第165話 合身! Go!

 ゲートの内部には短い七色に輝く異空間がある。その空間は回廊とか言われていて、Sワールドの各フィールドに通じるゲートがいくつも口を開けている場所だ。


 ここでの行動は陸戦機と飛行できるロボットで違いがあり、陸戦機は機体を連結したシャトルと共に飛び込む形で自動的にゲートを潜るのが普通だ。


 一方で飛行できるロボットや分離機はシャトルの誘導が無くとも、自分で飛行してゲートを潜ることもできる。まあ基本はシャトルと同期して自動でやったほうが間違いがない。手動なんてトラブルが起きて仕方なくするもんだ。


「向井、ゲートを出たらそのまま直進してくれ。こっちが前に出る」


D2.<了解。ジャックライダーは直進、クィーンガーベラの僚機に付く>


(って、モニター設定忘れてたぜ。メインモニターに僚機の通信映像が出ちまってるじゃねーか)


 クソ、発進前に通信してわかってたのにすっかり忘れてたわ。キングではもう修正してたしな。


 この初期設定したやつ何も考えてないだろ。味方からちょっと通信が入るだけで飛行中にメインモニターが使えなくなるんだぞ? 頭おかしいんじゃねえのか? 


 コンソールから通信相手をワイプで映るように設定。これでもメインモニターの一部を占拠されるから死角が出来ちまう。仮にも戦闘機だってのに、サブ座席なんかよりサブモニターを寄こせっての。


(戦闘用をぶっつけで乗りまわすもんじゃねえな)


《今さらでは? シミュレーションはしても実機はいつも即本番みたいなものだし》


(考えたら酷いもんだな。創作で素人が試作機乗り回すのと変わんねえや)


 BULLDOGの時みたいな人災もだが、実機を動かさないと出てこない不具合ってのもあるからなぁ。この辺なんとかならんもんかね『Fever!!』さんよ。そりゃ機体事故で死ぬのもパイロットらしい死に方かもだが、ちょっとフェアじゃねえだろ。


「回廊突破まで秒読み、5、4、3、2、1」


《ゲートを通過したらすぐ宇宙空間だから、操作感覚の変化に気を付けて》


(あいよ)


 この空間がどんなところかは知らないが、今は下に重力を感じているんだよな。実際ここってどこなんだか。


「ゲート突破」


 回廊内で無理に編隊を組み直さずにジャックライダー、クィーンガーベラの順で脱出する。


 やかましいくらい七色だった世界は一気に暗黒へと塗り替えられ、ライダーの後方から延びるノズルの噴射炎だけが煌々とクィーンガーベラのイエローカラーの風防キャノピー内を照らし出す。


「先行する。向井、進路そのまま」


 夏堀がこっち方向かどうかはまだ分からないが、まずは編隊を組まないとな。とりあえず暗礁地帯だけは正面に見えてるから大まかには間違っちゃいないだろう。


《戦闘光らしきものを目撃。網膜のほうに表示するね》


(さすがスーツちゃん、早速見つけてくれたか)


《ムホホホッ、もっと褒めていいのよん?》


「向井、進路修正後は全速だ。人工物らしい光が見えたほうに向かう」


D2.<もう見つけたのか。急ごう>


(当たりとは限らねえがな。スーツちゃん、真後ろの警戒を頼む。宇宙はどっから攻撃されてもおかしくねえ)


《ハイハーイ♪》


 漂ってる隕石群が邪魔で見え辛いが確かにチラチラと光るものがあるな。あの辺りまで到達するのに全力飛行で4分ってトコか?


 計測上マッハ10.9なんて高速が出せるクィーンガーベラだが、それは大気圏での話。宇宙空間の速度でマッハ10そこらはまったく遅いレベルだ。しばらく暇だな。


 Sワールド突入時の初期位置は『そのロボットの速度で敵に遭遇できる可能性が十分ある場所』になる。


 過去にブレイガーで苦労させられた宇宙戦艦までの数光年の道のりも、光速を超える速度で飛べるブレイガーだからこそ選ばれた距離ってことだ。これが花代たちの乗ってるバスターモビル辺りだったら、初期位置はもっと近い距離に出ただろう。


 この辺のさじ加減は意外とフェアなんだよな、Sワールド。だからって光年単位の彼方に出さないでほしいがね。


D2.<……玉鍵。夏堀の事なんだが>


「? 夏堀がどうした」


D2.<本当に治療できるだろうか? 綺羅星きらぼしもだが、完全には難しいはずだ>


「どうであれやることは変わらない。思い切り引っぱたいてから三島に引き渡す。治るのを期待してだ。そうだろう?」


 ややこしい話は全体を抱えず、まず順番だ。一目で諦めず目先の事をひとつひとつ片付けていくしかねえんだよ。治る治らないはもっと先の話だ。


 まずは手早くあいつを連れ帰る、今はそれだけでいい。シンプルな課題だけ考えてりゃいいのさ。


 何手先も見据えて勝手に投了する天才じゃあるまいし、オレたちバカはバカなりに腐らずやってこうぜ。


 たとえその先が詰みでもよ。


 オレたちはマスが決まりきった四角いボードの上にいるわけじゃない。生き汚く足掻いてりゃ、偶然って思わぬ間違いがあるかもしれねえじゃん。


「ダメだなんだと喚いて立ち止まったら何もかも終わる。まず届くところに手を伸ばそう(ぜ)?」


D2.<玉鍵……そうだな。雑念だった、すまない>


《悩める若人に人生の説法かの? さすがメンタル・メタル・ダンディ》


(誰の精神が金属製だ。そんな御大層なもんじゃねーよ……ナーバスになってるガキにこっちまで引っ張られたくねえだけだ)


 精神が弱るとコンディションも下がる。ただでさえ味方を助けに行くなんて面倒な事をするのに、揃ってお通夜でどうするよ。そんなメンタルじゃ全滅しち――――


「――――《散開Break!》」


 モニターに映るまだまだ遠い暗礁地帯。そのどこを眺めているわけでもない視界の片隅からゾワッと感じた瞬間、躊躇いなく操縦棹を横に倒した。


 クイーンの風防キャノピー横を抜けた発光体によって、一瞬だけフラッシュを焚かれたように操縦席が光に包まれ、小刻みな破裂音が聞こえた。


 エナジー照射!? 揺らぎのある巨大なピンクの光線がオレたちの直近を走り抜けていったぞ! バチバチと聞こえたのはクィーンのシールドに当たった加速された粒子のカスじゃねえのか?


D2.<なんだっ、今のは!?>


「砲撃だ! 回避運動をするぞっ! 向井、なんとしてもついて来いよ!」


 クッソッ、こっちの光学限界か! モニター上じゃ相手がわからねえ! レーダーも範囲外、いや、隕石デブリが多すぎて映っても特定できない。


《エナジー出力特大の粒子加速砲と予想。これ50メートル級でも1発で沈む威力だよ! 絶対当たっちゃダメなやつ!》


(おっかねえもん撃ってきやがる! 据え付け型の大砲か何かか? まさかとは思うが本当にあのとき逃がした基地じゃねえだろうな!)


 チョロチョロ動くものがぶら下げて回る大砲より、どっしりした足場に据え付けた固定砲台の方がよっぽど強力で正確な照準の武装を運用できるのは道理だ。厄介なもん持ってやがる。


 冗談じゃねえ。あんなもんこっちの射程外からバカスカ撃たれ続けたらたまんねえぞ。


《さすがに今のは何門も無いみたい。むしろ必中のつもりの1発だったんでない?》


(そりゃ朗報だ。リチャージされる前になんとか最低射程まで取りつくぞ)


 しかしあの威力、大きさによっては隕石も抜いてくる可能性がありそうだ。盾にするものは選ばないと遮蔽物ごと粉々にされちまう。これは横着せず動き続けるしかねえか。


「向井! 遅れるな! ブレーキなんざしなくていい!」


D2.<ぐ……う、無茶を言ってくれるっ>


 オレはオレが操作したように好きに動けるからまだいいが、僚機の向井からすれば高速での回避運動。

 肺が口から出そうなほど強烈な負荷を受けながら、それでもオレの軌道のトレースを求められる面倒な作業になる。


 キツイのは分かるが死にたくなかったら踏ん張れ! 悠長に飛んでたらさっきの狙いをすましたビームが来るぞ!


(スーツちゃん、敵の規模は分かるか!?)


《まだ無理。クィーンの光学解析能力ではまだ発砲の光くらいしか捕らえられないよ》


 チッ、先手を取られなきゃ数もわかんねえのか。こういう敵の規模が分からないもんにはあんま手を出したくないんだがなぁ。


 けどさっきの戦闘光の件といい、どうも夏堀はそのまま突貫しちまったくさい。飛び込むしかねえ。


 あいつ連れ帰る前に消し炭になってなきゃいいが……。


《チャージ光! さっきのと同じ攻撃っぽい。発射地点をマークしとくよ》


「そろそろ撃ってくるぞ! 一旦めくらましに隕石を横切る!」


 ちょうどいい位置に漂っている隕石を、方向舵ラダーを利かせて斜めに撫でる形で突っ切る。ここは宇宙だから正確には姿勢制御用のスラスターだがな!


D2.<うぐわっ!?>


「向井!」


《ありゃ、躱し切れずに機体の端っこを隕石に引っかけちゃったカナ。でもこれは低ちゃんのミスだぜぃ? 陰キャ君では低ちゃんみたいにはいかないよ》


「(言ってる場合か!) 回転を止めろ、向井! オートに任せろ!」


 天地が分からず立て直しが利かないような状態になった場合、無理にスロットルやスティックを動かさないでいれば、いずれコンピューター側の補正が入って自動的に姿勢が安定する。


 これは完全な手動モードでは出来ないテクニックだが、さほど操縦がうまくない向井なら半オートのはずだ。


《チャージ光、射線を切ってる低ちゃんから、照準をヨタヨタ飛びのジャックライダーに向けつつあり》


(こぉんの! 相手してないからって浮気してんじゃねえぞ!)


「向井! しばらくデカい隕石に隠れて立て直せ!」


 まごついてるジャックライダーから注意が逸れるように、あえてクィーンを晒して敵へと接近する。ほれ、まっすぐ近づいてくるヤツの方が当たるぞコラ!


《ちょ、あぶな!? 回避回避! 敵、再照準! 目標クィーン! 逃げて!》


 加速によって伸し掛かる圧力以外にチリッとくる脳の感覚を頼りにして、両手で掴んでいる操縦棹を一気にひん曲げる。


 その直後、第1射より近い距離をピンクの光が抜けていった。


《かすったぁーっ! 今チッ、ってかすったーっ!》


(うるせえ! 頭の中で騒ぐな!)


 損傷は尾翼の端っこが溶けただけ。宇宙空間じゃ別に問題ねえよ! むしろこいつなら大気圏でも問題ねえ、元より航空力学なんて無視してパワーだけで飛んでる形状なんだ。尾翼も主翼も今さらだぜ。


(向井は!?)


《なんとか立て直して退避中。次の射撃までには間に合いそう》


 よし、もうヘマすんなよ向井。囮なんざ二度やんねえからな。


《一度合流して再アタックをかける? いっそ大きく下がって、別方向から攻めてもいいかもナー》


(ダメだ、シミュレーションでのんびり教導してるわけじゃねえ。こういうのは時間をかけるほど相手の準備が整っちまうもんだ。とっとと突っ込むぞ)


 今までのオレの死因のだいたいは、こういうときに怖気づいてもたついた事が原因だ。いい加減に学習したっての。


 バッと行って、ガッと倒すだ。たぶん乱暴なほどの勢い重視がここでの正解なんだよ、Sワ-ルドって世界ではな。


《えー? 低ちゃんはまだしも陰キャ君はまず無理ゾ。激突のショックでまだパイロットがふらついてるべな》


(あの狙撃があった場合はな。オレが先行して厄介な長距離砲長物を潰しゃいいのさ。後は向井の腕でもなんとかなんべ)


「向井! 聞こえてるか!?」


D2.<……ああ、脳がまだミキサーの壁に張り付いている気分だが>


「(へっ、安っぽい映画みたいな軽口叩けるなら大丈夫だな。)向井は脳震盪が治まるまで待ってろ。長距離砲を(オレが)潰す」


D2.<待て! 1機では>


 なぁに、こうして会話してる間もクィーンは進み続けてんだ。もうこっちの光学装置でも敵の配置を捉え出してるぜ。


 ……よお、お互いこんな日に会いたくなかったよなぁ。見間違いじゃねえ、ホントに取り逃がしたあんときの基地でやんの。


(これザンバスターの時に仕留め損ねた基地だよな? なら前にあの大砲を撃ってこなかったのはどういう了見だ? 舐められたのか?)


《混戦状態では強力過ぎて撃てなかったんでナイ? 人間と違って味方撃ちはしないみたいし》


(味方の損害もコラテラルとか言える、人間って名前の邪悪な存在で悪うござんしたねっ)


《対空砲、対空機銃、ランチャーも多数確認。それに機動戦力と思しき動体群もレーダーに映ってる。数推定25、大小サイズの区別はまだつかニャイ》


 シコシコ再生産でもしてたのか? あれからそこそこ経ってるし、資材と生産拠点か組み立て設備だけでもあれば、多少は戦力も回復するだろう。


 もしくは修理中や組み立て途中で、出したくても出せなかった余りかもしれんな。


「行くぞ!」


《隕石群・火線予測ルート表示。誤差があるから信じすぎないで》


 網膜投影された隕石の流れを参考にして、可能な限り減速せずに済むルートでクィーンを飛ばす。


 映像を見る限り隕石の流れは個体ごとに一定ではないらしい。こういう暗礁ができるようなところって、もっと流れが規則正しいのかと思ったぜ。


 これ怖いのは早いのよりむしろゆっくり漂っているやつだな。一度前を塞がれちまうと長いことそのルートを飛べなくなっちまう。障壁みたいなもんだ。


 右、左、右、左、上、上、下、下、っとと。隕石の隙間隙間に対空砲の火線まで挟まってくるから油断できねえ。スーツちゃんの予測映像が無かったら隕石の間から飛び出したところを決め撃ちされているところだ。


《ランチャー圏内。敵防空火力さらに増大》


(戦闘機1機相手に大げさな! 費用対効果を考えやがれ!)


 発射されるミサイルの多くは軌道上にある隕石に当たるが、その際に飛び散った石の欠片の威力だって散弾みたいなものだ。スーパーロボットの戦闘機でも何発も貰ったら無傷とはいかない。


 加えてうまいこと隕石を抜けたミサイルはクィーンの二基あるノズルの熱に食いついてくる。これはこれで隕石表面スレスレを飛んで衝突させるくらいしか回避方法が無い。クソ、アンチミサイル兵装のひとつも積める設計にしてくれよな。


(――――見えた! 中距離ミサイルスタンバイ! ただし全ミサイルの誘導機能をカット。ロケット弾としてぶつけんぞ)


 スーツちゃんのマーキングだけだった標的が、ついに形としてその全容を現した。こりゃまたSFらしいロマンの塊みたいな巨大砲だなオイ!


 ショートカットで作ってあった項目を選択して、機体の左右に収まっている計8発のミサイルすべてのホーミング性能をOFFにする。


 積載量を気にしないでいい固定目標だ、どうせジャマーやチャフとかミサイル防御はてんこ盛りだろ。それにあいつらがそうだったように、ミサイルが敵を追ってヘロヘロ動くと却って隕石に当たっちまう。


 ならここは抜ける場所から一直線だ。クィーンの加速も合わせた質量弾として投げつけてやる!


《これならいっそ最初からロケット弾のほうがよかったかもナー》


(今さらだ。どうにもオレはミサイル系と縁が無いらしいぜ!)


 形状からするとそこまで頑丈なものでもないな。こういうデカブツはどこか故障したらすぐ撃てなくなるもんだ。


 だが狙いどころはもう決まってる。集弾性に期待してるぜ、ガーベラちゃんよ。


《大砲、チャージ光!》


「再アタックのチャンスは無い! これで決めるぞ! ――――Shoot!」


 連続して発射された8基のミサイルがクィーンを置いて大砲めがけて直進する。


 そっちの発射が先か、こっちの着弾が先か。早撃ち勝負だ!


「チッ」


 ミサイル発射のために飛行を固定した途端に対空砲の火線に舐められ衝撃と共にアラートが鳴る。ダメージはまだ深刻なものじゃないが、さすがにこれ以上はマズい。


《着弾まで2、1……撃破Splash!》


「(しゃあ!)」


 ピンクに光る筒の中に飛び込んだミサイルの1発が内側から砲を吹き飛ばした。大口開けてっからだバカヤロウ!


 となれば後はもうこんな危険地帯に用は無い。軽く夏堀を探しながら大回りで向井のところまで戻るぞ。残っている小口径のビーム機銃だけで基地なんて潰せるかい。


《敵、機動戦力接近。ほとんどは10から20メートル台だけど、1機だけ50メートル級がいるぞな》


(へっ、防空戦力がどこほっつき歩いてきたんだが。遅せーよ)


 こっちは夏堀を探しに来ただけだ。面倒な連中とは会敵しないルートでスタコラサッサだぜ。あの大砲って地上目標も潰したし、ゲートを呼ぶ権利もできたはずだ。


「夏堀! 帰るぞ! 夏堀! 応答しろ!」


 隕石群を縫って火線を切りながら無線を飛ばし続ける。最初の戦闘光があったのはこの辺りのはずなんだが……。


《無線を辿って敵も追ってきてるよ?》


(宇宙なんて暗い世界でボーボーと噴射炎出して目立ってんだから、無線があろうが無かろうが変わらな――――)


Combination!>


「――――なに!?」


 モニターに表示された『合身』のコードと同時に、握っていた操縦棹にロックが掛かる。


《隕石!》


(っっっ、こぉぉぉなクソ!)


 コンソールからロック信号を緊急解除! 間に合え! 間に合え! ぶつかるぅーっ!


 突然に受けた合身信号に応じ、編隊飛行のためのルートに自動的に移行しようとしたクィーンガーベラの挙動を手動操作で強引に解除する。それが功を奏し、隕石とわずかに接触こそしたがどうにかモロに当たることだけは免れた。


 無事だった方の尾翼が隕石に擦られて削げちまったがな! むしろ左右のバランスはいいかもしれんぜチクショウが!


「《……っぶ》」


 嫌な汗かいたぜ。だがこれで夏堀の生存は確定だ。合身のキーコードはキングボルトしか発信できない。あいつはまだ生きてる。


(夏堀はどこだ? 合身コードを拾うならもう近いはずだ)


《受信したジャックライダーの移動を確認、つまりその飛行ルートの先――――発見。敵に追いかけられてる?》


(あのバカ! 敵から逃げ回りながらダイショーグンを呼んだのか)


 数機の敵から攻撃を受けながらも決まりきった軌道で飛行するキングボルト。夏堀は理解してなかったのか? 最初から最後まで自動オートでドッキングするってことは、決まった挙動しか出来ないんだぞ。


(時空振。空間歪曲を検知。来るよ低ちゃん)


 暗黒の宇宙に突如として黒雲が吹き上がる。


 もちろんそれが大気に渦巻く雲なわけはなく、かといって雲という表現しかできないほどには雷鳴を走らせる、風雲急を告げる巨大な嵐の雲海。


 山城か。あるいは空母か。大きな『X』の文字を描いたコンテナから、ひとつの希望が放たれた。


 それは人の世を憂える混沌の黒い雲を突き抜けて。今、戦国の甲冑の如き輝く装甲を身にまとった戦士が現れる!


「ダイショーグン……ホントに来たよ」


 戦国武将ダイショーグン、ここに見参――――って口上たれてる場合じゃねえ!


(夏堀にまとわりついてる敵を散らすぞ! これじゃ合身どころじゃねえ)


 敵はどいつも近接主体の人型ロボットらしく射撃が貧弱だからまだ無事だが、このままじゃキングボルトがダイショーグンと合身できない。


 愚直な連中だぜ、仮にも50メートル級のロボットが急に出現したんだからそっちにいけよな。


「夏堀! 向井! おまえらはそのまま合身しろ! 敵はこっちで引き付ける!」


D2.<無茶だ玉鍵!? 夏堀、合体コードを解け!>


D1.<うるさぁぃッ! ダイショーグンになれば! 私だってぇッ!>


《ダイショーグンはキングボルトだけでも一応は動くし、ジャックライダーに妨害阻止を手伝ってもらう選択肢もあるよ? スーツちゃんがジャックの信号解除しようか?》


(そのぶんパワーはガタ落ちだろうが。ひとりでなんとかすらぁ)


 とはいえ小口径のビームだけじゃちょっとどうしようもない。なんとか時間を稼いでダイショーグンを戦闘力として数えられる程度にするしかねえ。


 これはもうスローニンに合体するどころじゃねえわ。ここから追ってきてる50メートル級との対戦もせにゃならん。逃げ帰るにしてもある程度は追撃してくる敵をさばかないと安全にゲートを潜れねえ。


(この機銃、オーバーブーストとかは可能か?)


《やめといたほうがいいネ。プログラム弄って強引なチャージしてもハードのほうが対応してないもの。撃てるのは1発くらいでさして威力も上がらないよ》


 ならスラスターのノズルとか弱点にでも当てるしかねーな。張り付いてるのは20メートル程度、分離機の火力でも怯ませるくらいはいけるだろ。


 合身のために軸線を合わせたキングボルト。その後方から向井のジャックライダー、そしてさらに後方から合身信号を辿ってダイショーグンがやってくる。


 ――――つまり無粋ってヤツだぜ。


 照準を合わせた敵に向けて機銃をオーバーヒートするまで撃ち続ける。1機が小爆発、撃破はしてないが離れた。2機目、推進器の一部が破損したことで大きくバランスが崩れて逸れていく。


 3機目……チッ、ビームが保たねえ。それならスーパーロボットらしい裏技を喰らえ!


「なんとかカッター!」


《ズコーッ。名前決めとこうよ》


(しょーがねえだろっ、緊急措置だ!)


 破損した尾翼の残り・・を使って、カスビームで多少は壊れた敵の背面推進器に切りつける。マシンサンダーの分離機、パトサンダーの武装でこんなんあったんでな。あっちと違って単なる接触事故だが、物理的な衝撃を伴うのは一緒だ。


《おー、ランドセルだけを切ったって感じかナ。撃破はしてないけど十分じゃネ?》


 スーパーロボットの合体こういうシーンにお前らはいらねえんだよ。あっていいのはせいぜい1、2回だ。そして初回だけは絶対に許されねえ。


(思ったよりうまくいった。このまま通常の合身パターンでいくぞ)


《オッケィ、手動だから気を付けて。クィーンガーベラ、ダイショーグン左足の下へ》


「開口部確認っ」


 クィーンのドッキング部位はダイショーグンの左足。脛の装甲が左右に開き、七色の不思議な光が漏れている箇所へとクィーンを誘導する。


 ……チッ、やられすぎた。まっすぐ飛んでるつもりでも機首がフラフラしやがる。細かい調整が難しいぜ。隣の右足で同じことやってるジャックライダーのほうはブレずにきれいなもんだ。


《じわりと高度上げ、合身に向けてクィーンガーベラ変形開始》


 身を縮めるような形でコンパクトになったボディが七色の世界に包まれ、ドッキング。ダイショーグンのブ厚い装甲に包まれる。


 そしてダイショーグンの股下を通る形で一度突出したキングボルトが減速し、開口されていた胸部装甲の中へと納まっていく。


「<<《ダイ・ショーグン! Go!》>>」


 いらん汗かいたが、どうにか合身はできたな。手間かけさせやがって。


 ――――だがここで不満を溜めていたらしい向井と夏堀がやりあい出した。


D2.<夏堀! おまえ何をしたのか分かってるのか!>


D1.<私だってやれる! 私だって戦える! 私は――――寄生虫なんかじゃないッ!!>


 寄生虫? なんのことだ? いや、ベラベラ喋ってる時間は無いな。


 複数の取り巻き引き連れたダイショーグンこっちと同じサイズの敵が来やがった。


「敵が来てるぞ! 夏堀、戦闘に集中しろ!」


 今のメインはおまえだぞ。オレたちを生きて帰してくれよな。


D1.<うるっさぁぁぁぁぁいッ! 指示されなくても、指示されなくても戦えるわよぉぉぉぉぉぉっっっ!!>


「な、夏堀?」


《うーわ、刺激しないほうがいいかもヨ》


 ……やべえ、マズったか? いくら戦力が欲しいからって、薬でキレてる最中の夏堀に任せちまうのは。


 合体機の、それもメイン以外の担当の一番怖いところ。


 それは自分の命をチームメイトに預けなくちゃいけないところだ。





※元ネタのほうは合体後の掛け声はありません。

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