第166話 命を勝ち取れ! コスモバズーカ!

D1.<きゃああああっ!?>


D2.<立て直せ夏堀! 敵に背中を向けるな!>


 戦国武将ダイショーグン。全高52.5メートルの巨体を持ち、東洋の甲冑を思わせる装甲が印象的なスーパーロボット。


 Sワールド由来の兵器の例に漏れず、その大きさに見合わぬ軽量で合身前の重量は720トンそこらしかない。


 動き回るなら軽量に越したことはないが、質量弾のような衝撃を伴う攻撃に対してはふっとばされやすいというデメリットも生じる。交通事故も軽量な方が一方的にワリを食ったりするように、跳ねられるのはいつも軽い側だ。


(思ったよりは頑丈か? ポンポン撃たれるわりにはそこまで損傷は無い)


《材質はスーパーシリコンカーボナイト合金製》


(シリコン!? 合金なのにシリコン使ってんの?)


《とりあえずそれっぽい材質名の後ろに合金とつけてるだけジャネ? 深く考えない考えない》


(純正Sワールド産ロボットすげえな……)


 こいつの最大の特徴はSワールドのフィールドそのものから本体であるダイショーグンを呼び出すという、『召喚型』であることだ。


 人類が『本星』で面倒を見ているのは分離機のスローニンのみで、ダイショーグン自体はSワールドのどこからか、合体信号を受信すると格納庫らしき物と共に出現するという謎のロボットなのだ。


《分離機がダイショーグン内部に格納されるタイプだから、なんとなく体感でダメージを実感しにくいのもあるかナ》


(ああ、そういや『合体変形』のやつはそのまま乗ってる分離機がロボットの手足だもんな)


 また、こいつはいわゆる合体機とも少し性質が異なる。


『合体』ではなく『合身』と表記されるように、スローニンの分離機をダイショーグンの胸・右足・左足内部にそれぞれ収めるのだ。まさに『合身』って訳さ。


 ドッキングタイプとしてはクンフーマスターが近いか? あれはコックピットバイクを頭部に収めるからな。


D1.<このぉぉぉぉ!>


D2.<無理に飛び込むな! 包囲されるだけだぞ!>


 まあ合体でも合身でも、サブパイロットにとってはさして違いは無いがね。操るのはメインになるキングボルト担当で、ジャックとクィーンにダイショーグンの操縦権は無いからな。


(……どうしたもんかな。一方的じゃねえか)


 戦闘、というよりこれは追いかけっこだ。頭に血が昇った夏堀はさっきから好き勝手にされている。


 敵の1機を追いかけて行っては包囲している別の敵から寄ってたかって撃たれ、踏み止まって射撃すれば棒立ちのところを強力な火器で狙われる。


 いつもの夏堀より反応が速いからまだなんとかなってるが、戦術面は稚拙の一言だ。しかも射撃の腕はあんまり変わってないしよ。オレと同じで射撃はうまくないんだよな、夏堀。


 ロボットでの射撃は生身で銃を撃つのとは少しコツが違う。動体反射より未来予測と撃つべきでない時は撃たないという、理性が必要だ。


 なんせ巨大な兵器が扱う火器だからな。強力なものほど射撃可能まで持っていくプロセスが長い物も多いし、撃った後のフォローがきかない、例えば反動で撃った側が吹き飛ぶほどだったり、ロボット側の急激なパワーダウンを招く厄介な物なんかもある。


 いくら強力でも当たらなかったらなんの意味も無い。だからこそ撃つべきでないなら撃たない理性と、撃つべきときのとっさの決断力が必要だ。


D1.<ホ、ホルスターカノン!>


D2.<それは小型の敵には向いてない! 小さい的には連射の効くスペースビームを使うんだ!>


 そして今の夏堀は薬のせいか武装の選択ミスが多く、何より我慢がきいてない。


 けど困ったことにそれをオレが指摘しても余計に意固地になるから、ヤバくてもアドバイスができねえ。向井が教えてるがアドバイスのテンポが悪い。


 いっそ今やってることはすっぱり諦めて、次の敵を指定してこの武器で撃てと教えた方がいいんじゃねえかな。でもこれを向井に教えるとそれをモニターで見て知っている夏堀は言う事を聞かなくなるから、向井経由でもオレは教えることができなかった。


D2.<逃げろ! 大型が突進してくるぞ!>


D1.<えぇ!? どっちからか言――――きゃあっ!>


 敵は全身緑色の50メートル級。どデカい頭に猛禽の足がついたようなヘンテコなフォルムの敵が推力にまかせて、そのクソデカヘッドでタックルしてくる。その突撃を諸に受けたダイショーグンが、さながらピンボールのように宇宙へと跳ねた


 味方機への誤射を気にしてるのか、全身にあるビーム砲や口に見える大口径ビームの照射に拘らないあたり、妙に玄人っぽく思えるな。前に戦ったスーパーハイドザウルスみたいに頭が良いタイプか?


 夏堀は持ち前の操縦センスでどうにか体勢を立て直し、再びタックルの気配を見せる緑頭に牽制射撃を繰り返す。


 だが敵には強力なエナジーシールドが展開されているようで、ダイショーグンのビームはことごとく弾かれ、こっちが一方的に跳ね飛ばされた。


D2.<こ、このままではっ――――>


 ワイプの向井がチラリとオレのほうを見る。


D2.<――――持ち直せ夏堀! まずは大型を躱して小型機を撃ち落とすんだ! あれは直進は早いが大きい分だけ小回りがきかない!>


 しかし、衝撃で目を瞑りながらも歯を食いしばって耐える夏堀の姿が画面越しに目に入ったようで、向井なりの分析をして夏堀にアドバイスを飛ばす。


 いい判断だ向井。夏堀を頼むぜ、いやマジで。


 ……参ったね。なんでこんなに嫌われたんだ?


(なあスーツちゃん、オレなんか夏堀にしたかね?)


《反抗期でナイ? 中学生と言ったらママンに反発するお年頃でしょ》


(だれがママンだ。同級生の子供を持った覚えはねえよ)


 ここに初宮がいればなぁ。普段は夏堀が引っ張る役だが、いざってときは初宮が主導するようだからコントロールしてくれそうなんだが。


《でも、低ちゃんがこの状況の原因のひとつではあるからね?》


(……けっ、説明書はよく見るべきだったよ、クソ)


 夏堀が逃げ足の速い敵を相手に右往左往して、50メートル級のデカブツに対して有効打を与えられていない理由。それは本人の戦術ミスの他にもうひとつある。


 その原因は――――


D1.<なんでぇ!? なんでパワーがこないの!? もっと頑張ってよぉ、ダイショーグゥゥゥン!!>


 ――――ダイショーグンを動かす動力源たる、謎のエネルギーの出力不足だ。


 スーパーロボットの動力はロボットによって様々だ。


 現実にあるものの延長線に位置する技術も多いが、中には未知の物質や理論を扱うものも少なくない。


 ゼッター光なんかは最たる例だ。降り注ぐ謎の宇宙線とやらをどうやって動力にしているのかなんて、人類の既存の技術じゃ理解できん。


 そしてこのダイショーグンもまた、特殊な性質を持つ未知のエネルギーを動力源として用いている。


(平和を愛する意志を持つエネルギー。えーと、なんとかっていう……昔の独裁者だったか芸人だったか)


《ヒムラーな。ダイショーグンは一発なのにヒムラーは覚えないノカ》


(固有名詞というか、個人名っぽいからかねぇ?)


 このアシカ、じゃなくヒムラーってエネルギーはどうも宇宙スケールの意志があるらしい。らしいってところは突っ込み勘弁だ。オレも何言ってるのかわっかんねえもん。


D1.<コスモバズーカ! ゴーブレード! ゴーアックス!>


D2.<……ダメだ。出てこない! 転送するエネルギーが足りないんだ>


D1.<もぉぉぉぉぉぉっ! なんでよぉぉぉぉぉッッッ!?>


《うちの低ちゃんがすいませぇん。ほんとうちの子は小さい頃からヤンチャな子で》


(保護者か。しかもいまいち謝ってないやつ)


 意志を持つエネルギー『ヒムラー』。その意志とやらは平和を愛し、平和を願う者に呼応して強くなる性質を持つ。


《いやー、まさか低ちゃんの性格と相性最悪とはネ》


 ダイショーグンが陥っている出力不足。その原因をスーツちゃんに調べてもらった結果、問題があるのはクィーンガーベラだった。


 より正確には搭乗者のオレだ。


 スーツちゃんの分析するところ、どうもオレの攻撃的な性格が平和主義のヒムラーのお気に召さないから、こいつは本来のパワーを出そうとしないらしい。


(いや待てや。それを言うならオレうんぬんの前に戦闘兵器に使う動力として間違ってねぇ?)


 戦うのを嫌がるエネルギーとか、スーパーロボットの動力として完全に選択ミスだろ。


《平和のために戦うロボットって事ジャネ?》


(なら別にオレでもいいだろ。応戦するだけで自分からケンカふっかけてくクチじゃねえぞ? それにパイロットやってるのもあくまで食ってくためで、戦いそのものが好きなわけじゃねえし)


 オレ自身は超がつく平和主義だぜ? 人にいらんことするタコがいるからバイオレンス寄りになるだけだっての。


《……まあ低ちゃんは別のにやたらと気に入られてるから。それもあるかもナー》


(別のってなんだよ。未知の存在に関心もたれてるとか恐ぇよ)


《それはともかく今は生き残る事を考えないと。このままだとダイショーグンでも削り殺されるデ?》


 ガードは操縦の範疇ってことなのか夏堀はそこそこうまい。それもあってなんとか致命打だけは喰らわずにすんでいる。


 だがそれも時間の問題だろう。


 損傷が増えればそれだけ機械の挙動は怪しくなる。操縦がどれだけ達者であろうとロボット側がついてこなくなれば棒立ちと一緒だ。


 サブはロボットこそ動かせないとはいえ、コンディションはモニターに表示される。ダイショーグンの各部損傷はイエローゾーンが目立ちだしていた。


(クィーンだけ合体を解けばマシになるか?)


《あまり変わらないかな? 分離機の3機がエネルギーアンプとして合身する意味もあるから。離れればそれだけで出力は3分の2だもん。それに損傷したクィーンガーベラで出るのは危険だよ。武装も怪しいし》


 先に張り切り過ぎたな。ミサイルは砲台つぶしで撃ち尽くした。機銃のビームもオーバーヒートの影響か挙動が怪しい。


D1.<私だって! 私だってぇっ! がんばってるのにぃぃぃ!>


 いよいよ夏堀の言葉に泣き声が混じり出した。


 うまくいかない現実。命の危険。味方への罪悪感。それらが心の圧となってどんどん膨らみ、耐えられなくなっていく。


D2.<夏堀、しっかりしろ! 冷静になれ! 夏堀ぃ!>


 ここまでわりと冷静だった向井も、ぼちぼち危険が許容できない範疇になってきたか。


 自分の生死が他人任せってのは恐いよな。特に戦える人間ならよ。こいつより自分のほうがマシって、心のどこかで思っちまう。


 これが合体機の、そのパイロットたちのリアルだ。


 メインはチームの命を背負う力を。サブは命運を任せる胆力がいる。


 オレたちパイロットはみんな命賭けだ。本気の生き死にを仲良しこよしの学生のお遊びでやれるわけがない。そんな甘ったれども、ギリギリのところで空中分解するのが関の山さ。


 ――――平和主義か。


 握り締めたクィーンの操縦棹には、武装を使う引き金もボタンもあるぜ? ヒムラーさんよぉ。これを何が何でも使わないのがあんたの平和主義か?


D1.<……脱出して! 2人はもういい! 脱出して! 私がなんとかするから! 私が、私が、――――私は! 寄生虫なんかじゃないからぁ!!>


D2.<ふざけるなぁッ! 全員で生きて帰るんだっ! あのときみたいに! 諦めるな夏堀ッ!>


 たとえ懸命に生きて帰ろうと頑張ってるガキがいても、てめえからすりゃ野蛮な戦いなのかよ?


 ひとりは自分が死ぬ気で味方を逃がそうとして、もうひとりはそれを感じて何が何でも付き合ってんだぜ? 醜く殿しんがりを押し付け合っていてもおかしくないのによ。


《低ちゃん?》


 コンソールに拳を打ち付ける。悪いなクィーン、おまえが悪いわけじゃないが、どうしてもな。


「御大層なエネルギーもあったもんだ。子供見殺しで何が平和の意志だ。理想がそんなに大事かよ」


 下らねえ。オレが気に入らねえならオレだけ弾けや。こっちからお断りだっての。


 ……けどなぁ、それとこれとは話が別だろ。


 平和があるからなんだよ。そんなもん人間がいなきゃ最初から平和だろうが。


 人がいて、ガキがいる。だから子供のために良い未来を作ろうって気持ちになるんだろうが。


 平和ってのはな、命のなんだよ! 理想しか見えてねえのか頭でっかちのボケナスが!


 オレと考えが違うのはいいさ。てめえの好きにすりゃいい。でもな、ここには中坊ガキが2人も乗ってんだ!


「――――子供の命くらい救って見せろ! ヒムラーだか何だか知らないが、おまえはスーパーロボットだろうが! 命のために戦え!」


《ちょ、低ちゃん?》


「目を覚ませぇ! ダイショーグン!!」






<放送中>


D3.<子供の命くらい救って見せろ! ヒムラーだか何だか知らないが、おまえはスーパーロボットだろうがぁ! 命のために戦え!>


 突如、無線から響き渡った怒声に呆気に取られ、夏堀はさっきまで絶望していたことを忘れてワイプ画面を見た。それは目には入っていたのにあまりにも必死であったために、見えていなかったもの。


(玉鍵さんが、怒ってる……)


 普段のどこか飄々とした表情を歪め、あの・・玉鍵たまが怒っていた。


D3.<目を覚ませ! ダイショーグン!!>


 無線の音量が高いわけでもないのに、その声は驚くほど夏堀の耳を、体を、心さえも突き破るように走り抜けていった。


 そしてそれは、夏堀マコトだけが感じた事では無かったのかもしれない。


D2.<――――来た!? エネルギーが!>


 うたた寝を続けていたエネルギーの目盛りが、まるで目を覚ましたように跳ね上がる。


D3.<ありがと……夏堀、ブレードだ>


「や、やることは、私が決め―――」


D3.<チームメイトの意見くらい聞け! それの何が恥ずかしい!?>


「ひっ……」


 まだ自分には向けられたことの無かった玉鍵の怒りに、夏堀は飲まれた。


 かつて彼女が弟を助けてくれた時、チンピラたちを躊躇なくボコボコにしたときの剣幕と凄惨な結末を思い出し、恐怖さえ覚える。


D3.<夏堀、メインパイロットが一番すべきことは何だ? 活躍する事か? 何もかも犠牲にして、血塗れの戦果を積み上げる事か?>


D2.<た、玉鍵、今はこの状況を――――>


D3.<メインの役割はな、何が何でもチームメイトを生きて返すことなんだよ! 命が一番の戦果だろう!?>


 死んだら何も残らない。どれだけ戦果を挙げようが、未帰還の者に報酬は支払われない。それがパイロットという職業。


 それは夏堀も向井、初宮も過去にされたこと。


 遭難したことで未帰還扱いを受け、自分たちが死に物狂いで戦った戦果を、ろくに戦わず逃げ出しただけの幼馴染が受け取った。

 それを知った時の腸が煮えくり返る思いは、幼馴染が底辺落ちした今でさえ忘れられない。


D3.<おまえの意地で仲間を殺すな! 自分もだ! 全員で生きて帰るんだ! 全員で協力して! 生きて! 戦うんだよ! 夏堀、向井、生き残るぞ!>


D2.<夏堀、死んだら何も無い! ここで死んだら、あの雪原で死んだと一緒だ。オレは、オレはまだ生きたい! まだ死にたくない!>


「玉鍵、さん……向井君……」


D3.<大型、再突進! 来るぞ夏堀! ブレード準備>


 センサーには大回りで旋回していた大型機が、ついにこちらと正対したことが分かる軌道で直進してきていた。


「――――ゴーブレード!」


 夏堀の掛け声と共にダイショーグンの右手に紫電が走り、巨大で異形な剣が現れる。その剣は先端が三又になっており、まるで海の神が持つとされるトライデントのよう。


 突き立てた獲物は逃がさぬという、狩猟者の意志を持つ剣。ゴーブレード。


 それはある意味でこのSワールドでの戦いの本質――――獲物を倒して糧を得る。狩り・・にもっとも相応しい形であるかもしれない。


D3.<すり抜け際にここを突き抜け>


 サブモニターに表示された画像にマーキングがされ、大型機の一角が丸で囲われる。それは敵のサイズからすれば小さな的だった。


「こ、こんな小さなところを、あの速度に、正面から?」


D3.<操縦のうまいお前ならできる。構えろ!>


 檄を飛ばされた夏堀の体は体育会系らしく自然と動いた。


D2.<小型機の攻撃がっ、これ以上は>


D3.<まだ耐えられる! 後はメインに任せて覚悟を決めろ! 行け! 夏堀!>


 過呼吸のようなはっはっという呼吸の後、夏堀は一気に咆哮を上げてダイショーグンを突進させた。


 その咆哮が続く限り、自分の勇気が続くというように。


 全神経を集中させてモニター上に流れる映像にすべてを賭ける。ブレードの突きこみと手放し、そして離脱のタイミングまでを、夏堀マコトの人生のなかで最大の集中力で行う。


 ――――それでもなお、夏堀の全力を、さらに強化された反射神経を持ってしても、手放しと離脱がわずかに遅れた。


D3.<っ~~~……>


 擦っていったのは左足。


 少しでも早く離脱するために左へ躱す選択をしたが、剣から手を放すことが遅れたことで突進の衝撃を受けたダイショーグンがよれ・・てしまい、上に持ち上げられた機体は足にタックルを受けたような形となってしまった。


「玉鍵さん!?」


D2.<玉鍵!>


 敵に集中していたため直前映像は見ていないが、玉鍵の様子から激突の衝撃でシートから飛び出たのだと夏堀には思われた。


 クィーンのコックピット内に叩きつけられたのだろう。彼女の白いジャージには小さくない血の染みが出来始めていた。


D3.<構うな、これで敵のエナジーシールドが消えたぞ。戻ってくるまでにうるさい小型機を倒せ! ブルーインパルサー準備>


「ぶ、ブルーインパルサー準備。玉鍵さん怪我は?」


D3.<ちょっとスイッチ周りに引っかけて切っただけだ。メインは照準とレーダーを見てろ>


D2.<脚部の損傷が激しい! 夏堀、さっさと決めろ!>


「分かってる! ブルーイ――――」


D3.<まだだ!>


 向かいの言葉を受けて、慌てて胸部の広範囲エナジー兵器を行おうとした夏堀を玉鍵は強い口調で止めた。


D3.<もっと踏み込め! おまえは射撃がうまくないだろ>


「そりゃうまくないよ!? うまくないけど撃たなきゃ絶対当たらないでしょ!」


D3.<下手なら下手でいい、当たる距離までじっくり近付けばいいんだ。これは操縦のうまいおまえなら出来る。弾もエネルギーも有限だ。下手こそ詰めろ>


 もっと、もっと詰めろ。そう言ってトリガーを押し止める玉鍵が『やれ』と言った時、夏堀は人生で初めて一発の攻撃で複数撃破を成し遂げた。


D3.<上等。本命が来るぞ、バズーカ用意>


 思わず気が抜けそうになった夏堀は、玉鍵の言葉でまだ大型機が残っていることを思い出してバズーカを転送する。


「しょ、照準……」


D3.<理屈は同じだ。下手なら当たる距離まで引き付け……>


 言葉の途中で玉鍵が咳をした。その口から血が零れたのを夏堀も向井も見逃さない。


「玉鍵さん!」


D2.<玉鍵、内臓か!?>


D3.<後だ! 集、中しろ! 一発で……決めてくれよ>


 仲間を心配させまいと咳を堪えるその健気な姿に、夏堀は目を逸らしていた心の声を直視した。


 どうしようもないほどの罪悪感を。


「私は……バカだ。自分の勝手で、とんでもない事を……」


 だが今は落ち込んではいられない。今すぐ死にたいほどの気分でも、自殺するなら後でひとりで出来る。


 今すべき事は――――玉鍵たまが教えてくれた。


 生きて帰る。仲間をなんとしても連れ帰る。雪原に取り残された自分たちさえ救いに来てくれた彼女のように。


 ひとりで宇宙にまで来てくれた、ブレイガーチームのメインパイロットのように。


 敵も味方が消えシールドが破られたことが引き金になったのか、全身のビームをろくに照準することなく、メチャクチャに放ちながら攻撃に転じてくる。


「当たれ! コスモバズーカ!」


 いくつも流れるビームの雨の中、集中した夏堀が放った青く光るエナジーバズーカの本流は見事にブレードで傷つけた頭部に命中した。


 光の直進はそのまま装甲と内部を突き破り、足元へと突き抜けて消える。


 再び交差したダイショーグンと大型機。そして背後で爆発という名の勝利が輝いた。


 ――――同じくして、不運にも強力なビームの直撃を受けて脱落したダイショーグンの左脚部。


 それは宇宙という暗黒の中に無音で落ちて――――爆発した。

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