第145話 ゼッターG、発進準備よろし!

 出撃日。オレは早朝1発目の6時に出撃だ。なんか朝の時間帯っていうと、スーパーロボットの活躍する時間って気がするのはなんでだろうな? いや、オレだけかも知らんけど。人によっては深夜のほうがそういう気になるらしいし。


 乗り込んだ実機は昨日のうちに最終調整をしているからシートとかを弄る必要はない。動作のショートカットとかも入力済みだ。


 よろしくな、ゼッターG。オレもしっかり戦うからよ、おまえの兄ちゃんと同じく生きて帰してくれや。


(グリップ類はサイズに問題なし。スイッチが固いのは新品のご愛敬だ)


《低ちゃんや、親指と人差し指で輪を作ってミソ》


(あん? こうか? グリップは昨日のうちに交換してもらったからサイズちょうどいいぜ?)


《ムホッ、そのバレルサイズがジャストフィットらしいゾ?》


(なんのこっちゃ? まあいいや、操縦席は扱いに問題なし)


 ゼッターガーディアンは前モデルのゼッターロボと操縦形式に変更は無い。オレが使った最初期モデルのプロトゼッターとの若干の互いを上げるとすれば、サブとして積まれていた水素エンジンが無い分だけスイッチ周りや計器類がスッキリしているところくらいか。


(3号機でも1号機でも内装は同じか。スリー用の水圧計とか形態ごとに必要な計器はモニター表示だったしな)


 タッチパネルやヘッドアップディスプレスで事足りる昨今、ハードスイッチや単品の計測器が連なる古風な操縦席は不人気なんだよなぁ。オレはこういう古めかしいタイプも信頼性が高いからわりと好きだ。


(んじゃ、各部のチェック始めっか)


《ウィ、まず肝心かなめのゼッター炉。2号3号は共に安定値。1号だけ待機状態なのに妙に出力が高いナ? 安定値ではあるけど。張り切ってる感あるゾイ》


(1号にはパイロットオレが乗ってるからかねえ? プロトもそうだったし、使ってるパイロットの気合で出力の上がるシリーズってのは本当かもな)


 機械のパワーは積んでるエンジンが決めるもんで人の意志なんて関係ない。マシンに乗り手の気合が乗り移るなんざ幻想さ。


 けどそれは現実での話。存在自体が空想ファンタジーに片足突っ込んでるSワールドの技術なら十分ありえる。初めからパイロットの生命力やら感情をパワーに変える不思議システムを有するロボットも実際にあるのだ。


 ――――けど、それ以外のロボットも決して例外じゃない。該当する機能が無いロボットでも、たまに乗り手の強い意志に答えてくれたような動きをするやつがある。さすがにこれは死にかけたパイロットが噂する程度のオカルトだがね。


 そういう意味じゃゼッターは不思議なロボットだ。感情に起因する出力上昇は実際の数字として確認されているが、こいつの機能にパイロットの意志や気合を拾い上げるシステムなんざ欠片も積んじゃいないはずなんだ。


 開発に関わった技術者の話ではゼッターシリーズの炉心に使われているエネルギー源、『ゼッター光』に関係があるのではないかって考察してたな。


 ゼッター光は現実には存在しないSワールドのみに存在する宇宙線で、あの世界から戦利品以外の形で持ち帰れた珍しい存在だ。


 通常はSワールドから採取したものは鉱物でも動植物でも消滅してしまう。例外的なものでロボットやパイロットに『偶然ついてきたもの』程度は持ち帰れるんだがね。


 土埃なんかの粒子や水没したときに被った海水といったものは『汚れ』とでも認識されるのか、そのまま持って帰れる。ケースとして多くないが、水中用ロボットの隙間に入った魚を持ち帰ることができたこともあるようだ。


 これを受けて意図的にロボットで漁をしようとしたら釣果が消えたことを考えると、あくまで偶然しかお目こぼしはないようだな。戦って稼げってのが『Fever!!』が人類に課したルールってことだろう。


 そういう意味でもゼッター光の取得は珍しい。


 ほとんどのスーパーロボットは本星こちら側のS関係の土地である、基地の敷地ですべてが誕生する。プリマテリアルを消費して未知の超技術が開発され、とんでもない特性を持つ謎物質が創造され、それが精製されて材料になり、部品になり、組み立てられてスーパーロボットが誕生するのだ。


 これに対してゼッターは、心臓部に完全なSワールド側の物質を用いて建造された初めてのロボットになる。Sワールドの物質と本星側の物質を組み合わせて生まれたという、希少なハイブリッドシリーズだ。


 ちなみに炉心に使われたS側の物質は、偶発的にこの不可思議な宇宙線を大量に取り込んだとある大日本所属のロボットらしい。このロボットのパーツがすべてのゼッターの炉心として加工され、今のゼッターシリーズが生産されるひな型になっている。


 このゼッター光を取り込んだロボットってやつ、元はどんなロボットだったのかはボカされてんだよな。噂では他の国がゼッタータイプを作れないように原型機の情報を秘匿してるって話だった。


 そのロボットも不憫な話だぜ。よもや自分が戦わずに他のロボットの心臓部にされるとは思ってなかったろうよ。どんな気分だったんだろうな。


(武装周り、ダブルチェック頼む)


《戦闘機形態での武装は1・2が機首に小口径のビーム砲と2基のゼッターミサイル発射口。3号機のみ機銃は40ミリバルカン》


(炉心が安定したことで機銃をエナジー兵器に変更したんだったか。実体弾系のほうが好きなんだがなぁ。実体弾でも機銃が対地攻撃機みたいな口径になってる3号機もちょっとどうかと思うがよ)


《前身のゼッターと比べるとサイズが大きいからネ。その分デッカイ武器を積んだんでショ)


 ゼッターGの分離機、1号機のサイズは約15メートル。プロトは全長13メートルだから一回りデカいな。合体した場合のサイズも同様に大きくなり、前身のゼッターロボが38メートルだったのに対してゼッターGは50メートル級の大台に乗っている。


 一般に50メートルは出撃枠と戦闘力のバランスが一番いいスーパーロボットの花形サイズと言われている。過去の戦果から開発者は次世代ゼッターロボのサイズアップを決めたらしい。Gはその計画の最初を飾るロボットになるようだ。


 後進のためにも気合入れていこうぜ、ゼッターさんよ。


《? なんか出力計が一瞬跳ねたゾ》


(待て、エンストの前兆じゃないだろうな? ゲート内で墜落とか勘弁してくれよ)


《まーまーヘーキヘーキ。ただちに影響はありません》


 ホントかねえ。今回のオレの出撃はトラブルが多くて参っちまうわ。


《んだば続きだべぇっ。1号機のみの追加装備として2基のバルカンポッドを両翼下に装備。胴体下には無誘導大型爆弾が1。でも、これいる?》


(3号機のリベンジだ。前のときはトラブルのせいで付けたオプションぜんぶブン投げたからな)


 今日の目標は出撃時間いっぱいまで目標として指定された敵、戦利品に水資源を出すタイプを狩ることだ。エネルギー節約の意味でも分離機に追加装備を積んでみた。エネルギーは逐一ゼッター炉から生産されて時間経過で回復するとはいえ、交戦区域にいる間に回復できる量なんて知れてるからな。


 2号機と3号機は追従して飛行することこそ出来るものの、無人・・では戦闘はできない形式の自動操縦装置。こっちに積む意味は無いからこの2機はフラットだ。


 ――――2人は訓練ねーちゃんから厳しい言葉を食らって不合格になった。


 アスカは合体、初宮は個人戦闘に難がある。どちらも自分なりの理論でねーちゃんに食い下がったが、『甘えるな!』の一言で一蹴されていた。


 今回は数を倒す必要がある戦い。あえて合体せず戦闘機形態でそれぞれのレーダーを生かし、ローラー作戦での索敵を想定している。


 これは初宮が不合格の項目。ひとりで自由に飛ぶのはなんとかなってきたが、まだまだ編隊飛行ができるレベルじゃない。


 一方どこで戦闘していてもそこはSワールド。 合体して戦わねばならない強敵と遭遇する危険は常に付きまとう。こっちはアスカが不合格の烙印を押されている。実機で合体失敗したら事故で本当に死ぬ。


 モニターにワイプされた整備待避所の映像には、死ぬほど不満そうなアスカと死ぬほど泣きそうな初宮が映っている。額に張った熱さましのせいで可愛い顔が台無しだ。


 ゼッターに乗れないなら単機で出ると言い出した2人だったが、どっちも訓練ねーちゃんにマジビンタされて撃沈していた。


 あの場面を目撃したやつよ、暴力的とか言わないでくれよ? あれはねーちゃんが2人の体調不良を目ざとく見つけたからでもあるんだ。


 やっぱ怪盗との命賭けの戦いは2人にかなりの負担になっていたようで、そこにゼッター用の調整をした激しいシミュレーション訓練までしたために熱が出ていたんだ。そんな体調でガキ想いの訓練ねーちゃんが戦いを許す訳がない。


 仮に熱が引いてもアスカのバスターモビルは先の戦いからまだ修理中。初宮はそもそもエリート層では乗機が無い。仮に使わせてもらえてもここでは訓練してないロボットしかないだろう。とても出撃は認められない。


 ……あいつらがシミュレーターに噛り付いて遅くまで頑張ってたのは確かだ。けど頑張ったでなんでも認められるならこの世に免許や順位なんてないわけで。


(ま、今回は留守番しててくれや。さすが訓練教官、優しくても必要な判断はまともだ)


《おやん? 独り言かノ》


(ああ、いや。ガキの憎まれ役ができるのは良い大人の条件だと思っただけさ)


 必要な時に叱りもしない仲良しこよしの大人なんて碌なもんじゃねえ。本当の意味で恐さと厳しさが必要なんだよ、大人にはな。


《和美ちゃんはおっぱいも大きいし良い女ですなぁ。はっ! 低ちゃんお姉さまルート爆誕!?》


えよっ」


 どんな場面でもおちゃらけて、なんでもかんでも性癖を絡めてきやがって。


 ――――けど、こんなスーツちゃんとペアで戦うのがオレの性には一番合ってるか。形の悪すぎる凸と凹に余計なコマはいらねえわな。


00.<たまちゃん、定刻よ。スタートはあなたから>


 通信先の00基地、赤毛ねーちゃんと思ったら訓練ねーちゃんか。まあ普通は大統領がいちいち出撃に立ち会わないわな。別の仕事で大わらわだろう。


「分かった。ゼッターG、1号機。発進する。自動操縦で2号機、3号機を随時発進。予定フィールド、山岳・高原」


《作戦参加のパイロット、大統領の呼びかけなのにあんまり集まらなかったネ》


(しゃあねえさ。条件が渋かったし、自分の命張ってまで一般層のためにボランティアなんざ酔狂な真似は嫌だったんだろうよ)


 今回の出撃には全パイロットにあててサイタマ都市から戦闘フィールドと優先撃破目標が指定されている。これは都市側がしばしばパイロット個人に行う交渉で、見返りとして割増の報酬などが提示されるのが一般的だ。


 しかしサイタマは今回の指定にしょっぱい割増額しか提示していない。


 ひとりのパイロットとして私情抜きで言うと、戦うフィールドや戦う相手を選べる権利ってのはパイロットには大事なものだ。この選択が生死に直結することもある。そんな大事な権利を返上するのに小銭程度の増額では、パイロットが納得いかないのも無理はない。


 それに問題が起きているのは自分らの住むサイタマじゃなく、その下にある一般層ってのもエリートのモチベーションを下げる理由だろう。第二都市の危機なんざ対岸の火だ。


 それでも予定の8分の1も集まらなかったのはお寒い話だがな。一般層ってだけでずいぶんバカにされたもんよね。腹が立つわ。上にいるのがそんなに偉いのかしら。


<タマ! 思い切り暴れてとっとと戻ってきなさい!>


<玉鍵さん、気をつけてね! 絶対、絶対戻ってきてね!>


「…ん? ああ、任せとけ」


 せめて見送りだけでもって、ねーちゃんに頼み込んで特別に入れてもらった整備待機所の短距離通信に、まるで食いつくように2人の顔がどアップで映ってる。ホントは家で寝てなきゃダメなのによ。最後の最後で甘いよなぁ、あのねーちゃん。


(帰ったらフルーツ山盛りのサラダでも食わせてやっか)


《No! 低ちゃん、サラダはフラグやで!?》


(それは恋人とかの場合だろ? 平気平気)


《低ちゃん……恐ろしい子。でもステーキだけはマジで言っちゃダメだゼ?》


 へいへい。オレだってゲンのひとつも担いでるタイプさ。わざとゲン落とすような真似はしねえよ―――――結局は何度も死んでるわけだし、効いた試しがないんだけどな。


 分かってる。ゲン担ぎなんざどうしようもない事になったやつの気休めさ、こんなもの。


 それでもパイロットは気持ちが上向きゃ上等だ。なけなしの希望にすがるのは無様な事じゃない。


 悪あがきは生きる努力だ。生き物としてそれは使命だろ? 誰にもバカにされるいわれはえ。


 さあ行こうか、ゼッター。お前は戦うのが好きだろ? オレは生き残るのが好きだぜ。


 そのついでに知り合いの住む街のひとつくらい、手助けしてやろうや。

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