第220話 1年待たずに新戦隊? 対テロ戦隊ボコルンジャー!

<放送中>


「全員無事? 無茶が過ぎる」


 空から舞い降りる鷹のごとく雄々しく、華麗に。パラシュートで降下してきたアーマード・トループスの操縦者は、やはり玉鍵たまであった。


 スコープダックの顔にあたる部位、3連ターレットスコープが備わっている頭部は一部をバイザーのように上に持ち上げることができ、キャノピーを開かずとも外を直接見る事が出来る。


 そこから覗くコックピットには、乗機と同じようにゴーグルを額にあげた玉鍵の姿があった。


「玉鍵さんっ」


 その姿にもっとも喜んだのは実はベルフラウ・勝鬨かちどきである。


 なし崩しでこの即席チームのリーダー的なポジションを務めていたベルフラウだが、内心のプレッシャーは大きかったのだ。


 もし失敗をしたら、誰かが死んだら。


 自分の判断で最悪の結末となるのではないかと考えると、責任感からくるストレスでいっぱいいっぱいだったのである。


「うっしゃぁ! もう勝ち確っ!」


 ベルフラウほどではないが、同じく花代ミズキも決して気楽だったわけではない。


 根っからの戦闘狂のようなタイプならいざしらず、あくまでミズキにとっては実力主義のフロイト派閥における地位の維持を目的として、パイロットというステータスを得たに過ぎないのだ。


 今だって己の命が掛かっているからしかたなくであり、別に好き好んで戦いたいわけでは無かった。


 そんな2人からすれば、アスカ以上の戦闘力を持ちさらに戦意も旺盛な玉鍵の登場はまさしく渡りに船。思わず喜色を浮かべるのも仕方ないと言えるかもしれない。


「おぉ……その脚部、軍で極々一部が使ってるって噂のターボ仕様じゃないっスか? 実物は初めて見るかも」


 対して玉鍵の登場以上に別の事でテンションが上がっているのは、ATに思い入れのある春日部つみき。


「足の設置面積が従来のパーツより狭めで、これで切り返しをし易くしてるのかぁ……でもこれだと走行の安定性が悪いはず。ヘタクソが使ったらすぐコケちゃうね。逆にふくらはぎが太いのはターボジェットのギミックを組み込んでるから……ああっ、ターボジェット用の冷却剤のスペースを確保してるから太いんだ。うわースゲーっ、まさにプロ仕様じゃーん」


 三者三様の理由で盛り上がるなか、最後の1人の初宮由香は脳内に湧き上がる多幸感に反して頭は冷静に驚嘆していた。


(上空からブレードを投げてミサイルの盾にするつもりだった? ううん、最初からミサイルを迎撃するつもりで投げたんだ……)


 先程のミサイルからつみきを救った一刀。高高度から投げつけたにも関らず、抜群の命中精度とタイミングだった。


 距離も気流も関係無いと言わんばかりのレーザーの如き精密さ。そして何より射撃のタイミングを察知していなければ、ブレードをミサイルの軌道上に置いておくなど不可能。


 この偉業をアンチミサイル兵装や弾幕ではなく、単なる投擲で実現してしまう。まさしく玉鍵ならではの離れ業であった。


TT.<敵味方識別IFF、通信回線、受け取った。こちらも上空から見えたデータを送る。AT以外にも戦車がいるぞ>


 から味方機ブルーのマーカーが表示されたダックは、もはや顔見せによる直接会話は必要なしと言うようにバイザーを閉じる。


 まだ敵がいるなかでは当然の用心とはいえ、初宮はまともに会話をする前から玉鍵の顔が見えなくなってしまい無性に残念であった。


「た、玉鍵さん……」


 だからだろう。戦闘のためにベルフラウたちと手短に情報共有をしている彼女に、初宮はつい声をかけてしまった。どうしても気を引きたくて。


 ベルフラウの機体から『今は戦闘中でしょ、後にして』と言わんばかりのプレッシャーを感じて後悔するも、出してしまった言葉は戻らない。


TT.<基地の通信以来だな初宮。ATも使えるようになったの?>


 しかし玉鍵は場の空気を読めなかった子供の初宮をあやすように、優しい言葉をかけてくれた。


「う、うん。まだぜんぜんだけど」


TT.<天野さんからも聞いてる。しごかれてるみたいだな――――まあ、お互いの近況はこれを片付けてから話そう>


 もちろん玉鍵は甘やかすばかりではなく、やんわりとした言い方で『戦闘が終わってからだ』と釘を刺してくる。


 そのさりげない気遣いを受けて、初宮はますます自分本位な言動をしたことが恥ずかしくなった。


TT.<まずは敵の機動戦力を残らず潰す。それはこっちでなんとかする。勝鬨かちどきたちはアスカのフォローを頼む>


BL.<そ、それはいいけど。まだATは4機いて、その中にミサイル持ちが最低でも1機は残ってるわ。加えて戦闘用の飛行ドローンも確認してる。おまけに戦車、いくら玉鍵さんでも1機では……>


TT.<すでに持ち込んだATの半分を失って、敵も尻に火がついている。そろそろバカな真似をし出す頃だ。そうなる前に兵器オモチャを取り上げないといけない>


 追い詰められて自棄になったとして、個人の持つライフルを乱射されるより戦車などの兵器に搭載された火器を、それこそ手あたり次第に撃ち込まれるほうが遥かに被害が大きくなる。


 そんな心配をせずに済むよう、まずは大物をさっさと無力化してしまおうというのが玉鍵とベルフラウが相談した結果――――より正確に言えば玉鍵の提案をベルフラウが丸呑みした形である。


 仮にどんなに無茶な作戦に聞こえようと、玉鍵の口で言ったなら成功するのではという謎の安心感があるのだから、これは仕方ないのかもしれない。


TT.<油断してうっかり死ぬなよ? こんなくだらない事、誰の命を張る価値も無い>


 どうせもうじき大統領の命じた本格的な実働部隊がやってきて、すべてを平らげるだろうと玉鍵は言う。


 これに関してはベルフラウたちも同意見である。自分たちがわざわざこんな真似をしているのは学園のためというより、流星会に敵視されているフロイト派の自分たちの身を守るため。あくまで場の流れのなかの一幕でしかない。


 初宮たちの命賭けの反撃など、事件の結末だけで見れば鎮圧部隊の突入前に発生した生徒による抵抗運動として、未来の歴史書に数行記録される程度のものであろう。


 だが同時にこれは初宮たちが始めた反撃であり、始めてしまった戦闘。自分たちが終わらせる義務があると、玉鍵は作戦通信の中で誰に向けたでもなくそのような意味合いの言葉をポツリと零した。


 その言葉の意味に初宮はすぐに思い至った。


(すごい……玉鍵さんは私たちよりずっと広く考えてるんだ。学園の事、私たちの事、フロイト派の事、大統領の事も)


 フロイト派の活躍で予定より早く追い詰められた流星会が、他の生徒を人質に取るなどの暴挙に出る前に、自分たち学園のフロイト派で制圧することが必要だと玉鍵は考えている。


 そうでなければ少なからず被害を被った者たちが、流星会だけでなく反撃したフロイト派の学生にまでも忌避感を抱くだろう。


 争いに巻き込まれて傷ついた側からすれば、銃を撃ったのがどの陣営かなど問題ではないのだから。


 まして初宮たちが大人しく救助を待っていれば最小の被害で解決した事が、なまじ反撃してしまったために被害が拡大したと思われたら、初宮たちのほうさえ疫病神のように言い出す者は必ず出る。


 そんな黒い感情は初宮たちフロイト派の生徒の学園生活にも、後に進むであろう社会での環境にも、ひいてはフロイト大統領の統治にも陰りを与えてしまうことになる。


 だから玉鍵はここで戦いを始めた初宮たち主導で、このテロを解決することが大事だと考えたのだろう。


 わが身可愛さからくる自己保身の反撃でなく、あくまで学園に迫った火の粉を在籍する生徒として払っただけ。


 という毅然としたイメージを作り上げることで、初宮たちフロイト派のイメージダウンを防ごうとしているのだ。


 それも危険な部分はすべて玉鍵が引き受ける形で。


 ……尻ぬぐい、という言葉が初宮の中に浮かぶ。


 それはいつかこの少女のパートナーとなることを目指している自分が、黙って甘受すべきことだろうか?


 ――――否。


「玉鍵さん、私も戦うっ! 囮でも盾でもなんでもいい、一緒に戦わせて!」







「全員無事( か)? 無茶が過ぎる(ぞ、バカタレども)」


(敵のATを2機も鹵獲して大立ち回りとはよくやるわ)


《おまゆう》


(オレと違ってこいつらは丸腰スタートだろ。大したもんだ)


 AT部はナックルバトルとか言う、ロボット使った素手ゴロのスポーツをやる部活。銃火器は扱っていないはずだ。


 ホワイトナイトともう1機のライト級は、それぞれ春日部と勝鬨かちどきが乗っていた。

 鹵獲したヘビィ級の方は花代と初宮。鹵獲した時に壊れたのか、風防キャノピーが若干パカッてるほうが花代だ。


 ……良いやつだな、花代。壊れたほうを初宮に押し付けないでくれてよ。


 アスカは別行動か? こいつらの顔つきを見るに、死んだり人質になってるわけでは無いようだ。まあこんなタコどもに倒されるタマじゃねえわな。


 残った1機はオレが降りる前に勝鬨かちどきと花代が見事な連携で片付けていた。元々コンビ組んでるだけに、乗ってるのがATでも互いの呼吸はよく分かってるらしい。


「おぉ……その脚部、軍で極々一部が使ってるって噂のターボ仕様じゃないっスか? 実物は初めて見るかも」


(マニア怖ぇ。こんなときまで目が行くのがそこかよ)


《オタクってこんなもんヨ? 好きな事は星が滅亡する瞬間まで一方的に早口で語るのダ》


(それは語ってるんじゃなくて垂れ流してんだよ)


 ATオタクと相性が良さそうなスーツちゃんはともかく、勝鬨かちどきたちからも状況を聞いて今後の方針を決める。


敵味方識別IFF、通信回線、受け取った。こちらも上空から見えたデータを送る。AT以外にも戦車がいるぞ」


 サガから連れてきたピンクの事はギリギリまで伏せる。無線傍受でもされてたら狙撃手の意味が半減しちまうからな。あいつ、そろそろ射撃位置についたかね?


 パラディン用のスナイパーライフルは持ち込んだはずだが、肝心の当人は近接主体であまり狙撃には明るくないようだったからなぁ。


 ま、コインを撃ち抜く腕が必要なわけじゃない。敵を驚かすクラッカーの役割でもはたしてくれればいいさ。


(1機残ってるミサイル持ちも邪魔っけだが、問題はやっぱりGUNMETだな。それにドローン? アンダーグラウンドの連中はガスでお陀仏って話だったのによぉ)


 GUNMETは軍が誇る可変戦車。


 高価な兵器と安価な兵器を織り交ぜて使うハイローミックスの考えで言うとATはロー、GUNMETはハイに属する高級機だ。


 ATとは比べるまでもない厚い装甲を持ち、天面のチェーンガンひとつでこっちのロボットは穴だらけにされちまう高火力。重量44トンの巨体でありながら、装輪式の足回りの最高速は180キロにもなる。


 普通に言ってATで戦う相手じゃねえ。以前オレがスクラップから組んだやつと違って正規の機体なら、武装まわりだってまともだろう。


 戦闘ヘリから引きずり出したチェーンガンを無理やりくっ付けたわけでもなければ、演習用の弾を入れた見掛け倒しのミサイルポッドでもない。虎の子の75ミリキャノンの砲弾だって潤沢なはずだ。


 何よりGUNMETは本来の運用では自律式の無人戦車。つまり素人同然の流星会とやらと違って、こいつは軍の水準で戦闘ができる戦闘車両ってことだ。厄介すぎる。


《マー普通に考えて、正面にチラッとでも立った瞬間に穴だらけだナ。無人機の反応と標的ターゲットの判断速度は人間以上だもの》


 皮肉にもこっちの攻撃で正面から有効打が取れそうなのはピンクから借りたブレードと、そのピンクの乗ってるパラディンが持ってきたスナイプ仕様のライフルくらい。


 チッ、まさかオレが実体剣で戦う日がこようとは。いや、これはSワールドの戦闘じゃない。ノーカン、ノーカンだ。


 とはいえオレを含めて味方のATが持っている武装ごときでは、あの戦車の装甲には分が悪いのも事実。せめて防御の薄い背後を取らなければ射撃はまともに通らないだろう。


 悩ましいこっちに対して向こうは楽なもんだ。どの武装でどこを撃ってもATの紙装甲なんざスポスポ抜けるんだからよ。しかも積載量に優れる戦車なら弾数も弾幕を張れるくらい潤沢なはずだ。


 キャノンもミサイルも嫌っちゃ嫌だが、撃ち続けられると手が付けられない、という意味で射界の広いチェーンガンが一番面倒かもな。対空にも使えるあれを適当に撃ってるだけでも、こっちは近付けやしな――――対空か。


(スーツちゃん、上から見たGUNMETのシルエット的に地対空ミサイルはあったよな?)


《弾種の判別はちょっと無理だナ。ミサイルポッドはあった》


 上から落下傘開いて降りてくるとか、目立つってレベルじゃねえ。人間ならともかく無人機が気付かないわけがない。上空なら建物で射線が通らないって事もほとんど無かったはずだ。


(ミサイルは対地用としてもチェーンガンは対空にも使えるはずだ。なのに射程に入ってもこっちにバラまいてこなかったのはなんでだ? 撃たなかったんじゃなくて――――撃てなかったじゃねえかな?)


 もしかしてだが、あれ有人式で運用してんじゃねえか?


 完全無人だとパイロットを殺しちまったとき『F』の判定がヤバイかもと思って、GUNMETもあえてSワールドのパイロットを使ってるんじゃねえの? しかも経験の浅いヘタクソをよ。


《可能性はあるかもネ。それに仮にもGUNMETは軍の車両だし、昔ならいざ知らず今のランちゃん政権でテロリストが正規品の入手は考え辛いナ》


(……春日部の親類ってデブのオッサン、マジで一度叩いた方がいいかもな。叩いた端から見たことも無い量の埃がバタバタ出そうだが)


 オレと同じ入手ルートだとすると、あの戦車の装備はガラクタを寄せ集めた見掛け倒しかもしれん。


 口径的に当たれば致命的なのは正規品と同じだが、命中率や射界、リロードといった細かい部分で難点を抱えているはずだ。

 金口のサイズが合えばいい、なんて乱暴な方式だったら性能なんてお察しだ。スクラップ扱いなんだからそこはしょうがねえが。


 それに襲ってきたドローンもなぁ……あのスクラップ屋のオッサン、オレに商売トチッてダブったっていう1台を売りつけてる実績があるんだよなぁ。


 勝鬨かちどきたちから話を聞くほどますます臭くなってくる。なんせ撃ち落とされたドローンも、オレが買ったやつと同じ機種なんだもんよ。


 春日部が親戚の連帯で逮捕されるパクられる可能性はまず無いと思うが……世間的にあまり良い印象じゃねえよなぁ。


 しょうがねえ。もしマジでそうなら大筋は赤毛ねーちゃんとでも交渉して、後は学園に転がってる分の痕跡くらいは消してやるか。春日部が悪いわけじゃねえし。


YH.<た、玉鍵さん……>


「(……おう、)基地の通信以来だな初宮。ATも使えるようになったの(か)?」


《ぎこちナーイ。セリフがぎこちないゾ低ちゃん》


(いや、初宮もだろ。お互いこんな早く面と向かって再会するとは思ってねえもんよ)


《ATの通信越しですが? あ、なるへそ。頭部のバイザーをすぐに下げたのは、はっちゃんの子犬みたいな構ってオーラが出てる顔を見てると甘やかしちゃうからカー》


(まあ……それもある)


 発端は事件に巻き込まれたからとはいえ、当人がここで頑張りたいと言って、チームを抜けて一般層から飛び出したままになったんだ。

 義理をブッ千切ったケジメとして、せめてなにかしらの成果を出して、義理に背を向けたぶんの錦を飾ってもらわにゃ、残ったこっちがイモ引いた気分になるんでよ。


 オレだけじゃねえ、チームメイトの夏堀や向井。ブレイガーの整備士たちにだって義理を欠いたんだ。そいつらの事を差し置いて、オレだけ甘い顔するわけにはいかねえのさ。


YH.<う、うん。まだぜんぜんだけど>


「(くんれ、じゃねえ。)天野さんからも聞いてる。しごかれてるみたいだな(あのねーちゃんも根性論大好きだから大変だろ――――チッ、いや、)まあ、お互いの近況はこれを片付けてから話そう」


(……どーも。久しぶりに言論規制をありがたく思ったよ)


《エエンヤデ。うーん、低ちゃんはやっぱりオカン属性だナ。上京した娘を心配して話し込みそうになるママンのようデス》


(誰がオカンでママンだ。せめて父親かオヤジにしてくれ)


 訓練ねーちゃんの話では初宮向けに設定した練習になんとかギリギリ、どうにかこうにかついて行ってるらしいがよ。元が大して鍛えてないインドアタイプに、あの根性大好きなねーちゃんのメニューじゃ過酷なんてもんじゃねえだろう。


 それでもまあ……ちょっとは逞しくなったじゃねえか。


 こいつが夏堀の件を許せるかどうかはまだ分からない。チームを辞めちまった向井の事も受け止められるかは分からない。


 だが、初宮が前より成長していることだけは本当だ。精神的にも成長してる事を期待してるぜ。


 後の事を考えるとちょいと憂鬱だが、ぼちぼち目前の面倒を片付ける算段に入るか。


(方針としては単純だ。GUNMETがガラクタ同然かそうでないかわっかんねえ以上は、オレがかます・・・しかねえ)


 ATの操縦がうまい春日部でも、戦闘自体に慣れた勝鬨かちどきと花代でも、正常可動のGUNMETはどう考えても荷が重い。


 こっちのATが対戦車装備ガン積みとかならまだなんとかなるんだが、あいにくどいつも大した装備は持ってない。こんなんじゃ無人戦車相手に姿を晒すだけで危険だ。


 となりゃあ、オレがなんとかするしかねえわ。ガキを矢面に立たせるわけにもいくめえ。


「まずは敵の機動戦力を残らず潰す。それは(オレが、オレはやっぱダメかクソ。)こっちでなんとかする。勝鬨かちどきたちはアスカのフォローを頼む」


《私とかなら通し・・だゾ》


(マージャンか。先に考えたならまだしも、私なんてお行儀のいい一人称とっさに出ねえよ)


BL.<そ、それはいいけど。まだATは4機いて、その中にミサイル持ちが最低でも1機は残ってるわ。加えて戦闘用の飛行ドローンも確認してる。おまけに戦車、いくら玉鍵さんでも1機では……>


「すでに持ち込んだATの半分を失って、敵も尻に火がついている。そろそろバカな真似をし出す頃だ。そうなる前に兵器オモチャを取り上げないといけない」


(? 尻はいいのか)


《お、を付けてほしいけどまあいいでショウ》


(基準が分からん)


 スーツちゃんのNG基準はともかく、敵のリーダーとその切り札らしいGUNMETを汚く三枚にでもおろしちまえば、後のタコは泣いて降伏すんだろ。たとえ底辺に落とされると分かっててもな。


 同じ死ぬにしても銃撃であっという間に死ぬより、手やら足やら、胴体泣き別れで死なせたほうがビビるってもんだ。


 ――――痛えんだよ、死ぬってのは。惨めなんだよ、死ぬってのは。


 死に花なんざありはしない。そんな人生の酔っ払いがほざくような華々しく散るなんてさせやしねえ。


 泣いて後悔して、苦しんで死ね。日陰者になったからこそ真面目に生きりゃいいのに、そうせずに馬鹿な夢を見た事を悔やんでな。


「(てめえらも)油断してうっかり死ぬなよ? こんなくだらない事、誰の命を張る価値も無い」


 クソみたいな妄言はいてくるタコどもの起こしたお粗末なテロ。こんなアホみたいな事でおまえらみたいなまともなガキどもが、タコに付き合わされて死んだら最悪だっての。


「すでにサイタマ軍も動いているだろうが、自分で始めたケンカだ。自分で終わらせるのが筋だろう(よ)。おまえたちはアスカのほうを頼む。あれで助けられると口ではともかく、内心は嬉しいタイプだ」


《ほんとに単機で行くの? 援護にひとりくらい連れてけば?》


(必要ねえよ。援護はピンクがいるしな)


 ピンクからの連絡はまだ無いが、おそらく傍受される危険を考えてあえて封鎖しているんだろう。どだい即席チームだ、射撃のタイミングは向こうに任せときゃいい。


(それに今言った通り、こいつは結局オレのケンカだ。友人ダチとはいえガキの手は借りたくねえ)


 元はと言えばこのテロは、テイオウで半端な事をしたオレの不始末でもある。最後はてめえでケツを拭かねえとな。


「玉鍵さん、私も戦うっ! 囮でも盾でもなんでもいい、一緒に戦わせて!」


「何を言って――――」


〔無益な抵抗をするフロイト派の生徒、春日部つみきらに告ぐ! ただちに武装を解除せよ! さもなくばおまえたちのクラスメイトに悲惨な未来が待っている!〕


(……チッ、ああいう連中のすることはワンパターンだぜ。こっちは小娘のワガママで忙しいってのに)


《ほほぅ、やっぱり低ちゃんはママだったナ。ヤンママ低ちゃん実在という予定調和に胸が熱くなるネ》


「あーしも行く! きっとAT部だからだっ、それで戦ってるのがあーしだとバレてクラスの子が!」


 オレに真剣度を示すためか、2人はわざわざATの操縦席のカバーを開いて顔を見せながら訴えてきた。


 ゴーグルを上げたその目は、どっちもまあ年に見合わぬほど覚悟が決まってやがる。腹が立つほどにパイロットの顔だぜ。


BL.<全員解放は無理だったようね、人質>


MZ.<数が数だし。さすがのフロイトさんでも難しいでしょ――――それじゃあ取りこぼしは玉鍵さんと私たちで、ということで>


「花代もか」


BL.<プラスワン。さすがに傷つくわよ、玉鍵さん>


勝鬨かちどき?」


BL.<戦力は集中投入。用兵の基本でしょ? もうここまで来たら総力をあげて流星会のリーダーを一気に蹴りとばしたほうがいいと思うわ>


(……大人の言う事を聞かねえバカ娘ばっかりだ)


「たまさんっ、あーし頑張るッス」


MZ.<玉鍵さん、先輩と由香っちのフォローは私がするから>


BL.<そのフォローを私がフォローする流れでしょ? もう>


「玉鍵さん、お願いっ!」


《それじゃあ元レディースのヤンママ低ちゃん、号令夜露死苦ゥッ》


(誰がレディースだコラ! あ゛ーこのクソガキども!)


「テロリストに人権は無い! ボッコボコにブッ飛ばすぞ!」


「「「「おーっ!!」」」」

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