第135話 GUNMET TANK MODE STANDBY

 ボーイとかいうガキは暴走したメッシュの他に仲間が2人いるという。そいつらはキレたメッシュに引っ張られているだけで、こいつらはまだ説得できるはずだとほざいた。


たとえ自分が死んでもやるとも。見た目通り青い野郎だ――――イライラする。


「本当にやるんだな? 命を賭けて」


「ああ! オレが説得する! 絶対に!」


「……分かった。送り届けてやる」


「はあっ? なに言ってんのタマ!」


《えー? パイロットならともかく、『Fever!!』は少年Bなんて守ってくれないぜぃ?》


 確かにな。『Fever!!』が関心を持つのはパイロットだけ。他はよくてパイロットの家族くらいだ。ボーイは条件にかすりもしない。


 オレやアスカは武装ドローンの中を生身で突っ切ってもたぶん平気だが、こいつは無理だ。


 それにメッシュから銃で腕を撃たれて決定的な溝も出来ている。おそらく近くで見かけたらドローンに攻撃指示が出るだろう。今さらメッシュに仏心が出て、元仲間をおっぱらうだけで済ませるってことは無いだろうさ。殺しに来ると見たほうがいい。


 ガキはドローンに追い回されながらも、どうにか地下の配線整備通路を逃げ回ってここまで来たらしい。こういったもう使っていない、あるいは潰されたはずの通路はサイタマの地下に結構残っているらしく、アンダーワールドとやらの住人たちの移動や潜伏に使われているようだ。


 ーか、最高クラスの安全度を誇るはずの基地の敷地内にあるマンションにも通じてるってんだから笑っちまうわ。灯台もと暮らしってやつか? おまけにマンションの住人にまで内通者がいたら、そりゃこいつだってドローンだって入ってこれるわな。


 ボーイは薬の影響かオレらの信用を得るためにかペラペラ喋ってくれるがよ、場合によってはマンションに住んでるその内通者も底辺送りだぞ。オレの知ったこっちゃねえが。


(送り届けるにしても地下道が通れない以上は上を行くしかえな)


 地下はダメだ。本当に逃げ場がない。地下に詳しいボーイに案内させてなんとか武装ドローンと戦わずに避けていっても、相手だってそれは同じだ。変に探さずに各地の出口あたりで待ち構えている可能性が高いだろう。


 まあ、そんなことしなくてもちょっと出口に重しでもしとけばそれだけで出てこれなくなるが。むしろもうその辺の工作はしているだろうな。出られる場所を限定しておけば無駄な戦力を割かずに済む。


 メッシュの目下の相手はあくまでS課と治安、そしてオレだ。これ以上余計な心配事は抱えたくないだろう。


(――――装甲車、できれば戦車がほしい)


 ボーイにはできるだけ派手に出て行ってもらう。これは注意を引いてもらうって意味と、他のお仲間を説得するための必死さを演出してもらうためだ。


 私見だがな。どんだけ口で友情やら道徳やらベラベラ長い口上垂れても、人の心ってのはあんま動かねえと思うんだ。なんといえばいいか、臨場感ってのがいるんだよ。その場の勢いと言い換えてもいい。


 人間の固まった心を変えるには、一度ガツンと叩き壊すだけのパワーがいるもんさ。ヘッ、漫画の見過ぎかねぇ?


 となると敵も大注目するわけだから当然攻撃してくるだろう。その攻撃をボーイはなんとかやり過ごさなきゃならない。役割の性質上、そこらの車やバイクで向かっていくのはうまくねえ。


 なんと言っても報告されたドローンの数が多すぎる。1000機は確実って、地下モグラのクセにどこの問屋に発注しやがったんだか。


 大概はマシンガン程度の装備のようだが、四方八方から撃たれたらどんな足自慢でも避けきれない。少なくとも普通の車やバイクじゃ脆すぎてダメだ。


 それにグレネードを積んでるドローンもいるらしいからな。榴弾の前では非装甲車両なんて動く豆腐でしかない。直接狙わずに2、3発を覆うように撃たれたら、それだけで破片の雨を喰らってズタボロだ。


 んー、基地のアーマード・トループス拝借して突っ込ませるか? 装甲が薄いとはいえ対人用の小口径弾程度なら防げるだろう。問題はやっぱグレネードだな。


(スーツちゃん、ATはグレネードに耐えられると思うか?)


《それ以前に少年Bは操縦できないのでは?》


(あ、そりゃそうか。いかん、テンパってるな。パイロットじゃないから困ってんだった)


 AT乗りとSワールドパイロットはまた違うが、どのみち素人が攻撃を掻い潜ってAT走らせるのはちょっと難度が高すぎる。途中でコケる未来しか見えない。


《……動くかどうかわからないけど、ジャンク屋で見たアレ・・はどうジャロ?》


(春日部の親戚がやってる店の、ジャンクの山に埋もれてたアレか? バラバラだったろ)


 先日オレの譲渡したAT、ホワイトナイトの修理のためのパーツを見繕うために行ってきたジャンク屋で、ちょいと出所の怪しい戦車の残骸を見ている。スーツちゃんの言っているのはそれの事のようだが、あれは廃車らしく分解状態だったはず。


《ATほどじゃないけどモジュール構造が多い戦車だから、細かいパーツさえあればわりと簡単に組み上がると思うジェイ。さすがにジャンク屋に武装は無いだろうけどナ》


 どうかねぇ。裏に戦車機銃の1丁くらいは隠してそうなオッサンだったがな。まあいい、同じ土俵でドンパチするわけじゃねえ。要は説得に行くための時間を耐えられればいいんだ。


 そうと決まればオレがドローンを購入した時に登録した連絡先に通信を入れる。この通信は傍受されても別に構わねえ。


〔はいっ。お客様の心の友、ゴウダ商――――〕


「今からすぐ別の通知で連絡が入る。それを取ってくれ」


 返事を待たずに通信を切る。アスカや加藤のねーちゃんが目をパチクリさせて質問しようとしてくるが後だ。その加藤のねーちゃんが持っている通信機を引っ手繰って再びコール。


〔――――これでいいのかい?〕


「助かる。大口の商談だ。口外無用、即決で頼む。いいか――――今から3時間以内にあんたが持ってるジャンクのGUNMET 、突貫で1両組み上げてくれ。相場の3倍で払う。多少でも武装してくれたら5倍だ。5秒で決めてくれ」


〔――――――ポンコツだぞ? 即金だ。それでいいなら〕


「組み立ては手伝う。すぐ向かう」


《音が違ったナ。向こうもキナ臭いと感じて暗号通信に変えて受けたっぽい》


(やっぱ人間は見た目だな。会ったときどっかよろしくねえ気配がしてたから、こういう事情には鼻がきくと思ってたよ)


 さて、向こうの指定した時間まで整備士の真似事でもするか。


「ボーイ。ここから4時間、死ぬほど頑張ってもらうぞ。14フォーティーン! 行先変更、おまえも手を貸してくれ」


「な、なんだか知らないけど、わかった! なんでもやる!」


〔最上級プラン契約者である玉鍵様のご用命とあれば、なんなりと〕


「タマ! タマ! ちょっと、ちょっとって! 話を聞きなさいよっ!」


「アスカにも協力してほしい。それっぽくって程度でいいから玉鍵たまに変装してくれ。加藤、さん、方針相談だ。釣鐘つりがねさんに連絡を」


「聞けーっ! このバカタマーッ!」


 悪いなアスカ、マジで時間がえんだ。動きながら話そうぜ。






<放送中>


「ホントに来やがった。なあ玉鍵のねえちゃん、うちは模範的な商売が売りの店なんだ。ヤバイ話は勘弁してくれよ」


 スーツ姿の若い女性の運転する乗用車で乗り付けた玉鍵は、1人の見知らぬ少女を伴っていた。その素性を聞きたいような聞きたくないような気分になりつつ、ゴウダはまず軽口で場を温める。玉鍵の要求に応じた時点で自分の裏の顔はほぼ晒されているとはいえ、言質を取られるのと取られないのとでは釈明の説得力が違う。


「よく言う。時間が無い、入金を。3か? 5か?」


 とりあえず動くだけを用意する3倍の値段か。多少武装を施して相場の5倍の値段か。


 その怜悧な目つきはまだ幼いと言える14才の少女の視線には程遠い。容赦なく他人を格付けする冷徹さをゴウダは感じた。


 商人としての格とオツムを計られている。そう感じたゴウダは同業者からタヌキと言われる老獪さを突き崩され、らしくなく男のプライドを刺激された。


「……7だ。代わりに一番良いオマケをつけてやるぞ?」


 出せるものなら出してみろ。そんな負けず嫌いの少年のような気持ちで少女を見下す。


 玉鍵は確かにワールドエースとして名を馳せるだけに相当な資産家だろう。だが、国からの彼女への支払いが高額過ぎて滞っているとの話をゴウダは掴んでいた。


 まして現在は大日本国とサイタマは多くの面で断絶された状態。確実に残りの金は入金されていないとゴウダは踏んでいる。


 ジャンクとはいえ玉鍵が買い付けたいのは戦車。小金持ち程度の資産で買うにはかなり躊躇する金額だ。それを相場の何倍も出して買うなど破産まっしぐらの暴挙でしかない。


「送った、確認してくれ」


 たが、見下ろしていた少女はなんの淀みもなく端末を弄るとゴウダの目をまっすぐに見た。


 その瞳に耐えられず、入金を確認するためと自分に言い聞かせて視線を逸らす。


 確実に増えたゼロの桁を眺めていたゴウダはひとつ溜息をつくと、こっちだと手を振って2人を案内する。スーツの女はもう乗用車を転がしてどこかへと去っていた。


 該当の車両とそのパーツはジャンクの山からすでに掘り出し、作業台に乗せている状態。明らかに使えそうにないパーツは代替品を見繕って用意している。


 あんな安い挑発をしておきながら、ゴウダは心のどこかでこうなると予感していたのだった。


「つみきには黙っててくれよ。あの子にはずっとお天道様の下にいてほしいんだ」


「分かっている。例のドローンの事も黙ってるさ」


 玉鍵が何気なく話した一言に、ゴウダは無意識に声を詰まらせた。


 外を騒がせているドローンの出どころにはゴウダが一枚噛んでいる。明確な証拠の痕跡はすべて消したが、分かるものには分かるだろう。もっとも、誰に告発されようと物証が無ければ無意味だ。ひとりふたりの証言程度では治安の動きも鈍いだろう。


 だが発言した人間によっては、それだけで恐ろしい説得力となって治安を本気で動かす可能性を秘めている。例えば、世界屈指のパイロットならば。あるいは。


「………そりゃどうも」


 チラリと陰のある視線を投げるが、少女はゴウダにはまるで構わず手袋をして組み立ての準備を始めていた。ワールドエースという存在は整備の技術も習得しているのかと、そんな詰まらない事をぼんやりと考えてしまった自分に鼻を小さく鳴らす。


「あんた、見た目よりずっとおっかねえようだな」


 パイロットだからどうこうではない。ゴウダはこの少女から自分たち側のにおいをかいだ気がして警戒心を高める。


 これまで注視してこなかった少女のすべてから過去の経歴を探ろうと、商人はまずその肌に注目した。どれだけ隠していても人の素性は肌に出るものだと、ゴウダは経験から知っていた。暴力の跡と慢性的な栄養の偏りは、ちょっとやそっとでは体の芯から消すことができないのだから。


 そこで、まるで待ち構えていたように玉鍵と視線がかち合う。


「あんたは売る。こっちは買う。それで終わりだ。お互いそれが一番いい、そうだろ?」


 真珠のような白い歯を持つ少女は、それだけ言うと作業に戻ってしまう。これ以上の返事はいらないと言うように。


「へへっ、ちげえねえ」


 やがて小さく噴き出したゴウダも作業に戻った。黒い商人の自分が、まさかの年端もいかない客に諭されたとわずかな羞恥心を感じながら。


(見た限り肌に傷は無いし歯もきれいだ。生まれた時からいいもん食ってやがるな。いったいどこのお姫様なんだか)


 歯の健康には生活が如実に表れる。


 栄養の乏しい食事ばかりをしている子供は栄養失調の影響で歯並びが悪くなり、大人の管理を受けていない者は虫歯が目立つものだ。


 玉鍵の歯は健康そのもの。子供のころから十分な栄養を採り、デンタルケアなども細かくチェックされているとゴウダは推測した。


(俺のカンも鈍ったな。こんなお嬢ちゃんが貧民出のはずがねえのに。どっかそんなにおいがする気がしてならねえとは)


 今は羽振りが良さそうな人間が子供時代は地べたを張っていた、なんて事は後ろ暗い業界ではよくある話で、そういった人間はどれだけ着飾っていても卑しい正体が見え隠れする。


 どういうわけかゴウダは玉鍵からそんな貧困の気配を感じた気がして、内心で自分も色々な面で老いたのだと苦笑した。


(……つみきが懐くわけだぜ。まるで覚悟決めて戦場に行く男みてえな、どっしりした態度じゃねえか)


 社交性の高い姪のつみきは自分が弁が立つだけに、口より行動や態度で実力と誠意を示す相手を気に入る傾向がある。玉鍵は実力は当然として、その態度も堂々としていて小賢しさを感じない。男の受けだけを狙った、小汚い媚びを見せる女とはまるで違っていた。


(ありゃ男以上に女にモテるだろうなぁ。つみきのやつ、変な気を起こさにゃいいが)


「クレーンを上げてくれ。配線まで腕が入らないんだ」


「おっ、おうおう。今やる」


 なんとなく姪っ子の恋愛事情が心配になったゴウダだが、そのきれいな顔に黒い機械油をつけた玉鍵からクレーンの操作を要求されると胡乱な思考を打ち切った。


 玉鍵たまというどこか危険な魅力を持つ少女に充てられたのか、同じように作業するもう1人の少女について、ゴウダはすっかり意識の外だった。


 もし注意して観察していれば、その喉仏に違和感を感じていたことだろう。







《メインコンピューターは無し。サブコンその他はアーマード・トループスから引っ張ってきたやっつけパーツ。技術ちゃんぽんのものすごいキモかわいい戦車ができましたゾ、低ちゃん氏》


(誰がうじやねん。積まないメインコンピューター用の面積も使えたのに、複座の操縦席のスペース確保は一苦労だったぜ。ATと大して変わんねえくらいじゃねえか )


 GUNMETは独自判断のできるコンピューターを搭載した無人戦車として誕生した兵器だ。それでも一応、乗員として内部に兵士1名を乗せることができる設計になっている。


 メインコンピューターは放出されたスクラップには含まれておらず入手の方法も無い。これに関してはガチの機密って事で、廃車前に軍が引き揚げちまったようだな。ま、それだけ内部空間に余裕がでるからむしろ今回はその方が助かる。


「ボーイ、狭くてもメットは取るなよ。頭ぶつけたらシャレにならないぞ」


「……お、おう」


(返事の反応が悪いな。まさか閉所恐怖症とかじゃないだろうなこいつ)


 座席の位置的におまえが吐くとオレが頭からモロ被りになるんだ。マジでやめろよ?


《ブーブー、鼻で深呼吸したら色々と死ぬかもナ。スーツちゃんは遺憾の意を表明いたしまス》


(だなぁ。鉄臭い油臭い焦げ臭い、おまけにシートが汗臭いと、臭いの4重苦とくらぁ。ジャンクとはいえもうちょっとまともなシートが欲しかったぜ。こりゃ春日部の親戚にボラれたな)


 高い金出してこれだよ。春日部には悪いがここじゃ二度と買わねえぞ。おかげで貯金がゴッソリ減ったわ。国はたぶん無理として、サイタマは補填してくれっかね?


《スーツちゃんの遺憾の意砲、はそうじゃないけどまあよろしおす。男じゃなくて女装男子だし? 今回だけ特別に目を瞑ってあげYO》


 遺憾の意砲なんだ? あと女装はできるだけ春日部の親戚にボーイの素性を見せないためだ。いや、どうでもいいか。いつものおふざけだろ。


 状況的に着替えるタイミングも無いわけで、ボーイもオレもサイタマ学園の制服でこいつに、スクラップから組み上げた戦車『GUNMET』に乗り込んでいる。ボーイの制服は加藤のねーちゃんに調達してもらった。


 オレはいつもスーツちゃんがデータコピーしてモーフィングした制服を着てるから、本物のほうの服は試着だけで使っていないんだよな。そのほぼ未使用品を貸してやれればS課に手間をかけずにすんだんだが。


 このガキは男にしては小柄なほうではあるものの、さらに小柄なオレの制服ではサイズが合わなかった。180センチ近くあった前の体が懐かしいや。


「射角はあまり取れない。だいたい左右12度だ。変にこだわらず照準から外れたら次を狙え」


「こんなのやったことねえんだけど……」


「トリガー引けば弾が出て、放せば止まる。それだけの代物だ。照準はあまり信用せず曳光弾の火線見て修正しろ」


 単座の操縦席のその下、メインコンピューターの収まるスペースも使って複座にしたGUNMETだが、実のところボーイの乗ってる席の操作装置はほとんどフェイクだ。


 唯一動かせるのは配線の関係で引っ張ってこれなかった20ミリチェーンガンくらい。これだけはボーイが射撃を担当する。他は操縦も射撃もぜんぶオレだ。


 オレの席は内部カメラに映らないように弄ってあるので、GUNMETと通信したやつはボーイが戦車を操縦していると思うだろう。これも初宮を助けるための欺瞞のひとつだ。


 この戦車で派手に取引現場に乗り込んで、ボーイには大いに仲間を説得してもらう。こいつから降りてな。後はタイミングを計って無人のはずのGUNMETでメッシュとやらをぶっ飛ばす。


 全重量約44トン、最高速180キロのツッコミをくれてやるわ。人間なんざ一発で装甲の赤いペンキにしてやんよ。


(スーツちゃん。いつもの装備のおさらいを頼む)


《ウィ、固定武装として上面に20ミリチェーンガン、股間部に5.56ミリマシンガン。20ミリはどっかの武装ヘリから引っ張ってきたもので純正じゃないから、低ちゃんの操縦席にうまく繋げられなくて独立運用だよん。5.56ミリはAT用の流用品》


(銃火器を持ってるとは思ったが、まさかここまで手広く扱ってるとは思わなかったぜ。ヘリの武装まで持ってるとはな)


 元々同じ軍で使うこともあり、経費圧縮を目的にしてGUNMETとATはある程度パーツや兵装、弾薬に互換性がある。

 さすがにヘリまではそうもいかなかったようで、こっちは強引に取り付けた。そのせいで純正に比べて射撃角度の制限がキツい。


 問題はまだある。ここで射撃音なんてさせるわけにもいかねーし、当然試射もしていない。照準調整どころか第一射で動作不良を起こす可能性さえある。


《背部に6連地対地ミサイルランチャー。これはATの運搬車に付ける支援火器から流用。正直、あんまり誘導性はよくないゾ》


(今回は別にいいさ。ドローンの近くで爆発さえしてくれりゃ用は済む。むしろミサイルは過剰なくらいだ)


《演習用だからぜんぜん威力はないけどネ。威嚇くらいの装備だし、逆に撃たないほうがハッタリがきいていいかも》


 撃つまではご立派なミサイルに見えるからな。しっかし、いくら演習用の模擬弾だからって、あのおっさんどうやって仕入れてんだか。まあ元々オレとミサイルはあんまり相性というかゲンが良くないし、使わなくても不自由はねえか。


《一番の虎の子は75ミリキャノン。反動が少ないのソフトリコイルで精度も高いデ。弾が超少ないけど》


(装填1発だもんなぁ。オートローダーのパーツが無いからしょうがねえけど)


 こっちも使う予定は無いからいいがね。7掛けって言うからどんな装備がくるかと思いきや、キャノンやらミサイルやら求めてない過剰火力だった。今回はその逆、追加装甲とか対ミサイル兵装とかが欲しかったんだが。


(なあスーツちゃん、ホントにこんなもん積む意味あるのかい? 相手はせいぜいドローンだぜ? 使っても機銃くらいで十分だと思うんだけど)


《これが他のパイロットならそーだね。でも低ちゃんだからニャア。今回も変なアクシデントてんこ盛りになりそうジャロ?》


(やめてくれ……でもおっかしいよなぁ、LUCK値でファンブル出したり低すぎたりしてないはずなのに)


 この玉鍵たまって体は何千何万とサイコロダイスを振って、完全ランダムで構成された個人だ。


 その項目の中には過去の大きなイベント出来事LUCKなんて項目も存在していた。でも覚えている数値を考えると、特別運が悪くなるような値じゃなかったはずなんだが。


 まあ種類が多すぎていつもざっとしか見てないし、何か別項目の値が悪さしてんのかもしれん。


 例えばオレの体は傷を精密に治せる代わりに、拳なんかを鍛えようとしても皮膚がきれいに元に戻っちまうから厚くならない。そのせいでどれだけ叩いても皮膚が硬くならないって変なハンデがあったりする。ゲームのMOD競合による不具合みたいなもんかねえ?


《武装の話を続けるわよん。スモークディスチャージャー3×2と、緊急用のジャンプロケット。グランプリングフック》


(補助兵装もBULLの系譜って感じだな。スモークはATのヤツだが)


《補助ロケットは固形燃料式だから、1回使ったら終わりだから頭に入れといてね》


 固形燃料は主にロケットやミサイルに使う形式だ。液体式と比べて安定してる代わりに一度火が付くとカットするのが難しいから、燃えっぱなしでいいものに使う場合が多い。これはまさに緊急用のブースターだ。グランプリングフックは文字通り上下の登攀用。たぶん使わないだろう。たぶんな。


《最後に弾種をいろいろと選べるマルチランチャー。今回はアンチミサイル×2と、散弾をばらまく歩兵掃討用のブラスト弾×2でっす》


(アンチミサイルよりブラストがもっと欲しかったな。散弾は非装甲のドローン相手には最適だ)


《弾自体が在庫なしだからしゃーなイ》


 まあな。むしろこんなジャンク屋にミサイルやら大砲やら、よくもまあ転がってるもんだよ。おそらく銀河連中とでも取引してたんだろうな。テイオウ攻撃に引っかかってねえって事実がなきゃ、さすがに近づかなかったぜ。春日部の叔父でもよ。


(……ぼちぼちか。アスカ、怒ってんだろうなぁ)


 取り決めた時刻はもうすぐだ。治安とS課の部隊、玉鍵が乗っているって設定のCARS14フォーティーン、そしてオレたちのGUNMET。


 最後までアスカはこの作戦に反対していた。ボーイが裏切る可能性が高すぎるってな。


 客観的に言ってアスカが正しい。認める。けどアスカ、殺し合いってのは足し算でも引き算でもないんだ。


 こうするのがもっとも確率が高い、じゃあ生き残れないときがあるんだよ。そしてオレの判断は打って出る攻勢なのさ。


 今必要なのは手数だ。コマの色に文句垂れる余裕は無い。初宮を安全に助けるためには絶対に手数がいる。数がいればこそ攻勢が本領を発揮するんだ。


 攻勢と守勢は基本的に攻勢が有利だ。これは行動やタイミングを決められる側と、それに対処する側では判断の負担が段違いだからって理由もある。攻勢は守勢よりずっと場の主導権を握りやすいのだ。


 現実の戦闘に手番は無い。判断が遅れればどんどん手数に差が出てくる。はじめはすぐに対処できていても、1手もう1手と続くうちに遅れが出始め、最後は周回遅れになってパニックに陥ることになる。


《定刻デース》


「GUNMET、エンジンスタート。タンクモード」


<YES TANK MODE>


 メッシュよぉ、どんだけ頭が良かろうが人間の対処能力なんざ大したもんじゃねえんだぜ? おまえの薄汚ねえ命も理想も信念も、数の暴力ですり潰してやる!

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