第214話 流星会? 星屑の落ちた学園
<放送中>
サイタマ学園に流星会という団体が生まれたことを知るものは、学校施設という外界から閉じた社会と接点が無い者では多くない。
気取った呼び方をする者はシューティングスターと呼称するその集団の構成は、銀河の血脈を持つ未成年とその取り巻き。
つまり、かつて銀河派属に属していた人間たちである。
大日本の様々な分野に巣食っていた彼らは、その権力と財力と暴力、そして違法な行いの証拠を握りつぶせるほどの影響力によって、この島国で歪んだ栄華を極めていた。
……しかしそれもほんの少し前までの話。黒い太陽の落日は突然に訪れることになる。
白い巨人の放った金色の輝きによって。
自らが輝くために人々の命を煉獄に落としていた太陽とその銀河を構成する星々は、自ら輝く真の王のひと薙ぎで砕け散ったのだ。
――――そして落ちぶれた暴君の末路とは悲惨なものとなるのが常。
当然として彼らに吸い付いて楽しんでいた
だが彼らが見てきた多くの弱者がそうであったように、落ちぶれた彼らもまた、身を守る方法を模索してひとつ答えに行き着くことになる。
その答えとは結束。
同じ境遇の者同士で寄り集まることで、元銀河派閥の生徒や教師たちは己の身を守ることをすぐに実践した。
そしてそれが効果的であると知ると、今度は集団であることを利用して報復者たちを逆に威圧するようになったのである。
もともと復讐者たちは彼らに踏みつけられていた気弱な存在。後ろ盾となる力さえ取り戻してしまえば報復はすぐに止んだのだ。
こうしてひとつの派閥として再結集を果たした彼らは自身を『流星会』と名乗り、避難者として身を守る段階から次々と新たな目標を掲げて独自の活動を開始することになる。
目標とはすなわち彼らの銀河時代の復権。輝かしい生活をもう一度。
だが銀河派閥の崩壊によって学園においても社会においても、それまで彼らが争ってきたもうひとつの大勢力が急速に幅を利かせていた。
それが彼らの怨敵、『フロイト派閥』。
血脈主義・縁故主義の銀河とは真逆の、実力主義・成果主義の血も涙もない思想を持った冷血漢の集まりである。
実力がそぐわないという理由だけで縁故採用を弾く彼らが台頭したことで、銀河派閥にいた社会人たちが次々と会社から追われる事件が続出した。
その非道に怒りを募らせた彼らは、社会人である元銀河の親たちも取り込んで、さらに巨大化していく。
――――第三者の目から見れば能力不足なうえに不真面目な人材を首切りしただけに過ぎないが、長年それで通ってきた銀河派閥からすれば、さぞ理不尽に思えたのだろう。
その恨みは集団の規模が大きくなるほどに伝染病のように伝播し、悪質に変異し、やがて彼らは潜伏していることにさえ我慢ならなくなっていく。
そしてその日、病気の発症のごとく彼らの悪意は目に見える形でサイタマ都市に現れた。
黒い太陽はまた昇る。
落ちた星にそっと囁いた、地の底に潜む黒い鳥の戯言のままに。
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サイタマ学園の部活動には朝練というものが一部にある。それ自体はさほど珍しいものではないだろう。
参加者は少ないながらも全国大会と呼べるような企画もあり、好成績を残せば都市から懸賞金も下りるし、就職においても部活動間の伝手があれば有利になるのが道理。
そして企業のバックアップが無い新規の部活などは、関連会社の興味を引くため真剣に部活に取り組む生徒が多かった。
その中には発足して初の大きな大会を控えた、サイタマ学園に新たに発足した『AT部』も含まれる。
「なんで私がこんなことを……」
ブツブツと文句を言いながらも中古の
眼鏡着用者の多くがついクセになるブリッジを持ち上げる仕草をしながら、モニターに映る見本値に収まっていないパーツに調整を加えていく。
これが甘いとパーツ同士が動く際にこすれたりぶつかって破損の元になるので、貧乏所帯のAT部では性能を低下させてでも許容値を大きめに取っていた。
「いやー、部で風邪が流行っちゃって。それでも準備を間に合わせるには、ベルちゃんみたいな腕のいい整備に来てもらうしかなかったんですよぉ」
幸いインフルエンザのようなものではなく季節柄の風邪であったが、運悪くつみき以外が揃って罹患してしまい、人手がまったく足りなくなったのだ。
大会の日時と準備期間を考えると、たったの2日といえどATようなモーターサイクルを扱う部活にとっては大変な遅れとなる。そのためつみきは知り合い各所に拝み倒して、大会準備を手伝ってもらおうと考えたのである。
立ち上げたばかりで部費もほとんど無いAT部。元は銀河派閥と思われていて学園ではまだ立場が微妙な春日部つみき。
そこに部員が集団の風邪となっては他に頼れる選択肢は少ない。
追い詰められたつみきが思いついたのは、能力的にも信用度的にも、そして人と人の繋がりという意味でもひとつのコミュニティしか思い浮かばなかった。
つまりフロイト派閥の訓練仲間、ベルフラウたちしかいなかったのである。
「私は整備じゃなくてSワールドのパイロットなんですけど? ATだって技術練習で使ってるだけです」
パイロットメンバーの中で肯定的に請け負ったのは、つみきと比較的仲が良い『花代ミズキ』と『初宮由香』。
嫌がったのはベルフラウと、面倒くさがりな『アスカ・フロイト・敷島』だった。
だがアスカが初宮に説得されてしまい、孤立したベルフラウが疎外感を感じて折れた形だった。
「つみき先輩、このタンクで最後です」
ATの人工筋肉を動かすための化学溶液、
「あざっす。由香っちも朝から悪いね」
自分ではまだATの整備の手伝いは出来そうにないからと、率先して重い物を運んでいた初宮由香はタンク持っての往復から解放されて額の汗を軽く拭った。
「朝練が中止になって暇でしたから」
新米の初宮の訓練を見ている教官『天野和美』に外せない用ができたらしく、訓練用ロボットを使わない自主練のみのメニューを済ませた初宮たち。
そんな中途半端な時間を持て余していたところを、一年先輩で同じ教官に師事する『春日部つみき』にヘルプを頼まれたのだ。
「どうせ週2しかやってないんだから、たまにはそのまま休みでいいじゃないのよ。付き合わされるこっちの身になってほしいわ」
開いているATの操縦席からぼやき気味で顔を出したのはアスカ。これでいて電子工学にも明るく、スイッチ周りを外して整備できる知識を持っているため、中古で反応の悪い部品の入れ替えをしていた。
「助かりますよホント。あーしだけだと1機を万全に持ってくのが精いっぱいでさ。それが5機ともなるともうね、どっかに怪しいところを抱えた中古品で大会に出なきゃいけなくなるところだったから」
その万全に仕上げた白と青のカラーリングを持つ1機を見上げ、つみきは無意識にニヤニヤとした。むしろ部員の全員がこの1機に手をかけたため他が遅れたともいえる。
「中古パーツというか完全にスクラップでしょう。こっちの機体なんて軽く自己診断チェックを走らせただけで、ざっと50はエラーを吐いてますよ?」
バイオハザード前に素組みだけしていた別の機体をチェックしていたミズキが、液晶に映った赤と黄色ばかりの項目をペシペシと叩く。
「あちゃー、そっちは一旦バラさないとダメかも」
叔父の伝手でなんとか格安で手に入れたパーツだが、叔父自身からも5機分はあるが
本来は潰すだけのガラクタだけに、実働まで持っていくのにある程度の労力が必要なのは部員たちで覚悟していたが、まだまだ見積もりが甘かったとつみきは鉄臭い部室の天井を仰ぐ。
「大会のルールって5戦で3本先取なんでしょ? 2機はなんとか歩ける程度で割り切って、残りの3機で3縦するつもりで仕上げれば?」
まだ付き合わされそうな空気を感じたアスカが、つい皮肉交じりな解決策を提案する。どれもこれもまともに動かない5機にするより、ちゃんと動く3機を組みあげた方がまだ勝てるだろうと。
アスカはAT大会に詳しいわけではないが、その明晰な頭脳は要点をすでに押さえていた。
消化試合まで行うとマシンの疲弊が大きくなるため、多くのAT大会は先取制となっている。
これを利用して強豪は前半を先鋒から中堅の3機だけで進み、残った副将大将の2機を後半に温存する戦略もひとつのセオリーとして存在した。
「そんな、たまさんみたいにはいかねえっス……」
3機で3縦どころか、たった1機で5機にストレート勝ちするという超人めいたAT乗り『玉鍵たま』。
仮に彼女が勝者繰り越しルールの先鋒として出たならば、1機で個人戦も団体戦も総なめにできるだろう。
「玉鍵さんかぁ。教官から詳しく聞けなかったけど、大統領の護衛でハワイに行ってたとかなんとか。フロイトさん本当に聞いてないの?」
「だから聞いてないわよっ! あいつが付いてくなら私だってハワイに行きたかったっての!」
配線処理で使っているニッパーとペンチをカニのようにカチカチして、何度目かの同じ質問をしたベルフラウを威嚇するアスカ。
あいつもあいつよ、もうひとりくらい推薦しなさいよねバカバカバカ。
そんな恨み節を込めた独り言を始めたアスカに、この人は玉鍵さんが絡むといつも以上に面倒くさいんだから刺激しないでと、ミズキはベルを諫める視線を送った。
――――
この人工筋肉はPR溶液と呼ばれる液体の化学反応によって伸縮し、ロボットの四肢を動かす力となっているのだが、使われてるPR溶液は可燃性の液体。
発火点こそ高いものの、燃えた場合の燃焼速度は爆発的といっていい危険な側面を持つ。
そのためATを管理するには専門の区画と建物が必要であり、AT部もまた安全上の理由から学園施設から離れた場所にあった。
「……ねえ。今、ライフルの発砲音がしなかった? それに変な感じがする」
エラーログの整理をしていたミズキは、建物内であるにも関わらず持ち前の優れた知覚で外の様子に漠然とした違和感を感じた。
「ライフルって、学園で暴動でも起きたっての?」
「フロイトさん、ちょっと。――――ミズキ、どういう感じ?」
この言葉に最も真剣に反応して、アスカの軽口を止めたのはミズキの相棒をしているベルフラウである。
自分のチームメイトであるミズキは超能力に近い超感覚があり、常人より視線や害意に敏感だと知っていた。
「外。まだ遠いけど学園にどんどん嫌な気配が広まってく。すごく嫌な感じ」
「ちょ、外、
半信半疑で窓を開けたつみきは、遠くから響く特徴的な車輪音からATの、それも自分たちが使っている
「どこかの企業がAT部に機体の貸し出しに来た。とかの良い話では無いみたい――――武装してる」
転がっていたジャンク品のスコープパーツにAT用の視覚ゴーグルを取り付け、窓から外をズームしたベルフラウは、そのシルエットから銃器を手にしていることを示唆した。
「ちょっと、マジでテロかなんか?」
「テロにしても学園を襲うものですか? 学生はパイロットが多いのに……」
アスカと由香が横にきて外を眺める。スコープほどではないがアスカは目が良いので、動いているATのシルエットくらいは判別が出来た。由香はなんとなくの興味本位である。
「歩兵もいる。見る限り小銃を持ってるわ。ミズキの聞いた発砲音はあれでしょうね。ATの武装を使ったらもっと音が響くはず」
「待って。あれは『タラウス』タイプっスよ。軍や治安用なら胴体に内蔵式で11ミリのマシンガンを2丁持ってるはず」
別のゴーグルから伸ばした配線で映像を共有したつみきは、使われているATの特徴をすぐに思い出した。
あのATが手にしている銃が撮影用などのプロップガンの類で無いのなら、内蔵された銃火器も本物であろう。人が持てば重火器に分類されるそれを掃射したなら、学園の警備員などいないも同然だ。
「ガチでテロリスト? 学園の人間を人質に立て籠もる気? バッカじゃないのっ!」
「……もしかしてあれ、流星会って言われてる生徒たちが噛んでるんじゃ」
以前に初宮たちが複数の生徒に絡まれたのは、学園に作られた流星会という元銀河の生徒と教師の不気味な集まりに対抗を願われたからだった。
――――これまでの事で『F』の報復条件について、ひとつ分かっていることがある。
それはパイロット同士のイザコザであるならば、『F』は干渉してこないということ。
仮にあのテロまがいの集団の中に形ばかりでもパイロットが混じっていたのなら、同じパイロットへの攻撃も黙認される可能性があった。
つまりパイロットならばパイロットを制圧できる。学園を武力で占拠できるかもしれない。
行き着く考えにつみきを除く面々は呆れた。占拠できたとてそれからどうすると言うのだろうと。よもや学園の生徒を人質に、フロイト政権を退陣でもさせようと言うのだろうか。
無理筋だ。時間は掛かってもいずれ都市の武力に制圧されるだけだろう。
「……でも、制圧されるまでの時間に
壊れかけのためかキチキチと異音をさせるスコープからケーブルを外し、ベルフラウがつみきを見る。
後輩の視線の意味を察した2年は首をブンブンと横に振った。
「リアルファイトは成人部門しかしてないよっ、学生はブロウバトルだけ。だからAT部に銃火器は無いよ!?」
「ベル、ズームパンチだけで銃器を持ってる相手と戦うのは無茶だよ。近づくまでにハチの巣にされちゃう」
「このまま捕まったらATごとハチの巣どころか、生身のまま銃殺されかねないのよ。多少なりとも武器のある今なんとかしないと。大人しく投降したってたぶん碌な事にならないわ」
見せしめにするにも腹いせに傷つけるのも、まずは敵対しているフロイト派からに決まっている。
利用価値的にフロイト大統領の姪であるアスカはギリギリまで生かしておくだろうが、その友人であるベルフラウたちは、むしろ最初の見せしめとしてちょうどいいとさえ考えるだろう。
捕まるのは論外。ここからなんとか脱出するか、撃退するしかフロイト派の自分たちの未来は無いとベルフラウは判断した。
「まず情報がいるわね」
電子界向けの最新機器を内蔵する新調したばかりの眼鏡の弦に触れて、ベルフラウは宙空に現れたホログラフのキーボードに指を這わせた。
<放送中>
〔我々は
マイクを通して力強く演説するのは、流星会メンバーであり学園においてクラブの承認と顧問を引き受けた男性教員の父親である。
壮年の彼は最近まで軍事企業の重役の身分であったが、後ろ盾をしていた銀河の零落によって組織内で追い落とされてしまい、これまで行ってきた不正が暴かれたことで定年前に自主退職することを余儀なくされた。
なお懲戒としなかったのは不正の種類的に企業側もイメージダウンが甚だしいものであったため、それを墓場まで持っていく事を条件とした損得の結果でしかない。
校庭で演説する彼の横には2機のATがマシンガンを構えており、銃の脅しで校舎から集められた生徒や教師、学園の従業員らが強制的に男の持論を聞かされている状態である。
冷静な思考を持つ者たちからすれば、壮年の男の言い分は負けた側の妄言にしか聞こえない酷いもの。
彼らの中では銀河の支配していた時代とは日本史上まれに見ぬ素晴らしいものであり、ここに強制で集められた者たちの中にも、そんな銀河の復権を望む者が大多数のはずだと決めつけていた。
「今こそ世界に声を上げようではないか! 独裁者の支配など許さんと! 我々の民主主義を返せと! 我らは美しき銀河と共にある!」
おそらくは演説の締めであったのだろう。最後にスピーカーではなく肉声で声を張り上げた壮年の男。
だが彼が期待した人々の喝采や賛同の声は起こらなかった。おあいそで手を叩いているのは、せいぜい流星会のメンバーくらいでしかない。
だから男は手を掲げた。そして軽く前へと振る。
その合図によって流星会の持ち込んだATの1機から十数発の機銃掃射が行われ、集められていた人々の手前にバチバチと11ミリの銃弾が撃ち込まれた。
うち数発が跳弾して、予め前にくるよう並ばされていた数名の教師と、その近くにいた運の悪い生徒が悲鳴を上げて倒れる。
「我々は美しき日本の未来のため、真の国民を選別するつもりだ。この意味を君たち『将来ある若者』にもよく考えて欲しいっ」
……ひとつだけこの壮年の男を擁護するとしたなら、彼は自らの行いに大真面目であるという点だろうか。
銀河の血は薄いはずのこの男。だからこそ多少なりと有能であり、不正はしていたが企業の重役に上り詰めるだけの勤勉さはあった。
同時に薄いなりにも銀河という、悪徳と狂気の一族の血が入っていたからであろうか。
彼と彼らの根底にある
(旅行先ってのは朝飯ひとつ落ち着いて食えねえのかなぁ)
別に本当の旅行ってわけじゃねえし、ギチギチの移動計画で交通機関の時間を決めたとかでもねえけどさ。
《いちいちケンカ買うからでハ? 聞き流せばいいのに》
(こういう舐め方してくるやつを無視したら、それこそ一生舐めて掛かってくんだよ。経験上タコは初めにシメねえとダメだ。特にガキはな)
有料休憩所のメニューに佐賀名物の復刻ハンバーガーとか銘打ったのがあったんで注文した。
唐津という焼き物の名前を冠したハンバーガーで、実寸のホログラフの見本を見る限り結構デカい。特別なもんが入ってるわけでもねえようだが、卵とレタスが入ってるからまあ朝に食ってもいいだろ。
せっかくだしご当地のものをひとつくらい食っておきたくてな。どうせ二度と来ねえだろうし。
朝からハンバーガーはちょいと重いかもだが、この体は若いから平気だろう。深夜まで働いた分のエネルギーも食える時に入れとかねえと。
着替えてやってきたピンクだが、まあベラベラ喋る喋る。よくメンバーで駄弁ってる星川たちが無口に思えるくらいだ。
オレから他の都市の話をちょっと聞いて、すぐ飛びついたピンクが喉が渇いてソーダフロートを飲むまでノンストップで喋るって感じ。
まあこっちは会話の弾が少ないしいいけどな。知ってる場所なんて第二、サイタマ、ハワイくらいだ。
「たまちゃんさん……ありがと」
そんな風にサガでうるさい朝を迎えていたら、休憩所にいかにも生意気そうな顔の女のガキどもがニヤニヤしながらやってきて案の定だ。
「火の粉を払っただけだ」
席についてるこいつを貶しに来たタコ女どもを、つい挑発したら乗って来たんで残らず引っぱたいておいた。
連中の目的はオレじゃなく、対面に座ってるピンクに絡んできたようだが関係ねえ。
仮にも今はオレの連れ。そいつを目の前で貶されると、同席してるこっちも馬鹿にされたと一緒なんだよ。女ならもっと陰湿に、人目につかないトイレにでも連れ込めや。
《
(胸が無いからこれがほんとのムナグラ。ってやかましいわ。そもそも手を出されたくないなら手を出してこなきゃいい話だろ。引っぱたかれる未来を選択したのはガキどもさ)
手がイカれてるからパーでやったけどな。運が良かったなぁ、ガキども。大人だったら顎を割ってやったところだぞ。
《ピンクちゃんをバカにしてたのは低ちゃんもでショ? なのに庇うんだ?》
(状況見れば考え無しで酷いもんだが、たったひとりでも
傍観した連中の方が正しいとはいえ、バカなりによかれと思って動いたと思えばな。
頭の良いふりして何もしない、ぜんぶ他人事のやつよりオレは好きだぜ?
「――――ああ! いたいた! お嬢ちゃん!」
太い男の声がしてそちらを向くと、昨夜にATと銃を借りた保安隊員がやってきた。
昨日から働きっぱなしなんだろう、かなり汗臭え。それに声デケーよ。有料休憩所は雰囲気づくりのために優雅な音楽とか掛かってるから、デカい話し声とか大声は控えるのがマナーだろうに。
「探したぞ。放送で呼び出すのもちょっと問題があってな」
「問題? とりあえずおはよう(だ、オッサン。大人なんだから挨拶ぐらいしな)」
「あ、おお。おはよう。じゃなくてだ、ええっと……」
ピンクの方をチラッと見て『なんでこいつといるんだ?』という顔をしたオッサンだったが、用件を急ぐことを優先したようで長官室に来てほしいという。訓練ねーちゃんが呼んでるらしい。
CARSには飯食ってると言っておいたから、まずCARSに連絡してこっちに来てると言われたんだろう。サガには戦闘に来たから端末を持ってきてねえんだよな。
朝はゆっくりしたいが急ぎならしょうがねえ。ハンバーガーの利点は歩きながら食えることだ。こいつはちとソースが多いから零しそうなのが難点だが。
「ポテト食べる(か)?」
「え? いや遠慮しておくよ。それより急いでくれ」
「勿体ない」
そう言わずに頼むぜ。付け合わせのポテトまで持ってけねえし、残すのも勿体ないから手伝ってくれや。
「ミミィもいい?」
「どうぞ」
ガキが手を付ければイモはすぐに消えた。残ったバーガーだけペーパーナプキンで包んで、店を出ながら片手でかじる。
甘口のソースに黒コショウがちゃんと効いててわりとうまいな。今はガキの舌だからか、こういうソースとかのベッタリした味が一番しっくりくるぜ。
「ミミィも! ミミィも行く!」
「(あーうるせえ、)好きにしろ」
《子守り乙。のした女子たちがピンクちゃんにまた絡んでくると思ったかナ?》
(ぶっとばしたのはオレだしな。ピンクに八つ当たりをされたら目覚めが悪い。まあ今日はともかく、明日からは知らん)
道徳や宗教でどう宣おうが人間も動物の一種。自分の身を守れないやつが淘汰されるのは自然なこった。
ピンクに腕に纏わりつかれながらやってきた作戦室。昨晩のバリケードに使われていたデスクは元の位置に戻され、職員たちも普通に仕事をしていた。
デスクには4つほど親指大の穴が空いてるがね。手を痛めたのはアッパーだけじゃなくあのバカ銃のせいもあるだろうな。ついスーツちゃんに乗せられて、変にカッコつけて片手撃ちなんてしなきゃよかったぜ。
作戦室に隣接する長官室は、昨夜爆破で空けた穴が開いたままになっている。爆破の影響でドアが機能しないのでこっちを潜って中に入った。ドアがあるのに穴を通るって変な感じだな。
「おはようた……まちゃん」
ヒゲの治安隊長と打ち合わせをしていた訓練ねーちゃんが、入ってきたオレを見て挨拶をしかけ、横にいるピンクで頭の上に『?』を飛ばした顔になった。
「おはよう、ございます。こっちは気にしないで(くれ)。何か(あったか)?」
ねーちゃんもオッサン同様に若干モヤっとした顔だったが、やはり時間が無いらしく話を続けた。
「落ち着いて聞いてちょうだいね? ……サイタマでクーデターが起きたの。流星会を名乗る一団がATを使って学園を占拠したみたい」
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