこっちがこっちの理屈でルールを敷いてやるわ。平和のご高説を垂れる識者だけで我慢すりゃいい。安全な外からこっちに汚ねえ唾を吐くな――――チッ、どうもイライラする。


 オレは生理は軽いほうなんだがな。先週に連戦続きだったせいかどうもコンディションが悪くて、今回は重めになっているらしい。陰気になってる女子の中にはオレと同じく生理でしんどいやつもいるのかね。


 けど先週は『本星こっち』で戦っていたのはオレだけじゃない。勝鬨かちどきや花代、春日部だってテロリスト相手に命を張った――――テロリスト、つまり『人間』を相手にだ。


 Sワールドに出てくる無人のロボットとは違う。殴れば血が出る同種族。体力はともかく精神的なストレスは大きかったろうよ。普通なら数日で抜ける心労じゃない。


 さらにアスカと初宮は狂気めいたピエロのやり口まで見せられた。


 人のクローンの脳を使った敵との戦闘。2人がグッタリしているのはその辺も大きいだろう。


 ……特に初宮はメガネとも面識がある。クローンとはいえ知り合いを殺したようなショックを受けたかもしれねえ。


 ここまで平気そうな顔で気丈に振舞っちゃいるが、内心では夏堀に続いてメガネと立て続けに知り合いが自分の前から消えていくのは堪えたろう。


 それに比べればちょっとイライラする程度だ。大人として自制しないといかん。


(オレの両隣の席でヘバっているこの2人には感謝しねえとな。キツい戦いと知っててオレを助けに来てくれたんだ)


《低ちゃんと一緒に戦うチームメイトとしてはまだまだだけどナ――――むしろ足手まとい?》


「おい!(もう少し言い方が――――っと)」


 思わず口に出た言葉はオレ自身でもイラついていると分かるほど荒れていた。途中から規制が入ったが、発した声はもう自習とは名ばかりのだらけた教室に響いていた。


「……サーセン」


「ミ、ミミィ騒ぎすぎちゃった?」


《今回は不安定じゃノウ。軽くお薬出しときマス?》


(いらねえ)


「ターマー、あんた疲れてんのよ。サガから戦いっぱなしじゃない。あんた成績良いんだし、自習なんてしないで今日はまったりしなさいよ」


「玉鍵さん今日のお夕飯は私が作るね。他の家事は私とアスカとミミィちゃんでするから」


 え゛ー、という初宮から名前が挙がったグータラな2人の悲鳴が上がるが、どっちも初宮と同じくオレを気遣う視線を送ってくる。


 教室に男子生徒がいなければもう少し体調不良の原因に突っ込んだ話をしていたかもしれない。同じ家に住んでるし、オレがブルーデーなのはやっぱり分かっちまうからな。


「はしゃぎ過ぎちゃった。自習は静かにふざけないとねー」


 努めておどけることで教室の空気を和らげようとしてくれる春日部。


「ごめんなさーい、たまちゃんさーん」


 これはあくまで悪い自分たちが叱られただけで、仲が良い事をアピールするように抱き着いてくるミミィ。


<まだ平気? 後で保健室行く?>


 周りの男にあれの日と気付かれないよう端末で体調を確認してる勝鬨かちどき


「2人とも玉鍵さんは心配して怒ってくれたんだから。反省しなよー」


 つい感情だけで声を荒らげたオレのカバーに入ってくれる花代。


(――――こんな気のいいガキ共に素の声で『足手まとい』なんて抜かすんじゃねえよ)


《陳謝》


 スーツちゃんとのいつものくだらないやりとりのはずなのに。


 ……今日もたまに、不愉快だ。

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