第223話 取り戻した平和な日常? サイタマ基地・一般開放区画の食べ歩きストリートは今日も盛況
オレらがサイタマ基地に寄る頃にはピンクの回収も済んでいた。何かあったのかと身構えてたのが拍子抜けだぜ。
他所の都市でいきなりのトラブルだしかなり動揺しているかと思ったが、当のピンクは災害なんかで使われる備品の毛布にくるまって意外と落ち着いていた。
サガと違って大人たちがパイロットにかなり好意的で、助けられた時も心配されたり優しくされた事が衝撃的だったようで、むしろ喜んでいた節もある。
――――その影響なのか知らんが、これまでの悪い意味で無邪気な印象がどこか抜けて、人として精神的な成長をしたようにも思える。新しい他人との関わりが人格に影響したのかね。
創作だとお人好しに助けられた悪党が妙な仏心を抱いて恩を返すうちに丸くなっていく、なんてストーリーは王道だ。現実の人間が人間関係からくる生の体験で、ひねた人格を激変させることがあるのかは知らんが。
「お昼どうする? サガから取って返してじゃあんたも疲れただろうから、さすがに今日は作ってとは言わないわよ」
基地に用があるのはピンクの回収と、赤毛ねーちゃんに報告があるオレひとり。しかし付き合いが良いのかアスカたちも全員くっ付いてきた。
さすがに赤毛ねーちゃんは忙しいようで、簡単な報告とピンクの紹介の後はオレらだけで食ってこいと言われてさっさと追い出されちまったい。
今からねーちゃん家に行って飯作っては面倒だし、アスカの言うようにたまには外で食ってもいいだろう。
オレの体は体質的にオーガニックのものしか食えない。なのでエリート層に上がらないと外食は難しいから、実はわりと楽しみでもある。
「アスカっ、サイタマってどんな名物あるの!? それ食べたい!」
「あんたにゃ聞いてないわよっ」
流れでガキ共にもピンクの紹介をしたが、物怖じしないこいつは基本ツンケンしてるアスカでも平気のようで、懲りずにまとわりついては振りほどかれている。
まあ、誰も彼もにビクビクしてるよりいいがな。そういう陰気なやつの世話するってのは相手する側としても面倒なもんだ。特にアスカみたいなのはウジウジしてる人間は嫌いなタイプだろう。
(ついさっきテロがあったってのに、都市に大した影響は無いようだな)
《学園でピンポイントに起きたものをすぐ鎮圧しちゃったしナ。流星会からしたら人質になる学生たちがいて、無補給でも当分暮らせるだけの物資がある学校施設は魅力的だったのかもネ》
(
(埼玉サイタマ学園には防犯用の物理的な壁もあるしな)
テロリストからしたら人質+学園設備を流用して一時的な拠点化を狙ってたんだろうが……できるわけねえだろ。立て籠もったところであんな素人連中なんざ、あっと言う間に軍に鎮圧されるわ。
朝っぱらにテロ起こした連中が正真正銘のドアホだったとか、振り回されたサイタマ側からすりゃあマジでアホかと叫びたくなるだろうぜ。
あとサガもな。よくもまあこんな無謀な計画に乗ったもんだ。
いや、テロを主導してたのはサガに逃げてた大日本残党のほうかね? まあいいか、詳しい話はねーちゃんズの誰かがいずれタコどもを尋問した結果として聞かせてくれるだろう。
(これで流星拳とかいうのも壊滅。銀河の討ち漏らしもトドメになったろう)
《流星会ナ。天馬が第七の感覚を覚醒させそうな名前になってるゾ》
(しょっちゅう視力を失うドラゴンの闘士は大変だよな、あれ。新シリーズのたびに1回は失明とかノルマでもあるのかね?)
《失明したイケメンかヒロインは大抵のジャンルで鉄板の設定ドス》
(主人公側の全員が異母兄弟って設定は野心的すぎるんじゃねえかなぁ。あれは主神のおイタのオマージュなんだろうがよ。ガキの扱いも漫画じゃなかったら捕まるだろあれ)
《捕まらないんでない? 世界的なお金持ちがその金に物を言わせてやってるんだし。そういうのは現実でも司法機関もマスコミも見ないフリでショ?》
(……ちげえねえ。星天とか銀河って連中のやってきた事がまさにそれだったな。けど、それももう終わりだ)
もはや政権を転覆できる力も運営する組織力も無かったクセに、あいつらは仮に成功してたらどうするつもりだったんだか。
負けた側がはいはいと言うこと聞いて、連中のために奴隷みたいに働くと思ってたのかねえ?
「サイタマと言ったらウドンとかホウトウかなぁ。あと太麺の焼きそば」
「トマトカレーも有名だよ。むしろカレーしか勝たん」
アスカに袖にされたミミィを不憫に思ったのか、社交的な花代と春日部がピンクの話題を拾う。
「それは先輩が食べたいだけでは? かなり高級品だけどポークを贅沢に使ったわらじカツドンとか、さらに高いけどカバヤキもお金持ちが行くところだと人気があるそうよ。どちらも学生には高いけど……早く出撃したいわね。訓練手当だけじゃ厳しいわ」
「サガで何か食べた? あの都市、大したもの思いつかないんだけど。それとハワイの話も聞かせなさいよ」
「朝に唐津バーガーとかいうのを( 食った)。ハワイはイモの郷土料理と魚だ」
ハワイではホテルでゆっくり食えたが、サガはすぐに呼び出されたせいで付け合わせのポテト共々、しっかり味わえなかった。
とはいえその後にトンデモカタパルトでブッ飛んだ事を思えば、腹いっぱい食わなくてよかったがね。
「そうそれ、ハワイ。午後はもう訓練くらいだしゆっくり聞かせてもらうわ」
学園はやはりあのまま休校で、土日は治安の調査と業者が片づけに追われるようだ。別にそこかしこに死体や爆弾が散乱してるわけじゃ無し、来週には通常授業が再開すんじゃねえかな。知らんけど。
「たまちゃんさん! あれ、ミミィあれ食べたい!」
サイタマ基地の一般解放された区画にはキッチンカーの類が立ち並ぶ広場がある。
その中のひとつに興味を引かれたようで、ミミィがグイグイ引っ張ってピンク色の
何かと思えばダンゴじゃん。フルーツ団子?
「お菓子( だぞ)?」
「うんっ」
ピンクにイエローにグリーン。なんともカラフルなアンの乗ったダンゴがショーケースに入ってら。見た感じ閑古鳥ってこともなく、そこそこ買っていく人はいるらしい。
解放されている通りや広場は何かしらイベントをやっている事も多いから、この辺は基地と無関係の連中もかなり多い。
旅行って娯楽のハードルが高い今の時代。スーパーロボットの基地とかは遠間なら気軽に見れるし、ちょっとした観光名所みたいな扱いなんだろう。そうなると人の需要を見越して別の商売も始まるって訳だ。
関係者たちも基地内の飲食店に飽きてこっちにくる人もいるようだし、これはこれで職場環境に貢献してると言えなくも無いな。
「これ可愛いーっ」
ピンクが食いたいと言っているのは、ピンクよりピンク色なアンコを塗ったダンゴ。
チェリーブロッサム・アンコだと思ったらストロベリーのアンコかよ。
のぼりを見る限りイチゴの果肉をアンコに練りこんであるらしい。
あんみつしかり、ベリーを入れたベストセラーのイチゴマンジュウってのもあるから、アンにフルーツ混ぜてもおかしくはないのか?
グレードを上げるとふたつにスライスしたストロベリーがダンゴの上に乗るようで、これがいいと言って騒ぐ騒ぐ。あーうるせえ。
「腕を引っ張るな。1個だけな、昼が入らなくなるぞ」
「ちょっとぉ、そいつだけ甘やかしてんじゃないわよ」
反対側の腕を掴んでいるアスカが飯の前にお菓子を渡す父親でも咎めるようにこれまた騒ぎ出す。
サガくんだりからサイタマまで助っ人で来てくれたんだから、多少はしょうがねえだろ。しかも手を借りることなく終わっちまったんだからよぉ。
アップさせといた選手を使わずにその場の流れに乗ってストレート勝ちしちまった、みたいな居たたまれなさがあるっていうかよ。
勝ち運の流れを交代で切るのは悪手だからと言って、用意して待っていた選手からすりゃ自分がバカみたいだしな。ちょっとはフォローしてやりたくもなる。
「ゼリーフライって本当にゼリー入ってるのかな? おいしいけどポテトみたいな触感」
後ろでモグモグ咀嚼音がすると思ったら、もう食ってるのかよ初宮。ダンゴ屋の隣りのキッチンカーで売ってる揚げ物をモリモリいってやがる。
「そのゼリーの名はゼニ、お金のもじりらしいわ。大昔の物理通貨で小判というのに形が似てるみたい。だから中身はゼリーじゃなくてポテトやオカラ。食物繊維が豊富で肌にいいそうよ」
その初宮の隣りで受け答えしているおまえが原因か、
対人関係がクールそうな印象の女だが、同じ飯好きの初宮とは意外にウマが合うのかね? 買い食い仲間を増やすのは結構だが、初宮は太りやすいみたいだから加減してほしいもんだ。
まー全員若いし朝っぱらから戦ってたんだし、腹も減るか。オレもこの体になってからというものよく腹が減るから気持ちはわかる。あとその手を使わずとも視線操作で情報ツールを利用できる映像投影メガネ、うんちく垂れるのに便利だなオイ。
《うむうむ。低ちゃん、ここはみんなとキャッキャウフフに食べさせあいっこしようゼ。スーツちゃん的にはあっちのサツマイモソフトを、誰かとシェアして互いにペロペロするのがオススメです》
(飯前の間食を進めんじゃないよ。あとオレはアイスとかソフトクリームとかは舐めずにバクバクかじるほうだ)
舐めとってると時間が掛かるし、すぐ舌が冷たくなって嫌なんだよ。
《そりゃー低ちゃんだけで食べるときはネ。でもここにはシェアできる女の子が6人いるんでっセ?》
(別にひとりで食ってればいいだろ。有限の小遣いで悩みながら選ぶのも買い食いの醍醐味じゃねえの?)
《ひとつのソフトクリームを互いに舐めているうちにチョコンと触れ合う、女の子の舌と舌。おぉ、百合とはかくも素晴らC。まさに夢羽ばたくドリームランド》
(この無機物はもしかしなくても真性のバカなんじゃなかろうか……)
《低ちゃん。心の翼ってやつはネ、誰にも奪えないんだよ》
(まだその漫画を引っ張んの!?)
「タマ、ここで食べ歩くの? あんたに合わせてんだからさっさと決めてちょうだい」
「あれ見たい! なにこのスライスしたおイモ」
「麺っ!」
「カレー!」
「うわぁ、すごい緑色。これでプリンなんだ……」
「抹茶ペーストが入ってるのよ。甘さが抑えめで男性にもけっこう人気みたい。でもやっぱり最初はプレーンからよねぇ」
休日に家庭サービスに来た父親か。しかも娘ばっかで姦しいったらないぜ。
<放送中>
「――――とまあそんな感じ。タマたちのおかげでサガも学園も大した被害なく終わったわ。
通信相手の第二基地長官『高屋敷法子』に事件の推移を簡単に説明したサイタマ大統領『ラング・フロイト』は、軽く皮肉気な笑みを浮かべる。
これでサイタマとサガの不穏分子は総ざらいが出来ただろう。都市の人手不足はますます深刻になるが、いい加減にくだらない事で頭を悩まされるくらいなら、もうスッパリ排除したほうがいいと諦めた。
<お姉さまも災難ね。ひとりでサガに残されちゃって>
「それは自業自得。本人がタマに付いていくって啖呵を切ったんだから。エージェントが到着するまで都市統治正常化の筋道くらい付けてもらうわ」
<私としてはお姉さまの事より、たまちゃんを人間の争いに使ったことに物申したいんだけど?>
「それは和美ともさんざん言い合ったわよ……言っとくけどサガに行きたいって最初に言ったのはタマ本人だからね? 詳しくは資料のほうを見て頂戴」
サガに取り残された友達を助けるから、武装満載の機動兵器とそれを積む輸送機を寄こせ。などと言い出したのは玉鍵たまである。ラングの依頼はこの要求に乗っかったに近いのだ。
……仮にその話が無くとも最後は玉鍵にサガ鎮圧を要請したであろうことは、ラングはもちろん法子も分かっているが。
<テロに参加した人間、参加した疑いのある人間がまあまあいるわね……残らず逮捕するとなると、またサイタマのマンパワーが減るんじゃない?>
「しょうがないわ。都市でテロリストを野放しで飼うわけにもいかないもの。電極つけて強制的に働かせるとかの、独裁者っぽい悪い前例は作りたくないし」
<第二から労働者のサイタマ派遣については、一応都市側で募集をかけてみるわ。うちも人が減ってるからそんなに人数は出せないし、数は期待しないでね>
「スラムに巣食ってる生粋の犯罪者、とかじゃなければいいわ。健康なら年齢も問わない。いっそ今日まで生き残ったお爺ちゃんお婆ちゃんのほうが下手な若者より丈夫で根性もあっていいかもね」
<ふふっ、うちの整備長とかすごいわよ>
「あ、いいわね。ちょうだい」
<ダメ。たまちゃんの次くらいダメ。あの人がいないと第二基地が麻痺しちゃう>
「こっちも整備不足で大変なのよーっ。パイロットより整備が増えてほしいくらいなんだから……この辺の雇用条件ももっと是正しないとね」
<上と下でも労働者の条件を揃えないとね。格差があり過ぎると何をしてもうまくいかないわ。後に続くSプロジェクトのためにも>
「ええ。これをその最初の1手としましょう」
――――地下都市から労働力を呼び込む名目で都市間の人口の流動を行い、後のサイタマと第二の統合計画への布石とする。これはそのちょうどいい機会かもしれないと、ラングたちは考えることにした。
これがかねてからラングや法子、そしてここにいない天野和美らが立案した『人の階層分けを廃止する計画』――――
将来的には地下都市の機能をS基地だけ残して縮小し、一般層の人口の大半を地上にあげるという一大プロジェクトである。
列島内においてフロイト政権に抵抗できる勢力が消滅した今、この計画がいよいよ実現可能になってきた。
もちろんまだまだハードルは高い。サイタマ傘下に入ったトカチとて、現状のエリート・一般に分けられた世界の中でこそ同調しているが、これを廃止するとなると反対する者が一定数出るのは出るのは間違いないだろう。
あるいは完全に離反されかねない。そのくらい劇的な改革だ。
なにせ3段の階層分けは世界のスタンダード。生き残っているすべての都市はエリート層とその直下の一般層に分かれている。
すでに常識となっているこの体制を変えるというのは、下手をすれば海外からも反対を受ける可能性さえあった。
「土地の再開発計画はもう少し先かしらね。今これ以上の人手を別に割くと都市機能が麻痺しちゃう」
<こっちもいずれ廃墟同然の天板区画を解体しないといけないのよねぇ。残ってて気持ちいいところでもないし>
「星天だっけ? 銀河の使い走りだった一族が住んでたとなると……建物が呪われていそうね」
<精神をやられた調査員が何人もいて退職者が続出したわ。中で行われていたのは人間の所業じゃない。あんな場所は残しておけないもの。記録だけは人の罪として残しておかなきゃだけどね>
「うちは地雷除去と汚染区域の除染。効果は出てるし地道にやるしかないわね。山賊や海賊、不法民の集落排除もいずれしないと」
都市間戦争を抜けてしばらく、この列島には再び人が住めるほど回復させることができた土地が都市の外に少しづつ広がっている。
これを放置してわざわざコストの高い地下都市を維持するのも無駄というものだろう。
何より過去の人類が生んでしまったこの格差を変えていかねば、いずれ都市の上と下でさえ争いが起きるだろう。
例えばブリテンのロンドン都市のようにだ。
直下都市の反乱によって占領された区域では、すでに高位の宗教家や特権階級の人間を対象に処刑の嵐が吹き荒れる地獄絵図と化している。
支配者として君臨していたブリテンエリート層が暴政であったからこその苛烈な報復ではあるが、切っ掛けがあればこの列島に並ぶ都市とて例外ではない。
「そういえば
<S課にお願いしているけどまだなの。地下の排水溝に逃げ込んだようなんだけど、都市計画に無い出入り口や通路があって探索が難航しているわ>
「アンダーグラウンドのテリトリーに?」
かつてサイタマにおいて物質転換機を盗み出そうとした、都市に登録されていない人間たちで構成された地下勢力、アンダーグラウンド。
彼らはすでにサイタマからの報復を受けてコミュニティごと壊滅している。
<まだ分からない。今のところただの通路と出入り口だけで、人が住んでいた形跡はまったく無いみたい>
アンダーグラウンドの住人たちはサイタマ都市と第二都市の間の、潰し忘れた通路や機材スペースなどに細々とした集落を形成していた。
これから発見される可能性はあるものの、現時点ではそういった場所は見つかっていない。
<そこを逃げて暗黒街に隠れたとすると、摘発にもちょうどいいんだけど……最近に暗黒街で『F』の粛清と思しき大量死があったから、S法に掛かるテロリストなんて庇うとは思えないのよね>
「『F』か。もっと丁寧な仕事をしてほしいわ。この頃は基地を襲撃されたりパイロット同士で戦わされたり。あんたこれで大丈夫なの? と聞きたくなっちゃう」
<人間側に多くの判断を任せてると思いましょう……人類もそろそろ独り立ちをしなさいって事かもしれないしね>
「そんな親心のある存在かしら。やってる事が面白いうちは放っておいてるってだけな気もするわ。自分が気に入らなければそこで殺すってルールで」
『Fever!!』の真意など誰も理解は出来ないだろう。だがラングはなんとなく、かの存在のすることなど遊び半分でしかないような気がした。
上位存在が人より高尚という根拠などどこにもありはしない。
我々を見ている存在が人が思い描くような善を尊ぶ神様か。同じく人が思い描く人を堕落させる悪魔か。それさえ誰にも保証されたものではない。
もっと言えば、その神とて決して人にとって良いばかりとは限らない。
――――人の運命を弄ぶ。この言葉が悪魔より似合うのは、間違いなく神なのだから。
「座れ」
フローリングの床を指さしてアホ2人を座らせる。正座だ正座。アスカ、反省であぐらをかくな。姿勢が悪くてパンツ見えてんぞ。
「た、タマ? あのね、別にこれはサボってたとかじゃなくて」
アスカが汗をかきながら言い訳を始めたが、焦ってるのが自分でサボってたと自覚してる証拠だ。
なによりこれがサボってなくてなんだ?
「ほんの数週間でなんだこれは! (共同スペースをズボラな独身男の一人暮らしみたいな空間にしやがって! キノコでも栽培するつもりかこのタコども! ああクソ、叱ってるんだから声出させろスーツちゃん!)」
《子供を叱るのに怒鳴っちゃダメ(はぁと)。特に美少女はダメでぇス》
(うるせえ! 叱られるってのは恐くて当たり前なんだよ! 拳骨くれてやらんだけでありがたく思え!)
入室したとき漂ってきたにおいで嫌な予感がしていたが、掃除がぜんぜんなっちゃいねえ!
リビングもキッチンも風呂もトイレも。特に風呂は端にカビが浮いてんぞ! カビの繁殖原因の湿気とソープを落とし切れてないからだ。
《ダーメ。低ちゃんのボルテージはこの2人だけのせいかニャー?》
……クソ、夏堀の事を思い出して嫌な気分になっちまったのは認めるしかねえ。あいつのときはその後に夏堀がアレだったからな。
「わわわ私はちゃんと掃除してたよ!? アスカがぜんぜんやらなくて」
「由香ぁ!? あんたは居候なんだからやるのは当然なのよ!」
「正座」
「ちょぉ!? 痛い痛い痛いっ、刺さる刺さる刺さる!」
足を解いて初宮に食ってかかったアスカのツインテール頭を指で押し込め正座させる。
「(ったく。)夕飯の下ごしらえの前に掃除だ」
昼は種類豊富なキッチンカーを食べ歩きした。それぞれ好きなもん食うのが一番揉めないしな。
しかし夕飯は赤毛ねーちゃん家に泊まるからと思って、宿代代わりに作ることにした。
オレは前に訓練ねーちゃんと泊まったホテルにでも行こうかと思ったが、赤毛ねーちゃんやスーツちゃんからもダメ出しされちまったよ。サガにいる訓練ねーちゃん側に子飼いのエージェントを割いちまったから防犯的に甘いんだとよ。
スーツちゃんの言い分に関しては言うまでもない。『美少女とお泊りしないなんてありえなぁーい』ときたもんだ。
……まあオレもこいつらの共同生活は見てみたかった。ちゃんと出来てるかどうかな。アスカと初宮もなんのかんの嬉しそうだったしよ。
そしたらコレだよ! カビとホコリとまで同居してんじゃねえわ! 男所帯かここは。
こんな汚い家で食事できるか。掃除サボってたなら洗剤その他は残ってるだろうから突貫でやるぞ。本格的な清掃は明日だ。
睡眠不足だし今日はもう疲れた。飯食って風呂入って朝までグッスリ寝る。今夜は何があっても起きたくねえ。
「お゛、お゛、おおぉぉぉ……」
「……ミミィ、おまえは正座しなくていいんだぞ?」
なぜかアスカの横で外人ぽく、完全に正座しきれずに半端な座り方をして呻いているピンク。おまえは客なんだからノットギルティだろ。
「え? えへへ、早く言ってよぉ。ミミィ正座なんて初めてだよ」
(こいつなんで嬉しそうなんだ? マゾ?)
《真面目に叱られるのに憧れてるトカ?》
なんのこっちゃ?
「なんでこいつまで……」
「家主から言われたんだ。ミミィは今日だけここに泊まりだ。アスカも客としてもてなせ」
「ラングぅぅぅぅぅ」
ほれ、家主代理も
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