第217話 頼るは年の功? ブーメランヒゲの角度は30度
<放送中>
「ごきげんよろしくないようブラザー? ……ジョークだよ、そんなに熱い眼差しで睨まないでくれたまえ」
その日、どこか音程の狂った口調で話しかけてきたのは、悪夢の世界から出てきたような醜いピエロだった。
<放送中>
D区。地下の正規の土地等級の中でも一番低いこの区画には法的にグレー、あるいは真っ黒の商品を扱う伝手を持つ店がひっそりと存在している。
いわゆる暗黒街の一歩手前にある、光と闇の境界。そのか細い橋渡しのような店が。
あえて卑下した言い方をすれば半端な場所。ドブの中に入るにはまだまだ身綺麗すぎる者が、本能的に危険を察知して『ここまで』と踏み留まるための場所。
それでも悪臭に惹かれるハエのように寄りついてしまう程度には、人生がキナ臭くなった人種が利用する店。
薄氷だけに阻まれた、表と裏の間にいる半端者たちの使う店。
最後の安全弁。
ここから先に踏み込むのは人生のドン詰まりにいる生ゴミのような人間か、好奇心で破滅に向かう愚者だけである。
そんな店がある一角で『花鳥ノリアキ』という名の少年は、解消できないストレスを抱えたまま、自身の趣味である電子関係の掘り出し物を探すために訪れていた。
掘り出し物とはありていに言えば、正規ルートでは流れない違法パーツや違法データの類である。
花鳥は自分でもそういった怪しげな品を作っては、時折ここに放出して少々の小銭と自己満足を得ていた。
ゴミ同然に盛られた埃まみれのジャンク品の中には稀に関係者しか分からない目印があり、それを持って特定のやり取りをすれば本当の目当てのアイテムが店頭に開示される仕組みである。
ただしここまでやっても偽物や悪意に満ちた爆弾じみたものは多く、花鳥の持っていた端末も過去にいくつも犠牲となっている。
安全のためにテスト用の端末などで確かめてからであっても、性根のねじ曲がった製作者に作られたそれらは数多くのテストをひっそりとかい潜り、ある日壊されたくないデータや端末そのものを破壊していくのだ。
……もっとも、当の花鳥がそういった性根のねじ曲がった品を流している1人なのだが。
(あれもこれも、どれもこれも、どいつもこいつも!)
ジャンクを弄っていると指に埃と油がつくのはいつも通りの話で、花鳥がイライラさせられるのもいつも通りの話。
だが今日は特に気に入らない。つい乱暴に掴んでしまった基盤の突き出ていたピンに指を刺激され、投げ捨てるように籠へ戻す。
「おい、乱暴に扱うな兄ちゃんっ」
「うるさいよ! どうせゴミだろうが!」
まともに接客などしないクセにこういうときは注意してくる中年の店員に苛立ち、ストレスのままに暴言を吐いた花鳥。
だが相手の気配が悪くなった事を感じてすぐに店を出て行った。若く向こう気が強いとはいえ、ケンカする相手を見定める理性は残っている。
あの中年に生身の花鳥は勝てない。店にもよるが暗黒街と取引のある相手となれば関係者に腕っぷしの強い者がいるのは当然で、あの店の場合は店員の中年男がそれだろう。
そしてこういった場所では、表の店のような迷惑客にも低姿勢を保つ接客マニュアルなどありはしない。花鳥のような生意気な学生など店のスタッフルームにでも無理やり連れていかれて、顔や腹に拳でお話されるだけである。
(クソ……クソクソッ、クソクソクソッ!)
陰気な空気をまとった男子学生など、D区のこの辺りなら珍しくはない。まともな交友関係のある人間ならそもそも立ち寄らない場所である。
程度の差こそあれ、ここに訪れるのは学校や社会から浮いている者ばかり。花鳥もまたその1人だ。彼は昔から交流を持つ相手に乏しかった。
なまじ幼い頃から頭が良いために相手を見下しがちな思考のため、それが言動や態度に表れてしまい避けられたからである。
さらに生まれつきのプライドが何をするにも邪魔をする性格で、一言で言ってひねくれている。
下手に出れない。素直に謝れない。褒められない。それがますます対人関係の悪循環を起こして孤立する。
そしてこの性格を直すには彼はもう育ちすぎていた。
――――このような面倒臭い性格の花鳥に大きく変われる転機が訪れたのは、3人の異母兄弟の登場を待つ必要がある。
兄となる年上のサンダーバード。姉となるミナセ。そして2才年下で弟となる大鷹を。
十代の少年らしく日増しにあまりよくない関係となっていた母親に代わるように、3人は花鳥にとって精神的な拠り所となった。
一番初めに感情任せで大喧嘩をしたのも、むしろ『腹を割る』という意味で兄弟としての関係を構築するには好材料となったかもしれない。
大らかで逞しい兄。物腰は柔らかいのに兄弟には辛辣な姉。元気で負けん気の強い弟。
個性的な人間関係に囲まれた花鳥は、人との交流が少なかった人生で初めて自分なりの立ち位置を見出した。
それが皮肉屋のインテリ。
兄弟でチームを組んだことで、もともと興味のあったテック関連の知識を漁る職人気質の人間としての立ち位置を確立し、技術でチームメイトに貢献する役割を演じることを覚えたのである。
人はコミュニティの中で役割を持つ。役割の無い人間はそのグループにいられない。
それまでの花鳥は求められなかった。否、自分から弾かれた。
だが花鳥ノリアキというこのひねくれまくった人間は、十数年の人生で初めて兄弟というコミュニティと、チームメイトという関係を演じる役を獲得したのだ。
彼はやっと、『いてもいい』人間となった。
あるいはそのままでいれば、彼はまだ世間に受け入れられる程度の性格で落ち着いたかもしれない。
……けれど花鳥の小さな世界はすぐに崩壊することになる。最年少の弟、チームメイトの死によって。
花鳥ノリアキは自分の心から外れたネジがあるという自覚も無ければ、その行方も分かるまい。
だが確実にあの日から彼の中で歪が生まれていた。
しかしながらネジがひとつ抜けようと機械はまだ問題なく動いていた。短いながらも兄弟で温めた関係は、彼の心の土台となってまだ持ちこたえていたのだ。
だが、崩壊の切っ掛けは再び訪れる。
それを多くの人は好意的に、若かりし頃の誰にでも訪れる青春の1ページとして捉えるだろう。
あるいは青春の中で味わった苦すぎる一幕として、傷ついた心に蓋をする人もいるかもしれない。
その日、花鳥ノリアキは初めて恋を自覚した。
玉鍵たま。彼女に心を奪われて――――そして告白するまでもなく最初から散った。
どうしようもないほどに脈が無いという、ズタズタになったプライドと共に散ったのだ。
何があろうと。どんなことが起きようと。彼女は花鳥になびくことなど無い。それが嫌というほど分かってしまった。
世間も運命もそう。何もかもが自分と玉鍵の関係を否定する。それが嫌というほど分かったから。
それでも恋という花の残滓に未練を残していたけれど、彼のその生ぬるい態度こそますます彼女を遠ざけていく。
皮肉、嫌味、意地悪、強がり。
意識してしまった異性への若い男の態度としては、花鳥の言動や行動は普通かもしれない。
しかし同時にそれがよろしくない事も、多くの男性は思い知っていることだろう。
いくら気を引こうと思っての事でも、彼の態度は青臭すぎた。
諦めてはいる。諦めたはず。諦めてはいるけれど――――そんな意中の相手が、まさかの血の繋がった兄の方と仲良くしているところを見せられるのはたまらなく悔しかったから。
「ごきげんよろしくないようブラザァ? ジョークだよ。そんなに熱い眼差しで睨まないでくれたまえ」
すべてが呪わしくなったあの日もそうであったように。今日もまた悪夢は彼の前に現れる。
どこか音程の狂った口調で排水溝から話しかけてきたのは、悪夢の世界から出てきたような小汚いピエロだった。
「覚悟は決まったかね? さらなるステージが君を待っているよぉ?」
その日、彼は誰からも祝われずに17度目の誕生日を迎えた。
あれから先町の見たビジョンを頼りにパラディンのカタログを漁ったが、いずれもハッキリこれだと言えるものではなかった。
「ヴァルケン、アーネスト、グラッド、マウザー。どれも違うの? うーん」
途中からは本人さえイメージが曖昧になってきたらしく、何を見ても『分からない』状態になってしまったので打ち切るしかなかった。
いくら予知能力者だからって先町の力は望む場面を好きに見れるわけじゃないし、見たものから解釈の必要もある代物。ここで無理やりに証言を引き出す罪人みたいに追いつめてもしょうがねえ。
当人にだって正確な事は分からないんだ。責めるような事をするのは筋違いだろう。
(解釈を広げる必要があるな。先町はパラディンぽいとの判断だが、近い別物の可能性もある)
超能力を使って疲れたらしい先町を力士君が送っていき、ピンクと残されたオレは最後のデータをざっと確認して『白いパラディンメイル』の発見を切りあげることにした。
「白く塗るのはいくらでもできるけど、それじゃダメなんだよね? 難しいなー」
なまじカスタムできるだけに、これだと特定できるフォルムが見つからん。大まかな指針となる機体のプリセットは全滅だったしな。
ピンクはもう飽きてきたようで、『たまちゃんさんに合いそうな構成』とかいうのをカタログの見本映像で作り始めている、
だから実体系のクソデカいソードを積むな。一番嫌いなやつだわ。近接武装の中でもメンドクサイ系が大好きだなこいつ。切りたいならレーザー発振式とかのエナジー系で十分だろうに。
(イメージ的にスリムなロボットってのは間違いない。となるとゴツいスーパー系はまず無いはずだ。けど、それでも多いんだよなぁ……)
なんせ似たようなフォルムのロボットなんざ、大小
そもそも先町は現役のパイロットとはいえ、長官ねーちゃんみたいにロボット大好きってタイプじゃねえ。全部のロボットの系統やデータを網羅してるわけでもないだろう。
基本、自分のロボットが安泰なら他のに用は無いしな。何かあったらだいたい自分も死んでるのがパイロット。オレみたいにしょっちゅう乗機を壊してはカタログとにらめっこしてるほうが珍しいんだ。
《サイズは近いんじゃないかな? 映像として見えたなら建物とかと対比は出来ただろうしネ》
(10メートル級くらいか。サイズ的にパラディンメイルと被るから盲点かもな。見逃したかもしれねえ)
《どうなんだろう? スーツちゃんが見た限り、カタログには見当たらない気がするニィ》
(象を知らんやつに口で説明してもわっかんねえってやつだな。先町自身が映像見てもピンとこないんじゃ、そもそも見えてないオレらにはますます分からん)
人気の模型を強請られた親が見当違いのプラモデルを買ってくるやつって、こんな事情から起きる悲劇かねえ?
記号が見えても化学式が分からなければ、それが何なのかは分かりっこない。予知ってのもそんな程度の代物だと思ったほうがいいな。内包する情報を紐解けなければ出来の悪いムービーでしかねえや。
《それはいいけど、連絡した和美ちゃんから『ちょーっと無理』と言われたやん? その辺りはドドドド、ドースンノ?》
(リズムを取るな……チッ、軍に恨まれたのは失敗だったな)
先町の事を話してオレだけ一足早くサイタマに戻る、というのはねーちゃんから許可をなんとか貰えた。
だが行きのようにお行儀もクソもなく、軍用輸送機で空をカッ飛んでいくという案は難しいのが分かった。
軍から良い返事が貰えねえ。はっきり断られた訳じゃないが、要請を受け付けた軍人の感触からねーちゃんに、『これは難しそうね』とボヤかれたくらいだ。
……なんせ迎撃に上がってきたサガの戦闘機を2機も叩き落としちまってるからな。これがいたく軍の心象を悪くしたらしい。
《仮にも防衛戦力を名乗る組織がたった2機の強襲に手も足も出ないで、あっという間に都市内に王手を掛けられてもうた――――これは完全に面子が丸潰れでスナ。しかも迎撃に間に合ったのが別組織扱いの治安だもん。お顔真っ赤やろ》
(サガ軍の面子が立ってたらオレらは汚い花火になってたんだから、これはもうしょうがねえ。けど、ケツの穴の小さい連中だぜ。守りを抜いたやつ恨むより抜かれた自分たちを恥じやがれ)
《言葉が汚な過ぎですわよ、低ちゃんサマ》
(SホールファッQー)
《もっと酷くなった!?》
まあそれが無くてもいきなりサイタマ行きの軍用機をチャーターしろは、だいぶ無理があるっちゃあるか。
まだねーちゃんを含むサガ基地の暫定政府は、この都市のすべてを掌握し切れてない。その中でも実働戦力というデカいカードを持つサガ軍が一番問題だ。抵抗できるからな。
となると後は民間機での移動となるが、こっちも先日のバカ騒ぎに起因する問題で空港のフライト計画がメチャクチャで、最低でも今日のサイタマ行きは欠航だ。
無理に引っ張り込んだ対空設備やらなんやら諸々、チマチマ片づけなきゃ滑走路が空かんのだとよ。都市民の移動規制をしていたのも理由だろうな。
かと言って海路や陸路じゃ遅すぎる。陸をCARSが飛ばしてくれても最低6時間は掛かる計算らしい。
昔はもっとアクセスが良かったらしいが、都市間戦争の爪痕は地雷原や汚染という形で各地に残っていて、大きく迂回せにゃならん場所も多いからだ。
(このさいロボットはサイタマでATでも調達するとして、短距離離着陸の戦闘機でも
もちろん即座に発進できる機体ってのは限られるだろうが、サガ軍には最初にエンジン回すための高圧コンプレッサーの必要ないタイプが確かあったはずだ。
カチコミ決めるにあたって多少は戦力の分析をしてきたんだ。配備されている機動戦力についても多少は頭に入れている。
《じゃあ白いロボット探しは終了?》
(別にサガにあるロボットと決まったわけでもねえしな。案外サイタマ基地の格納庫に転がってる忘れられたポンコツ、って可能性もあるかもしれんしよ)
事実としてサガ基地のカタログに見当たらんのだ。初めから無い物だったらいくら探しても時間の無駄だろう。それより確実にある
サガ軍さんよ、どうせ恨まれてるならとことんコケにしてやらぁ。防御を抜かれたうえに今度は自軍の戦闘機を盗まれました、とでも報道されて世間に笑われちまえ。
「おお? おお! ここにいたか、若いの」
……あん? ああ、ブーメラン髭の
整備の
なんというか鉄の男って感じがする爺さんは、厳つい顔に似合わずまるで孫でも見つけたみたいな笑顔で歩いてくる。
昔は軍あたりで部下をしごいてバリバリやってたんだろうが、さすがに年相応に落ち着いたのかもしれんな。
ヒゲ
その露骨な態度をチラッとだけ見た爺さんは、軽く鼻だけ鳴らすとオレに視線を戻した。
なんかこの爺さん、昨日から妙に友好的なんだよな。ATでやりあって爺さんの部下も殺してるってのに。
戦闘が終わった後に大日本の政治家共が立て籠もっていた長官室の壁をぶち破るのにも、色々と機材や人手を貸してくれたりしたしよ。
というかこの爺さん自身が銃を持って、訓練ねーちゃんやカトちゃんらと突入してたし。
あまりに不思議だったからちょっと聞いてみたら、『こいつらにはうんざりしとったからな』とか言って、ヒゲを揺らして笑ってやがった。
脳筋っぽい見た目だし昨日の敵は今日の友、みたいな思考の持ち主なのかもしれねえ。生まれる時代を間違えたんじゃねえの? 戦国武将かよ。
「サイタマに行きたいなら協力するぞ。心当たりがある」
「……(はあ)? いいの(か)?」
どうもさっきのねーちゃんとの会話を聞かれたようで、サイタマに高速で行く手段に伝手があると言い出すブーメラン
「この年まで生きとるとな、組織の繋がりで縦にも横にも伝手は出来るし、耳にいらんことが入ってくるもんだ」
自分の耳をチュイチョイと指さした爺さんは、ここの保安隊長から過去にチラリと聞いたことがある、秘密の基地設備について思い出したという。
「今の保安の責任者、昔は儂と同じく軍にいた若造でな。ちょっとばかり面倒を見たことがある。現場で新任士官のケツ叩きをやっとった頃じゃ」
聞けばこの爺さん、治安に入る前は予想通り軍人で、退役後に草野球や社会人野球部感覚で治安部隊に入り直したクチらしい。
若造とやらのほうは軍で不祥事おこしての不名誉除隊のようなものだったらしいが、それだけに再就職の仲立ちをした爺さんに保安隊長は頭があがらんそうな。
爺さんの軍時代の最終階級は軍曹。
ただし着任間もなくの現場の勝手の分からない
地位の上下を問わず階級以上に慕われ、同じくらい恐れられる軍隊という組織の体現者。それが専属軍曹。
さすがに高齢で軍は退いたが、それでも隠居する気にはなれず治安に入り直して今やそこの隊長というのだから呆れる。
もうそういう業界でしか生きられない人間なんだろうな。死ぬまで若者のケツを叩いて、鉄火場でのたくってるに違いない。
「それは大丈夫なのか? その、法とか体裁とか」
「なに、ちょいと昔の事で
サガにカチコミくれたオレが今さら体裁を気にしたのがおかしかったのか、爺さんはデカい楽器みたいな太い声で笑ってそう答えた。突撃ラッパなんざいらねえ声量で超うるせえ。
(いやいやいや、いいのかそれ。組織的に色々とアウトだろ)
S法的にもどうなんだ? 基地の施設だぞ。ちょっとコンセントを借りるとかの騒ぎじゃねえんだが。
《マーこのままだと低ちゃんが軍用機盗んで走り出す~、しちゃうからネ。むしろ被害は少なくなるし、お互いWIN WIN でナイ?》
「なんでそこまでしてくれる?」
「ん。一言では言い辛い」
爺さんが頭の中の考えを纏めるときのクセなのか、オレの質問にV字を描くヒゲを右の指で掴み、上に上にと整えるようにしごいて困ったような顔をした。
心なしか皴の深い顔も赤い。なんだこれ。
「前からおまえさんのパイロットとしての活躍を知っているのもあれば、ひとりの兵士としてその強さに尊敬の念もある」
(うーわー気になるー。そのブーメランめいたヒゲをショリショリとしごくのをやめてくれや。それって整髪剤で固定してんの? って突っ込みたくなるだろうが)
《て、低ちゃんのツッコミとしての魂が反応している?》
(うるせぇ! 覚醒させたのはどこの誰だと思ってるっ!? 万年ボケ倒しの漫才スーツちゃんのせいだろうが! おかげでなんか照れてる爺さんとかいう、実に面倒臭い物件に突っ込みたくてしょうがねえわ!)
「だが、そうだな……一番はおまえさんがなるべく相手を殺さないように立ち回っていたことだ。そうだろう?」
「一応は。だが殺したやつもいる」
「戦ったんだ、仕方ない場面もある。儂らとて殺すつもりで迎え撃った。軍も治安もそういう生業、一方的に相手を恨むには業が深すぎる」
この爺さんは達観してるほうか。やりあっても一方的に恨むやつは大勢いるんだがなぁ。根っこから軍人って生き方と考え方が染みついているんだろう。しかし――――
「ましておまえさんはなるべく殺さんようにしていた。あれを見て儂らの相手は残虐な侵略者でも犯罪者でもない、憎むには足りない。そう思ったのだ」
――――くぅッ、爺さん的には良い話をしてるんだろうが、ブーメランヒゲと爺さんの照れ顔が気になってぜんっぜん、頭に入ってこねえ。
だ、だがとりあえずサイタマまでの足は確保できそうだ。ガキども、焦ってあんま無茶すんじゃねえぞ。
「なぁーにが守るべき民間人よっ、私たちの事なんか守んないクセに」
ここでオレの背後から顔を出したピンクが、まるで幼児みたいに舌を出して
「ふん。サイタマの若いのはともかく、サガのおまえらはすぐにパイロットである事を笠に着て問題行動を起こすからだ――――それに、我々を巻き添えにしようとしたのは聞いとるぞ」
(た、助けてくれスーツちゃん。ふん、という鼻息でピロピロしたブーメランの先端でオレはもうダメだ……)
サガの大人と子供の軋轢、みたいな深刻な場面のはずなのに。抑えよう抑えようと思うほどに笑いが込み上げちまう。
《お風呂上りはバーコードすだれみたいな感じ?》
「やめてくれ……」
今は何言われても声が震えるわ。気を抜いたら噴き出しちまう。
あれ絶対に固めてない時は口に入るだろ。寝てるときに自分ヒゲ食ってんじゃねえの? それとも寝てるときは女の髪留めみたいなのでピン止めしてるとか? ああ、クソ、耐えろ。耐えるんだオレ。
「……そうだな。比べるのはよそう。うちももう少し、いや言った端ですまん」
「ヒゲじじいー」
「っ、やめろっ」
「んぎゃ!?」
おっと。ついツッコミでピンクの頭を叩いちまったい。けどこれ以上は本当に爆笑しちまう。
あーもーやめやめ。いくらヒゲが面白くても、せっかく足を手配してくれた爺さんを見た目で笑っちまったら不義理だぜ。
「助かる(。いやマジで腹筋切れそう)。
「ふっ、おまえさんの説教なら聞きそうだな」
だからそのフッ、てのやめろ! ヒゲを早く整え直してくれ。先っぽがよれて三又になって鼻息のたびにえらい事になってんぞ。
「では行こうか。サガ基地の暗部――――都市強襲用カタパルト施設『リボルバーカノン』に」
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