第143話 G、再び

<放送中>


 建造棟から急ピッチで搬入された機体が直ちに00基地の整備棟へと回される。


 すでにタイムリミットは24時間を切っており、できれば明日の最速出撃時刻である6時までに3機の分離機を整備、合体状態の最終調整まで仕上げねばならない。


 さらにこれにはパイロットによる各種の調整も含むため、最後は整備士とパイロットの連携も必要であった。


「機体自体は間に合いそうね」


 目が回るような忙しさの中でようやくコーヒーブレイクを楽しめる程度の時間が生まれたラングは、隣りにいる友人でしばらく自分の補佐をしてくれている天野和美に乾いた笑いを見せた。


「本当に2機はオートで運用するの? 今回だけ別チームから引っ張ってきてもよかったんじゃない?」


 淹れたてのアメリカンコーヒーを手渡しながら、天野は親友でありこのサイタマの暫定大統領となったラング・フロイトに最終確認の意味を含めて疑問を口に出す。


 訓練教官としてこういった『声に出す確認』を天野は重視しており、『言わずとも分かるべき』という考え方には否定的なほうである。


 特にラングのような天才肌にはことさら常識論を説くことを意識しており、こうした社会的な手順は彼女のような才能ある人間にこそ常人と繋がっているために必要なプロセスだと考えていた。


「あの子が真剣に嫌がるのよ。会ったばかりの人間とぶっつけ本番は勘弁してってね」


 端末でやり取りした少女のセリフとは若干違っているが、ラングの解読ニュアンスは正しく相手の心情を拾っている。


 信用できない相手のお守りは御免こうむる。それなら1人で戦ったほうがまだしもという意味のセリフを言葉少なに、しかしハッキリとした口調で断ってきていた。


 心優しい少女ではあるが戦闘面に関しての判断はシビアであり、大人に言われたら誰でもチームメイトにするというタイプではないのだろう。


「……テイオウが使えれば、それが一番よかったんだけど」


 サイタマ基地の地下に眠っていた謎多きスーパーロボット『テイオウ』。


 その力は過去から現在に至るまで、世界中で運用されているあらゆるスーパーロボットを上回る。


 全高77メートル。サイズ分類としては80メートル級に分けられる機体でありながら、秘められた戦闘力は200メートル級のザンバスターに匹敵、あるいはそれ以上というスーパーロボット。


 ――――同じ時間帯にSワールドへ向かわせる事ができるロボットの数には上限がある。


 この縛りの事をSに関わる者たちは『出撃枠』と呼び、状況によって増減する事を疑問に思った人類は、どのような条件で枠の数・・・が判定されているのかをすでに突き止めていた。


 すなわち、出撃枠を増減させる条件は『スーパーロボットのサイズ』である。機体が大きいほど劇的に出撃枠が目減りする。他にも微妙に影響がある項目もあるようだが、ほとんどはサイズで決まると言っていい。


 例えば10メートル以下ならほぼ1であるのに対して、20メートルとなると3から5。そして50メートルともなれば一気に50以上という落差が生じる。


 これを受けて多くの開発者たちは『いかに小さなサイズで強力なロボットを作るか』をテーマとして、スーパーロボットの研究開発をスタートさせることになる。


 しかし一方で、小型高性能機とは形とは別のアプローチを試みたロボットもあった。


 それが合体機だ。


 出撃枠という縛りを『分離機にしてサイズを小さくする』ことで押さえつつ、Sワールドで合体することでサイズ以上のスーパーロボットとして運用するという、抜け道の発想。


 もともと小さな機体ほど高い性能を持たせるのが難しかったこともあり、比較的簡単に高性能化できる合体機はスーパーロボットの花形となった。


 翻って、『テイオウ』は単機にも拘わらず80メートル近いという、現代の主流とは逸れた大型のスーパーロボットである。


 これはテイオウの開発がかなり昔の事で、設計思想自体が旧式に分類されるためだ。


 目玉であった主動力『次元融合システム』の開発に失敗し、計画そのものが醜聞を恐れた国の上層部高官によって闇に葬られていた。


 だが、テイオウは開発に関わった技師たちの奔走で解体そのものだけは免れ、保身に走る上層部の目を欺き地下深く眠ることになる。


 そして長い眠りの果てに、王は1人の少女の願いを受けてついに目覚めた。


 空っぽであったその胸に、少女の与えた次元融合システム心臓を携えて。


「ザンバスターほどじゃないけど、80メートル級ともなれば出撃枠との兼ね合いがねぇ……」


 サイタマだけでは足らず、トカチ・サガの出撃枠まで使わねばSワールドに送り込めないザンバスターに対して、このサイズの機体であればサイタマの出撃枠だけでギリギリ出せなくもない。


 だが、今回は人海戦術がどうしても必要なのだ。1機でも多くのスーパーロボットを送り込みたいのである。


 いかにエースの搭乗する機体といえど、枠をドカ食いする80メートルサイズはさすがに避けたかった。


「能力的にみだりに出す機体でもないし、しょうがないのかもしれないけど――――だからって代わりがコレ・・というのも思い切ったわね」


「あの子に渡すできるだけ高性能で小さい機体って言ったら、エリート層ならやっぱりこの辺でしょ」


 2人の眺めるモニターには搬入された3機の戦闘機にとりついて作業している大勢の整備士の姿がある。


 そのゴチャゴチャした画面から見え隠れするトリコロールカラーは、エリート層で独占しているあるロボットシリーズの定番のカラーリング。


 元エースパイロット、天野和美の知るどんなロボットよりも異質で不気味な、異形の合体変形システムを持つ鋼の鬼神。


 ……事故という形で、もっとも多くのパイロットの命を奪った味方殺しの怪物。


「ゼッターロボ、か。私あまり好きじゃないのよね、これ」


「テストパイロットの子供に死人が出てるからでしょ? …事故はつきものだし、改善はされてるわ」


 用意されたこの機体は合体機ながら、分離機の3機はいずれもオートマチックで有人機に追従する機能を標準搭載している。

 またどの分離機でも合体と分離を自動で可能な機能を持っており、これならば単座運用でもほぼ扱いに支障はない。


 ――――ただし、このロボットはパイロットやナビゲーターたちから『有人のほうがパワーが出る』と常々言われており、真価を発揮するには3機とも有人仕様が望ましい機体でもある。


 天野はこの点について、ラングがもう少しパイロットを説得すべきではないかと、ジトリとした目線で暗に伝える。


「……もともと単座が好きみたいだし、余計なお節介をしても気を遣わせるだけよ」


 合体ロボでも大戦果をあげた実績を持つ少女ではあるが、好みとはまた違うもの。できる限りパイロット本人の希望が優先されるのがSワールドパイロットの通例。


 それを思えば、天野の思ったような、パワーアップ足し算だけの配慮は余計なお世話かもしれない。


「それに前の時も、初めは1人で乗るつもりだったみたいよ? 実際、『スーパーチャンネル』の映像を見る限り、残り2人はちょっと足手まとい気味だったしね。あれで懲りたんじゃないかしら」


 あの少女パイロットの技量をいかんなく見せつけた戦闘は、そのまま他のチームメイトとの実力格差も浮き堀りにしていたことは記憶に新しい。


 いかな彼女でもそんな足枷のついた戦いの中で、足を引っ張る味方へ不満をため込んでいた可能性は否定できない。


「この機体は和美が渡したプロトタイプより劇的なまでに上の性能よ。どんな使い方をしてくれるのか楽しみね」


 整備による合体プロセスに移った機体がモニターに映ると、ラングはその異形の変形機構を持つロボットの雄姿に確かな手応えを感じて拳を握る。


「ちょっと不謹慎よ。技術的に同タイプで操縦形式も同じとはいえ、教官としてはこんな機種転換認めたくないんだからね。乗るのがあの子じゃなきゃ、頼んだあんたの頭を引っぱたいて止めさせてるわ」


 同系列の機体に搭乗経験があるので他の機種より乗機の変更が容易というだけで、いくら形式は同じでも性能に落差があれば並みのパイロットには戸惑いがあるものだ。


 そのわずかな戸惑いが生死を分けるからこそ、エリート層のパイロットには乗機変更に伴う一定期間の機種転換訓練の猶予が設けられているほどである。


 だというのに碌に訓練もせず、明日には実戦へ投入するというのはあまりにも乱暴だと天野には思えた。たとえワールドエースといえど、その負担は少なくないに違いないのに。


 できれば訓練期間を取ってやりたいのが教官職にいる天野の本音だった。相手が天才でも、お節介と思われても、子供が死ぬ姿を見たくないから。


「そりゃーわたしもねー……ほんっっっと、悪いと思ってるのよ。でぇぇぇもぉぉぉぉ、しょうがないじゃないぃぃぃぃー……」


 普段のパリッとした美人の顔を歪ませ、背もたれにズルズルと沈んでいく親友に天野は少し追い詰めすぎたかと後悔する。別にラングとて好き好んで彼女に無茶な要求をしたわけではない。


「星天、水星の置き土産か……銀河の血脈は消えてからも人々を苦しめるのね」


 トカチ・サイタマ・サガの直下にある3つの一般層において水質浄化を担い財を蓄えていた一族がいた。名は水星。


 銀河の下位組織『星天』の親戚筋の一族であり、これまで彼らの怠慢と不正によって一般層への真水の供給量は金額に見合わないものとなっており、下水浄化も経費削減のみに力を入れているため水質汚染は最悪の様相を呈していた。


 しかし、それでも最低限は仕事をしていた一族であったが、ラングが命名した事件コード『テイオウの粛清』によって多くの関係者が消失し、ついに完全な体制崩壊を迎えてしまったのである。


 少し前、人類はとあるSRキラー撃破による戦利品として、過去の失われていた水質浄化システムの情報を入手した。


 だがその技術を用いた浄化システムはまだまだ基礎の建造途中でしかなく、国は水星の担っていた機材をはく奪して健全に稼働させる事で当面の急場をしのぐつもりであった。


 そしてこれを独立に伴い大日本から強制で引き継いだのが、サイタマ都市とその直下である第二都市である。


 だがしかし、消失した人員の規模は深刻かつ突然であり、元から壊れかけの機材の異常に対処する事が遅れたことで、第二都市の水質浄化システムに重大な破損事故が起きてしまった。


 第二都市はこの事故により、わずか数日のうちに未曽有の水不足に陥ると予想されている。


 ……実のところ、数字の上では新造する浄化システムの稼働まで水の供給制限で凌げなくはない。


 されどフロイト大統領として制限発令をし辛い理由があった。


 新体制となったばかりのサイタマと第二には、市民の信用維持という問題が立ちはだかっているからである。


 ありていに言えば、指導者が変わったばかりのところに市民の不満が高まるような制限命令は打ち辛いのだ。


 人間は聞きたいことしか耳に入らない。たとえそれがラングのせいでなくとも、こんな不自由な思いをするなら大日本に支配されていた方がほうが良かったと思われかねない。


 ましてラングが直接治めるサイタマはまだしも、ラングの親友であり実質的に今の第二都市を仕切っている高屋敷法子には逆風が過ぎる。


 加えて、まだ大日本に属する立場のトカチ・サガとの関係が微妙な状況で再び借りを作るのも避けたい。


 何より直下の一般層都市の救済は地表のサイタマが行わなければ、サイタマは本当に孤立してしまう。


 決して多くない手札の中で、最後に頼れるのはSワールドから物資を持ち帰る現代の狩人――――スーパーロボットのパイロットたちだった。


「悪を打ち砕いてもらいましょう。今も昔も私たち人類を救ってきたヒーロー。スーパーロボットたちに」


 何よりも、ラングの治めるサイタマにはいるのだ。不可能を可能にする世界の頂点。


 ワールドエースが。






(ゼッターガーディアン。こいつがオレに用意された新しい手足か)


 夕飯の前に来た連絡で00基地へやってきたオレの前に、ひどく禍々しい力を感じさせるロボットが鎮座していた。


 未知のエネルギー『ゼッター光』を動力原とするスーパーロボット、『ゼッターロボ』シリーズ。こいつはその最新機種として納品されたばかりの代物らしい。


 コンセプトはプロトゼッターの頃から変わらず。3機の戦闘機型の分離機がドッキングする順番によって特製の違う3種類のロボットに変形するという、擬似的な万能系スーパーロボット。


 空戦を得意として、ゼッター光を利用した強力なエナジー兵器を搭載するゼッターワン


 陸戦機らしからぬ高機動を持ち、地中を掘り進むことさえ可能なゼッターツー


 そしてあらゆる過酷な環境に耐える高順応と耐久力を備え、水中戦を得手とするゼッタースリー


 ……整備の愛称はそれぞれドラゴン・チーター・ベヒモスだってよ。チッ、中二臭え名前つけんなよな。番号でいいだろ番号で。


《性能表を鵜呑みにするならプロトの10倍近い性能みたい》


(10……おいおい、慣性制御は確かなのかい? そんなん前の調子で動かしたらパイロットが潰れて死んじまうぞ)


 ゼッターシリーズはパイロットに要求される肉体的な頑健さが非常に高いロボットだ。


 高機動に伴う強烈な負荷によってパイロットが失神するのはよくあることで、調整不足の初期の機体に至っては、悪夢めいた加圧に耐え切れずに死人まで出ている曰くつき。


 さらにこいつは合体時に事故を起こしやすいという悪評もある。持っているパワーに反して、パイロットの技量に依存する部分が大きいせいだ。


 まあそういった事故を受けて改修を続けた結果、今は自動の合体装置や、パイロットが失神したときに備えた緊急の自動操縦機能なんかも搭載されている。


 この改修に伴い、現行機種はむしろエリート層のパイロットにとって人気のロボットになっているようだな。一般層にまったく降りてこないくらいには。


 パーツ取り程度に保管されていたプロトタイプでさえ、長官ねーちゃんのコネが無けりゃ一般層には配備されなかっただろう。


 オレが前に乗り込んだのはこのシリーズの最初期型。それも試作品に冠される『プロト』の名がついた『プロトゼッター』だった。


 あんときゃSワールドに辿り着く前にエンジンが止まるわ、敵に物理攻撃は効かないわ、あげく戻ってきたとき風邪引くわで散々だったぜ。


 …それでもスリーは良い仕事をしてくれたがな。試作の身でマジでよく頑張ってくれたと思ってるよ。


 でもまさか、またおまえの兄弟に乗ることになるとはなぁ。今回のオレはあんまり同じロボットに乗れない運命みたいだからちょっと意外だぜ。ゼッターシリーズとは縁でもあるのかね。


《リミッターありなら2倍強ってトコ。慣性制御はむしろプロトより新型だからずっと効くネ。リミッター無しの場合の性能をしれっと記載するのは開発者の技術アピールかノゥ?》


(なんだそりゃ? 完全に過剰性能じゃん。目標値に収めとけよな)


 リミッターつけるのはいいとして、2倍が10倍って振り幅がデカ過ぎだろ。そんな高出力を抑え込むより、素の動力を安定させてほしいぜ。


 だいたい乗用車には乗用車用、レース用ならレース用のエンジンを積むもんだろ。機械ってのは必要な機能だけありゃいいんだ。


 ただの公道を走る普通車がモンスターエンジン積んだって、そんなもん趣味人の自己満足でしかねえわ。


《でも新品なのは良いことだよ。壊れかけあてがわれるよりはマシと思いネエ》


(まーな……出来立てホヤホヤか、兄貴みたいなトラブルは勘弁だぜおまえ)


 高性能とされるゼッターの泣きどころのひとつは、全機機種通してゼッター炉の出力がいまいち安定しないことだ。過去にはいくつかの機種でエンストや暴走まで起こしていて、エンジンストップに関してはオレも経験者のひとり。


 あのときは別系統のサブエンジンを積んでいたので助かったが、プロト以降のゼッターは炉心の安定性が増したとしてサブエンジンが廃止されている。確率が減っただけで抜本的な解決はしてないってのがおっかねえわ。


《弱いよりはいいんじゃネ? なんといっても最新鋭だZE! クレムリン宮殿を持ってこれる爺さんもビックリさ!》


(安定した実績のある現行機を借りられねえのかなぁ。あとその死の商人のセリフは吹かし・・・だって自分で認めてたろ)


 あ゛ークソ、不安だ。まあ一般層所属のオレに用意されたロボットとしちゃ十分贅沢なんだがよ。


 それにこうして大急ぎで仕上げてる整備連中を前にして、『気に入らないから替えてくれ』ってのも無いもんだ。しゃあねえ、覚悟決めるか。


「どう? たまちゃんのフィーリングに合いそうかしら?」


 整備のタラップでボケッと乗機を眺めていたオレに近づいてきたのは訓練ねーちゃん。


 ホントにただボケッとしてたわけじゃねえぜ? 操縦席の整備が終わるのを待ってんだ。終わったらすぐ乗って、パイロット側の要求出して調整してもらう手筈なんだわ。こういうのはパイロット側じゃすぐ弄れない部品もあるからな。


「動かしてみないことにはなんとも( 言えねえな。まあ、)前のプロトと同じ感触ならなんとかする(よ)」


「シミュレーションはもうすぐデータ構築が終わるわ。実機の調整が済んだら訓練に利用してちょうだい」


「わかった。ありがとう」


 最新鋭として建造棟から出したばかりのこいつは、とにかくいろいろと配備が間に合っていない。仮想戦闘シミュレーション装置にもこいつのデータはまだ入力されていなかったためにデータ構築の真っ最中だ。


 プログラマーさんよ、頑張ってるトコ悪いが急ぎすぎて変なデータ入れないでくれよな。


「第二――――ううん、法子とラングの事をお願い。二人を助けてあげて」


(ヘッ、正直でいいな。人々のためとか、ふわっとした物言いで頼まれるよりやる気になるよ)


《うむ。美人のお姉さんたちのためにがんばるのジャ》


(言い方)


《こんなスーツちゃんに一言だけ言わせてほしい》


(どーぞ)


《法子ちゃん、和美おねーさま、ランちゃん自慢の6つの胸部エンジンで同時にスイッチオン! してほしいDEATH! スパーク!》


《炉心熱で焼けてしまえ》


「これがゼッター? 無駄の多いフォルムね」


 カツカツとタラップの金属音をさせて登ってきたのはアスカ。赤毛ねーちゃんの呼び出しを聞いて、一緒に来るって言ってうるせえから連れてきた。


「玉鍵さんが前に乗ったものより攻撃的なデザインだね」


 同じく初宮も来ている。初日にたったひとりで人様の部屋に置いとくのもあれだし、アスカと同じく一緒がいいと言って聞かなかったしな。


「あら、アスカも来てたの? それに―――」


「初宮由香と言います。一般層の出身ですが、短い間だけでもよろしくお願いします」


《絶妙に卑屈で草》


(オレは慣れたが、来たばかりの初宮には誰の視線でもマイナスに感じるんだろうよ) 


 幸い良識人の訓練ねーちゃんは初宮を雑に扱う気は無いようだ。こういう人間だけなら一般の人間だって『エリート様』なんて皮肉な物言いはしないんだがなぁ。


「あんたが前に乗ったのはスリーよね? でも今回は別のに乗るんでしょ?」


「ああ。ラング、さんからの指定フィールドは山脈だ。水中戦に縁は無い。今回はワンに乗る」


 ツーでもいいが、どうせなら飛行を得手とするワンのほうが敵を選ばないからな。


 だだっ広い山岳と山林地帯の上空だ。降下しなければ見通しは悪くない。さらに赤い色の派手なロボットが空を飛んでいればちょっかいかけてくる敵がわんさと出てくるだろう。それを期待したチョイスでもある。


 今回オレに、いや、参加するパイロット求められてるのは大物喰いじゃない。撃破数を稼ぐことだ。


 狙う戦利品は水。ただの真水。Sワールドのおいしい水だ。


 普段は難度に対して買い取りが安いし、うま味が無いから狙わないんだがな。けど無くて一番困るのだけは誰でも知ってる定番の物資だ。第二でトラブルが起きて不足してるんだと。


 しかもオレのせいが過分にある。テイオウでいきなり人間を消したことによる設備事故だ。


 …赤毛のねーちゃんは気を遣ってくれたのか、この点を指摘してこなかったがね。


 となりゃあ、しんどかろうがうま味がなかろうが出撃するしかねえっての。一般層の問題は他人事じゃねえし。


「じゃああたしがツーね」


 はっ?


「わ、私をスリーに乗せてください!」


「(はあ)っ!?」


 突然なんだ? こいつはオートで動かすんだよ,何言ってんだおまえら!? 特に初宮!


「2人とも……」


(おう、言ったれ言ったれ。訓練ねーちゃん!)


「すぐにシミュレーターに乗りなさい! 時間が無いわよ!」


「(ファッ!?)」


「無理と判断したら認めないわ。いいわね?」


 いやいやいやいや、凄んでる場面じゃねえだろ? あんた機種転換訓練となると三ヶ月くらいみっちりやらせるって花代から聞いてんぞ。ちょっとした操作ミスで死ぬような子供が出ないようにってよ。普段の信念はどうした!?


「誰に言ってるの? あたし、この程度の機体すぐ乗りこなして見せるわよ」


「玉鍵さんの戦いは誰よりも見てるので呼吸を合わせられます。私玉鍵さんのチームメイトですから」


 そっちはそっちでなんで微妙にガンたれして張り合ってんだ? 仲良くなったのかと思ってたのに。夕飯で唐揚げの取り合いしたせいか?


《ゼッターは有人のほうがパワーは上がるし、インジャネ? 能力ブーストってコトで》


バカ言うなバカこけ。アスカも初宮もついさっきまで生身で怪盗と殺しあってんだぞ。本人が気付いてないだけで精神的にはヘロヘロに決まってる。どっちも中坊の女だぜ? このうえ突貫で訓練して戦闘なんて無茶だろ)


《女の子はむしろ男より精神的にタフなものだゼィ? それに戦えるかぎりはパイロットの意見が優先されるべき》


(建前っ。実際は基地や国、チームメイトの思惑が入ってままならねえもんだろうが。例えばこの場合、相乗りのオレが拒否ったらオジャンだろ)


《ザンネーン。反対票低ちゃんで1、賛成票はアスカちん、はっちゃん、スーツちゃんの3名で賛成多数。出撃と結審シマスタッ》


 こっ、この野郎。絶対この状況を面白がってるだけだろ、刹那志向の変態無機物め!

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