第218話 放て! 都市強襲用カタパルト・リボルバーカノン!

 領土の切り取りに明け暮れていた時代はとうに過ぎ、戦争というものがデメリットばかりになって近代。それでもなお他の都市を制圧する利点とは何か。


「都市強襲用。いや、S基地強襲用と言うべきだろうな。これこそがサガの暗部よ」


 ブーメラン爺さんに連れてこられたのは、国・都市を問わずS基地周りによくあったりする用途不明・意味不明なオブジェのひとつ。


 その直下に隠された『カノン大砲』型カタパルトの制御室だった。


 見る限りやたらと古い形式の制御盤でタッチパネルの類は一切なく、下手をしたら真空管でも使われてんじゃないかと思うくらいレトロな作りをしている。


「ちょっと、これ動くの? 放置されてたんでしょう?」


 棒の先についたピンキーな色合いのキャンディを口に入れたまま、ピンクが訝しむ声を爺さんに向ける。苺ミルク味らしい。


 不躾な質問を受けた爺さんは不機嫌そうに己のヒゲをしごきつつも、年上相手に態度の悪い小娘の質問に答えてくれる。


「秘密裏にだが定期的な検査はしていたようだ。見た目は古くてもS由来の代物のせいか技術屋から言わせると、むしろ気味が悪いほど頑丈らしい」


『リボルバーカノン』。火薬を使って砲弾を投げつけて攻撃する、いわゆる大砲ではなく、大砲発射の理論で『物をブっ飛ばして運ぶ』というキ印ここに極まった代物。


 サイズ10メートル以内のロボットを専用の砲弾型カプセルに搭載し、最大6機を超遠方の目的地まで連続で発射できるんだと。


 構想段階では一度大気圏外へと撃ち出し再突入させる形で、まさかの大陸弾道さえ目指していたとかなんとか。この辺は爺さんが保安の若造とやらから聞いた又聞きだが。


 大日本政府は隙あらばこいつで、海外の基地への侵攻も考えていたようだな。


 いや、バカじゃねえの? 仮に一時期だけ落せても守れねえだろ。ツッコミ入れるところがあり過ぎて、もはや突っ込んだら負けな気さえするな。


《カタパルトから受け取る運動エネルギーによる慣性と、上空に撃ちあげた分の自由落下で目的地である敵基地までひとっ飛び。ウーン、確かにそれなら途中までロボットが止まっていてもいいわけダ》


(相手の基地に到着したら、そこで再起動すればいいだけだからな。普通はこんな無茶を考えないが。バカ兵器すぎる)


 現実の大砲でこんなことやったら中身なんて粉々だろ。


 燃料消費してじわじわと加速するロケットと違って、大砲は撃発した時点で受け取るエネルギーだけでカッ飛ぶんだぞ。瞬間的に砲弾が受け取る衝撃は尋常じゃない。どんな緩和装置を搭載しても中身がダメになるわ。


 だが、それがS由来なら話は変わってくる。現実ではありえないトンチキな理論でいともあっさりと自然の事象を、尊ぶべき物理法則を捻じ曲げることができるのだ。


 このインチキはSワールドの中だけではない。こちら側の現実の例外たる基地区画内であれば同じく可能。だからこそ作られたS理論頼みのバカ設備ってわけだ。


 あるいはこいつで使用される砲弾型カプセルも、オレの功夫ライダーに代表される『こちらでも使える』って例外に属するアイテムなのかもな。


 でなきゃ弾が基地区画を離れた時点で、現実の物理法則に戻った加速をモロに受けて中身がペシャンコになりそうだしよ。


「爺さん、発射までにどれだけ時間が必要( だ)?」


「うえっ!? マジで使うの?」


 両手を広げたオーバーなリアクションでピンクがチャチャを入れてくるが、こっちだって好きで使いたいわけじゃねえよ。


「目標がサイタマ基地なら諸元入力はプリセットにあるそうだ。カプセルに機体を積み込めばすぐ撃てる」


(チッ、サイタマもトカチも最初から標的候補だったんだろうな)


《マーそりゃ近いところから攻めるジャロ。攻める手段があるとにおわせるだけでも牽制になるしナ》


 昔から大日本が一枚岩ではないのはお察し。都市ごとに背中にナイフを隠した状態だったんだろうよ。


 権力者にとっては戦争も経済ゲームみたいなもんだろうが、庶民からすれば馬鹿馬鹿しい話だぜ。


「……勧めておいてアレだが、都市防衛用の陣地砲という名目でずいぶん昔に試験砲撃くらいしかしていない代物だ。その後は解体したという体でここに隠された。一応成功したとされてはいるが、下手をしたら中で死ぬかもしれんぞ?」


 そりゃ秘密兵器の類だろうからな。こんなクソデカい大砲、おおっぴらにバカスカ撃てるわけもない。

 しかもこの場から動かせない据え置き型のデカブツとなれば、トーチカ用とか別名目でテストするしかあるまいさ。


「仮にもS技術の産物( だ)。最低限は保証されてるだろう……たぶんゼッターよりマシさ」


 へそ曲げた軍を相手に飛行機を使わせろと、グダグダ駆け引きする時間のほうが勿体ねえわ。とにかく面子が大事な連中だから、こっちが下手に出て時間をかけて説得しないといけないだろうからな。


 なまじ物分かりが良くても今度は現役が弱腰と感じて、プライドの高い退役軍人あたりがしゃしゃり出てきて絶対に拗れるわ。このブーメラン髭の爺さんの対応はむしろ珍しいケースだろう。


「ゼッターロボ! そっか、たまちゃんさんあの殺人ロボットの搭乗経験者だもんね」


 ゼッターという単語にピンクが手をポンと叩く。


(他の都市にもゼッターは配備されてるんだっけ?)


《開発はサイタマのみだナ。記録からすると完成品をトカチとサガに1機づつ送ってるよん。どっちもガーディアンの前の機種になるネ》


 ゼッタータイプはサガにも1機配備されているが、あまりの加速と合体の難しさから実機の稼働のたびに負傷者が続出してしまい、その強さより『パイロット殺し』として悪名のほうで有名らしい。


 現在は標準装備のリミッターの設定をさらに強度を高くして、なんとかサガの古参パイロットが運用しているようだ。


 基本的に今のサガの若手はパラディンメイルのようなスタイリッシュなロボットが主流で、ゼッターみたいなスーパー系は強くても好まれてないって流れらしい。


 まあエリート層のパイロットは基本的にエンジョイ勢だしな。乗ってるだけで死にそうになるロボットは嫌がられるのは分からんではないか。


「あんなのよく乗れるよねー。サガは今のパイロットに決まるまでたらいまわしだったよ?」


 あいつの兄弟は他都市でも『とんでもない難物』という評価は変わらないらしい。だからこそ強いってタイプのロボットだからしょうがねえんだが。


「そのあんなの・・・・にリミッター無しで2回乗っている。たぶん平気だ」


「了解した。ワールドエースの実力とカンを信じよう。死ぬなよ?」


 っと、あぶねえ。あんまりきれいな敬礼をされたので思わずこっちまでやりそうになっちまったい。オレはパイロットだが軍人でも治安でもないんだ。これは組織の人間じゃ無いやつがやるもんじゃねえ。


「ただちにリボルバーカノンの発射準備を開始する。おまえさんもすぐに搭載する機体の選抜に入ってくれ」


「助かる。(っと、その前に)爺さんの名前を教えてほしい――――玉鍵たま、です」


《ですw 低ちゃんて基本友好的な大人が相手だと敬語もできるのナ》


(おかげさんで見た目がこんなもんでっ! 口の利き方ぐらいでいらん敵意を向けられたくねえんだよっ。トラブルを起こさないためなら少しは擬態もするって)


「ん? ……おおっ、そういえば名乗っていなかったか? インゲル・リーマンだ。なんだろうな、どうもおまえさんと話すと10年来の戦友のような気がしてくるというか。娘っ子らしくないというか……いやすまん。失礼だなこれは」


 血筋的には赤熊辺りの流れか? 白髪に白鬚で分かり辛いが、骨格がゴツくて日系人の体格じゃねえもんな。


「よろしくミスター・リーマン。それとワールドなんちゃらという呼ばれ方は好きじゃない。それ以外でお願いする」


「そ、そうか。では玉鍵くん……玉鍵女史、たま……うーむ、しっくりこん。ひとまずたまの嬢ちゃんでどうだ? あと儂もミスターなどと付けられると気持ち悪い。インゲルでいい」


「たまちゃんさんっ、私も、私もミミィでいいよっ!」


(聞いてねえよ。おまえは当分ピンクだ)


《そーだそーだ、ミィちゃんは淫ピ枠だ》


(言ってない)


《ほいで? ロボットのご要望は?》


(切り替えが急カーブすぎる……まあ急いでるんだからいいけどよ)


 10メートル以内で、かつ他所様の基地でもすぐ用意できるロボット。なら考えるまでもない。


(カプセルの規格に合うようなら訓練ねーちゃんのATダックを借りよう。あっちはオレのと違って大きな損傷をしていない。補給してやればすぐ使えるはずだ)


 そもそも戦場は学園。S由来のロボットは使えない。基地区画以外でも問題なく動いて小回りの利くアーマード・トループスが妥当な選択肢だろう。


 一応、サイタマ基地の高所に陣取って狙撃の得意なS由来のロボットを使い一方的に撃ち抜く戦法も考えたが、残念ながらオレは狙撃はうまくないんだよな。


 ……いや、この体になってからの狙撃は実績があるからやってやれない話じゃないんだが、近くに味方がウロチョロしてるような場面だと信じ切れなくてよ。そんな覚悟で撃ったって、たぶん碌な事にならん。


 それに基地との学園の位置関係的に射線を塞ぐ建物が多くて、狙撃だけで殲滅は現実的じゃないのもある。せいぜい敵に気付かれるまでの1、2発の援護が効果のある限界だろう。


 その程度だったらこのカタパルトを使ってサイタマ基地に降りて、そこからATに乗ったままノンストップで学園まで走り込むのが確実ってことだ。


「ミミィも行く! わたし強いよっ?」


 訓練ねーちゃんに連絡を入れ、イングリもんぐ……じゃなくてインゲルの爺さんにATを使った出撃が可能かどうか調べてもらっていると、急にピンクが騒ぎ出した。


 訓練ねーちゃんはサガを離れられないし、戦力になりそうなやつは確かに欲しいっちゃ欲しいが――――


「――――ATの経験は?」


「ないけど大丈夫っ」


「アホか」


 パイロットになってから今までパラディンメイルオンリーだというピンク。そんなん連れて行けるか。


 そもそも僚機にするにはおまえはまだ信用できねえんだよ。パートナーに求める資質は人によるだろうが、オレは腕より信用だ。


 Sワールドでひたすら敵を殲滅するだけの話だったらまだいいが、今回の戦闘フィールドはガキたちのいる学園。味方を巻き添えにしようとしたヤツなんざ連れていけるかよ。


「いくもん!」


「余分なATも無いんだ、諦めろ」


 オレの乗ってきたやつは足が完全に潰れちまってるし、無茶させたせいで他もあちこちガタも来てる。部品を交換して調整してなんてしてたら数時間コースだ。


「貸さんぞ。そんな義理は無い」


 ピンクはブーメラン髭を揺らして発射の段取りをしている爺さんを見たが、顔も見ずにつれない返事が返ってくるだけだった。


 まあ、ただでさえ治安のAT部隊はオレらとの交戦でガタガタだ。自分らの仕事を考えるだけでも、他所の部署に貸せるような機体なんぞ残っていないってのもあるだろうが。


「いくもん! 絶対いくもん! ATじゃなくたって、動く機体を用意すればいいんでしょ!?」


 そう言ったピンクは止めるも無く、コントロールルームを駆け出していった。


っとけぃ。あれも戦いがうまいだけのサガのクソガキだ。機体から降りたらなにも出来やせんさ」


 ピンクからも聞いたが、サガにはサガの住人にしか分からない大人とパイロットの軋轢があるんだろう。爺さんのパイロットに対する突き放し方は年季が入ったものだった。


 ……だがなぁ、昔から若いエネルギーを持て余してるガキって生命体は暴走すると厄介だ。気付けば大人の理屈に合わないおかしな結果を連れてきたりするもんだぜ?


「インゲルの爺さん、悪いが予備・・としてカプセルは2発分用意してくれ」


「……そりゃいいが、あんなもの連れて行っても面倒の種にしからんぞ? 言った通り治安はあやつにATなぞ貸さんし、やつの本来の乗機はおまえさんが見事に潰してるだろう。乗れる物は無い」


「あくまで予備・・さ。他意はない」


《ツンデレ乙》


(そういうんじゃねえよ。さて、オレらもねーちゃん説得して、ダックを整備しないとな)






 元から物持ちがいいタイプなのか、訓練ねーちゃんのATは予想通りほとんど損傷らしいものは無く、補給と操縦席のサイズ調整くらいですぐに稼働状態まで持っていけた。


 ただし問題は武装だ。スーツちゃんがこっそり手に入れたリボルバーカノンの詳細なデータを調べるに、どうもATの火器類をカプセルに持ち込んでの発射はかなり危険だと警告を受けた。


 発射の衝撃で持ち込んだ炸薬が残らず誘爆しかねないらしい。ズームパンチも液体炸薬を使うからダメだとさ。


 なにせS由来のロボットでの運用が前提のカタパルト。現実の技術のみ作られたATこいつでは相性が悪いようだ。


 しょうがねえから行きは丸腰でいく。サイタマに連絡してすぐ手に取れるマシンガンだけでも基地に置いてもらえばいいだろう。


(ねーちゃん、だいぶうるさかったな……こいつの整備より疲れたぜ)


 最終的に許可はくれたが、幼児に初めてのお使いでもさせるみたいな顔で細かい事を言われて抱きしめられてと、ガキ扱いすぎて辟易しちまったわ。


《心配されとるんやデ。昨夜に続いて連戦だし、相手はまた人間だからたまちゃんが傷つくぅ! ってネ》


(中身は人殺しなんてでもねえ、質の悪いオッサンなんだがなぁ)


 外見ガワが中坊の女だからしょうがねえとはいえ、中身とのギャップでこっちが風邪を引きそうだぜ。

 まあいくら平気だからって、無駄にキルスコアなんざ稼ぐもんじゃねえがよ。


 殺しはいいが、無意味に殺すのはよくねえ。これがオレの殺人の基本指針だ。


 脅威なら殺す。障害になるなら殺す。そうじゃないなら向かってこない限りは見逃す。いちいち敵を追い回すほどキレてはねえが、過剰に忌避するような博愛主義でもない。


 ……訓練ねーちゃんの感性のほうが人として正しいのは間違いないんだがな。


 長官ねーちゃんにしても赤毛ねーちゃんにしても、こんなドン詰まりの世界には勿体ないお人好しさ。昔からああいった人間ばかりなら、この世はもっとマシだったのかね?


 チッ、戦闘前にバカかオレは。夢でも見るようにたられば言ってるようじゃ死ぬ。現実を泳いでるだけで溺れそうな世界だろうが。


 ボクはもうあんな場所にはモドラナイ。私もやり直しなんてウンザリ――――


「たまちゃんさぁーんっ! 来て! ちょっと来て!」


 ――――あん?


 半ば強引に借り受けた保安用のAT整備設備に、さっき飛び出していったピンクがやってきた。

 ここにいるって誰から聞いたんだが。ああ、聞かずとも予想はできるか。基地でAT整備するならここだわな。


 ……寝不足のせいか? 頭痛え。


 よく分からんが原付サイズの単車に乗ってえらく興奮しているピンク。乗機の操縦形式がバイクタイプだからか、普通のバイクの扱いも慣れたもののようだ。


《うむ。おへそ・太もも・鼠径部は完全に丸出し。胸は左右から寄せて、つつましいバストでも谷間ができるようになっている。実にナイスデザイン》


(品評せんでよろしい。こいつまたパイロットスーツに着替えたのか。最初に着ていたのはクリーニングに出してまたそんなに時間は経ってないし、予備を下ろしたかね?)


《このスーツのパンツの部分は独立してるから、そこだけ替えたとか?》


「早く乗って! すっごいの見つけたの!」


「おおおおい待て、くっ付くな!」


 パンツだけ替えてもきれいなわけじゃねえぞ!? 漏らしたんだからそこ以外にも付着してるかもだろ!


《ジョークジョーク。布地に糊が残ってるし、全部下ろしたてみたいだヨ? このパイロットのスーツのインナーに見える部分は普通のショーツと同じ程度の布で、新品は糊でパリっとしてるようだネ》


(焦らせんな……)


《人によってはご褒美デスッ》


(オレにそんな性癖は無いです)


 焦らされたこともあってつい惰性になってしまい、腕を引っ張られるままにピンクが乗ってきた基地備品の電動式バイクに跨る。


 こいつのパイロットスーツは背中側がどこも硬質な素材で、腰の中央にはパラディンメイルの火器管制に繋げるコードらしいものがあった。って、プラプラと邪魔だなオイ。巻き取り機能とかないのか。


 そうしてタンデム2ケツして連れてこられたのはついさっきいたリボルバーカノン施設――――その砲弾である射出カプセルの保管庫だった。


 そこにはブーメラン髭の爺さんと、爺さんが呼びつけたらしいカノン運用のためのスタッフ数名の姿が見える。


「カプセルの準備のために中を確認したら、妙なものが出てきてな……」


 発射準備のため保管庫から取り出された2発のカプセル。


 そのひとつはロボットを格納する部位である、銃弾で言うと弾頭にあたる部分のハッチが開かれていた。


「これっ! 見て! 見てっ!」


「分かった、分かったから引っ張るな」


 あまり安全性が配慮されていない簡素なタラップの上で騒ぐな、落っこちるわ。


 興奮気味のピンクの指が指し示す開かれたカプセル。そこにはすでに先客が乗り込んでいた。


 白く輝くパラディンメイルが。







CR.<リボルバーカノン、セットアップ!>


 コントロールルームからの号令によって、地上に置かれた偽装用のオブジェがせり上がり、その地下に眠っていた過去の権力者たちの悪意が轟音と共に目を覚ます。


CR.<シリンダーセット! 1、2!>


 用意された2機のロボットたちは縦置きに配置された砲弾型カプセルに格納され、速やかに巨大すぎる回転式弾倉へと送られていく。


 なにせ1発が10メートル越えの超巨大砲弾。これを収められる弾倉も相応のビッグサイズだ。もはやどっちもちょっとした建物くらいのサイズがある。


 もちろん本体となる砲身部分はそれ以上。過去に超弩級と呼ばれた戦艦の主砲でさえここまでではない。


 何より頭がおかしいのは、見た目がまんまの回転弾倉式リボルバーという点だろう。


 もうバカを通り越して開発者の思考回路に薄ら寒いものさえ感じる。


 普通の大砲じゃダメだったのかよ。なんだよ拳銃型って。


MM.<うひー、緊張するぅ>


「こっちからは何もできないってのは恐いよな」


 自分で動かせるならどんな無茶なロボットでもまだいいが、他人任せっては恐いもんさ。


「そのロボット、ちゃんと機能してるか?」


MM.<だいじょーぶ。一応、最低限だけど動くみたい。これなら狙撃くらいはできるよぉ>


 ――――サガからサイタマに送り込む鉄砲玉2号、ピンクは大破した乗機の『レイザーエッジ』に変わって、カプセルから見つかった基地未登録の白いパラディンメイルに乗り込んだ。


 発見された当初の状況から、かなり前にカプセルに入れたままで置き去りになっていたと思われる白いパラディン。

 幸い中にパイロットの死体が入っていたりなどはせず、すぐに使えるほどの良好な状態だった。


 こいつを爺さんが見つけた時、ちょうどピンクは基地の作業用の人型重機を強奪して持ってくるという暴挙に出ていたらしい。


 その件でふたりは喧々諤々とやりあったが、ピンクは爺さんからこの機体の話が出て、予知能力者の言っていた白いパラディンメイルに間違いないと確信したようだ。


 そういやインゲル爺さんのほうには先町の予知は伝えてなかったわ。


 まーそれはともかく、こうして手に入った白いパラディンなんだがちょっとした問題があった。


(適性に血筋を要求するロボット。話には聞いていたが、実物を見るのは初めてだぜ)


 未登録とかそういう意味の問題じゃなく、単純にオレには使えないタイプの機種だったのだ。


 特殊な才能や生まれつきの適性を要求されるロボットってのは少数ながらも存在する。


 前者は超能力なんかに代表される才能。こっちは先天的でも後天的でもいいのでまだ門戸は広い部類かもな。


 後者は生まれがすべてだ。血筋とかは後付けではどうにもならん。ちなみにDNAを誤魔化す装置とかを使って乗ろうとしても、だいたいは無駄らしい。


 この白いパラディンメイルは決まった血筋の人間じゃなくても一応は動かせるのだが、これは整備士なんかが動かすための最低限の機能らしく本来の性能は発揮できそうになかった。


《他に血筋であることを示すキーアイテムもいるみたい。どっちにしても低ちゃんでは使えないナ。でもキーアイテムに関しては物質転換機で再現できるかモ》


(生まれの方はどうしようもねえんだ、意味ねえよ。しかし未登録とか、またキナ臭いもんを引いちまったなぁ……)


 サイタマの未登録機と言ったら、テイオウ。サガには未登録機の白いパラディンとリボルバーカノン。


 この列島の3都市は闇市かなにかか? こうくるとトカチも何かもってそうだなオイ。


 半端なくクソ怪しいが先町の予知で必要と出たから、カプセル射出で機体だけ持っていく事にした。未登録だからサガ基地も所有権で文句を言い辛いだろうしな。


 なのでオレ自身はやはりねーちゃんのATに乗ることにした。どんなに高性能っぽくてもまともに動いてくれなきゃ困るんでよ。


 で、そこに手を挙げたのがピンクである。オレが乗らないなら自分が白いほうに乗るってな。基地の人型重機を盗難してくるあたり、代えのパラディンは自前で調達できなかったようで渡りに船ってところだったようだ。


 まあ、ロボットと巡りあわせの縁があるのもパイロットの資質だ。やっぱ天才肌は運もあるってことだろうよ。


「ピン……、ミミィ、着いたらまず照準調整ゼロインして指定した狙撃位置についてくれ。サイタマ基地にはもう話はつけてある」


MM.<了解りょうかーい。ミミィのブーメランエッジ、今日はたまちゃんさんに使ってもらってねっ。ミミィは狙撃班なのだーっ>


(変なテンションだな、大丈夫かこいつ? ……白いパラディンの影響とかじゃないよな?)


《そういった機能は無いと思う。というか昨日の戦闘からしてこんな感じでハ?》


 丸腰のATを積むと知ったピンクは、なぜかオレにピンクの乗機で使っていたソードを使ってくれと言ってきた。


 パラディンメイル用の装備はATにはかなり大きい。7メートルサイズ用のソードは片手用でも両手用並みの大きさがある。


 ただパラディンメイルは装甲材質が水に浮くほど軽く、銃器と比べてソードなどの近接装備は同材質のためやはり極めて軽い。


 アクションディスクにモーションを入れれば、ATでも使えなくはないだろう。


 別に人間の剣士を相手にチャンバラするんじゃねえんだ、とりあえず突きと縦振り横振りが出来ればロボット戦闘なら十分だ。


 なので一応、本当に一応で発射の待ち時間の間に3パターンほど入れといた。借りた義理でな。暇だったし。


 ま、基地についたらすぐマシンガンにするがね。こいつは基地に付くまでのお守り程度さ。


 悪いなピンク。オレは狙撃は苦手なだけだが、白兵戦は嫌いなんだ。基本的にやりたくねえんだよ。


CR.<最終照準調整! 警報鳴らせ! 発射準備――――完了!>


(ボチボチか。これで死んだら間抜けもいいところだな)


《ダイジョブダイジョブ。リボルバーカノンは大正浪漫であるからシテ》


(ぜんぜん単語が結びついてないぞ)


 ――――都市侵略用のトンデモ兵器。リボルバーカノン。


 この時代においての領土拡大のメリットは『出撃枠の増加』と『プリマテリアルの獲得』。これに尽きる。


 Sワールドに突入する権利『出撃枠』とS技術を顕現化させる物質『プリマテリアル』は各都市の、厳密には基地ごとに割り振られているからだ。


 すなわち基地の掌握とは、それだけ資源調達の機会が増やせるという事。

 さらに出撃枠が豊富なら、より大型で強力なロボットを遠慮なく繰り出せる。


 プリマテリアルが潤沢であれば、それだけ装備が充実した贅沢なロボットを作り出すことも可能だ。


 また出撃枠さえ許せばザンバスターのような採算度外視のロボットも、希少価値の高い戦利品を入手するためと割り切って出撃させることも視野に入ってくる。


 ……無論、他都市に割り振った分が加わったとて、それだけで豊かになるわけではない。


 それぞれの都市の食い扶持を稼ぐための出撃枠。合わせた所でひとつの都市の必要数は変わらないのだから。


 ――――片方の都市にだけ偏らせないかぎりは。


 他の都市を占領するうま味とはすなわち属国化。出撃枠という都市運営のために必要な権利を取り上げて、物資を盾に隷属させること。


 人という生き物がより豊かになるためには、どうしても踏みつける土台がいる。そのことを現代の特権階級にいる者たちもまた、よくわかっていたのだ。


 奴隷、階級、植民地。人が人を支配し、ごく一部の者が大多数から富を吸いあげることこそ人類の繁栄と信じている。


 それはある意味で真理。平等とは競争のない世界。競わない種など滅ぶだけ。


 だとしても。


 Sワールドという未曽有の狩場を与えられたというのに、欲深き人間は他者の幸せという領土の侵略を考え続ける。それは欲が深すぎるだろう? ええ?


CR.<行くぞ、たまの嬢ちゃん! ――――リボルバーカノン! 発射ぁっ!!>


 衝撃など感じようもない。もはや世界の炸裂。一瞬で頭が白くなる。


 ――――人も世界も、本当は誰のものでもない。


 かつての統治? 偉大な指導者? そんなもの無理に押し付けるほど立派なもんかよ。終わった時代の旗なんぞ、使い古した小汚い雑巾だろうが。


 今は狩ればいいんだよ、Sワールドで。人から奪う必要なんてない。奪うべき相手は外にいる。


 こんな程度の理屈さえ理解できないなら、過去の栄光とやらと一緒に消えちまえ。オレが手伝ってやるよ。


 私がもう二度と、その下品なツラを見なくていいように。一人残らず。


 ボクが二度と生まれないように。一人残らず。

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