第123話 王の心臓【KING OF HEART】

<放送中>


 つい最近まで一般層には『火山宗次郎』という男がいた。


 彼は『星天家』という権力者一族の分家たる火山に生まれ、軍学校を卒業したキャリアとして数年を軍で過ごし、後にSワールドへとスーパーロボットを送り出す国家組織『S戦隊機関』の長官に就任した。


 我が子と自分可愛さから最悪の判断ミスを連発し、ついには権限凍結を経て息子共々に底辺行きとなった彼を軽蔑する人間は多い。


 ただ火山家とその本家という権力のゲタを履かされた分もあるとはいえ、それでも就いた役職をこなせる程度には実務能力を持っていた人物だったという点は断っておきたい。


 悪党は悪党なりにそこいらの凡人より能力はあるのだ。その判断と価値基準が致命的に間違っているというだけで。


 彼の属した星天は別に一般層で暗躍していた犯罪組織ではない。あくまで裏で犯罪半ば合法のように行っていただけの民間組織である。


 どう差異があるのかといえば、そのシンパが取り締まるべき国にさえ多く入り込んでいることで犯罪を取り締まれないという、権力者公認の暴走集団だったという点だろう。


 しかしそんな彼の属する星天さえ、エリート層に蔓延る『銀河』という一族の下位組織でしかなかったが。


 多くの人々に理不尽を与え、我が物顔で一般層を支配した星天に連なる名家・・たち。


 その出自は彼らが主張する名家と呼べるような立派なものではなく、単なる扇動屋と火事場泥棒の類であることを知る者はもういない。


 太陽家は一般層のメディアを操り、星天に都合の悪い事実をもみ消す役目を負っていた。


 月島家はハニートラップを得手とし、大量の女性から金を巻きあげては破滅させていた。


 冥画家は殺人・誘拐・麻薬・人身売買。あらゆる非合法な生業を営んでいた。


 海戸家の人権を無視した人のクローン製造は、まさに世界中を震撼させるものだった。


 水星家の水洗浄事業の手抜きは一般層の人々に、汚染された水を摂取させ寿命を削らせた行為だった。


 金工家は金融に関わり不浄な金を洗浄する。土門家は非合法な手段で地上げ行い、地頭はその使い走り。木目家は違法な情報収集を躊躇わない企業スパイ。


 ――――そのような犯罪者の血筋らしい一族で固められたサラブレッドたちの中で、火山家はまだマシ・・・・なほうであったかもしれない。


 火山家は軍の権力を掌握することに腐心するだけで、平時だけは民間人にさほど迷惑な存在ではなかったのだ。


 それが狂ったのはS基地という、人類にとって新しい事業と暴力装置の設立からである。


 Sワールドから得られる資源という金儲けに銀河が飛びつかぬはずもなく、下位組織の星天もまた冷や飯食いの軍よりもS関係に火山家を送り込んだ。


 賞金の中抜き・資源の中抜き・資源在庫の操作で価値を吊り上げる程度は当然の権利のように行った。

 医療行為と称して見目麗しいパイロットたちの細胞を、クローン事業を生業とする海戸家に密かに渡すシステムさえ確立した。


 星天でなければ人にあらず。火山宗次郎は他の分家と違ってこの言葉を口にした事こそなかったが、やはり彼もまた狂人一族星天の血を色濃く受け継ぐ怪物であることに違いはなかったのである。


 ……しかし、どのような星であろうといずれは崩壊するように、彼らはある日を境として急速に滅びの一途を辿ることになる。


 その破滅の仕方はおのおの様々であったろう。罪に見合う罰を受けた者もいれば、悪党らしからぬ穏やかな最後を迎えた者もいたに違いない。

 神の教える因果応報など鼻で笑うような、なんとも胸糞悪い結末さえあっただろう。


 では、火山宗次郎という男はどんな結末を迎えただろうか?


 それは穏やかなものであったろうか。あるいは悲惨なものであったろうか。いまだ道途中である可能性も十分にあるだろう。


 知らぬ事を推測することは自由であり、知りえぬ事を想像することは種明かしより楽しいかもしれない。


<~~~~っ~~~~っっ~~~~~~~~っっ!>


 だが、残念ながら彼はひどく陳腐なラストを迎えている事を伝えねばならない。


 S国内対策課によって拘束された星天関係者たちは、ことごとく底辺送りが決定した。


 しかし、彼らには信奉する上位組織たる銀河から救いの手が差し伸べられ、星天に連なる者たちはその一部が秘密裏に確保されることになる。


<っ~~~~っっ~~っ~~っ~~~~~~~~っ!>


 火山宗次郎は軍経験者として、常人より頑健な体と精神力を持っていた。その事が彼の人生にどんな恩恵をもたらしたかは、人生の主人公である本人にしか分からない事だろう。


 それでも他者が今の彼を見れば、確実にこう断言するに違いない。


 “いっそ死ねればよかったろうに”、と。


 ファイヤーヘッドのコックピットに該当する区画には、操縦席を取り払って組み込まれた機械群と、そこに鎮座する50センチほどの小さなカプセルがある。


 透明な容器に浮かぶ脳髄・・が誰であるかを素人が判断するには、カプセルに申し訳程度に記載されたプレートを見つけるしかない。


 第二基地元長官の肩書を持つ火山宗次郎は、人生の最後に史上初の40代パイロットとなった――――――脳だけを取り出されて。


 今の彼が世界をどのように感じているのかを推し量る方法があるとするならば、テレパスにでも目覚めるしかないだろう。


 ヘッド・チェスト・アーム・レッグ・フット。それぞれに搭載されたカプセルには、いずれも底辺落ちから回収された星天のパーツ・・・が使われている。


 機械への脳移植に耐えられた――――耐えられてしまった者たちの脳が。


 権力基盤が瓦解し、銀河の下位組織としての活動が困難となった星天はもはや用済みだった。


 彼らの上位者らしい非情な銀河からすれば、星天の過去の功績などどうでもよく、残すは廃品利用するか否かである。


 そして銀河帝国として決起が秒読みとなったとき、火山たち星天に連なる者の運命は決まった。


 それまでの贅沢な生活から他の一般層の人間よりも『比較的良好な部品・・』として目を付けられることになったのである。


 回収された彼らはパイロットを除き、有無を言わさず『製造ライン』へと乗せられることになる。


 おびただしい数の脳の摘出がごくごく機械作業的に行われ、ロボットの操作系統が反応・・するものだけ使うという悪魔のようなトライアンドエラーが行われた。


 その中にはかつて星天家で頂点だった老婆や、各分家の長などもラインに含まれていたものの、長で生存できたのは火山宗次郎だけである。


<っっ~~っ~~っ~~~っ~~~~~~~~~!>


 パイロットという存在は銀河の思惑通りになり難い。融通が利かない。『Fever!!』に守られた彼らは、一族至上主義を掲げる銀河にとって疎ましい不穏分子だった。


 ならばパイロット以外の者を乗せることができればどうか? その考えのもとに多くのプロジェクトが発足し、何年も前から様々な試みがなされていた。


 やがてたどり着いたひとつの解答。それが『人の脳だけを搭載した操縦装置』である。それがなぜなのかは分からないが、この方式であればパイロットでなくともロボットが動かせたのだ。


 この結果が銀河の執念と狂気の賜物なのか、それとも抜け道を用意している『Fever!!』の邪悪さからくるものなのか。いずれにせよ銀河派閥の努力・・によって、『人間製のコンピューター』はここに一定の成果を見た。


 が操縦する、銀河の思い通りになるロボット。送り込まれるプログラムによって常に思考を誘導され、彼らは見せられる夢の見るままに銀河のために戦う。まさに理想の奴隷兵士であった。


 カプセルに取り付けられたセンサーの示す数字から、常に極度のストレスを感じていることが見て取れる脳たち。彼らが夢を見ているとすれば、それは間違いなく脳だけになった自分という悪夢だろう。


<っっ~~たっ~~っ~~~っ~~~~~す~~~~!!>


 ……なお、カプセルに脳からの言葉を音声に出力する機能は無い。


 もしも誰かの声が聞こえたのなら―――――それはきっと、聞こえたような気がしただけ。








「時間が無い。まずはとにかくオープン回線で赤毛ねーちゃんに呼びかけんぞ」


 カルトだなんだと四の五の言ってたらアスカたちが不利な戦いに入っちまう。あのクソロボット、性能だけは高かったはずだ。バスターモビルじゃ戦地も相性も悪い。


 ファイヤーアークか……パイロットに誰が乗ってるのかは知らねえが、新造したなら前みたいに変な改造のせいで動きが不自由ってこともないだろう。基地を守りながらではアスカたち3機がかりでも厳しい。


《んじゃ音声を作って『こちら玉鍵』を連打するBotで》


「頼む。こっちはシートとスティックを調整して、コンソールからスイッチ周りを把握する」


 完全に初見のロボットだ。うっかり変なスイッチ入れたら何が出るかわからん。まだこいつで出撃するとは決まってないけどよ。急ぎで上に上がるならもう必須だろう。


 幸いと言うべきか、壁のレールはカタパルトじゃなくて、起動出力がロボット側依存のエレベーターだった。これなら基地からの電力が来てなくても動かせる。


 こいつはシャフトを通るうちに合体、いや分離しているパーツをロボットへと組み立てるって変わった出撃形式をしている。


 ログに記された愚痴を見る限り、完成後にお偉方へのお披露目用として魅せる・・・登場演出をするためだけに作られた専用エレベーターらしい。


 バカじゃねえの? 昔はやってたっていう船の建造祝いじゃあるまいし。そんな余裕はもう人類にはえだろが。結局は未完成だしよ。

 こういう見栄に金をかけるんなら自分の懐でやりやがれ。税金で必要ない箱作る政治かよ。


《きた、繋ぐよ》


00B.<タマ!? あなた無事なの!? 怪我は!?>


(おぉう、スーツちゃん音量下げてくれ。こいつの整備士たちも不貞腐れたのか細かい調整が出来てないみたいだ)


《ウィ》


「無事だ。エレベーターで襲われたが撃退した。ジャリンガーのパイロット2名は保護してくれたか?」 


00B.<したわ。それより――――>


「外の事情・・は通信で大まかに把握してる。オープンだから詳しい話は後で。格納庫に人がいるなら退避させてくれ。こちらも上がる・・・


00B.<――――本当に怪我は無いのね?>


「無い。退避を」


00B.<40秒でやらせる。あまり心配させないで。アスカたち泣いてたわよ>


「すまん。通信終――――」


B1.<泣゛いでな゛いわ゛よっ! バカぁッ!>


「(うおっ?)アスカか? 悪かった」


B2.<う゛ぅ……よかった。よかったよぉ……>


B3.<私、死んで、死んでたらどうしようってっ>


「花代、勝鬨かちどき。三人ともさっきは助かった(ぜ)。ありがと(よ)。もう少しだけ持ち堪えてくれ――――通信終わり」


B1.<ちょ、タ―――>


《ムホッ》


「な、なんだよ?」


《心配されて嬉しそうな低ちゃんにほっこり》


「うるせぇ! あ゛ーやめやめ! まだ穴倉から脱出してねえんだ、気を抜かずに切り替えてくぞ」


《ハイハーイ》


(このやろ……チッ、オープンでベラベラ喋っちまった以上は敵も通信に気付いたろう。急がねえとな)


 今オレが大型ロボットに乗ってる事は言わなかったが、どうあれ時間が経つほど基地のシステムの復旧の可能性は高まる。


 敵からすれば待つほど相手をするスーパーロボットの数が増えるのは目に見えてるんだ。指定した10分の期限破ってブッチして仕掛けてくるだろうな。


《敵はワールドエースの参戦前に勝負を決めたいだろうネ》


「ロボットに乗ってなきゃただの中坊でしかねーんだがな。あと、なんかワールドってつけられると皮肉っぽく聞こえるから好きじゃねえや。パイロットの肩書はパイロットってだけでいい」


 ……さっきの退避・・上がる・・・のニュアンスで、何となくこっちの状況を察してくれればいいが。頼むぜ赤毛ねーちゃん。


 まあ最悪の場合テイオウこいつはエレベーターの代わりだ。上に出れたら功夫クンフーで基地までひとっ走りして、オレでも使えそうな基地のロボットを借りよう。


 発進システムがダメでも格納庫を壊す前提なら1機くらい出せるだろうしな。この状況なら多少ブッ壊しても文句は出ない出めえ


 とはいえ、それ以前に貸してくれっかなぁ? エリート層じゃ余所者だからなオレは。預けてるGARNETも全然手付かずのようだしよ。


 修理しないならせめて一般層に送り返してくんねえかなぁ。基地から借りパクしてるみたいで気持ち悪いんだよ。


《低ちゃん、功夫クンフーをメインエンジン用の空きスペースにでも入れてオケ。さすがに固定もしないで胸部の上だと振動で落ちそうだし、かと言ってここに置いておいたら完全に瓦礫で埋まっちゃうゾ》


「わかった。胸の空洞だな? あの部分が完成しなかったっていう炉心用のスペースだったのか。ビームか何かの発射口かと思ってた」


《あながち間違ってはないかナ? 両腕と頭部の光球、エネルギー保持体の『補助サブスフィア』と、胸部に収まるメインエンジンスフィア―――『次元融合システム』を共振させることで時空間振動を引き起こすエナジー兵器になるから》


「次元って……なんか物騒な代物って事は分かった」


《あ、ちょい待ち。テイオウと功夫クンフーで通信リンクをしとこう。ロボットの外にいるとき状況変化があってもすぐ気付くように》


 操縦席のコンソールから功夫クンフーの暗号通信用のキーナンバーを入れて同期する。ロボットによっては通信システムさえまったく互換性が無いやつもあるが、こいつは大丈夫のようだ。


 これでテイオウの通信機能を介して、ロボットのセンサーが捕らえた物を功夫クンフー側でも受け取れる。もちろん逆もな。


 操縦席を離れてハッチを開きに行く。クソ、散々暴れたからスカートがシワになっちまったな。みっともねえ。


 できればジャージになりたいとこだが、さすがにここでさっきと違う服を着ていたら状況的におかしいし、このまま制服でやるしかねーか。


 よもやスーパーロボットに乗ってまでミニスカで戦う事になるとは、情けねえなぁ。ここが男のオレの安息の場所だってのに。


 電源の入ったハッチは自動で開くから楽でいい。手動だと外部装甲→内部装甲→ハッチの流れで全部ハンドルで開かにゃならんからな。


 功夫クンフーをバイクからロボット形態にして、胸のポッカリとした空洞に滑り込ませる。ジャングルジムって遊具で、格子の中に足から入る感じだ。


 ……まあ、オレは公園なんて平和そうな場所で遊んだ事なんざことないけどよ。


「80メートル級ともなれば炉心のスペースもかなり広いな。功夫クンフーでも軽く立てるくらいとは」


 配線等は片付けられているようだな。見えるのは基礎フレームだけでほとんどがらんどうだ。奥にある細長い突起はソケットか何かか?


《正確には77メートル。単座運用としてはかなり大きいネ》


「おいおい、この大きさでサブエンジンだけって大丈夫かよ」


 サブエンジンといえばプロトゼッターもそうだったが、あれはサブの水素エンジンだけではまともに動かない仕様だった。


《ロボット自体の出力は3分の1以下になるかナ? 一応動きはするけど、搭載されている火器はエナジー兵器だけで、エネルギーも制御機能もメインエンジンスフィア頼りの設計だからまともに使えない》


「ウドの大木じゃねーか。普通は動力から開発するもんだと思うぜ。外見ガワだけ作って何がしたかったんだか」


《プリマテリアル精製のとき、炉心に該当する次元融合システムのイメージが上手くいかなかったんだろうネ。最初は違う次元とこの次元を融合させて、別次元からエネルギーを引っ張るつもりだったみたい》


「勝手に吸われた方の次元は大変だな。逆に吸われ返されるんじゃね?」


《Exactly! その通りでございます!》


(言語違いで二度言うな。いやまあ、オレも完全にそっちのイメージで読んでたけどさ)


 どっちか片方だと締まらないセリフだよな、あれ。両方あって初めて『名セリフ』って感じでよ。


《こういうのって別次元のほうでも同時期に同じような事をしてるから、回りまわって結局プラマイゼロなんだよネ。どこかで帳尻が合っちゃうのさ》


 パラレルワールドAでやってることは、だいたい別次元のBもCしてるってこったな。さすがスーツちゃん、高位存在は言う事が違うねえ。


《次に『確率的にありえた多次元』の可能性を開いて、その『有る』と『無い』の落差からエネルギーを取り出すって方法も試したみたい》


「さっぱり分っかんねえ。反物質炉とかのほうがまだ理屈が分かるぜ。あっちも学問として数式交じりに言われたら分かんねえけど」


《反物質炉は物質と虚数物質が融合した時に発生する、単なる熱エネルギーを使ったエンジン。こっちは存在と非存在の――――アスカちゃんたち戦闘開始》


「のんびりし過ぎた。どっかアンカー掛けられる場所はねえか? 固定ってほどじゃないが、ただ停めとくよりマシだろ」


《メインスフィア用の台が奥にあるから、そこに引っかけとけば?》


「このジオラマに立ってるミニチュアタワーみたいな突起の事か?」


《メインスフィアは物質的には直径2センチほどの球体の予定だったみたい。起動するとこの胸部スペースを埋めるほどのサイズの、光球型の高密度エネルギー体になるようだネ》


 オイオイ、小型化に失敗したからうまくいかなかったとかじゃねえだろうな。たった2センチの炉心って、そんなに小さくする理由無――――地震?


 いや、これは戦闘の影響か? 暗闇の格納庫にパラパラと細かい残骸が落ちてきて乾いた音が響いている。


「おーおー、上は派手にやってるようだな」


《えー、残念なお知らせデス。低ちゃんの落ちてきた穴、正確にはエレベーター付近が今ので潰れました》


「え」


《ジャリンガーの爆発で脆くなってたシャフトの構造体が、ファイヤーアークの攻撃の衝撃でトドメを刺されちゃったっぽい。完全に埋まってる》


 胸部の穴から上を見上げると、そこにあったはずの人口の光は完全に消えて闇が広がっているだけだった。


「となると、このロボットで強引にを突き破るしかねえか」


《うーん。エレベーターは動くけど、やジャリンガーの残骸を押しのけるパワーはエレベーターにも今のテイオウにも無いゾイ》


「マジか。詰みじゃん。アスカたちに賭けるしかないってか?」


《劣勢。というか相手にされてない。ファイヤーアークは射程外から淡々と攻撃してる》


「……向こうさんからすれば適当に撃ってもいいからな。後ろが大事なところなら、守るためにアスカたちが勝手に当たりに来てくれる」


《アスカちゃんたちは重要施設に行きそうな攻撃をなんとか防いでるけど、あまりもたないと思う。回避盾は避けてナンボ。ダメージの肩代わりは出来ないからネ》


 チッ、先代と違って挑発に乗るようなバカは乗ってないようだな……このままじゃアスカたちが基地の前にやられちまう。


 どうすりゃいい? オレに残った手札は何だ? ここから脱出できないロボットとバイクだけなのか?


「――――スーツちゃん、功夫クンフーの中に何か無いか? あのカルトサイボーグどもは銀河とかいうタコの手下だよな? 連中にとってこのバイクは奪うだけの価値があるはずなんだ」


 そもそもなんでクーデターが終わった後にしなかった? そのほうが面倒が無かったはずだ。わざわざ盗み出さなくても、攻め落とした後で回収すればよかったろうに。


 ……あいつら、功夫クンフーが巻き添えで破壊されることを恐れていた?


 思えばサイボーグ共もジャリンガー4も、バイクは破壊しないよう気を遣っていたフシがある。


 ならば功夫これに何かがあるはずだ。


《……ウヒョヒョ♪ 辿り着いたネ。うまくいけばテイオウを帝王にできるかもヨン》


「けっ、相変わらず人が悪いぜ。何かあるのは気付いてたんだな」


 スーツちゃんはオレの身の安全の事以外では、だいたいオレが気付くまで黙ってる方針だもんな。ヒントはくれるから気付いては欲しいんだろうがよ。


《物語の主役がストーリーの進行役に動かされてばっかりじゃ、おもしろくないじゃナイ? 困難は自分で切り開いていかないとネ》


「まあな。パイロットは座して死を待ってたらダメだ。動けるかぎり動く――――で、功夫こいつに何があるんだ?」


《シート下の収納スペースを見て》


 オレがいつも跨ってる功夫クンフーのシート。それを開けると小さいティッシュボックス程度もない収納空間があった。前はこんなスペース無かったから気付かなかったぜ。


 功夫こいつ風防カウルと同様にシートも自由に形成できるから、誰かがプログラムを弄ってこんなスペースを作ったんだろうな。


 入っていたのは小さな箱。貴金属を入れてるイメージの、あのパカパカ開くやつ。


 中には――――指輪? ごくシンプルなデザインの銀色の指輪が入っていた。


《それが物質転換機。前に低ちゃんがゲットした戦利品だナ》


「なんで功夫クンフーに……国に持っていかれたはずだろ」


 こんなチャチな見た目だったのかよ。それも指輪って。


《その辺の経緯は後でいいんでナイ? 物質転換機で一度に生成できる物質は少量だけど、別の物質を転換して何でも作り出せる。それは単一の素材って意味じゃない。どんな複雑なものでもサ。人の臓器でも、工業部品でも、たとえ夢物語の技術で出来たオーバーテクノロジーの産物だって――――さあ低ちゃん、どう使う?》


「……決まってる。オレたちも参戦といこうぜ。なあ――――テイオウ!」


 世にもくだらねえ話に付き合わせてくれた落とし前、てめえらの手下の星天とやらの分も付けて、100倍にして返してやるよ!

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