第219話 悪意を断つもの!? 天空から飛来する剣!
<放送中>
アスカたちによる反撃は数分もの時間差を経て、ようやく流星会に知られることになった。
MZ.<うわっちゃー、変なところに当たっちゃった……あ゛ー、これもダメか>
花代ミズキが敵から毟り取ったハンディロケットガンから放たれた小型の噴進弾は、流星会の
衝撃で開かれたキャノピーから地面へと投げ出された哀れなATパイロットは、低く2度ほどバウンドしてそれっきり起き上がる気配は無い。
それでもこのパイロットはまだ幸運な方だろう。あのまま気絶して操縦席に残っていては、引火したATの駆動液によってコックピットごと火あぶりになっていたことだろうから。
泣き別れとなったATの上半身から吹きあがるのは虹色の炎。
基本的に毒性は無いと言われているとはいえ、ベルフラウ・
BL.<ミズキ、足元を狙ってって言ったでしょ>
MZ.<分かってるよぉ。でもまさかあんなに回避が遅いとは思わないじゃんっ>
回避を予測して移動経路の足元にロケット弾を『置いておく』つもりが、ミズキの狙った相手の反応がとんでもなく遅かったためにモロに命中してしまった形である。
足元に爆風を作って引っ繰り返し、そこを取り押さえてなるべく無傷で鹵獲するはずが、放たれたロケット弾はATの比較的弱い部分である駆動域を直撃して撃破してしまった。
TM.<やっぱあーしがホワイトで突撃して、ラリアットでもかましたほうが早くないスかね?>
「つみき先輩、相手は手にも胴体にも銃火器を装備してますから。弾をバラまかれないようまず攪乱しないと」
分散配置されている敵ATの各個撃破と、そのうえでアスカ用の機体を手に入れるために戦っている初宮たち。だが撃破こそ順調なのだが、敵機をなるべく無傷で鹵獲することの難しさにはなかなかに悩まされている。
スタンディングタラウスと呼ばれる
TM.<んー、あーしもこの子を穴だらけにされたくないし、しゃーないかぁ。ま、あと6回チャンスがあるし、
これで4機目。襲撃回数にして2回目である。いい加減に敵も事態を把握したようで、それまでAT内に垂れ流されていた流星会メンバーの無線は聞こえなくなっていた。
MZ.<もう期待薄ですけどね。あと1回くらいは楽に襲えるかと思ったけど、さすがに無理っぽいなぁ>
まだ楽観的なつみきに対して、ここからは鹵獲より撃破を優先したほうがいいとミズキは作戦の修正について提案する。
現代戦で襲撃から数分ものタイムラグが生じての発覚という、失態はあまりにも無様なもの。
これは最初の反撃でまともに発砲させずに無力化したアスカたちの妙というより、流星会という組織がいかに戦闘集団として素人の集まりであるかの証明と言っていいだろう。
互いをカバーするネットワークが構築されておらず、さらにそのために必要不可欠な連絡機材も貧弱で、何より組織を統括する者の判断力と判断速度があまりにもお粗末であったのだ。
BL.<残らず片づけたらATはもういらないけどね。初宮さん、そろそろミサイル持ちが出てきてもおかしくないから、ここからはあなたにも戦ってもらうわよ>
標的が多くなればわずかにでも照準する相手の選択で迷いが生じる。その数瞬が生死を分けることもあると考え、ベルフラウは戦術を立てる上でもっとも技量に劣る初宮を半ば囮として使うことを暗に示唆した。
MZ.<ベル、それはちょ――――>
相棒のミズキが言葉の意味に気付いて危険な作戦を考え直すよう口を開こうとしたとき、当の初宮由香はこの場の誰よりも意志を感じる強い言葉で答えた。
「わかりましたっ。囮にでもなんでも使ってください」
MZ.<――――いやいやいや、由香っち。覚悟キマってんなー>
さすがに怖気るかと思いきや、初宮の戦意旺盛な返答にミズキは感心するよりもやや呆れる。
「私の実力じゃ突撃くらいしかできませんから。自分の実力で出来ることをします」
親に言われるままパイロットになって、だというのにまともに声も出せなかった当時の初宮。そんな自分とチームを組んで、発声練習から付き合って鍛えてくれた少女がいる。
彼女は言葉以上に行動をもって、常に初宮に模範を示してくれていた。
パイロットとしての正しい資質とは強い弱いではない。今の己が出来ることを命尽きる最後の瞬間までやり遂げる、抗うことを諦めない者であると。
――――戦うとは誰しもが持つ当たり前の権利。
強者でも弱者でも戦うことに関係などない。ただ己の命と望みのために全力を傾けることだけが戦う者としての礼儀。
自分にできることを、自分がするべきことを全うする事こそが『戦う者』。彼女はいつも行動と結果で由香に教えてくれていた。
どれほど困難であろうとも、どれほど苦境に立たされようとも。
玉鍵たまという超人でさえ死と隣り合わせのなかで戦い続け、そして生還してきたのだ。
それはなぜか? なぜ生き残れたか。
初めから無理だと腐らずに、最後まで諦めなかったからだと、由香は彼女の背中を見て理屈でなく心で感じた。
おまえだってそのパイロットなんだぞと。初宮の大好きな彼女は覇者のごとき導きでいつも示してくれる。
ならば初宮由香という、まだ弱く情けないパイロットであっても戦おう。今できるすべてを繰り出して。
玉鍵たまのように万人から喝采を受ける存在でなくて構わない。この姿が他人にとって無様でも愚かでもかまわない。
人から理不尽を受けても賢しい顔で戦うことなく、張り付いた笑顔で押し黙っていた過去の自分のほうが、よほど無様だと気付いたから。
BL.<……今言うとリップサービスっぽく聞こえそうで嫌なんだけど。初宮さん、ちょっと見直したわ>
初宮に対してどうしても『強者に介護されている人』という認識がまず来てしまうベルフラウ。
しかし初宮の返答から、その認識を一度改める必要がありそうだと少しだけ感心しての言葉だった。
TU.<おっ? ベルたんがデレたっす>
BL.<っ、年上だからってそういう呼び方やめてくれますっ!? フロイト派にいるのは私のほうが長いんですから!>
MZ.<ごめんねー由香っち、うちの子警戒心が強くてさー>
BL.<ペットかっ!? 私は!>
「ふふっ」
初宮とて無神経ではない。出会った当初から自分に対するベルフラウの明確な線引きには気が付いている。しかしその境界が今少しだけ薄まったのも、やはり感じていた。
それが今だけじゃなくなることを願って、初宮たちは3度目の襲撃を成功させる算段をATを走らせながら相談する。
残った敵ATは6機。うち2機はショルダーミサイルランチャーと呼ばれる6発×2のミサイルポッドを装備している。これが厄介なものだというのがベルフラウとミズキ、そして初宮のSワールドの実戦経験者の考えだった。
……なお唯一Sワールド未経験の春日部つみきはAT自体にはこの場の誰より詳しいものの、これまで行ってきた戦いは銃火器を使わないナックルバトルと呼ばれる試合形式。
そのため実戦における誘導兵器の知識と経験はまだまだ未熟であり、若干危機感が薄い。
BL.<すでに敵は襲撃を受けたことに気が付いて1ヶ所に集結しつつあるか、もう集まっている。これまでのような各個撃破はもう無理よ>
MZ.<どっちかというとフロイトさん待ちかな。人質がいなくなればもう無理に仕掛ける必要もないし>
「この襲撃も人質救出に動いているアスカの援護の意味がありますからね」
敵から奪ったATで暴れれば注意を引けるだろうし、襲撃したこちらの所属が分からなければ人質の有用性が曖昧で肉盾にもし辛い。
――――最悪の場合、敵が出してきた人質の最初のひとり目は見捨てる覚悟で行くというのがベルフラウの主張である。ただでさえ戦力に劣るこちらが勝利するためには、人質に惑わされるわけにいかないと。
無慈悲に聞こえるがどんな事があろうとテロリストには妥協しない・躊躇しないのが、世界的な対テロリストの常識である。
どれだけ人質がいようと相手の言い分を聞かない。これは次のテロを生まぬための予防にもなる。
とはいえ、その最悪の場合とならないようにベルフラウの情報分析と敵の通信傍受を聞いたアスカが動いているのだ。
戦力を結集するため人質の見張りを最低限残すか閉じ込めるかして、後の人員は固まるはずだ。というのが流星会という素人組織を分析したベルフラウの推測。それなら単身のアスカにも対処できる目はある。
特にせっかくのミサイル持ちをリーダーが自分の警護に張り付けているあたり、作戦もクソもなくひたすらわが身がかわいい行動を取るだろう。
さらに反撃を受けた敵が人質を持ち出すのにも、かなりのタイムラグがあるはず。訓練を受けたテロ組織なら考えられないほどの長いタイムラグが。
場合によっては人質を肉の盾にするのを反対する者と身内で言い争いになる可能性さえある。
流星会は指導者に無心で付き従わせるカリスマなどなく、入念な訓練で組織として思考統一もされていない。ただ自身の境遇から避難するように知り合い同士で集まっただけの集団。
まさしく烏合の衆。それがアスカを含むベルフラウたちの総評。危険なオモチャを握っている暴徒でしかない。ならば正式な戦闘訓練を受けている者の敵ではないのだ。
TU.<生身のあーしたちは足手まといだから1人でやる、ってのが半端ないなぁ。ホントあの人も才能で言えばたまさん寄りっスよねぇ>
もちろん烏合の衆であっても懸念が無いではない。数の暴力は侮れない。
だがアスカの自信に満ちた尊大な態度はこういった有事の時ほど頼もしいのも事実であった。
BL.<フロイトの秘蔵っ子とか呼ばれる人だもの。英才教育を受けてる上に
MZ.<血かぁ。フロイトさんもだけど、玉鍵さんも絶対どっかのお嬢様だよね。歴史ある本物の王族の末裔とかじゃない? 銀河の偽物と違ってさ>
TU.<ありそうっスねー、DNAからして
突如、ホワイトナイトの白い機体が朝日を反射して煌く。それはつみきがATを激しく動かしたからでもあった。
BL.<
つみきの駆るスコープダックの3連型ターレットスコープに映ったのは、上空から投下された複数の黒い物体。
それがなんなのか認識するより早くつみきは反射的に回避運動を行い、続いてベルフラウがホワイトナイトの危険を察知した挙動から、全体に散開の指示を送った。
初宮たちのいた地面に一瞬遅れて落ちた複数の物体が爆発し、当たらずともその轟音で鼓膜をさいなみ恐怖を与える。
MZ.<上空! これは……爆撃ドローン!?>
BL.<対空戦!>
飛来したのは複数のドローン。それも対戦車用と思われるロケット弾を投下できる改造が施された戦闘用であった。
さらに装甲を叩いていく死のドラムが初宮の乗機に鳴り響く。装甲は貫通こそされなかったが、コックピットにガンガンと響いた被弾音は初宮に恐怖を与えた。
「マシンガン装備もいますっ」
TU.<うひぁ!? きれいに塗り直したばっかなのにぃ!>
BL.<いいから全員動いて! 止まったら的よ!>
MZ.<撃って撃って! とにかく弾をバラ巻いて!>
装甲をマシンガンになめられて慌てるつみきたちと違い、過去に敵の大編隊によって絨毯爆撃のような攻撃を受け続けた経験のあるベルフラウとミズキはまだ冷静だった。
同じく、時と場所は違えど死地を経験した初宮もまた冷静さを取り戻す。
手持ちのショートバレルマシンガンを振り回し、不用意に近づいていたマシンガン装備のドローン1基を銃身で殴って叩き落すと、後は無理に狙わずひたすら面の射撃で空に銃弾の傘を形成する。
これに同調してベルフラウとミズキも射撃に加わり、互いに味方の曳光弾の火線からドローンとの距離の誤差を測り、照準を調節しては1基、また1基と撃ち落としていく。
「先輩っ!? 3時! AT!」
3時の方向、つまりほぼ右の真横。
校舎の隙間を縫うように、奇襲めいて走ってきたATが4連の手持ち式ロケットポッドを発射するのと、それに気付いた初宮の警告は同時だった。
TU.<
脚部に備えられた急制動装置『ターンスパイク』を駆使して切り返したホワイトナイトは、発射された3発のロケット弾をかろうじて躱した。
TU.<壁際ぁ!>
奇襲のつもりが真後ろにしか逃げ場の無い場所に陣取っていた敵のATは、初宮の牽制射撃で注意を逸らされたところで接近してきたつみきのラリアットめいたズームパンチを側面から受け、校舎に強く激突してズルズルと倒れる。
「離れてっ!」
初宮の再びの警告。だがAT競技者として敵のダウンに無意識に安心してしまったつみきの動きは鈍い。機内に流れたロックオンアラートへの認識も遅れた。
その棒立ちは別方向から現れたATの射撃の格好の的。
時間差攻撃ではない。単純に流星会側の連携が悪かったがゆえの偶発的なもの。これが訓練であったなら、彼らは戦闘教官から懲罰の追加訓練を受けている事だろう。
しかしどんな偶然の出来事からであろうと、肩のポッドから放たれたミサイルの威力は変わらない。
着弾すればホワイトナイトはおろか、その搭乗者であるつみきの命もあっさり吹き飛ぶのは覆しようのない現実。
(――――弾切れ!?)
なんとか射撃を逸らすためにスティックのトリガーを引いた初宮。
だが操縦棹と連動しているはずの手持ちのマシンガンからは咆哮が響くことはなく、ここでようやくゴーグルに表示されたショートバレルマシンガンの残弾数がゼロであることに気が付いた。
弾の残っている胸部11ミリマシンガンに切り替えなくては、思考だけが加速したようなゆっくりの世界の中で、初宮由香の頭の中にそんな遅すぎる判断が浮かぶ。
ドローンを捌いた直後のベルフラウもミズキも、フォローが間に合わない。
倒れた味方が近くにいるにも関わらず火を噴いた敵のミサイル。飛翔する4基の噴進弾は誘導装置の恩恵を受けて、真っすぐにホワイトナイトへと向かってく。
それを最もハッキリと見ていたのは他ならぬつみきであろう。近づいてくる4つの悪意はスコープを介して、彼女のゴーグル越しにもよく見えたはずである。
……では春日部つみきという人間はここで死ぬのか? 初宮由香の目の前で無残に死ぬ運命なのか?
無情にも爆発は起きた。それはATという棺桶を破壊し、若いパイロットの命を散らすに十分な威力であったのは間違いない。
――――命中していれば。
悪意の爆発はホワイトナイトのいる位置よりもずっと手前。飛び散った破片は白き騎士の鎧がキッチリと止め、騎士の胸の中で守られた
「あ……」
初宮のゴーグルの中に涙が零れるのが止まらない。
なぜなら目の前の奇跡のような光景が誰の手によるものなのか、誰よりも早く直感したから。
それは悪意の対局に位置するもの。
善意。
天空から垂直下に突き刺さった巨大な刀剣が、つみきをミサイルから守ったのだ。
《おはようおはようモーニーン♪ ぐっとぐっとモーニーン♪ 美少女低ちゃん、TSった低ちゃん おはよう低ちゃん=サン♪ ―――――モーニングコールの義務終了シマス。つまり起きない低ちゃんが悪いということで、ミミィちゃんとお揃いのパラディンメイル用、ドエロパイロットスーツにモーフィ――――》
「邪悪な気配っ!? っ、
なんだここ? 格納庫? ……いやこれATの操縦席でゴーグル越しの映像か。狭いのに変に動いたから頭をぶつけちまったわ。
あ゛ー、あ? ……ああ! ああはいはい。そうだった。やっと思い出した。
(今どの辺りだいスーツちゃん?)
サガのリボルバーカノンってトンチキカタパルトを使って、サイタマに向けて砲弾みたいにカッ飛んでるんだった。格納庫に見えたのはこのATを収めているカプセルの内側か。
《カプセル、再突入シークエンスに移行。もうすぐサイタマ上空だよ。思ったより長い時間目を回したネ、ギリギリ失神はしてなかったけどしばらくスーツちゃんの声も聞こえなかったみたいダシ――――チッ》
(待て、なんで最後舌打ちした。あと目の前が真っ白の中でマラカスの音が聞こえたような気がするんだが?)
《ぼちぼち到着だから豪華にモーニングコールでもト》
(そりゃどーも。何か良からぬ気配を感じたのは気のせいか……)
オレは精神異常というか何かのトラウマのせいで、何度目かのリスタートからか忘れたが失神出来なくなっている。
なのにそんなオレでもここまで頭が真っ白なるとはな。リボルバーバカノン、やっぱこれ絶対ヤベーだろ。誇張抜きで発射の衝撃でパイロットが死んじまうわ。
「ミミィ! 生きてるか!?」
MM.<――――ん……>
ピンクのほうは完全に失神していたようで、それでも何度か呼びかけるとどうにか意識を取り戻した。
《あの白いの、パラディンメイルにしてはパイロットへの安全配慮があるみたいだネ。ATに乗ってたら潰れちゃってたカモ》
(オレが生きてるのはスーツちゃんのおかげか。ありがとよ)
超汎用支援衣装なんて名前のこの無機物は、最先端のパイロットスーツと同等かそれ以上に高性能のパイロットスーツの役割を果たしてくれる。こいつの耐G性能が無かったら今ごろ操縦席でペシャンコだったかもな。
《なんのなんの。マー感謝してくれるならさっきデータを取ったばかりの新鮮で素敵なパイロットスーツにでもネ? ちょろっと着替えてくれればいいのヨ?》
(ATのほうに異常は無いか? どっかブッ壊れてもおかしくない衝撃だった)
《スルーかーいっ。エラーは吐いてないよ。オプションパックのパラシュートもグラップリングフックも異常なし》
一応減速用に専用のパラシュートはカプセルに付いているが、最悪ATだけで飛び出すことになりそうだから背負ってきた。どちらも火薬射出式じゃないから衝撃を受けても爆発の危険は無い。
パラディンメイルのほうは基地区画にさえ入れば飛行ができる。サイタマの区画は都市の中でも広いようだから、カプセルの減速が遅れてもまず平気だろう。
MM.<ええっと……たまちゃんさーん、今ってどの辺り?>
「ちょうどいま東海と北陸抜けて、ぼちぼちサイタマのある関東だ」
MM.<……トーカイ? カントー?>
(こいつ列島の地理わかってねえな)
《ミミィちゃんが生まれた頃にはもう3都市だけだもの。都市の名前以外は周りに広がる土地、くらいの感覚でナイ?》
(カプセルの中じゃ外なんて見えないしな。時間計測でだいたい今はどの辺か、くらいのもんだ。成層圏ブチ抜いて一度上に上がってから降りるというか落っこちる方法だから、余計に分かり辛いぜ)
拳銃弾の速度はおよそマッハ1とされる。秒速にすると約340メートル。大口径の代名詞、50口径のバカ銃ともなると秒速は430ほど。音速換算にして1.2にもなるが、こちらはまあ例外枠だろう。
対してリボルバーカノンの弾速はおおよそマッハ5。時速6000キロ以上、1秒で1700メートル以上の距離を突き進む。宇宙用ロケットみたいな速度だ。
単純計算で900キロ離れたサイタマにも530秒、9分も掛からん計算である。
ただ空気抵抗の少ない高さまで上昇してから降下する形を取るので、距離計算より余分な時間が掛かることになるが。降下速度は秒速540メートルと、どちらにせよ速いのに変わりはないんだがな。
「つまりそろそろ到着だ。降下中にトラブルが起きても対処できるようにエンジン掛けの準備をしろ」
MM.<りょーかーいっ>
ATのこっちと違ってS由来のパラディンは基地区画に入らなければ機能しない。もし落下中にカプセルにトラブルが起きたら1秒の遅れで墜落死だ。
《高度2万。順調に降下中》
……そういや前に高所から墜落死しかけたことがあったなぁ。あんときはプロトゼッターの時だったか。
打ち上げのときにトラブルがあるのは創作のお約束だが、降下中に事故が起きるのもお約束。なんで今そんなことを思い出すかねぇ?
《高度1万、9000――――8500――――8000――――7500、パラシュート準備。高度5500で開くから減速の衝撃に注意》
(あいよ)
《7000――――6500――――6000》
いよいよ身構える。パラシュートによる減速は慣れていても強烈だ。
《パラシュート展開――――!? 1番不発っ! 2番、ダメ! 3番!》
(チィィィッ! オレはいっつもこれだよチクショウ!)
5発ある降下中に開くべきパラシュートのうち、まさかの3発が不発。
順次開いて削るはずだったカプセルの降下速度は大幅に取りこぼされ、地面に激突した場合の衝撃は甚大なものとなって中身のオレを襲うことなるだろう。
いかにS由来であっても運用時の安全基準に満たなければ物は壊れるし、使っているやつだって死ぬ。このままじゃ死ぬ!
(ミミィのほうは!?)
《あっちは正常起動! 予定通りの速度で降下中って、人の心配してる場合じゃないゾ!?》
(分かってる!)
ダックを固定していたカプセル内部のバンパーを
「おわぁ!?」
外壁のパネルがキックで外れて、その拍子に一気に入り込んだ風によってバランスの崩れたカプセルが無軌道に回転し、一瞬天地の感覚を失う。
《ちょーっ、何やってんの!?》
(カプセルにいたら地面に張り付いてお陀仏だ! 飛び出すんだよぉっ!)
《パラシュートが千切れるヨ! AT用のパラシュートはこんな降下速度は想定してない!》
(ならもう一丁っ、丈夫なやつを付けるだけだ!)
どうにか這い出したカプセルから見える天辺。そこで健気に開いているひとつを選んでワイヤーをズームパンチのギミックに噛み込ませてから、持っていたブレードを使って切り飛ばす。
こっちがパラシュートによる強烈な減速を受けたのと相反し、落下傘が1基のみとなったカプセルはぐんぐんと離れていった。
降下地点が基地から変わっちまうのはいまさらだが、頼むから変なところに落ちるなよ、カプセルさんよ。いやマジで! 下に誰かいませんように!
《oh、滅茶苦茶するなぁ。ともかく降下速度はなんとかなったナ。後は捨てるタイミングと合わせてATのパラシュートのほうを開けばひとまず安全。でもカプセル用のほう、ワイヤーが腕部のギミックにからまってない?》
(タイミングよく切るか、最悪こっちは腕ごと
《ウィ。それにちょうど交戦中みたい。戦闘音と思われる爆発音を検知》
「なに?」
カメラをスナイプモードに切り替えると、確かにATと思われる何かが学園の敷地をチョコマカ動いているのが見えた。真上からだと人型ロボットも判別し辛いな。
上空からでもよく見えるのは――――うへえ、あのシルエットはGENMETシリーズか? ATだけじゃないのかよ。とりあえず1機だけのようだが厄介だぞ、あれは。
さらに場違いなカラーリングの白いAT。なんだあの鉄火場をなめくさった派手な色――――
「――――って、ホワイトナイトじゃん」
分かってた事だが他のミリタリーカラーと比べて比べてメッチャ目立つな。白の基本に青の差し色、ホビーATならではカラーリングだから当然だけどよぉ。
乗ってるのはアスカ――――いや春日部か? 操縦自体の腕はいいが位置取りが悪い。
周りは敵だらけ……じゃなく周りのタラウスは味方か。ホワイトナイトがロングフックかました1機だけが敵のようだ。
しかし上から見ればさらにお代わりが近づいているのが分かる。あっちは敵か? 味方か? 途中参加で
(スーツちゃん、あの今着いた、みたいな1機は味方だと思うか?)
《アスカちん、つみきちゃん、ミズキちゃん、ベルちん。後ははっちゃんで5機とすると、数はこれでちょうどだナ》
……いやーな感じがする。
アスカたちはATも訓練してるから一端に使える。 考えられるとすれば未熟な初宮だが――――
《それはともかく高度2500。そろそろダックのパラシュートを準備して。カプセル用だと降下中に全然動けないんだかラ》
(ああ……)
スーツちゃんの言葉を他所に、指でショートカットの起動だけを準備して目は下を見つめる。スナイプモードのまま見つめ続ける。なぁーんか嫌な気配がする。
(構えた! 敵だっ!)
思考加速の中でホワイトナイトに近づく1機のスタンディングタラウスが、背中のミサイルランチャーらしきものを構えようとしたのが見えた。
《あっ、マズいかも。誰もホワイトナイトをフォローできないみたい。チーン》
「こぉの!」
オレのダックは銃火器を積んでない。射撃で牽制は不可能だ。
だがそんなこいつにだって飛ばせるものがある!
「クッッッソボケェーッ!!」
ピンクから借り受けたブレードをパンチモーションの要領で真下にブン投げる! ピンクは投げて使ったりもするって言ってたんでショートカットにひとつだけ入れてたんだよ!
オレは狙撃が下手な部類だ。しかしそんなオレでも昔から自慢できる遠距離攻撃がある。
それは投擲だ。投げ物の命中精度だけはやたらと高いんだよっ!
《――――うーん、だいぶ大外しだヨ。低ちゃん》
(う、うるせえっ! うまいことミサイルは防いだから結果オーライだっ)
敵に向けて投げつけたブレードはオレの予想を超えた空気抵抗を受け、むしろホワイトナイト寄りに落っこちて発射されたミサイルにブチ当たる形で防いでくれた。
て、敵を狙ったんだがまあいいや。むしろこっちのほうがホワイトナイトが無事だったしな。たまには不運の揺り返しくらい貰っとかねえとやってられん。
「ミミィ! こっちはこのまま学園に降下する! 上から敵の配置はだいたい見えた、データを送るから援護を頼むぞ!」
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