第230話 投げ飛ばせ! ゼッター3! 

<放送中>


GGG.<どけえ!>


 真上から飛来した50メートル級にぶちかまされ、そのまま地面に押し付けられていた愚者王がゼッターツーを跳ね飛ばす。


Z2.<このっ、小さいわりにパワーあるじゃない!>


 アスカは玉鍵が乗り込むまでサイズ差に物を言わせて馬乗りになっているつもりだったようだが、黒いロボットは想像以上の出力を持っていた。


「アスカっ! 距離を置いたらダメ!」


 敵の性能が分からないこともあり、とっさに間合いを取ってしまったアスカ。その選択を同乗している初宮由香は悪手であると警告する。


 ここは地下都市。50メートルにも及ぶゼッターが間合いを取って戦えるほど広くはない。ほんの少し移動するだけで基地区画どころか市街地までが戦場となってしまう。


 さらに機体が擱座した38サーティエイトから迅速に玉鍵を拾うためにも、可能な限り近くに居続ける必要があるのだ。


 ならばここは相手の能力など考えず、何が何でも食らいつく場面だと初宮は訴える。


Z2.<そんなんなこと分かってるわよ!>


 アスカの基本とする乗機はバスターモビル。


 近接機に分類されるがサイズは10メートル級と小さく、加速力を生かしたヒットアンドウェイを主軸とする。敵をその場で組み合って殴り合うような機体ではない。


 そのため訓練でも基本は付かず離れずを徹底しており、アスカは染みついた感覚によって無意識に距離を取ってしまっていた。


Z2.<行くわよ! ドリルスマッシュ!>


 彼女とて自分の行動の愚を理解はしている。


 すでに全形態中もっとも俊敏なゼッターツーは敵から間合いを取ってしまっていたが、その素早さを生かせば今一度の接近は難しくない。


 岩盤を物ともせず掘り進んだ自慢のドリルを向けて、ゼッターツーが噴射炎を上げて突進する。


GGG.<プロテクトウォォォォール!>


Z2.<っ!?>


 黒いロボットの突き出した左の手の平。それに嫌な予感を感じた初宮と同様、アスカもまたカンが警鐘を発した。


 しかしシミュレーションでの体感より高い加速性を発揮したツー。経験との落差に面食らったアスカがとっさにサイドステップを入力するも間に合わない。突き出したドリルをそのまま敵へと繰り出してしまう。


「きゃあ!?」


 衝突事故でも起きたような衝撃インパクト。そこから一瞬の間を置いて浮遊感。


(は、跳ね飛ばされた!? あっちのほうが小さいのに!?)


 あろうことか黒い手の平から現れたバリアらしき光に阻まれ、50メートル級のゼッターが30メートル級の敵にドリルごと弾き飛ばされていた。


Z2.<ぐ、こいつ……>


 アスカはすぐさま体勢を立て直しつつも、敵の思わぬ防御力に戦慄したようだった。


 考えてみれば初宮たちは玉鍵のピンチに飛び出しただけで、ここにいるロボットが具体的に何なのか、なぜこんな事になっているのかも明確には分かってはいなかった。


 分かっているのは過去に起きた事件のようにSワールドから敵がやってきたわけではなく、あのロボットは人間側の開発したスーパーロボットであるという事だけ。


(あれに花鳥先輩が乗っているの? またあのピエロがマコちゃんみたいにしたみたいな事を……)


 初宮は合体や突入で必死であったため聞き取れた通信は断片的なもの。それでもその中に聞き慣れない固有名詞として、『花鳥』と『ピエロ』の名があったくらいは理解できた。


 花鳥に対してはガンドールを譲ってくれた先輩という程度の認識の初宮。彼が敵対していることに困惑はあっても大きな動揺は無い。


 だがしかし、ピエロという単語か出てきた事で友人の『夏堀マコト』の時と同じような状況になっているのだと理解する。


 途端に普段は大人しい少女に静かな、それでいてマグマのような怒りが込み上げきた。


(パワーなら私のスリーが……でもここで再合体は)


 マコトを惑わせたピエロ――――アウト・レリックへの怒りから、初宮は黒いロボットに自ら手を下したい気持ちが湧き上がる。


 その衝動のままにアスカにスリーへの変形を要求しかけて、モニターに映る上空の光景にすっと頭が冷えた。


 初宮の担当するゼッタースリーはスピードこそ他の形態に劣るが、機体出力と頑健さに優れる。


 狭い空間での叩き合いに向き、有り余るパワーで強引に相手を押さえ込める自分の機体の方が確かに地下都市での戦闘にマッチしているだろう。


 しかしこの状況で再合体はいくつもの意味でリスクが高い。


 分離・合体の隙をついてこちらを攻撃してくるならまだいい。だがその間に動けない38サーティエイトを狙われたら本末転倒となる。


 そのうえ初宮たちはまだゼッターの合体に慣れていないのだ。先ほどの成功を当然の結果とはとても言えなかった。


 ただでさえ不慣れなところに地下という絶対的な空間の狭さが、この状況での変形敢行に心理的な圧迫感プレッシャーを与えて初宮を冷静にさせた。


GGG.<今度はこっちの番だ>


 ツーのドリルに対抗するように膝のドリルを回転させた敵が噴射口バーニヤを吹かし、こちらに向けて加速する。


Z2.<当たるかそんなもん!>


 工夫の無い跳びジャンピングニー蹴りアタックは、アスカによって軽くいなされ敵は無様によろけた。


 この時点でアスカも初宮も相手が明らかに格闘戦に不慣れだと察する。


 射撃のような速度のある攻撃ならともかく、巨大ロボの単発の格闘技などそう当たるものではない。

 アスカが最初に放ったドリルの突進とて、バリアが無ければフォローの追撃を入れる前提の攻撃であった。


GGG.<プロテクトウォール!>


 よろけた隙をついて攻撃を加えようとしたツー。それを察したのか、まるで機械のような速度で反応した敵が機体をねじってバリアのある左手をかざす。


Z2.<忌々しい!>


 また弾かれるのは御免だと、アスカは攻撃をキャンセルして軽く身を引く。もちろん今度は間合いを大きくは離さない。


(何か動きがチグハグな気がする……なんだろう、この違和感)


 格闘の立ち回りは明らかにおぼつかないのに、部分的な反応速度だけは1級品。


 敵のパイロットらしい花鳥はガンドールの分離機の1機、45フォーティファイブというロボットに乗っていた元パイロット。


 ガンドールを構成する4機の分離機はいずれも射撃兵装を主体としているので、彼が格闘戦に不慣れなのは理解できなくはないのだが。


 夏堀マコトがそうされたように彼も麻薬で反応速度を上げているのかと思うと、初宮の中に再びアウトへの怒りがこみ上げてくる。


K.<どけえ!>


 攻めの拙い花鳥とバリアに攻めあぐねるアスカ。膠着するかと思われた攻防は、双方の意識の外から飛び込んできたクンフーマスターによって小さく拮抗を崩した。


 サイドからタックルをしかけるようにして敵に組み付いたクンフー。


 その10メートルサイズの小さい機体で素早くバリアを迂回し、横から足に取りつくと棒立ちの膝をレスリングの要領で押し曲げ、黒い巨人をテクニカルに押し倒す。


K.<さっさと玉鍵を拾え! こいつはあたいが押さえ込む!>


綺羅星きらぼしさん!?」


 38サーティエイトとクンフーマスターはいずれも玉鍵の乗機。別のパイロットが乗っているとは分かっていたが、それは初宮にとってまさかの人物だった。


 夏堀マコトと同じくピエロによって惑わされ、Sワールドで玉鍵と戦う場面をお膳立てされた少女。


GGG.<邪魔するな――――な、このっ、離せ!>


 サイズも負けていればパワーでも負けているクンフーマスター。本来であれば花鳥の操る30メートルの巨人を押さえ込める体格差ではない。


 だが綺羅星きらぼしは巧みにクンフーを動かし、相手の関節の動きを妨害することでパワー差を発揮できないように持っていき、敵に纏わりついて離れない。


K.<いつもティコにやられてた・・・・・事がこんな事に生きてくるとはな! クソ、ぜっんぜん嬉しくねえ!>


(な、なにか変な八つ当たりを感じる――――でも!)


「アスカっ!」


Z2.<分かってるわよ! マジで持ち堪えなさいよアンタ!>


「玉鍵さん! 用意して!」


 時間経過でついに通信機も壊れたのか、38サーティエイトからの応答は無い。それでもすべきことが分かっているアスカは無残に擱座した白いロボットに走り寄る。


GGG.<させるかぁぁぁぁぁ!>


 初宮のコックピットにある背後を映すモニターに、クンフーマスターに組み付かれたままでそれでも右手を突き出す敵の姿が映った。


(ロケットパンチ!?)


 タイミングが悪い。すでにこの時点でゼッターツーはロボット形態でのパイロットの受け入れのために、プログラムに従って降着姿勢を取っていた。


 緊急キャンセルして避ける事は不可能ではないかもしれないが、その場合は38サーティエイトの側を狙われるだろう。


 ジャパニーズチェスで言えば王手飛車取り。そんな例えが初宮の脳裏によぎる。


 チェスはキングを取られれば敗北。王に次いで最重要な駒である飛車であろうとこうなったら切り捨てるしかない。


 ではこの場合の王とは誰の事か? アスカにとっても初宮にとって、それは玉鍵の事だ。


 ならば避けることなど出来はしない。玉鍵を獲られるわけにはいかないのだから。


 ……もっとも、多くの場合こんな状況に追い込まれる時点で詰み。そこから数手そこら王を延命させようと負ける未来しかない。


 ゼッターが破壊されればどのみち38サーティエイトも同じ道を辿ることになる。どうあってもこの盤面は詰み――――否!


 断じて否! 王が諦めない限り道は続く! それがどれほどか細い未来でも、その最後の1手まで!


GGG.<あ!?>


 ここまで機能停止したかのようにピクリともしなかった38サーティエイトが腕を持ち上げ、6度の閃光を瞬かせる。


 その手には自慢のハンドガン、38サーティエイトスペシャル。


 発射された6発の弾丸は寸分の狂いもなく愚者王の顔面、そのデュアルカメラのひとつを捉えていた。


 それでも敵は堅牢堅固。これほど攻撃を重ねてもカメラひとつ完全な破壊まで至らない。敗北が決まった側の虚しい悪あがきでしかなかった。


 ――――それでも! 


K.<てめえの相手はあたしだぁ!>


 攻撃で生じたタイムラグでクンフーマスターが持ち直し、再び組み付く時間を稼ぐ1手となる。


 アスカが、由香が、ヒカルが。そして窮地の地下都市が!


 手に入れた時間、値千金!


Z1.<助かった、アス――――初宮まで?>


「玉鍵さんっ!」


 味方用のモニターに映ったその姿に、初宮の中の言いようの無い感情が一気に溢れだす。


 また同じロボットに乗れたのだ。玉鍵たまという、初宮が追いかけ続けている憧れの人と共に。


Z2.<ひとりで無茶してんじゃないわよバカ! さあ、とっとと決めるわよ!>


Z1.<ああ。長官! 準備はいいか!?>


CP.<待って! まだ時間が……あと29秒>


 玉鍵と高屋敷長官の意味ありげな会話に、初宮とアスカの脳裏に『29秒?』という単語が飛び交う。そして同時に気が付いた。


「<出撃時間!>」


 時刻は5時59分。あと30秒もしないうちに今日1段目の出撃。Sワールドへのゲートが開く。


 ここまで聞けば初宮も察する。玉鍵はあの黒いロボットをSワールドに送るつもりだと。


 ロボット同士が都市で戦うなどとんでもない。それは先程からの戦闘で2人も嫌というほど分かっている。


 ――――ならばスーパーロボットが存分に暴れられる場所に連れて行けばいい。そう、人のいないSワールドに!


 だがそれには問題がある。まず敵をゲートが開くまでの間、約30秒間押さえ込む必要がある。


 ほんの目と鼻の先に市街地が広がっているこの場所で。それは可能な事だろうか?


 仮に30秒間も50メートル級と30メートル級のスーパーロボット2体が取っ組み合いを始めたとしたら、武装を使わずとも衝撃だけで辺り一帯は廃墟と変わらなくなるだろう。


 すでに今までの戦闘の余波だけで基地はおろか街にも被害が出ている。このうえ戦闘を続行すれば致命的な被害が出るのは間違いない。


 それでも玉鍵なら、ワールドエースならば押さえ込めるか?


K.<きゃああああっ!>


 答えはおそらく否。まずは分離し、玉鍵がメインのゼッターワンに再合体が必要だ。そしてその時間はもう無い。


 ついに跳ね飛ばされたクンフーマスター。元より体格差がある上に、片腕まで損傷した状態でよく持ち堪えたと言えるだろう。


 ……初宮は知らない事だが、ヒカルは守るべき基地を背にした状態で敵を攻撃をうっかり回避するという特大の失敗チョンボをしてしまっている。


 これは玉鍵がとっさにカバーに入って事なきを得たが、そのせいで38サーティエイトが擱座することになった。


 ここまでのヒカルの体を張った妨害は、ヘマをした罪悪感からの必死さである。


Z1.<――――サイタマ! バカを連れてそっちに行く! 出撃枠を頼むぞ! 初宮!>


「ふえ? は、はい!」


Z1.<天井が見えるな? おまえたちがやってきた穴が>


 地下都市の天板。ゼッターツーで掘り抜いた大穴は、パラパラと落ちる土砂と共にかすかにサイタマからの光を零していた。


Z1.<あそこまでバカを投げ飛ばせ。スリーなら出来るはずだ>


「投げ、うえええ!?」


 ゼッターシリーズの3号機にはかつて玉鍵が『プロトゼッタースリー』で生み出した、ロボット専用の豪快な投げ技のモーションが継承されている。


 このモーションデータを使えば初宮でも誰でも、この投げ技の再現は可能である。


「で、でも合体――――」


Z1.<アスカ! 初宮! マニュアル合体で行くぞ! 初宮、スロットル全開で飛べ。おまえがトップだ……任せるぞ>


 ゴクリと喉を鳴らすも唾は緊張で一切出てこない。


 それでも初宮由香は玉鍵の『任せる』という一言を受けると、一度口を結んでからカラカラの喉で叫んだ。


「行くよ! ビルドアウト!」


 0.1秒のよそ見で地面や壁に激突しかねない地下都市で、躊躇いなくスロットルを開放した初宮の視界が駆け抜ける。


「チェンジ、ゼッタァァァッースリー!」


 超加速で歪む視界の中で背後からの衝撃。その感触だけを頼りに最終変形を敢行する。


Z1.<今!>


 コンソールもメインモニターも見えはしない。凡人の視界に像が完成するにはあまりにも速い、速すぎる世界。


 そこに聞こえてきた世界で一番信じている声に従って、初宮は音声によってスリーのモーションプログラムを走らせる。


「だい! い・な・ず・ま! 返しぃぃぃぃぃっっっ!!」


 この日、地下という環境に於いてありえないはずの二度目の竜巻が第二都市を襲った。


 それは一度目とは比べ物にならない破滅の渦。誇張なく都市が壊滅しかねない規模であったが、その余波は基地区画の外に一切生じていない。


 なぜならすべてのエネルギーは余すところなく正確無比に天井の穴を走り抜け、地表へと噴火の如く一直線に吹き上がったからである。


 竜巻に打ち上げられた黒い獅子と、それを追いかける赤き竜と共に。






「チェェェェンジッ! ゼッタァァァーッ、ワンッ!」


 ぶっとんだ愚者王を追い掛け天井の穴を飛びながら合体を行う。


《アスカちん負荷で失神。セーフティが起動してオートで追従中。はっちゃんは意外にも意識あり》


 最速合体からの大稲妻返しで回転させられ、そのうえ再び合体のために重力に逆らって真上に飛んだんだ。無理もない。失神どころか死にかねない負荷が体に掛かっただろう。


 これは普段から鍛えてるアスカだから失神で済んでると言える。ゼッターのマニュアル合体はパイロットの安全なんて無視した代物だからな。


 だがこうでもしないと敵に取りつく事も出来なかっただろう。あのバリアは厄介だ。張られた後ではこっちの攻撃は弾かれちまう。


 かと言ってバリアの問題が無くとも30メートルクラスの巨大ロボットを地下で破壊するのも問題だ。うっかり爆発でもさせたらシャレにならん。


 さらに当てにしていたSワールド行きはまだ時間が掛かるときた。


 そこで最速合体からの投げ技だ。戦闘しても地下より地表の方が被害はまだしもだしな。


 ワンツーで抱え込んで飛ぶのでは遅い。拘束から逃れようと暴れられたあげくに無差別に攻撃されたら意味がない。


 ……タコは都市を潰すだなんだとほざいていた。本当にそれをやられたらマズいんだ。


 だから機体制御なんかきかないレベルで回転させる力技。大稲妻返しでブン投げる必要があったってわけさ。


(初宮が失神してないのはアクションの起点になったからだろうが、大したもんだ。ちょっと見ない間に成長したな)


 運転手は車酔いをしないように、事前にこれから行う行動に理解があるやつは知らないやつより耐えられるもんだ。

 同じくパンチなんかも知らないうちにブン殴られるより、覚悟を決めて待ち構えた方がビッグパンチにも耐えられる。


 人は体だけじゃない、覚悟で耐える生き物だ。良い根性だぜ初宮。


《確かにはっちゃんの成長は著しいネ。アスカちんたちと同じパイロットスーツだから特に顕著》


「(そっちの成長じゃねえ。っと、)ビルド、オン!」


 すでに2号機とドッキングしていたこちらと3号機が合体する。


 グンッ、とそれまで感じていたゼッターのパワーがいよいよ吹き上がり、最後の熱源が入った戦士の炉心が目を覚ます。


 よおゼッター、久しぶり。初宮たちは気に入ったかい? これからこいつらも贔屓にしてくれや。


《ウホッ、出力グングン上昇。スリーのときよりパワーが来てるゾ》


 スーツちゃんの言う通りメーターが見たことない値に上がっていく。おいおい、そんなに退屈だったのかよ。


「初宮、生きてるか?」


Z3.<だ、大丈夫……>


「アスカが失神してる。呼びかけ続けてくれ。こっちは忙しくなる――――サイタマ! 聞こえるな! 1段目はゼッターが行かせてもらうぞ」


CP.<聞こえます。ゲート開通まもなくです。フィールドのオーダーは?>


 年かさの女の声、と思ったら見た目はそこまで年増ではない。


 映像で見る顔より声がババ臭いなこのねーちゃん。喉が酒焼けでもしてんのか?


(サイタマのオペレーターか。まあ赤毛ねーちゃんが出る方が普通はおかしいわな)


「荒野だ」


 ゼッターは形態変化によってどこでも戦える柔軟なロボット。しかし戦いやすい場所はある。どうせなら空があり地面がある惑星内のほうがいい。


CP.<了解しました。設定――――火山噴火地帯>


「なに?」


CP.<はーん。決戦は局地がお約束じゃないかぁーん。見栄えのするフィールドで戦いたまえよワァァァァルドエェェェス……ん~~~~マッ>


 オペレーターのワイプ画像と思っていた映像は古典的な書き割りだった。それをゴトゴトと外すエグい色のマニキュアをした手が映る。


 そして最後に現れたピエロがブチュ、という粘っこい投げキッスをした。


「《おえっ……》」


 ショッキングすぎるグロ映像に気が逸らされている間に、地表に飛び出した愚者王がやってきたシャトルに引っかけられるような形でゲートは目前。


(あの野郎! やっぱり邪魔するんじゃねえか!)


 こっちもギリギリでシャトルに追走してゲートを潜る。これを逃がすと3時間後になっちまう。


 クソが、合体の邪魔だけかと思ったらフィールドの選択まで勝手に決めやがって。見栄えのするフィールド? ふざけんなよ。


Z2.<……死ぬかと思ったわよ、もう>


Z3.<玉鍵さん、これってどうなるの?>


 サブモニターに心配そうな初宮と、なんとか目を覚まして頭を押さえているアスカが映る。


「このままフィールドまで行くしかないな。向こうで1機倒して戻ってこられても困る」


《そーだそーだ! スーツちゃんはとんでもない精神攻撃を受けた報復がしたいゾ。手始めに三下メガネへの八つ当たりを所望いたス》


(気分的には同感だ)


 今さら薬でラリパッパなやつを口で説得できる気もしないしな。あのタコが乗ってる操縦席以外はバラバラにでもするしかねえわ。


CP.<タマ! 今の映像はハッキングによる遠隔映像だけど、ゲートのフィールド設定もしっかり弄られたわ。本当に火山地帯に出るわよ! ……なんなのあのピエロ。サイタマまで操るなんて>


 まさしく泡食ったという顔で映ったのは赤毛ねーちゃん。やっぱサイタマ基地はあんたが長官なんじゃねえの? マジな話、大統領よりこっちをやりたいんじゃねえかな。


 それにしてもあのババア。第二どころかサイタマ基地のクラックもお手のものかよ。本当に何がしたいんだか理解でき――――エディオンが――――鍵が―――


「――――っ」


《低ちゃん? バイタルが落ちたよ。つわり?》


(妊娠してねえよ! ……ちょっとGでピヨっただけだ。サンドイッチとジュースを戻しそうになったぜ)


 ……なんで急にエディオンが頭に浮かんだ? いや、何にせよまずはメガネだ。


 こいつはこいつで何を考えたかしらねえが、それで都市ひとつ道連れにしようなんざ中二にもほどがあるぞタコ野郎。自分で首を括る勇気が無いならオレがブッ殺してやるわ。


 そして次はピエロだ。国際法がどうした、ブッダスマイルも3度までってな。


 夏堀、綺羅星きらぼし、メガネ。そして都市。クソピエロ、もうおまえを生かしとくのはオレの道理が許さねえ。


 ――――――――オマえの進化を止メテやルを殺シテやル

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