第125話 ???
……なんだ? あー、えー、何か忘れてるような。
「??? どうかしたの? キョトンとしちゃって」
気が付くと国が言う『平均的な家庭』とやらでよく出てくる大きさの、庶民の平均よりずっと上の生活感の無いリビングにいた。
普段使いしてたらこんなにきれいな訳が無いってシステムキッチンの嘘くさい清潔感と、売り物をそのまま持ってきたばかりって感じの真新しい家電のある室内。
どこかの安っぽいドラマや通販番組の撮影にでも紛れ込んだかのような、何もかもが嘘くさい空間。今にも白々しい笑顔のタレントや妙に偉そうな撮影監督でも出てきそうだ。
「??? 無視とはいい度胸ねっ」
そしてアウトレットモールあたりで売ってそうな、色も柄も味気無いソファにボケッと座っているオレ。
そして返事を返さなかったことに腹を立てたのか、いつのまにか隣に座っていたやつが人様の顔を掴んで自分のほうを向かせた。
「……最近は鏡もずいぶん進化したもんだ。映す人間を捕まえて無理やり見せようとするとはよ」
「誰が鏡よ? あなたがこんな可愛いわけないでしょ、???」
「まあな。この場合、オレはどういう立場で物を言えばいいんだ? 『玉鍵たま』さんよ」
未だにオレの顔を掴んでいる白い手を首を振って払う。今さらながらにこの空間には
手は厳つくて傷だらけで、爪の中は真っ黒。傷口が膿んでいる場所もあって痛痒い。着ている服は落ちているボロを適当に合わせただけの雑巾みたいな代物ばかり。
ヘっ、よくまあこんな汚い人間を女が触れたもんだな。触るどころか近づくもんじゃねーぞ、こんな最底辺の住人に。
「なるほど、それが一番初めのあなたなのね。あなたの記憶はいくらか知ってるけど体験する形だったし、こうして別視点では見て無かったからなぁ――――やっぱ見た目はおっさんだわ。思考は若いっていうか、物知らずで子供みたいだったのに」
「ケンカ売って、はあ……もういい。目的は何だ、おまえ誰だ? ここ何処だ?」
「ん、まずはお礼からかな」
サイタマの学生服姿の玉鍵たまは、ソファに座ったままオレに頭を深く下げた。
「色々な人を代表して、銀河をブッ殺してくれてありがとう」
「はあ。で?」
「……淡泊ねぇ。まあいいけど。あなたの考え方は知ってるし、警戒してるうちはこんなもんでしょうね」
何やら先を促してほしそうな顔でこっちをチラチラしている。なんか癪だが、意地張ってダンマリしててもガキみたいでみっともねえか。
「あんたが???の用意した今のオレの体、『玉鍵たま』なのか? プロフィールは少しだけ知ってる。自意識でも目覚めて体を取り戻しに来たのかい?」
この身体には
???は『世界に割り込ませる』と言っていた。社会にこっそり紛れるわけじゃなく、14才まで生きた歴史が確かにあるらしい。
「体由来なのは合ってる。でも本人じゃない。それと体を取り戻そうとはまったく考えてないわ」
「曖昧な表現だ。体
「それも合ってる。確かに私の
「種蒔いた記憶は
何回か前の一般層スタートでヤッたことはあるがプロが相手だ、その辺はキッチリしてるっての。子供なんていてたまるか。
そもそもすぐ死ぬような環境の人間がガキなんて作るもんじゃねえ。今の世界で孤児がまともに生きられるかよ。まあ、これは多かれ少なかれ昔からだろうが。
「おぉ……ドーテーじゃないんだ」
口元を押さえてニヤニヤする玉鍵たまは、オレが
「オレの記憶は知ってるんじゃないのかよ、マセガキ」
「あはっ。私の知ってるあなたの記憶は多くないの。すぐ思い出せる強烈なものか――――ずっと大事にしてる気持ち、くらいかな」
…………チッ、ガキが大人を慈しむみたいな目で見るな。気持ち悪い。
たまに女って年に関係なくこういう目をするから、男からすればおっかなく感じることがある。なんでもお見通しの母親みたいな目、とでも表現すりゃいいのか?
オレに親なんて居たことは無いから知らねえがな。
「そうかい。こっちは風呂なり何なりであんたの裸の見てるわけだし、記憶くらい覗かれても文句は言わねえよ」
――――カッコ
「別にいいわよ。今のこの体はあなたのものだもん」
「そりゃどーも。風呂で目を瞑って洗え言われても困るしな」
「トイレもしてるんだから今さらよ」
「っ、あえて口にしなかった事をそっちから言うなよ!」
クソッ、こういう話はむしろ女のほうが淡白だったりする事があるからたまらんぜ。調子が狂うなぁ。
「あっ、勘違いしてるみたいだから改めて訂正しておく。ここにいる私は『脳の記憶』から構築された自動的に走るプログラムみたいなものだから。魂とか心とか、そんな上等なものじゃないの」
「……よくわかんねえ」
「脳に入ってる記録を参照して、玉鍵たまが生きていたらこんな感じに判断したり物を言ったりするんじゃないかな、っていうのを再現してるだけなの」
「死人の記憶から思考をトレースして、それっぽく振舞ってるってか?」
「うん、そんな感じ。
要は脳に詰まった記憶を使って絵のトレースをしたみたいなもんか。それを参考にして意識的に似せていけば、本人でなくても似たようなものは描けるってわけだ。
「いやいや、疑問があんま解決してないぞ。つまり死体から玉鍵たまを模倣してるあんたは誰だ?」
「んー、定義が難しいんだけど。玉鍵たまの死体から新しく生えた意識?」
「なんだそりゃ。つまり生き返ったのとは違うのかよ? 乱暴な表現だが、心停止がちょっと長かったってだけだろ」
「生き返ることは無いよ。
何がどう違うのかさっぱり分からん。それに14のガキのクセに、もう十分生きたみたいな口振りが気に入らねえ。
「……そんな真面目な顔で言う事かよ。嫌でもしかたなく生きてるヤツは山といるっての」
つい安い説教が口に出そうになって、顔を背ける。
生きたくても死んじまうヤツがいたからって何だってんだ? 本当は誰だって、そんなもん知った事じゃねえだろ。
他の誰かのほうが苦しいから、おまえはまだ平気なほうだって言われて改心するようなやつは、初めから愚痴なんて言わねえ。
でも、軽くてもくだらなくても、苦しいのは苦しいもんだ。それだけは分かる。分かるが――――
「そうだね。でも私は嫌になっちゃったの」
――――バカバカしい。こいつがどの段階で死のうが、本人がいいってんならそれでいいだろうが。何を踏み込もうとしてるんだオレは。
「お説教なんて、???はやっぱりお人好しだよね。いっぱい酷い目に遭ってるのに。生まれつきの悪人がいるなら、逆もいるのかな?」
玉鍵たまはなぜか両手をこっちに差し出して、オレを真っすぐに見た。なんだよ、オレからヨチヨチと抱きしめられたいわけでも無いだろうに。
……嫌な気分だ。いたたまれない。
むしろ手を差し出すその姿は――――目の前で泣くのを我慢してるガキを、そっと抱きしめてやろうとしているようで。
チッ、なんで説教かましかけたオレのほうが変な気分に気分になってんだ?
やがて玉鍵たまは手を引っ込めて、最初の生意気そうな顔つきに戻った。
こっちもアレっちゃアレだが、さっきまでの雰囲気よりはやりやすい。
「私は???に作られた。それは体って意味だけじゃない。何もかもを作られたのよ――――???、すべてはあなたに渡すために」
「どういう意味だ」
玉鍵たまはいつのまにか持っていた2つの10面
白いテーブルにカラカラと転がったクリアカラーの赤と青は、どちらも『0』を指して止まった。
ゲームによっては
「あなたが
「何世代も前から遺伝子・環境・経歴、あらゆるプロフィールを目標値として、ずっと前から育成されたものが
書き込まれたシートは何世代にも渡って、先祖から玉鍵たまへと継承されてきた潜在的な才能の値が算出されている。簡単な手書き算式の消し忘れがあるのが生々しい。
「タイムトラベルで過去に弄って、望んだ才能を持つ血統を作っちまうって感じか? 馬とかみたいによ」
「もっともっと細かく高精度にね。???にはそれができる。時間も空間も関係無い、次元を逸脱した高位存在だもの」
「つまり、そうやって何世代も前から作った『フルオーダーの人間』が『玉鍵たま』ってか?」
「そういうこと。???はこの人間たったひとりを作るために、過去のたくさんの人の運命を弄ってるのよ。この体はその集大成ってわけ」
自分の意志と思って歩んでいた人生が、ぜんぶ???に操作された物だったなら。歩んだヤツが事実を知ったらたまんねえだろうな。
「なるほど。だから
「あなたが自由に使うには親とか過去とか、お荷物でしょ? 演技はうまくないみたいだし、親元だったらすぐに娘の人格が変わったと思われるでしょうね。もしくは
項目はあっても細かいわ多すぎるわで、いちいちフォーカスして見ないからなあ。そういった出生や『スタート地点に至るまでの経歴』まで
???がルールを守る限り。
「ならオレに『届けた』後の、本来の『玉鍵たま』はどうしたんだ?」
「だから死んだんだってば。そういう約束で???に力を借りて、私はエリート層の親元から飛び出したの。???に、死んだら残った体は好きにしていいって約束してね」
あれで約束は守るみたいよ、あいつ。そう続けて玉鍵たまは皮肉げに笑った。
その約束さえ???がそう望むよう仕組んだ事とするなら、そりゃ守るだろう。どこまでも手の平の上だ。
「まあ相手は神様みたいなもんなわけじゃない? たとえ操作された人生だとしても、それは宗教で言う運命とか宿命とかと一緒で、???が人の人生を弄ぶ特別に邪悪な存在ってわけでもないけどね」
「本人が裏舞台を知らなきゃな」
「あはっ。どっかの宗教で言う運命の子とか、今聞くと鼻で笑っちゃうわ。つまりどんな御大層な肩書でも、要はマッチポンプの操り人形って事じゃない? その辺の店頭で膨らんでる宣伝バルーンと変わらないわ」
行動も言動も???に規制されるオレと違って、玉鍵たまの表情筋の使い方は豊かだった。
「宗教談義は置いとこうぜ。
「もう、女の子には気持ちよく喋らせるものよ?」
玉鍵たまはヤレヤレって顔でわざとらしく肩を竦めた。愛想笑いをしつつ内心でムッとされるよりいいが、なんか年のわりにこざっぱりし過ぎた小娘だなぁ。
「玉鍵たまはエリート層の裕福な家で生まれて、???の入念な調整で潜在的に極めて豊かな才能を持っていた。さらに子供の頃から高度な教育を受けたことで、ますます優秀さに磨きをかけた――――それこそ周りの大人も家族も、物心つく前からバカに思えるくらいにまで」
スラスラとキャラクターシートに描きこまれたのは、デフォルメされた玉鍵たまのイラスト。簡略化した顔つきでも大人を小馬鹿にしそうな生意気そうな顔をしている。
オレに絵心は無い。
尊敬は能力差から生まれる。何もかもが相手より優秀すぎては、そりゃ尊敬なんて出来ないだろう。
親や教師に目上には盲目的に従うよう教育されても、優秀であるがゆえに玉鍵たまにはその
「最終的に家出した理由は、上流階級のお嬢様らしいやつ。家の方針で好きでもない相手と結ばれるのが嫌だったし―――――自分だけで選んだ、自分の力で作った人生を歩んでみたかった」
そこで一度言葉を切ると、玉鍵たまはテーブルに置かれていたリモコンでリビングに置かれているモニターを映す。
埃ひとつ付いてないのが嘘臭い。こういう家電は静電気のせいでいつも埃まみれなもんだ。あと、
「――――ここって何なんだ?」
「たぶん???が心の奥で思い描いている、『どこにでもある家庭のリビング』じゃないかしら?」
「どこにでもあるにしては……いや、そうか。そういうことか」
これは漫画やドラマなんかの創作媒体で見た、『どこにでもある家庭のリビング』。
親なんざいないし、家なんか住んだことさえ無かった。
オレには、そういう
笑い声の聞こえる壁の向こうを。窓の向こうを。玄関の向こうにある『家庭』ってやつを。
これは一番初めのオレが欲しかった。けれど得られなかった風景。
叶うことの無い、憧れ。
なんだか泣きそうなをオレを置いてけぼりに、点けた画面に映ったのは玉鍵たまという人間の、家出から一般層に至るまでの最後の人生歴だった。
「???は色々な助力をしてくれた。おかげで世間知らずの私でも危なげなく渡ってこれたわ」
モニターには前・玉鍵たまの、たった35日間だけの軌跡がダイジェストで映されている。
あるいは早回しに思えるだけで、じっくりと1日1日を見たような気もする。ここでは時間なんて関係ないのかもしれない。
「でも最後は死んじゃった。別に???の陰謀とかじゃなくて、本当に運が無かっただけね」
死因は敵との交戦における爆死。まあ楽な死に方のほうだろう。
「あんたもパイロットだったのか? いや、それにしちゃ名前を聞かないぞ」
偽名を使ったとしてもその見た目なら、誰かの記憶に残ってるもんじゃねえの? それこそオレがあんたの姿で現れたら大騒ぎだろ。
「知るわけないわ。あなたのいる世界とは違うところだもの。これでもエースだったし、向こうだとかなり有名人よ? たった5週間、5回だけの出撃だけどね」
はあ? パラレルワールド住人とでも言うのかよ。
「待て、なんだかまた話がとっ散らかったぞ。ただの過去話じゃないのかよ?」
「ゲームで例えると分かり易いかな。同じゲームで育てたキャラクターをデータだけ持ってきて、
………………それが『リスタート』の秘密か。
「???は
「ゲームはあくまで例えね。???からすれば似たようなものでしょうけど。私たちからすれば現実なんだから」
「……あんた、玉鍵たまとの邂逅って、もしかしてテイオウの次元融合システムがトリガーか? 次元の壁を越えた力を目の当たりにして、脳が理解できないなりに変なスイッチが入っちまったとか?」
本来は気付かないはずの異次元の情報。だが刺激を受けてたことで未知の知覚機能が生まれ、脳が『情報に気付いた』。
オカルティックに言えば、霊感みたいなもんが生えちまったのか?
「だいたい合ってるかも。その前にも切っ掛けはいくつかあったけど、ここまでハッキリ
こっちの世界でオレも???には世話になってるがよ。つまりオレも、いずれはあんたみたいに扱われるってわけかい。
「それはまったく違う」
手に取ったキャラクターシートを突き付けられる。そこには???と、オレの名前があった。
どうしてかそれは読めなかった。自分の名前と分かっているのに。文字としても音としても出てこない。
「
ここに書かれた『玉鍵たま』と、その背後にいる先祖たちはオレが振った
この
下書き。
「この物語の主人公。それが???」
部屋が歪む。視界の端に、暗くて臭くてゴミだらけの世界がチラつき出す。
「最近はページ数がどんどん増しててビックリよ。今回は1年もつかもね」
―――――オレに何をさせたい? 何が望みで出てきたんだ? 死人の記憶で出来たプログラムがなんの用だ?
「今回のあなたが引き当てた次元融合システムは、???に届く刃になる。その事を伝えに来ただけ」
「………………………………………それで? オレに???を倒せとでも頼みに来たのかよ」
いっちゃアレだが、オレは???側だ。あんたらが作られた操り人形であることを嘆いても、はあそうですかとしか思わねえ。
あんたと違って、この命を最後まで放棄する気は無い。
「違う違う。私はさ、1本道のシナリオを大きく変える選択肢を増やしたいの」
「オレ頭悪いから簡単に言ってくんね? 謎を孕む思わせぶりなセリフなんて聞かされてもイラッとくるだけなんだわ」
いかにも訳知りのキャラが『そうであるとも言えるし、そうでないとも言える』、なんて言い回しをしたら作品ごと切っちまうくらいな。
「あなたを主人公にした絵本は???に何度も何度も読み返されているの。細かい分岐はあっても最後は同じってタイプの物語でさ。あ、これは愚痴だけど、そのたびに私も付き合わされるからたまんないのよねぇ。何度バイクを盗んで走りださないといけないのかしら」
「それをオレに言われてもな。???と契約してそうなったんなら、甘んじて走るしか
「それは絶っっっ対、嫌。好きな人も出来たし」
「ははっ、自称プログラムが恋愛とはお笑いだ。生前の玉鍵たまが聞いたら吹くんじゃね? 自分の死体が本人にあずかり知らぬところで恋してるとかよ。成仏してるのかしてないのかはっきりしてほしいね」
「…………どうせこのやり取りは欠片も覚えていられない。あなたは目が覚めたら忘れてる」
「あん? じゃあこれまでの時間なんなんだ? 本当に礼とやらが言いたかっただけかよ。そりゃあご丁寧にどうも。けどわかんねえな、他人の礼を代弁する趣味でもあるのかよ?」
違う世界から来てるんなら、こっちの銀河連中をブッ殺してもあんたにもあんたの世界の人間にも意味ないだろ。
「ごく近い世界は大筋で似たような結末になるものよ。こっちで銀河が滅べば向こうもたぶん滅ぶ。誰が手を下したかはもうこっちにいる私にも分からないけどね」
ケッ、確証が無いんじゃねーか。まあいいや。パラレルワールドの事象とか考えるのめんどくせえ。
「あのシステムのせいか、頭に変な記憶が流れ込んでおかしなテンションになっちまった結果だ。あんたらの敵討ちを買って出たわけじゃない。気にしなくていい」
こっちはこっちでブッころがしたかったんだからな。
「うん、そっちは私も色々混じって代弁しただけだから。やっぱり危ないわね、あのシステム。変に使うと個が保てなくなりそう」
この世界にいる何処かの誰かたち。生きている者死んでいる者の区別なく、大勢の人間たちが銀河という一族、派閥を恨んでいたのは事実だ。
あのとき、テイオウに乗っていたオレに恨んで当然の苦痛の記憶が、まるで自分の事のように入ってきた。
これも次元融合システムを使った副作用なのかねぇ。さっぱりわっかんねぇ。
「とにかく、伝えることは伝えたわ。この記憶を無くしても、いつか大事な場面でこの出会いの欠片が引っかかるかもしれない。そのときが来たら考えてみて。 ???があなたにとって本当に必要な存在なのか。人類の事とかはどうでもいい、あなたにとってよ」
そりゃ考えるまでもない。必要だ。人間なのに人間扱いされなかったオレが、『人』になれたのは???のおかげさ。いつかリスタートできなくなるその日まで、オレは???と楽しくやるよ。
そして完全に死んだら―――――消え失せればいい。
「それ、また初めのページに戻るだけよ」
それはどちらの口から出た言葉だったのか。
リビングは消え、視界を埋め尽くすのはゴミ。
ゴミ、ゴミ、ゴミ。
もう二度と来たくなかった、最低の世界。誰もいない、誰もこない、真っ暗のゴミの山で埋もれた世界。
ボクハ あと 何度 ここデ泣ケば、救ワれる ノ?
「……なんだ?」
あー、えー、何か忘れてるような。
《おはよう低ちゃん。第一声が『なんだ?』って、おかしくネ?》
「熱あると変な夢見るってホントなんだな。覚えてねえけど」
《ザンバスターの疲労が抜けてないところにさんざん動き回ったからナ。さすがに体の方が参っちゃって熱が出たのはしょうがない》
「おまけに生理まで来ちまったからなぁ……」
いつもは軽いほうなんだが、体が弱ってるときは普段よりキツくなるようだ。おかげで一仕事終わったあと、テイオウの操縦席から出た途端に倒れちまったよ。
それでも病院行きには死ぬほど抵抗して、居候してる赤毛ねーちゃんの家で休ませてもらってる。
生理用品付ける余裕も無くて、家に来るまでにパンツが真っ赤だったわ。スカートが無かったらCARSのシートを汚しちまったトコだぜ。
《今後は休むときは休むのダナ》
「休んでたら連中に
左手の
……? 左手の
「なあスーツちゃん、寝てるとき変わったことはあったかい?」
《にゅ? 特に無いナ》
バタバタしてたし、記憶違いか?
《あ、さっき低ちゃんの下着を誰が洗うかでアスカちんたちがモメてたナ》
「あれはもう捨てるから洗わなくていい!」
クソッ、体が重い! 動けッ、オレの尊厳!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます