第222話 散らばる不穏のピース? 鋼鉄のHappy Birthday!

<放送中>


『セントラルタワー』とはサイタマ都市と第二都市を垂直で繋ぐ、物資と人員の行き来を行う唯一の建造物である。


 これに類する設備は地球に残るすべての都市に備わっており、エリート層とよばれる地表都市と、一般層と呼ばれる地下を物理的に繋ぐ唯一の通路。


 特に物資運搬用のエレベーターは両方の都市にとって生命線と言える。


 エリート層においては一般から有利な条件で物資を吸い上げる、いわば属国との輸送ライン。一般にとっては自都市の設備では建造できない大型のS技術の結晶を手に入れるための軍事的ラインであるためだ。


 そのためこの設備に勤める職員は市井に比べれば、中々のエリートと言える。


 ただしその労働条件は良いとは言い難い。スケジュール管理は緻密で常に時間に追われて残業休出が常態化しており、一般層側の職員の中には今がいつかという日数の概念が消失している者さえ散見する。


 24時間の内のいつかは分かるが、何月何日の何曜日かは思い出せない。労働一色に塗り潰された世界。それがセントラルタワー。


 ごく最近にサイタマの代表者が変わった事で密輸を行っていた者が大量に摘発され、目くらましに水増しされた業務が減ったことで労働環境が多少改善される兆しが見えてきた事だけが救いであろうか。


 そんなセントラルタワーに勤める勤務年数2年目の彼、仮に『A』と称する。


 Aは物語に特に寄与する存在ではない。ただの目撃者であることを断っておく。


「先輩、この電子ペンの筆跡、チェックに引っかかってるのに通すんですか?」


「ああ、そいつはいいよ。いくら言っても直りゃしねえ。しかも気味の悪いお偉いさんだ……素でピエロなんだぜ?」


 ピエロ? と聞き返したAに先輩職員は『真性の変人だから、真面目に向き合うとこっちがおかしくなるぞ』と告げると、Aの持つ電子書類をチェック済みとして処理した。


「こんなのに付き合ってたら業務が滞る。送り待ちのコンテナまみれにしてみろ、他の部署から血の気が多いやつが殴りに来るぞ」


 ストレス発散の体の言い生贄にされちゃたまらねえよ、と殺気立ってきた先輩にAは怯え、突き返された電子書類を受け取ると自分の仕事に戻った。


「クソ、急に最大サイズのS用コンテナなんて出してきやがって。しかも一度に4つ、特急でって! 倉庫のスケジュールがメチャクチャじゃねえか! 上の連中はいっつもこうだ、言えばなんとかなると思ってやがる!」


 背後から聞こえる年季の籠った恨み節に、自分もいずれああなるのかとAは陰鬱な気分になりながら承認された書類を別部署に送る。


 セントラルタワーで扱える最大サイズの4つのコンテナは、他の予定を押し退け最優先で一般層へと下げられることになった。


 その申請者のサインは『アウト・レリック』とある。






<放送中>


 S・国内対策課の課長、実働において事実上のトップの立場となった釣鐘つりがねは、予想外の空振りに失望や怒りよりむしろ困惑を覚えた。


 今回彼らが出動した目的は元パイロットの17才の少年、『花鳥ノリアキ』の逮捕のため。

 疑わしい罪状は多いが、主にテロ容疑と基地の不法侵入、そしてS技術の不正利用が上げられる。


「D地区の一角から彼の痕跡が途絶えている。それも物理的にも電子的にも。テック関係に強いとは情報にありましたが……シティサバイバルなどの訓練は受けていない少年が、己の足跡などの痕跡を消すことなど不可能なはず」


 電子関連に強ければ近くの監視カメラの類を操れなくはないだろうが、原始的な活動とは存外に消す事が難しいもの。


 例えばその場に残留する熱やにおい、音響を解析し、そこにいた人間の活動を浮かびあがらせるS課自慢の高解析センサーなどは専門の欺瞞装置でもなければ誤魔化せるものではない。


 そこまでいくとたとえ知識があっても学生程度が持てる設備で作れるものではないし、そのような『特殊な装置を作る設備』を作るのにしても多くの特異な部品をどこかしらで手に入れる必要がある。


 機械とはすべて延長線上にあるもの。


 どんなものでも材料を加工して部品にするための設備が必要であり、部品を組み立てる工場とて必要。

 釣鐘つりがねの乗る自動車とて、内装のビスひとつを取っても、その完成を遡れば無数の他者の関与した痕跡があるものだ。


 子供向けの創作のように、怪しげな博士が独自規格でハイテク機器をひとりで作るなど不可能。かならずどこかに他人やメーカー規格のパーツが関わっている。


 こういった案件に目を光らせている釣鐘つりがねの部下、冬季ケイロンの監視を抜けられるわけはない――――冬季ケイロンは先天的な脳の問題からコミュニケーションに難はあるが、特定の分野においての頭脳と集中力は常人を大幅に超えている人物である――――その彼が膨大なデータから現在の居場所として推測したのが、このD区にある闇市めいた場所。


「課長、店主を洗いましたが余計な厄が出てきただけです。対象を監禁したりバラしたりはしていません」


「セリフが鼻につく刑事ドラマじゃあるまいし、学生相手にバラすという言い方はやめなさい。まあ、厄という言い方は嫌いじゃないですがね」


 これでドラマ鑑賞などが趣味の釣鐘つりがねは、部下の言い回しに小さく苦笑した。

 店長の尋問・・の成果を報告した部下からすると、上司の爬虫類のような笑みから鑑賞しているものは猟奇映画の類しか思い浮かばないが。


「そちらは治安に任せましょう。ああ、担当する治安人員が決まるまでの動きは追えるように。どうせお目こぼししている不良職員がいます。ただでさえ仕事が立て込んでいるのに困ったものですねぇ」


 即席の尋問部屋となったスタッフルームから聞こえる悲鳴など気にもせず、釣鐘つりがねは店の監視カメラの範囲から足早に出ていく少年の仕草や動き、手荷物に注目して行先を推測する作業に戻った。


 ――――釣鐘つりがねの推測とS課の丹念な捜査が実を結び、彼らが最後に辿り着いた場所は暗黒街にほど近い、外から視界が通り辛い入り組んだ通路である。


 プログラムに則って定期的に消毒液入りの雨を散布する程度の地下都市において、さほど使用されない乾いた排水溝があるのみのこの場所に、花鳥ノリアキの痕跡があった。


 調べるとそこにはメカニカルなカモフラージュがされており、人が通れる通路に繋がるギミックが設けられていた。


 もちろん花鳥ノリアキ個人に、このような都市機構に関わる設備を弄れる伝手などあるわけもない。


「彼は悪魔と取引でもしたんでしょうか? ……他に張り付けている別動隊をこちらに呼び出してください。ついでにドブさらいの装備を持ってくるように。どうもショットガンくらいは要りそうです」






<放送中>


45フォーティファイブの認証銃が持ち出されとる!」


 第二基地の整備長『獅堂フロスト』がS用の物品が納められた保管庫を開けたとき、いつものクセで自分が設計に関わった機体、『銃撃巨弾ガンドール』に関する項目を眺めた際にそれは発覚した。


 ガンドールは4機合体のスーパーロボット。その分離機それぞれの起動には、実銃としても扱える銃型の認証装置が必要である。


 拳銃の口径を名称とした分離機は、やはり認証器も同口径。


 38サーティエイト500ファイブハンドレッドナイン――――そして45フォーティファイブ


 書類上、この中で持ち出されているのはサイタマ基地からの要請で玉鍵たまに貸し出している38サーティエイトのみのはず。


 だが45フォーティファイブ用のラックには、45口径の自動オートマチック型拳銃が影も形も無かった。


 当然として履歴には持ち出し記録などない。最後に返却したのは同機体のパイロット『向井グント』のみ。そこから動かされた形跡は無かった。


 獅堂は規定に則ってすぐさま保安に通報を入れた。ほどなく第二基地長官の『高屋敷法子』から個人宛に連絡を受けて、なぜか嫌な予感が老技師に走る。


「あやつが指名手配……」


 花鳥ノリアキ逮捕の話は獅堂を含むほとんどの職員には知らされていない。しかしこの状況でSに関わる物品の紛失。あまりにあまりのタイミングということで、高屋敷はこの老人にも事情を伝えた。


「じゃが、いくらあのガキでも保管庫のセキュリティは破れん。どうなっとるんじゃ」


 何かが狂っている。その原因について獅堂は思い当たる気がしたが、うまく言語化できなかった。


 漠然と頭に思い浮かぶのは、ここに来たばかりの頃の花鳥たちの姿。最初からとにかく生意気で、兄弟たちの中で一番どやしつけた捻くれ者の少年の顔。


「馬鹿者が。おまえは捻くれちゃいたが、テロなんて大それた事をするガキじゃ無かったろうに……」


 消沈する獅堂に構わず時間は進む。やがてやってきた保安職員らに事情聴取を受けながら、老人は残された彼の兄と姉の身を案じた。


 最悪の場合、花鳥の身内であるサンダーバードとミナセも連帯で底辺に落とされる可能性がある。






<放送中>


「生まれ変わった気分はどうだいブラザー? 光沢のあるボディというのも悪くないだろう? 黒光りならぬ白光りのたくましい君ぃ! ひ弱な坊やはもういないのさ! これぞ人類の新しいステェェェージ! そのひとぉつ――――う゛おえ、おえっ、お゛う、ヴえ、ん゛ッ、あ゛んッ! ……失礼、喉に明太子パスタの粒がね。魚卵は美味しいが、どうも喉に張り付く。加齢のせいかもしれないと思うと憂鬱だ」


 必要でも無い無数の情報が視界に表示される事に,の『不快』のパラメーターが上昇する、つまり『鬱陶しく』思いながら少年は新しい目を稼働させて自分に話しかけてきた汚いピエロを見た。


 こいつこの見た目で女だったのか、というのがラボの工作台に乗っているの素直な感想である。


 画面端に表示された簡素な人物分析の性別項目に『XX染色体』の文字。他にも身長や体重、推定年齢などの項目もあるが、これほど不要な情報もないだろう。


 そして男だとばかり思っていたピエロの性別に対する驚きにも――――花鳥は特に自分が動揺していないことに気が付いた。


 動揺とは肉体の反射と脳内物質の化学反応。肉の体だからこそ発生する生理現象にすぎない。そんな他人事の思考が流れていくだけ。


〔僕の体は?〕


 自分の肉声に近く調整されたはずのボイスは、わずかにスピーカーを通したような響きが検出された。


「ナチュラルボディの事かい? 丁寧に保管しているとも。こちらのカプセルの中に収められた肉体は休眠しているような状態で保たれる。わずかだが代謝はしているから永遠不滅とはいかないがね。機材が正常に動いている限り数百年は余裕で保つとも。いつでも鮮度抜群さ」


 大げさに身振り手振りを交えるピエロの体の向こうには人が入れるほどの大きさのカプセルがあり、クリア素材から覗く内部には『花鳥ノリアキ』が――――その肉体だけが残されていた。


〔自分の寝ている姿を見るって、変な感じだな。しかも裸って〕


 得体のしれない保護液に浸かっている少年の体に、『不快』のパラメーターの目盛りが上がる。これらのどうでもいい項目の表示を設定で消しながらそれ・・は改めて自らの外観を確認した。


 イメージだけで言うならサイボーグヒーロー。ロボットのようなボディでありながら、頭部だけは人間の顔に準じていて生身にも見える質感を持つ。


 俗に強化外骨格と呼ばれる動力を備えた戦闘服を人間が着込んでいるように見える、と言ったほうが適切な表現かもしれない。


 ただし、人が見ればその顔に生身と比べてどこか違和感を抱くだろう。漠然とであってもその顔が作り物であることが伝わってくるためだ。


 では顔にいたるまで戦闘スーツの作り物かと言えば、それは否。これ・・は人間が着込んだ着ぐるみではない。


「人の意識だけを別のもの、例えば優れた機械のボディにうつす・・・。これが私の新しい研究の成果だよ」


 今の花鳥ノリアキは自身の肉体から意識を切り離し、このピエロが用意した新しい肉体――――S由来の技術を駆使した人型ロボットに精神を移植した状態である。彼はそう『認識』した。


「体をいちいちサイボーグにするよりスマートだと思わないかい? しかもこの方法なら脳という生物の根幹パーツからさえ解き放たれるのさぁ! ニルヴァーナ! おっと、仏教徒ではないからお間違えなく」


 頭部こそ人間の顔を模しているが、そのボディは合金製の装甲で覆われた戦闘用。対物ライフルの弾丸さえ通さない強度を誇る。


 メタリックに輝く姿はヒーロー然として花鳥の好みに合っていたが、唯一気に障るのは設定された顔が見知らぬイケメンフェイスであった事であろうか。


 精悍で整った顔つきは、どちらかといえば花鳥よりもたくましい兄のサンダーバードを連想させて不快だった。


〔顔は変えられないのか?〕


「おやぁ? お気に召さないかね? 女性からの好感度が高いサンプルを統計して作ったんだがね。つまりその顔に似ているほどモテ顔でもあるわけだ。では君はというと……残酷ぅ! DNAとはかくも残酷ぅ! でももう気に病むなよブラザァァァァ! 顔なんて後でいくらでも変えられるさ! けど今日は面倒だからやーらない!」


 花鳥の肉体が収まったカプセルの横でゲラゲラと笑うピエロの姿に、ロボットのボディから送られる視界映像に『殺意』のパラメーターが表示される。


 だが同時に『警告』の赤い表示がされ、『殺意』対象のピエロが花鳥にとって重要人物であることを伝えてくる。


 仮に警告を無視して攻撃しようとした場合、安全装置の類が働くのだろうと推測した花鳥はピエロの煽りを無視した。


 その様を見たピエロ――――アウト・レリックと呼ばれる中年の太まし過ぎる女は声を出して笑う事はやめたが、道化の化粧をニヤリと歪めたままである。


「その体の機能をひとつひとつ説明する必要はないようだ。予想の通り私を攻撃はできないよ。さすがに事を起こす前に無差別に暴れられても困るんでねぇ。まあ、それは置いといて」


 大げさなジェスチャーで物を置くパントマイムをしたアウトは、ここからが本題だと花鳥に語り掛ける。


「君の役割のひとつはそのボディのテストだ。すでに君の手足となるパーツ・・・は上から基地に運び込んである。適当なところで『融合』してくれたまえ」


〔融合って嫌な言い方だな。合体でいいだろ〕


「いやいやいや。これこそ融合、フュージョンだよ。人の意識が乗り移った機械の君と、スーパーロボットが一心同体となるのだから。もちろん分離もできるから心配することはなぁぁぁい。どこぞのマグネッタとか言う欠陥ロボより安全さ。あれは駄目だね、5年も生きられないよ」


 花鳥の視覚映像にエリート層で使われていた『マグネッタ』とよばれるロボットの情報がワイプとして自動的に流れる。

 全身をサイボーグ化した2名のパイロットが機体の一部となってロボットを運用するという、実に非人道的な形式のロボットらしかった。


〔前にも聞いたが、こんなことしてあんたに何の得があるんだ?〕


「損得ぅ? そんなもののために玩具で遊ぶわけがないだろう? ブーブーと口で言いながら車の模型を握り締めている愛らしい幼児が、まさか損得で遊んでいると思うかね? 私はやりたいなー、と思った事を出来るから楽しくやっている。それだけさ!」


 フリーダァムと叫びながら下手クソな花の手品を始めたピエロを瞳代わりのカメラ映像から切り、花鳥は自らの手を――――金属で出来たマニピュレーターを見つめる。


 もう後戻りできない。それだけは『認識』できた。


「――――むしろ私としては君のほうはいいのかと思うがねえ。世界の中心でたったひとつの愛を叫ぶのは結構だが、それ以外・・・・はもういいのかぁい?」


 それまでふざけていたはずの狂ったピエロが、不意に自分の間近に来ていたことに『驚く』パラメーターがまた動く。センサーに接近反応が無かったことから、これもまたアウト用の安全装置の一種であろう。


〔いいさ。こんな嫌な思い出しかない都市なんて、ぜんぶ土に埋もれちまえばいい〕


「想い出の品はこの銃だけだと?」


 ラボのデスクに無造作に置かれている拳銃を太い指で指すピエロ。それは花鳥がこの契約に盛り込んだ条件のひとつであり、地下からたったひとつ持ち出す気になった品。


 あの日、機械弄りばかりで腕力に自身の無かった自分を変えたのがこの銃だった。


 初めてパイロットになって戦ったとき、自分を男だと証明した勇気の証。腕っぷしという男の証明に自信の無かった自分に、戦える自信をくれた道具。


 ――――あの少女と共に戦った唯一の甘い記憶。


 ここで初めて、精巧だが能面に近かった機械の顔が花鳥らしく笑んだ。


 皮肉げに。


「結ぇぇぇ構っ。地中活動が可能なパーツは別途搭載することになるが、そのボディサイズなら乗り込むこともできる仕様だ。場合によってはそれに乗って地表に脱出したまえ若人よ!」


〔あんたの脱出手段は、まあ聞くまでも無いか。僕の体を置いていくような事をしたら許さないぞ〕


「オゥイェス! 愚問だ。ちゃんとこのビスケットが無限に出てくる四次元ポケットに入れて大切に持ち運ぶとも――――ジョークだよ。手筈は整えてある。ブラザー、君ももうひとつの約束を忘れないように」


 アウト・レリックと花鳥ノリアキが交わした契約。それはロボットの体の被検体となる事と、もうひとつある。


〔エディオンとかいうロボットを基地から奪って、タワーから上にあげる。分かってるよ。そっちも約束を守れよな〕


「もちろんさぁ。ガラスの靴と同じでその体は12時を回っても魔法が解けることはない。私も今から哀れな捕らわれのレディをエスコートしなければいけないので大変だよ。決行は今夜12時とはいえ、下準備はしないとね」


〔エディオンとそのイギリス女。何か関係があるのか?〕


「どぉぉぉだろうねぇ。それを調べるのも目的さ。しかし彼女はかわいそうな怪我人。自力で歩けない娘さんをS課の監視の目を盗んで運ぶのは骨なんだ。よければ手伝ってくれないかい? メタリックヒーロー」




 


「あんたね、もうちょっとサイタマに来なさいよ。というかサイタマにいなさい。部屋は余ってるんだから。なんなら由香を追い出せばいいわ」


「玉鍵さん、サイタマで私と2人でルームシェアしませんか? 私、ちゃんと戦って稼ぎますから。アスカもたまに遊びに来てね」


「勝手に決めてんじゃないわよ! この穀潰し! まだ出撃もできないくせに、一端に稼いでから言いなさいな!」


「たまさぁん、マジサーセン。ホワイトまた壊しちゃました。レストア手伝ってぇー、お願いっ」


「これS由来のブレードよね? 戦車装甲どころかエンジン部まで貫いてる……基地区画の外でも金属ブレードみたいな単純な構造の物は有効なの? ねえ、玉鍵さん。これすごい発見かもよ?」


「ハワイの事もうメッチャ広まってますよっ。玉鍵さんが白スーツ姿でロボット呼び出す姿とか、スーパーチャンネルで報道されててもうカッコイイのなんの! 腕時計にキスするシーンとかすっごい再生されてて」


「いっぺんに喋るな」


 ピンクの事は気になるが、学園の状況をサイタマの治安に引き継ぐまでは動けねえ。


 武器は取り上げて手も縛ったとはいえ、逃げるやつは逃げようとするしな。このままだと底辺落ちと分かってるだけに、悪あがきしたくなるやつはいるだろう。


 というかアスカたちがうるさい。人をぐるりと囲むな。拘束した連中を見張ってろや。


《可愛い女の子に囲まれる、なんて素敵な土曜日でしょう》


(カエル型宇宙人アニメのOPだかEDでそんなんあったな。いやそれはどうでもいい。明日は出撃日だってのに、忙しくて乗り込むロボットの申請もしてねえや)


《申請どころか選んでもないしネ。すぐ乗れそうなのは38サーティエイトくらい? サイタマで乗るならゼッターガーディアンはもう修理されてるから乗れるみたいやデ》


(自動操縦のあるゼッターが順当だろうな。ガンドールはメンバーが足りないし……そういやサイタマに預けっぱなしのGARNETはあのままか?)


《もう第二に戻ってプリマテリアルに還元されてるよん。もともと生産終了モデルで修理用パーツが少ないし、基地のプリマテリアルも足りなくて困ってたからしょうがないネ》


(ああ、そういやジジイが愚痴ってたっけな……あいつもオシャカか。あばよGARNET、おまえも良いロボットだったぜ)


《弱いって言ってませんでしたか低ちゃんや》


(戦闘面はな。それでもパイロットを生きて帰してくれたなら良いロボットって意味さ。強くても死んじまったら意味ねえもん)


 BULLDOGに次いでGARNETもか。オレが乗るロボットは軒並み潰れるとか変なジンクスがますます補強されちまったい。


(一区切りついたら申請するだけしておくか。いや、その前にピンクをどうすっか。軽く知り合いに紹介でもして、サイタマ観光くらいはさせねえとヘソ曲げそうだ)


 基地で何かあったのかと思ったらただ単に乗ってるロボットのトラブルだった。あの白いのは血筋の人間じゃないと動かせない仕様だし、いざ使うって段階で全システムがダウンしたらしい。

 しかも基地の高所、普通は人が立ち入らない場所に狙撃のために陣取ったから回収に手間取ってると保安から連絡があった。


 これはまた無反応になったロボットの中でピーピー泣いてる可能性もあるな。さっさと回収してやらねえとシートがションベンまみれのロボットがもう1機追加されちまうわ。


 どうせこの調子じゃ学園も休校だろう。せっかく助っ人として来てくれたんだ、多少は持て成してやらねえといかん。


 それにしても先町の予知は何だったんだか。まあ今日の学園で流血沙汰を防ぐために必要という解釈が間違っていただけで、いつか別のところで役に立つんだろうがよ。


「タマ、聞いてる?」


「ああ。全員無事でよかった、頑張ったな」


 ガキが大人の都合で殺される。そんな結末をオレは認めねえよ。ここに転がってる連中のように何度だってブッ潰してやるさ。


「聞いてないじゃない、このバカ。ちょ、撫でて誤魔化そうとすんなっ!」


 ……ま、オレはヒーローじゃねえからパイロット業の片手間にな。

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