第225話 星の見えない都市

<放送中>


 昼夜が見えない地下都市にあっても照明の操作によって昼と夜は作られている。これは人の生体サイクルが狂わぬよう行われる一種の環境演出であると同時に、単純に電力節約の意味もあった。


 地下の計画停電は毎日夜間に行われるが、その負担の割合は住んでいる地区によって露骨に違っている。


 すなわち富豪が住む高級区画は停電が短く、低所得層が住む区画は多い。区画ごとの光と闇は極めて正確に大日本という国の社会構造を現していた。


 そんな中、かつて計画停電とは完全に無縁の天板と呼ばれる地下都市の屋根に張り付くようにある居住区が第二都市にはある。


 選ばれた権力者のみが住む、下々を見下ろすための貴族のための土地が。


 しかし現在の天板はゴーストタウンと化しており、それまでこの区画に回していた大量の電力が浮いたことでそれ以外の場所に電力が回され、今では他の居住区の計画停電が行われる時間も大幅に少なくなっていた。


 ……それでもなお、人が住む限り闇は残り続ける。


「もぬけの殻とはこの事ですね。ひどい徒労でした」


 大日本政府に代わってサイタマ大統領より組織の認可を受けるS・国内対策課。


 Sに関わる問題に出動し、国際法に担保される強権をもって国家権力の横やりさえ超えて問題を解決することを許された特務組織は各国にある。S課はその大日本版。


 この特殊部門を率いる事実上のトップ、課長職に籍を置く者の名は釣鐘つりがね。彼は呑み込めなかった卵を見つめる蛇のような顔でボソリと愚痴を零した。


 普段より物々しく武装した釣鐘つりがねら調査チームは、拘束対象の花鳥ノリアキを追って彼の逃げ込んだらしい排水溝の精査を行ったもののかなりの難航することになった。


 なにぶん元が迷路のような構造であることに加えて資料とは異なるルートも散見し、人が出入りできる隠し通路や退避スペースらしきものまで次々と発見された事で慎重に調査した結果である。


 最終的に彼らが踏み込んだのは高度な技術研究が行えると思しき設備が残された空間であった。


 ただし、そこにはもう誰もいなかったが。


 もちろんこのような場所は提出された都市の資料には書かれていない。巨大な設備を地下に確保するからには施工時点で作ること前提であったろうに。


 釣鐘つりがねがこの空間に抱いた印象は隠された研究施設。子供向けの創作によく出てくる、悪の秘密結社が人を誘拐して改造手術でも行っていそうなイメージであった。


「駄目です。やはりデータは抹消されています」


 残された施設の電子設備は意外にも問題なく使えた。実際、まるで調査しても構わないというようにこの施設には簡単に入れたのだ。


 物理的なロックも電子的なロックもごく簡素なもの。うっかり迷い込んだ子供が入らないように、そんな程度のものでしかなかった。ここまで不気味な施設でありながら。


 あまりの気味悪さにS課も二の足を踏み、何か悪質な罠が無いかとことさら慎重を喫したのが今思えば腹立たしい。


(空城の計、とでも言うつもりですかね。かかったほうは本当に馬鹿みたいな気分ですよ)


 部下の報告もやはり空しい結果。調べた相手の端末を攻撃するなどのウィルスプログラムも確認できない。単なる空っぽのデータベース。


 本格的な解析にかければ復旧できる可能性はあるが、それさえ馬鹿にされた結果しか出てこなさそうで釣鐘つりがねの眉間に自然と血管が浮く。


(完全に手玉に取られました。これはとんでもない知能犯か、とんでもない愉快犯でしょう。拘束対象の少年の仕業? いいえ、それは絶対にない。あれは機械オタクなだけ。人をおちょくるような計略に使う頭は持っていない)


「……状況を保存して一旦撤収します。どうもネズミを追ううちにとんでもない呪物を掘り当ててしまったようです」


 施設の状態から言ってつい最近まで使用していた形跡がある。そして第二でこういった施設を稼働させることができる権力と財力を持っていた組織と言えば星天一族を置いて他にない。


 かの魔物のような一族は落ちぶれ消え去ったとはいえ、彼らが雇っていた技術者などはS課の目を逃れて生き残っている可能性はあった。


 しかし今はそこではないと釣鐘つりがねは無意識に強く眉尻を寄せる。いよいよ現れた上司の凶相に報告に来ていた部下が思わず上体を引くが、そんなことにかまっているほど彼の脳内は穏やかではない。


 ――――であるならば、つい最近までここで何が行われていたのか? あの欲望と狂気を押し固めたような一族が命じたとして、それはどれほどおぞましい要求であったろうか?


 その命令を下した一族が消え去ってもなお、ここで続けられていたとしたとしたら?


 その執念、怨念は何を作り上げた?








<放送中>


 深夜3時過ぎ。人によってはそろそろ早朝と呼べそうな時刻を意識し出す境目の時間。


 出撃日の日曜とその前日の土曜において、ほとんどのS基地の人員シフトは平日とはいささか異なる様式となる。


 例えばパイロットの場合は土曜の夜から基地内に宿泊することを要求される。日曜の出撃はもっとも早いもので朝6時。1段目と呼ばれるこの出撃を皮切りに、3時間おきにパイロットたちはおのおのの愛機を駆ってSワールドへと出撃していくのだ。


 そうなれば当然、機体を世話する整備士を始めとする基地職員たちも前日から出撃に向けてフル稼働となる。


 出撃するロボットの最終点検だけでさっと終われれば御の字で、中にはギリギリまで修理や補給、急遽追加された武装のマウントなどに追われるチームもある。


 また、出撃の順番を考慮して機体の位置替えなども行わなければならない。基地のカタパルトの数は有限であり、ロボットのサイズによって常に後がつかえる過密スケジュールとなるカタパルトもあるくらいだ。


 それはさながら電車のダイヤの如く。緻密なラインで形成されることから宝石のダイヤモンドカットになぞらえて付けられたその呼び名の通り、遅延すれば大事故にも繋がりかねないほど。


 多くは機械管理によって安全に運用されているが、それでも人が自ら確認するべき部分もある。例えば第二基地においては整備長『獅堂フロスト』が全体の見回りを兼ねて整備棟と格納庫を行き来していた。


「間に合わんようなら言えよ! できませんが一番問題なんじゃからな!」


 出撃準備が間に合っていないのに獅堂の叱責が怖くてギリギリまで黙っている、などというパターンが過去に数度あるため老兵は担当の機体に張り付く整備士たちに念を押す。


 彼からしたらあくまで作業進捗の確認と檄を飛ばしている感覚だが、高齢と仕事の関係で耳が遠くなっている獅堂の大声は慣れている者でも中々に恐ろしいものだ。


 そして特に今回は妙に見回りが多いなと感じる整備士たち。しかしその疑問は浮かんですぐに氷解する。


 ワールドエース玉鍵たま。彼女がサイタマに上がっているため第二基地から彼女の出撃が無いためだろうと。


 基地内で一番の腕っこき、獅堂整備長が玉鍵の機体の専属であるかのように手をかけるのは基地内で有名な話である。


 これは若手もいいところの少年整備士たるアーノルドらのフォローもあるだろうが、間違いなく獅堂自身が玉鍵を個人的に気に入っていて手間をかけているのは明白である。


 とはいえそれに不満を述べるパイロットも整備士もいない。


 最高のパイロットに最高の整備士が付くのは当然であろう。不満を言われる立場すればアーノルドたちだ。若く未熟な腕にも関わらず、ワールドエースの乗機を手掛けていることに眉を顰める中堅整備士は多い。


 もっとも、それは基地内ですでに封殺された意見であるが。


 人事の決定権を持つ高屋敷と獅堂はもとより、当のパイロットである玉鍵が彼らで構わないと述べているからである。


 これは過去に彼女の乗機整備に関わった――――否、関わらなかった形だけの担当整備士との因縁によるものではないかと言われている。


 まともな整備をせずに明け渡したロボットに乗せられた玉鍵は初陣で苦戦を強いられ、それでもなんとか帰還した彼女は責任者であるその不良整備士に大いに憤怒することになった。


 同時に不良整備士に顎で使われていた少年整備士のアーノルドたちを不憫に思い、心を入れ替えるならと続投を許したのである。


 その後のアーノルドたちは奮起したのか若手の注目株となるほどメキメキと実力をつけている。ただ、さすがに担当の玉鍵が出撃しないのでは獅堂同様に今日はいつもより覇気がなかったが。


 別に担当が出撃しなくても整備士には他に仕事はいくらでもある。担当乗機と近いロボットの整備の手伝いに派遣される者もいれば、修理の間に合っていない機体や装備をコツコツと直す者、ひたすらに書類と格闘する者と。それぞれに自分たちの仕事に追われていた。


「せっかく用意したのに残念でしたね、クンフーカスタム」


 そんな少年整備士たちの中でリーダー的な立ち位置にいる肌の黒い少年『アーノルド』は、出撃日における基地運用の全体像を見学することを命じられて獅堂の後ろにくっ付いて回っていた。


 普段であればひたすら目の前の機械を弄り回し、整備長らを筆頭とした先輩たちの言うことを聞いていればいい末端の彼。


 そんな彼からすれば出撃日にあちこち見て回るなどずいぶんと目新しい環境。特に生粋の整備士である獅堂がちゃんと管理職を務めていることが実感できて意外でさえあった。


 上は上で下に見えない仕事をしているのだなとアーノルドは痛感する。


 ただそれだけに管理職の傍らで自らロボットの整備や新型機の開発を手掛ける整備長のタフさにも呆れるばかりであり、同時に老人が労力をかけて用意した機体が使われないことが残念でもあった。


 なにせその機体の整備はアーノルドたちも手伝ったのだから。


「あぁん? そもそもあの嬢ちゃんは戦い過ぎなんじゃ、ハワイでまで戦っとったんじゃぞ。たまには地表で休んどりゃいいわい」


 獅堂の台詞は本心であろう。連戦の玉鍵に休養を与えたい。しかし同時にあの少女が周りの心配もお構いなしに出撃したがる悪癖を止められない事もよく分かっている。


 だから獅堂はたとえ出撃申請が無かったとしても、玉鍵の乗機を常に万全に整備しているのだ。


『クンフーマスターカスタム』。10メートル級スーパーロボット『クンフーマスター』に獅堂と問題児天才児『三島ミコト』の考案した各種強化装備を取り付けた、玉鍵用のカスタム機のお披露目はまたの機会になりそうであった。


「――――お? 爺さん、アル。見回りご苦労さん」


 獅堂たちが訪れたのは整備を終えて出撃を待つだけの機体が鎮座する区画、その猫渡り。


 手すりに肘をかけて己の乗機を見ていたらしい青年の名は『大剣豪』。合体することで50メートル級のスーパーロボット『マシンサンダー』となる警察車両を模した車型の分離機、『パトサンダー』のパイロットである。


 彼は獅堂とアーノルドに気付くと太い眉を波打たせてニカリと笑った。


「ご苦労さん、じゃないわ。―――――まさか寝てないとか言わんじゃろな?」


 大剣らマシンサンダーチームの出撃番は一段目の朝6時。つまり3時間を切っている。


 パイロットの中には恐怖から眠れなくなる者もおり、出撃日の前日には導眠剤を服用して無理やり眠る者も多い。


 行けば死ぬかもしれないのだ、ストレスから不眠になるのも無理はないだろう。


「そんな若手ペーペーじゃねえよ。復帰勢とはいえこの基地じゃベテランだぜ?」


 マシンサンダーチームは最近加入した新人を除けば20代という、彼の申告通りのベテランチームである。


 Sワールドパイロットには明確な引退時期が設けられており、男性は30才まで、女性は25才と決まっている。これはSワールドに通じるゲートがこの年齢を超えたパイロットでは開かないためだ。


 パイロット資格が手に入るのが14才からであることを考えると男性は16年、女性は9年とその現役期間は短い。20代の大剣でも十分ベテランといえる。


 ただ彼らの場合は最後の出撃から1年以上のブランクを経ての復帰であるため、年齢ほど戦っているわけではないが。大剣たちが再び戦うようになったのは最近のことである。


「ふん。そろそろレスキューサンダーの乗り手は見つかったか?」


 マシンサンダーは5機合体のスーパーロボット。そのうちトレインサンダーは無人仕様の強化パーツ的な扱いであるためパイロットはいない。そして残り4機のうちパイロットが埋まっていないマシンが存在する。


 それが20メートルサイズの超大型救急車『レスキューサンダー』――――この機体と同じく消防車型分離機『ファイヤーサンダー』のパイロットは1年前に戦死している。


 チームが半壊したことで精神的に戦えなくなってしまった大剣たちは最近まで落ちぶれていたが、ある事を切っ掛けとして立ち直り再びチームメイトを募集していた。


 その甲斐あってファイヤーサンダーのパイロットを迎えることが出来たものの、もう1機のレスキューサンダーは募集当初の大剣が出した要求が高すぎたために敬遠され、未だに乗り手が見つかっていなかった。


 さにあらん。一時的にこの機体を借り受けた臨時のパイロットの活躍が大剣や周囲に鮮明すぎたためである。


「――――それなんだがな。夏堀を、夏堀マコトを乗せてやれないかと思ってる」


 漢らしすぎる濃い顔を真面目に引き締めた大剣から飛び出た名前にアーノルドはぎょっとした。


 夏堀マコト。彼女はSに絡む犯罪を犯してしまったパイロットで、最近まで玉鍵とチームを組んでいたことからアーノルドたちとも面識がある。彼女が玉鍵と共に乗り継いだブレイガー、ダイショーグンはいずれもアーノルドたちが整備したものだ。


「相変わらず面倒見のいい男だな。嬢ちゃんにでも頼まれたか?」


「へっ、ちょろっとな。あいつが底辺落ちしなかったら考えてくれってよ」


 Sに関わる犯罪は重罪。通常は問答無用で人権をはく奪され底辺層に落とされることになる。夏堀が一般層にまだ留まっていられるのは、その明晰な頭脳で国際的な重要人物に認定されている『三島ミコト』が保護しているから。


 ではなぜ三島が夏堀を保護していて大剣がそんな犯罪者をチームメイトに勧誘する気になっているかと言えば、それは玉鍵たまの存在があるからだ。犯罪自体に同情の余地があるのも大きいだろうが、やはり肝は玉鍵である。


 傷心の大剣たちに再び戦える気力を起こさせたのは玉鍵であり、三島の友人を救ったのも玉鍵。ふたりはあの少女への恩に報いることを考えて、彼女の擁護している夏堀の面倒を引き受ける気になったのだ。


 玉鍵を個人的な恩から贔屓にしているのはアーノルドも獅堂も同様である。アーノルドは職務放棄で底辺落ちにされてもおかしくなかったのを許された。獅堂は事故で死にかけた場面で救われている。


 だから大剣なりの恩返しをバカにはしなかった。きっと自分たちだけではない。この基地に限らず玉鍵という少女に救われた人間はきっと多いだろうから。


「なら無茶するなよ。夏堀の嬢ちゃんが外に出てきた頃には全滅していましたじゃあ恰好つかんぞ」


 合体機であるマシンサンダー。しかしパイロットの欠けた状態では合体はできない。それでも分離機のまま運用している青年に獅堂は釘を刺すも、止めはしなかった。


 大剣とてなにも遊びで戦っているわけではない。パイロットの多くは自分の生活が掛かっているという生臭い事情もある。


「いっそまとまった戦果でもありゃ引退してもいいんだがな。なかなかサンダーたちみたいにはいかねえよ」


 普段は怖いだけの老人が真面目な顔で自分を心配してくれた事に照れたのか、大剣はおどけるような事を言って大げさに肩をすくめた。


 サンダーバードたちは大剣たちの後輩にあたるがすでに引退している。戦死者をひとり出していた彼らはその敵討ちを見事果たし、納得の上で引退したので先輩である大剣たちも何も言うことは無い。


 そしてその敵討ちに最高の手を貸したのもまた玉鍵たま。


 この基地の新長官『高屋敷法子』も彼女に命を救われているし、彼女にはどれだけ良い影響力があるのだろうとアーノルドは内心で感心する。


(本当に高嶺の花だなぁ……好意を寄せられることはあっても、あの子のほうが興味を持つ男なんていないんじゃないか?)


 アーノルドを含めて玉鍵に男として好意を寄せる者は多いだろう。なんと言ってもあの美貌だ。


 さらに性格も良くて家事も万能。財力も下手な富豪など及びもつかないほど稼いでいる。マイナス面があるとすればキレたときの容赦のなさと、幼すぎる体形くらいだろうか。


(まあどの長所ひとつ取っても並の男じゃ気後れするけどさ。横に並んだら劣等感ってレベルじゃない)


 能力も人望もかけ離れすぎて誰も釣り合わない。国の指導者でもどうかというくらいだ。もっとも、相手が誰であっても彼女がなびくイメージがアーノルドには欠片も浮かばないのだが。


 パイロットを引退したらとんでもない数の縁談が持ち上がるだろう。中には彼女の意志など無視して、都市間の友好や国家の友好のためと言い出す全体主義な連中もいるかもしれない。


 たぶんそんなものは無視されて終わるだろうが。


 整備士としてしか向き合っていないアーノルドだが、玉鍵たまという人間は国のためとか社会のために自分の人生を捧げるタイプには思えなかった。


 性根は間違いなく優しい。だが、王族貴族の婚姻でよくあったらしい『社会のための自己犠牲』のお願いなど無視するどころか殴り飛ばして、もっと苛烈な手段で自分も他人も幸せに導くのではないだろうか。少なくともアーノルドにはそんな絵しか思い浮かばない。


「アーノルド! 気持ち悪い顔でボケッとすんな!」


 ついぼんやりと玉鍵のウェディング姿を夢想していたアーノルドが老整備士の怒鳴り声で我に返る。残念ながらお相手となる新郎にアーノルドのイメージはどうしても浮かばなかった。


「勤務時間が長すぎるんだよ。ガキが眠くなるのもしょうがねえさ」


「ガキって言い方はやめてくださいよ。眠いのは事実ですけど」


 擁護してやったのに思春期の少年らしく子供扱いにムッとしたアーノルドを見て、大剣はまたニカリと笑った。


 ――――そんな男臭い一幕があった猫渡りの下で足音が響く。その足音は重く、金属のような硬い音がした。









《ヘイヘイヘイッ、ヘイヘイヘイッ、ヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイッ!》


「(……………なんで三々七拍子?)」


 わずかにカーテンが外の光を受けてぼんやり白くなっているのが分かる。朝か、うーわスゲー眠い。頭が働かねえ。


《おはよう低ちゃん》


「(おはようスーツちゃん。疲れてんな、いつもより眠いわ……? ああ、初宮たちがいるから規制してんのか)」


 掴んでるのはピンクか? 布団に潜り込んで人様をガッチリホールドしてるやつがいるから誰かと思ったわ。そういや寝具が足りないからミミィと一緒に寝たんだった。


 オレが使っていた部屋は初宮が使っていた。広いマンションとはいえ個室になる寝室はそんなに多くない。いや、あるにはあるが倉庫みたいになってて掃除が手つかずなんだよな。住んでるときチマチマやってはいたんだが。


 さすがに赤毛ねーちゃんの部屋は使うわけにもいかねえし、となるとアスカか初宮と一緒に寝るかリビングのソファでも使わせてもらうしかない。となりゃあソファ一択。ちょっと戻った程度で思春期の初宮たちと一緒も悪いからよ。


 布団はオレが使ってたのが初宮とは別にあったしこれをリビングに敷いてミミィに。オレは毛布でも被ってソファでいい。


 そしたらアスカと初宮まで寝具を引っ張ってリビングに来やがった。なんでわざわざタコ部屋みたいに1室でザコ寝せにゃならんのか。合宿気分でも味わいたいのかねぇ?


 どこに寝るかジャンケンまでしたしよ。ちょっと楽しかったじゃねーか。


《美少女4人の寝る部屋の空気。実にイイッ》


(今日もお元気そうで……5時前か。出撃は12時だから朝飯と夕飯の仕込み作って、軽くストレッチしてから基地に行って、後はゼッターのコンディション見てればまあちょうどいいな)


 オレは過去に得た特権で出撃時刻を好きに決められる。けどパイロットの拘束時間は適応されるから出撃3時間前には基地にいないといけない。12時なら9時には基地詰めだ。


 ダメもとの前日申請だったが通ってよかった。けどいきなり駆り出されたゼッターガーディアンの整備チームには詫びをいれとかねえとな。第二のガキどもみたいに差し入れで懐柔できればいいが。パンケーキの素は確かあったよな、ドーナツでも作るか。


《――――はて? 低ちゃん、端末に緊急連絡》


(あん? この朝っぱらにか。誰だい?)


《CARS14フォーティーン


 CARSから? 送迎会社のAIが客に連絡飛ばす時間じゃねえぞ。まさかまたサガで何かあったか? て、ホールドすんなピンク。離せ。


 リビングから離れて端末の通話を始める。


〔早朝に大変失礼いたします、玉鍵様。CARS14フォーティーンです。第二都市の55フィフティーファイブより緊急のご確認です〕


「話してくれ」


 こいつはAIだ、人間みたいな悪質な冗談やバカな事は言わん。緊急と言ったら間違いなく緊急だろう。


〔現在第二基地とセントラルタワーより戦闘音が響いており、すでに多数の負傷者が出ている模様です。タワーが倒壊した場合、地下都市全体が崩落する可能性があります……玉鍵様、もしサイタマに定住されるご予定でありましたらどうかこの話はお忘れください。非常に危険な状態です〕

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