第146話 竜の力! ゼッタードラゴン!
Sワールドに突入。心配していたエンストや直後の遭遇戦をすることなく、無事にゲートの向こう側で編隊飛行に移行する。
「……いい天気だ。雲もほとんどないし、空が抜けるみたいに青い」
ゼッターは天候に恵まれてるのかねぇ。前の時も空に海、自然がやたらときれいだったもんだ。
《標高が高いから気温はマイナスやけん、窓開けてサンドイッチ食べたり歯磨きとかしたらダメやで?》
「しねーよ。風防開けたら気温以前に気圧変化で操縦席が荒れ狂うわ。サンドイッチなんて持ってるトコ以外は千切れ飛んじまうっての」
赤毛ねーちゃんに応じて同じフィールドを選択し、オレと数珠つなぎに突入してきたパイロットたちともここでお別れだ。あとはおのおの好きに戦う。
今回の出撃の指針は『みんなで指定ターゲットを探して狩りましょう』、以上。
それぞれのチームが広域に展開して目当ての敵を発見し、潰せそうな数ならそのまま交戦。どうしても無理そうなら近くの味方に応援を頼む。
このふわっとした方向性が、今回の作戦限定で課されたパイロットたちのルールだ。
「がんばれよー」
《声にぜんぜん気持ちが籠ってないナ》
「どうせ通信切ってるんだからいいだろ。羽くらいは振ってやるさ」
機体を軽く左右に
嫌なヤツばかりじゃないんだよなぁ。それぞれ譲れない部分があるだけで。
――――理想は大部隊で固まって舐めるように索敵し、見つけたら数に物を言わせて一気に殲滅して回るってのが安全だしよかったんだがな。
『誰が指揮をするのか? あいつに従うのは嫌だ』
『撃破報酬や戦利品報酬の算出方式は? 次なんて無さそうなのに撃破数0.5とか半端な算出は御免だ』
『どうでもいいけど参加者に嫌いな相手がいるから、うちとは別にして』
出撃前の説明会で、まあ出るわ出るわ。参加した人間の数だけ疑問や不満が出てくる。これでは部隊運用なんてとても無理だった。
Sワールドのパイロットは軍人じゃねえから、これはしょうがない。規定されたルールに従う義務はあっても、軍隊みたいに階級を担保にした命令に従う義務は無い。
戦績の上下に関わらず
《低ちゃんのお尻を追っかけてくる子がひとりくらいいるかと思ったら、誰も来ないの図》
「嫌われたもんだ。プロとして慣れ合わない姿勢は悪いこっちゃ無いがね」
《強い人の傍にいたり、大人数でいるのが安全なのにナー》
「ははっ、いつも大きな木の陰にいて、おいしいとこだけ持っていくって連中がこの中にはいないとも言えるさ。非合理でも自分の獲物は自分で狩るって考え、オレは好きだぜ」
《群れると嫌でも格付けされちゃうのを避けただけかもヨ》
「どんな業界もカーストからは逃れられねえからなぁ」
パイロットじゃないヤツには単独行動なんて危険なだけで、合理的でない判断と映るかもしれない。
けど自分が周りに格下に見られて、同調圧力で危険な役割や損な役回りに回される可能性ってのを考えれば、少しは共感してくれるだろう。
「んー、山脈ばっかでレーダーが役に立たんな。ここで例の地上目標がいるとしたら、渓谷の隙間を縫うように列を成して移動してるはずなんだが」
高い山ばかりのこの土地で、地上目標の集団が移動できるルートは少ない。どこかに相応の幅を持つ開けた道があるはずだ。山と山の隙間か?
「もうちょい降下して、詳しく覗いてみるか」
《見てこい天さん》
「誰だよ天さん、置いてかれた方が三つ目を顎で使ってんじゃねえよ」
《狭い場所だから回避運動に気を付けたマイ》
「左右は無理だな。危ねえから普段なら近づきたくない場所だ」
《味方がいれば低ちゃんがうまいことおだてて、先行させることも出来るんじゃがのぉ》
「しねーよ。グチャグチャと口を動かすくらいなら自分の乗ってるロボットを動かすわ」
《ワールドエースが説得すれば行ってくれそうなもんだけどナ。行かなかったら分かるよね? とか匂わせて》
「そっちはそっちで恫喝じゃねえか、好みじゃねえ。パシリなんざいらん」
同じ賃金で方やしんどい仕事、方や楽な仕事では不満が出て当然だ。それなのにしんどい仕事ってのは、だいたい同じような面子に回ってくる。
立場の弱いヤツにな。
誰だって楽で安全なほうがいい。世話になってる相手の頼みなら少し損するくらいの話は聞けても、初顔ばっかで共同作業じゃそれは無理だ。
それに変に引き受けると次もまたってなるのが、損な役周りの特徴だしよ。
弱者と真面目なやつ、そしてお人好しは損をするのが生き物ってもんさ。
《ミズキちゃんもベルちんも、つみきちゃんも不参加で美少女成分が足りないっス》
「アスカと同じで乗機がブッ壊れてるんだからしょうがねえだろ。春日部に至ってはATはともかく、Sワールドパイロットとしては
結局、パイロットごとの細かい利害の調整や軋轢を解消できず、共同
参加はするが人の指示には従わない。オレたちは勝手にやらせてもらうってなもんだ。
「文句垂れるの終了。ボチボチ行こうや。下見てる間に上から被られると面倒だ、スーツちゃんは上の索敵を頼む」
《アイアイ、マム》
……そういや一言もそんなこと言ってないんだが、なんかオレが指揮を執るみたいな流れになってたのはなんでだろうな? その空気のせいで、プライドの高いエリートどもの反発を買ったのも過分にあると思う。
こっちはどうでもいいがね。戦場のど真ん中でおまえ行け、いやおまえが行けと、損な役周りを押し付け合うのも間抜けな話だとオレも思うしよ。
オレたちパイロットは気紛れに、苦戦してる味方にちょっと手を貸す程度で十分さ。それさえ横取りと言われかねないギスギスした職場だがな。
あまり同期している味方が多いと、帰還の条件である最低撃破数が激増して厳しくなるって縛りもある。せいぜい気が合う同士で固まってりゃいいさ。
降下しつつ2号・3号を左右に並べて編隊飛行を行い、白い雪と青く短い草花が混在する自然豊かな山脈上空をローラーして1分。
「……当たりだ。上空でも角度によっちゃほとんど見えないスゲーとこ通ってるぞ」
《山と山の峰が傘になってるというか、元は水の通り道っぽいナ》
「大昔は海でしたって設定の場所なんかねぇ?」
山の間をすり抜けるように出来た細道と、そこを縫うように進む部隊を発見した。アニメとかじゃよくある地形だが現実にはあるもんかねえ、こんな縦長の袋小路。
「目当てのヤツは――――いた。ちょうどいいぜ」
光学レンズでモニターにズームアップしたのは、ひと際長くて大きい物体。そいつはゆっくりとだが確実に移動している。まさしく指定の標的だ。
《攻撃コース候補を表示するヨン》
スーツちゃんの機能でオレの網膜に複数のアタックルートが表示される。
敵を攻撃するとき位置関係は重要な要素だ。正面からは発見される可能性が高く、攻撃もすぐ飛んでくる。側面は攻撃機会が少ない。
この中ではひとまず旋回してコースを合わせ、背後から襲うルートが無難だろう。
「まずは爆撃で挨拶と行こう。その後は上からバルカンでつるべ打ちだ」
《ウィ。照準を爆撃用へ。投下精度の微調整は低ちゃんの腕でヨロ》
「あいよっ」
初めに胴体下に抱えてきた
切り立った崖の隙間を無誘導爆弾で抜くのはちと厳しいが、この程度ならまだオレの腕でも当てられる。
射撃は下手クソだがこの体になる前から投擲と射爆は得意なほうだ。どうしてそうなのかはオレも分からん。
弓が得意なヤツでも銃はうまくなかったり、腕の良いスナイパーがアーチェーリーに関しちゃてんでダメだったりするらしいから、それぞれの分野における照準の
「おうおう、ウジャウジャいやがる」
一番の撃破目標である大型機は隊列中央。腹を擦りそうな低車高のクセに山道を行く昆虫型。その取り巻きたちは『護衛機』という、撃破数カウントが0.1といううま味の無いおまけだ。
戦利品もさほど価値が無い物が少量出るだけで、相手にするだけ弾の無駄みたいな連中である。それだけに1回のアタックでまとめて片づけたい。
「いつもなら輸送機は面倒だから襲いたくないんだがな――――行くぞっ」
進入角度を微調整し、もっとも効率の良い位置に爆弾が落ちるよう画像を睨みながらポイントを絞っていく。
この大型か、もしくはそれに似たフォルムの中型が今回の標的。
フォルムはヤスデっていえば分かるかねぇ。多数の足がウゾウゾしていて、嫌いな人はマジで嫌いな見た目をしてる。うへぇ、機械とはいえ不気味だぜ。背中がザワザワするわ。
こっちの世界に基地があることからも分かる通り、Sワールドの敵には補給や修理の概念があるらしく戦闘型以外のロボットもいる。そのひとつがこういった輸送型だ。出てくる戦利品の種類は多様だが、多くは燃料や資材の原材料が多い。
稀に戦利品に生きた家畜が大量に出ることもあるタイプもいる。これは買取が非常に高額になるので、一攫千金を狙って輸送型を積極的に探すパイロットも多い。
けどその場合は護衛が洒落にならない数と質なのが相場だ。だから基本1人で戦うオレなんかは見つけてもなるべく避けていた。
しかもこいつらって下手に手を出すと、近くの敵や基地からスクランブルで援軍が上がってくることがあるんだわ。
Sワールドで敵の元締めをしてる誰かさんがいるとしたら、 そいつは補給部隊の重要性をよく理解していらっしゃるんだろう。敵機個々の戦い方自体は稚拙なのに、部隊として運用は意外とまともなんだよなぁ。
《先に護衛機たちを殺って、素敵な馬車に乗ったご令嬢を嬲りものにしてやろうぜぃ。うひひひ》
「おかしな脳内補完でシチュを作るな。
輸送型の戦闘能力は総じて低いものの、だいたいは戦力を補うために戦利品の価値と比例する護衛を複数連れていて、こっちが乗ってるロボットとの相性によっては厄介なことになる。
小型でも数がいるのが脅威だ。あっという間に包囲されて四方八方からハチの巣にされちまう。基本的に平面で戦ったり逃げなきゃならん陸戦機とは実は相性が悪い相手だ。
だが今回のオレは戦闘機型の分離機だ。しかも強力な爆弾を持ってきている。まずはこいつで一掃してやるぜスカポンタンども。
この大型弾頭による広範囲攻撃なら、耐久力に難のある10メートル以下の小型機くらいは1発で蹴散らせる。たとえ撃破できずとも半壊はするだろうし、ここなら爆発による崩落で生き埋めも可能だ。
さすがに大型はこの爆弾喰らっても健在だろうが、それはスーツちゃんの言う通り後でゆっくり料理すりゃ済む話だ。
さあ護衛のハエども、含水爆薬を用いた約7トンもの重さを誇る通常爆弾。俗に『DaisyCutter』と呼ばれるこの爆弾に耐えられるものなら耐えてみやがれ。
高度は標的から6000ピタリ。通常弾としては破格の威力を誇るこの爆弾を使用する場合、これ以上近づくとこっちまで被害が来ちまう。
スーパーロボットの耐久力ならもう少し高度を落としても平気だろうが、なにせ長丁場の戦いだ。できるだけ損傷は出さない方向で戦おう。
「――――ん? こりゃダメか」
《対空警戒を始めたナ。気付かれたっぽいゾ》
だが会敵のタイミングが悪く、爆撃コースに乗った途端に向こうに気付かれちまった。おかげで低威力ながらも結構な数の対空攻撃が飛んできたので仕方なく逃げる。爆撃は度胸だが無理なもんは無理だ。
クソ、前に星川たちと戦った対空機より性能が良いのか? 小さいくせにずいぶん索敵距離と射程が長いじゃねえか。護衛機の名は伊達じゃねえか。あれで撃破報酬が渋いのは詐欺だろ。
《弾幕コース、回避》
「っと」
追従する2号機と3号機が軽く被弾したようで警告音が出る。モニター上に表示された僚機コンディションは問題なし。分離機といえどそこはスーパーロボットだ、多少の被弾は問題ない。
「悪い。助かったぜスーツちゃん」
《今日の低ちゃんはぼんやりさんじゃのぅ? はっちゃんたちが心配かえ?》
「そういうわけじゃねえ、ただのポカだ。気合入れ直す」
高高度に退避して改めてアタックをかける隙を伺う……ホントは気付かれた時点でやり過ごすべきなんだがな。自分で持って来ておいて言うのもアレだが、いつまでもこの
悪いなおまえら。オレからの重たいプレゼント、嫌がらずに受け取ってくれや。
《はい捻ってぇ……OK。射爆コース軸線乗ったぜい。引き起こしのタイミングが早いと爆弾の着弾前にお腹を見せることになるから、ビビるなヨ?》
(
チッ、上空を高速でカッ飛ばしたまま、すり抜けざまに水平爆撃する予定から急降下爆撃に切り替えたのはいいんだが、両翼のバルカンポッドと爆弾が気流の邪魔をしてとにかく直進が難しい。爆弾はともかくバルカンは欲張りすぎたか?
まあいい、敵は逆関節の足回りを持つ身軽そうな護衛。けどこんな狭い場所じゃ逃げ場なんざ無いぜ。落とせば勝ちだ!
「3、2、1……投下! 引き起こし!」
急降下爆撃とは名ばかりの高高度爆撃を行う。無誘導の大型爆弾はそのサイズのせいもあってか、えらくゆっくり落ちているように見えた。
やがてシャープペンの芯を伸ばしたようなフォルムの爆弾は崖の隙間に滑り込み、一瞬遅れて轟音と衝撃波の嵐が辺りの山脈に響き渡る。
周囲の崖や山が崩れ、敵部隊のいた位置に岩の雨が降り注ぐ。鳥の群れが空に逃げ散るのが遠くの空に見えた。
《小型24はほぼ全滅。動いてるのもだいたい埋もれちゃってるから無力化したと思っていいべ。輸送機は擱座したけどまだ残存してるっぽい、固いな
「ファーストアタックとしちゃ上出来か。けど、どうすんべ。いま変に近づいたら脆くなった崖の崩落にこっちも巻き込まれそうだな」
《ドラゴンのビームでトドメをさせば?》
「死にかけに勿体無えよ。
爆発聞いてやってきたか。目的の相手じゃないが会敵した以上は戦わないわけにもいくめえ。擱座したほうは後回しだ。
「射程に入る前に1万まで上がるぞ。バルカンポッドでハチの巣にしてやる」
《ちょい待ち低ちゃん、山の様子がおかしいゾ?》
山? と思ってレーダーから目を話し、機体をやや斜めに傾けて
そこには今まさに自然を切り開いて現れた人工物。岩肌に大口を開けてせり出してきた巨大な物体用のカタパルトと思しきものが現れていた。
「っ、秘匿基地か!? ここ!?」
どうりでこんなところをゾロゾロ通ってるわけだ! あいつらはこの辺を通過中だったんじゃない、この場所にこそ用があったんだ!
「バルカンポッド
もう分離機でどうこうできる戦況じゃねえ。ロボット形態にならないと3機そこらの戦闘機なんぞ、あっと言う間にすり潰される!
《合体信号発信。2号機・3号機、合体シークエンスに移行。モード、ドラゴン》
全機が1号機を先頭に直進し、その爆発的な推力を担保に垂直上昇を開始する。揚力の助けを必要とする並の航空機には真似できない、ロケットのような機動がこいつには可能だ。
「チェンジ、ゼッタァァァァーッ、
《ドラゴン!》
(うるせぇ! 呼び名のツッコミは後にしろ!)
「ビルド・オン!」
背後から2号が迫り、それを受けて1号の形状が変化。受け入れ態勢を整える。
ドコンッという、絶対に穏便じゃないドッキングの衝撃にヒヤリとさせられる。これで自動レベルなんだからたまんねえぜ。むち打ちになるっての!
1号機と2号機がドッキングした時点で2号機に腕部が形成され、ゼッターの上半身がほぼ完成する。ゼッターシリーズは2機の合体である程度ロボットとして戦える形状になれるのも特徴のひとつだ。
続けざまに3号機が2号機へと突入し、合体後にすぐさま機体が縦に分割されて両足へと変化する。
3機が合体した事で全体に最終変形が行われ、ついにゼッター
1号機の赤をベースカラーにしたこいつが空の王者、ゼッタードラゴンだ。
《変形完了、機能に不具合なし》
「哨戒機は後回しだ、射出口を潰すぞ!」
すでに発進シークエンスを完了しつつあるはずの秘匿基地。1機目を許せば次々と出てくる。他にも出入り口はあるだろうが、ひとつ潰すだけでも敵機の発進間隔は大幅に遅延するはずだ!
「ゼッタァァァッ、ビィィィィムッ!」
こっ恥ずかしいが叫ぶとスーパーロボットの攻撃は威力が上がる! 恥も外聞もまとめて食らいやがれ!
《あ、ちょ――――》
数瞬、すべての音がかき消される。思考加速の中で脳に発された危険信号を受けてビームをカット。
だが、遅い。
無音になると耳に聞こえる感じがする、あの空気の張りつめた感覚を少しだけ感じ、そして『ボッ』という音が遅れて届く。
その音が耳に届く前。モニターには禍々しく輝くグリーンのビーム光が溢れ、照射された光線が秘匿基地の敵機射出口と思われる場所に到達した瞬間――――山が泡立って消滅した。
「……おい」
焼けた鉄板の上に落ちた一粒の水のごとく。山脈がビームの軌道に沿って一直線に蒸発した。おそらくは中身の基地ごと。
「おい、おいおいおい、なんだコレ!? 威力あり過ぎだろ!?」
いくら50メートル級スーパーロボットのビームでも限度があるぞ! 下手な大型ロボットの必殺技以上じゃねえの!?
《ドラゴンの持つ超がつく高出力のエナジー兵器、ゼッタービーム。シミュレーション試算では最大出力で旧ゼッターの10倍くらいのエネルギーなんだけど……》
「10倍どころじゃないぞ、これは」
地形が完全に変わっちまったじゃん。
このゼッター光を利用したビームは、照射を受けた物体を空間ごと消失させるというヤバイビームだ。
原理は知らんが、ゼッター光が別次元に対象を転送して、この宇宙に存在することを否定するとかなんとか。
そうして特定の物体を消失させたのち、空間だけが切り離された状態を正常化しようと『世界の修正力』とやらで戻ってくる。
その空間の移動と回復もまた時空振となって、周囲にただの装甲やバリアでは防御できない甚大な破壊エネルギーとなって被害をもたらす。
照射されるビームは熱エネルギーじゃないから、高熱による火災とかの二次被害は無い。だが物体の消失に伴う空間歪曲と正常化の余波だけで、ビームの通った周辺が丸ごと爆散しちまった。
《低ちゃんの掛け声で出力が跳ね上がったのを確認。なんかヤバイから警告しようとしたんだけど、ちょーっと遅かったナリな。ビーム照射口が負荷で溶けてもうた》
「張り切り過ぎだぞゼッター……」
あのまま照射を続けたら、ビーム照射口のあるドラゴンの頭部で高出力のゼッター光が拡散してたかもしれん。そうなったらオレたちまで消滅してた。
《まー、威力の分だけ燃費も悪いみたい。エネルギーがゴッソリ減ったぞヨ》
「なに? うわ、さっきまで満タンだったのにもう半分切ってるぞ」
《突貫で建造したって言ってたし、ビームの調整不足もあるかもナ》
「急ぎ仕事はろくな事に――――こぉんの!」
あまりの事にすっかり忘れていた哨戒機が撃ってきたミサイルを、警告音で気付いてどうにか腕部で防ぐ。
「スピンッ、リッパー!」
左右の上腕に装備された回転ノコギリ状の近接装備を用い、3機のうち2機をすり抜け様に切り付ける。ゼッターの飛行速度はそこらの飛行型の比ではない。
「アックス・ブゥゥゥメランッ!」
肩部から飛び出した白兵戦用のアックスは、ゼッターの装甲と同じ材質で出来たその場で成形できる武器だ。こいつは投げ物としても使える。
唯一生き残った鳥型の小型機が再びこちらに機首を向けるより早く、背後から投げつけた凶悪な形の斧が機械の鳥を両断した。
「ヘッ、さすが50メートル級だ。小型機は物の数じゃないな。どんどん来やがれ」
《フラグ乙。秘匿基地の地下から振動》
「はぁ!? あのビーム喰らって無事なのか!?」
エナジー兵器の防御に特化した敵か? それにしたって限度があるぞ。あんなもんどんな対ビーム兵装持ってたって防ぎ切れないはずだ。
《たぶんビームの照射角度だナ。地下の奥の方にいたからビームに舐められなかったんだと思う》
「単に外れていたから無事だったってか。それにしたって地上がこんな有様じゃ出てこれないんじゃね?」
地下からロボットを上げるエレベーターはもちろん、シャフトも何もビームで滅茶苦茶だろう。多少パワーがある程度では土中から脱出できるわけがない。
《振動、地表に近づいてくる。これは出てくるゾ》
やがて地表の一部がゴバっと大きく陥没し、一体に土ぼこりが舞い上がる。下から上がってきた物体の振動で半端な瓦礫が外れ、網が取れたがごとく地面の底がゴッソリと抜けたのだろう。
「――――タコ?」
土煙から見え隠れするのは黒く巨大な球体。そして球体を取り囲む幾本もの触手。
球体に大きな目のイラストが描かれたそれは、山岳を波のようにかき分けるタコのよう。計器に表示された大きさの推定は、実に200メートルもあった。
「見たことないタイプだ。というか陸でタコかよ、火星人かもしらんが」
《タコにしては球体すぎ。どっちかというと地球が静止しそうなデザイン》
「とりあえず何してくるかわからん。隙見て逃げるぞ」
今回は戦うべき相手じゃない。あのフォルムと巨体ならたぶん追ってこないだろう。というか、スパゲッティモンスターみたいに飛んで追っかけてこないでくれよ、頼むから。
《回避!》
「っ!」
イエローカラーの細いビームが地上から飛んできた。別方向!? あの触手が伸びて背後に回り込んできたのか?
D.<玉鍵ぃッ!>
撃ってきた方向にはいつのまにかゲートが形成されていて、消える寸前だった。そしてそのゲートを使ったらしい車両が1機。
敵味方の識別は友軍反応。とんでもない大きさの白いトレーラーが山脈の壁を物ともせずに爆走している。
「……今の声、どっかで」
やがて山脈の頂点に達したトレーラーが空中にダイブし、そのまま落下――――することなく空中を滑るように進み、変形を開始する。
《あー、あれスーパーロボットなんだ》
コンテナ部分が開くと、それはロボットの胴体と足が収まっている事が分かる。トレーラー部は頭部のようだ。
D.<ダモォッ、クレェェェスッ!>
最後の決めポーズで空手の演武のような動作をしたそのスーパーロボットは、味方表示に『ダモクレス』と表示されていた。
そして決めの掛け声でようやくパイロットを思い出す。
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