第122話 ゴーストマシン!? 謎のスーパーロボット
<放送中>
〔すべてのサイタマ都市民に告ぐ。本日これよりサイタマは銀河帝国が治める直轄都市となる。現時点をもって混乱の終息まで無期限の戒厳令を敷き、民間人の外出を禁止する。指示に従わない場合は厳罰をもってこれに臨む。繰り返す、すべての―――――〕
過去に実在した飛行船と呼ばれる優雅な航空機は、急激な航空技術の発達によって瞬く間に姿を消した。あらゆる利点を他に追い抜かれ、価値を失った物が消えていくのは残念ながら必然である。
しかして、そんな歴史の遺物が鋼鉄の鎧と火を噴く槍を身に着け、再び人類の前に姿を現したのはいかなる皮肉だろうか。
サイタマの空を覆うそれは、悠々と海からやってきた。外敵から国を防衛すべき海軍を引き連れて。
「……バカにしてる。あんなもので本当に都市が占拠できると思ってるの? スーパーロボットは基地から離れられないと言っても、ここからビームの1発でも撃てばあんなガラクタ、それだけで轟沈よ?」
基地の反乱をほぼ鎮圧したところに湧いて出たあまりにもお粗末な珍事に、ラングの赤い唇から乾いた笑いが漏れた。
銀河帝国? SFの見過ぎじゃないかというネーミングセンスにまず笑いが込み上げ、それからふつふつと怒りが湧いてくる。
あんたらが不甲斐ないから、ここまで愚かな連中に今日まで国が振り回されてきたんだと、過去の無能な指導者たちの墓にペンキでもぶっかけてやりたい気分だった。
「露骨に
00基地の長官である男は銀河派閥の暴挙に困惑しながらも、相手の戦略について一定の危険度を認識した。
これは言わば人質作戦。彼らの乗る超巨大飛行船が落ちれば街に壊滅的な被害が及ぶ。
いくらこちらが強力無比なSワールドの兵器を保有しようと、これでは考えなしに迎撃はできない。
海軍を傘下に抑えられているのも厄介だ。事実、海軍が協力しているからこそ銀河の飛行船は海の向こうから
せめてこちらが万全の体制であれば、もっと前に察知できたものを。そう考えて彼は頭を振る。フロイト派に対処させないために銀河は基地内でテロを起こしたのだろう。
「もういいわ――――Code『BF』を発動。フロイト派はこれより銀河派と全面戦争に突入する。大日本国が何か言ってきたら『軍ひとつ掌握できない無能は引っ込んでろ』と送信」
ラングの乱暴極まる言葉に絶句する長官とは対照的に、ブフッ、という笑いが作戦室の誰かから漏れた。
「よ、よろしいのですか――――閣下」
「対テロの基本は『何があっても譲歩しない』よ。あれが基地に土足で踏み込んできたらその国が……いいえ、世界が終わるわ」
民間人の犠牲はもはや覚悟するしかないだろう。もちろん可能な限り犠牲が少なくなるようラングも努力はするが、それは100の結末を1にできるような夢物語の話ではない。
今からたった数時間のうちに、死体の数という現実的な数字となって、今後のサイタマに負債がのし掛かることになるだろう。
だが、むしろ問題は漁夫の利を得ようとする大日本国かもしれない。海軍の事といい、あえて状況を放置して共倒れを狙っている可能性さえある。
銀河の支配のやり方を屋台骨を破壊する削岩機に例えるなら、この国の政府はピーラーのようなものだ。
大日本で暗躍する老害とそのシンパたちは、自分たちの理想と私欲のために基地の運営方針を少しづつ変えていくだろう。
『Fever!!』が目を付けないギリギリを攻めるという暴挙を犯し続け、それを国益のためと宣って憚らないに違いない。
「フ、フロイト閣下!」
通信をさばいていたオペレーターのひとりが、その内容に目を丸くしてラングに報告を行う。
「……タマが、行方不明?」
その通信はついさっきラングが姪の悲鳴のような連絡を受けて派遣した、ラング子飼いのエージェントで編成した救助チームからのもの。
ザンバスター格納庫にたどり着いた彼らは、人が通れるエリアをすべて見回ったが玉鍵たまを発見できなかったという。
代わりに見つけたのは搬入用エレベーターが床ごと崩落し、その下に基地のデータには無い広大な空洞が広がっている光景。その穴は人工的に建造された何らかの格納スペースと思われた。
そしてエレベーターの出入口近くに、ジャリンガーチームの少年2名が半死半生の状態で寝かされており、出口近辺にはエレベーター内から飛び散ったと思われる血痕。さらに保安の使うものと同じ種類の銃器が1丁落ちていたという。
また非常用の通話機が使われた形跡があったため、救助隊は通話記録を調べている最中との事だった。
「おそらくタマがジャリンガー4のパイロットを助け出したんでしょうね。そして通話機を使って救助を呼んだ――――けど」
そこで何らかのトラブルがあり、救助要請は本来のオペレーターに届かずに別の悪意ある誰かが連絡を受けてしまった。
「そして現れた敵と交戦中に、エレベーターシャフトに空いた穴に落ち……」
あまりの事態にさしものラングも頭の中だけでは整理できず、つい独り言を口走ってしまったことに少し羞恥を感じて口をつぐむ。
アスカの取り乱しようが移ったのか、自分までひどく動揺していると自覚した女傑は、己の意識を落ち着かせるために息を大きく吸って、吐いた。
「あの子が死ぬはずは無いわ。機材を搬入してシャフト内を調べてちょうだい。もちろん通話を受けた
彼女の横で話を聞いていたこの基地の長官が、なんとも気持ち悪い感じにブルリと震えたのが若い女性オペレーターには見えたが、あえて指摘することでもないので無視した。
「さて、飛行船の出方を待つまでも無いわね。先制で攻撃を仕掛けるわよ。長距離の曲射攻撃ができる機体で、広範囲に最大火力を出せるものをリストアップ。できるだけ残骸が街に落下しないような攻撃特性を持つ機体がいいわ」
「了解しました。……今こそザンバスターが欲しいところですね」
「あれはダメよ。マイナス1億度のビームなんて地表で撃ったら、それで地球が滅びかねないわよ?」
物理法則を無視した絶対零度を遥かに超える冷凍光線など、現実の大気圏内で洩らしたら何が起こるか分からない。ああいった超兵器が運用面で問題にならないのはSワールドの中だけであろう。
「こっ、これはっ!?」
続いて驚いた声を上げたのは、あろうことかラングの次ほどには冷静であることを要求される、各オペレーターの統括を務めるリーダーだった。
「き、基地のスーパーロボット発進システムがダウン! 再起動命令も受け付けません!」
「――――ハッキング!? S基地のシステムに侵入できるなんて」
「い、いえ、04基地の一室から入力されたと思しきコードを最後に、すべての基地からの命令が弾かれるように。これは……予め組み込まれたプログラム?」
「あの豚か! 拘束したんじゃなかったの!?」
04基地の長官である水瓶は先ほどの通信の後で、ラングによって多くの罪状をつけられ軟禁状態になっていた。
しかしその扱いは
……ラングたちはついぞ知らないことだが、彼は彼なりにアルコールと鎮痛用の麻薬に侵された脳で自身の今後について考えていた。
長きに渡る酒浸りの生活は彼の体に麻酔への耐性を与えてしまい、もはやダメになった臓器を人工物に置き換えるどころか、簡単な手術さえ難しい。
何より弱った脳を人工物に置き換えることなど今の科学力では不可能であり、水瓶元蔵という男が今後も生きながらえるためには奇跡の力に頼るしかなかった。
すなわち、噂に聞くSワールドの戦利品として手に入った賢者の石、物質転換機に希望を見出した。
どんな物質もどんな装置も、望むままに作り出すことができる夢の装置を彼は欲していた。
この身体でも効く麻酔と、新しい体を手に入れるために。
そうして水瓶は悪質な酔っ払いとして基地内の職員たちに認知され、夢遊病患者のように各基地のあちこちに出入りしていた不名誉な実績を利用することを思いついた。
彼は正真正銘の酔っ払いのままにあって、それでもまだ明晰で天才的頭脳をフル回転させて、少しづつとあるプログラムを基地のコンピューターに仕込んだのだ。
特定の一室にある備え付けの端末から何気ない一文を打ち込むと、基地のごくわずかなシステムだけが静かにロックされる小さなプログラムを。
なんのためにか?
――――
水瓶元蔵は人格に問題がある。だが嘘偽りなく天才であり、何重ものセキュリティチェックをすり抜けて隠したプログラムは見事に効果を発揮した。
水瓶元蔵は人格に問題がある。彼の天才性はどこまでも学問方面の話であり、自分が栄えある賢者の石の使用者第1号になると信じて、これっぽっちも疑っていなかった。
水瓶元蔵は人格に問題がある。天才である自分こそが、今後の人類のためにも誰より生き永らえるに相応しいと、骨の髄から信じていたのである。
……もっとも、密約が果たされたとして彼の順番が回ってくるのは銀河の要人たちの後も後、30年以上は先になる計算になっていることを彼は知らない。
〔―――――それでは、栄えある銀河帝国の国民となった諸君らに、銀河の
この忙しいときにまだ何か戯言を口走るのか。ラングはその頭脳を駆使してマルチタスクで次々と情報を処理している最中だった。
内部からのハッキングであることは予想外だが、こうなったら水瓶を拷問してでも解除パスワードを吐かせるだけだ。それが無くとも基地の破損に目を瞑れば数機程度なら短時間で出撃も可能である。
その間の防衛は運よく出撃していたアスカたちに頼めばいいだろう。最小の10メートル級とはいえ、そこらの通常兵器に負けるような機体をスーパーロボットとは言わないのだ。
〔いでよ、銀河の星に名を連ねる者たちよ!〕
沸騰しそうなほど回転している脳の一角で、『安っぽい子供番組の悪役のようなセリフだな』と呆れつつ、ラングは銀河の放送を聞いていた。
作戦室のモニターに映る装甲化された飛行船に動きがある。格納庫と思しき場所が開いていき、そこから異様に巨大な艦載機が発艦した。
「―――――は?」
あれだけの巨大な飛行船。艦載機の1機くらいは配備されていてもおかしくはない。だが、艦載機は矢継ぎ早に次々と発艦していく。その数、実に5機。
それでもラングが驚くにはまだ値しない……しないはずだった。
それが
いずれも完全に航空力学を無視したフォルム。中に玩具の戦車のような、断じて航空機と呼んではいけない機体までもが混じっている。
〔我ら銀河帝国のシンボル――――それは不死鳥である〕
急上昇した5機は各自が変形し、次々とドッキングしていく。S基地に関わるものなら見慣れていると言っていい光景。
かくして現れたのは50メートルもの巨体を持つ、紛うことなき5機合体のスーパーロボット。
その名は『不死鳥王ファイヤーアーク』と言った。
「ノズルは完全にダメだ。デロデロに溶けちまってら」
むしろよく保ったほうか。液体窒素切れで噴射炎の熱を冷却できなくなってからの飛行で6秒間の噴射だもんな。
落下するエレベーターから飛び出して、飛行不能になるまでに
《一応アンカーだけでも上には行けるけど、横にはもう無理だナ。エレベーターと一緒に落ちてきた穴はあそこ。外壁から遠すぎるよ。天井はツルツルでアンカーが掛からなそうだし、振り子の要領で行くってのはキビシー》
崩れた穴から漏れている人工の明かりはずいぶん遠い。穴があるのだから天井は当然あるとはいえ、アンカーを掛けられるかは微妙だな。もし途中で引っかけた部分が崩落したら今度こそ真っ逆さまだ。
「出来たとしてもやりたくねえな。これって残り何百メートルあるんだ? 落ちたら間違いなく死ぬだろ」
こりゃとんでもねえぜ。埋められていたエレベーターの下、驚いたことにザンバスターの格納庫と同じ広さじゃねえか。こんな大空洞でよく今まで
材質的に
……あのエレベーターシャフトと下の穴、元はまったく別用の穴だったのか? カプセルトレインのチューブでも入れる予定だったのかねぇ。
《ともかく降りようか。何か脱出法があるかもだし》
「だな。ここにぶら下がったままミイラになりたくねえ……しかし、今アンカーかけてる壁の
《格納庫の名残りなのかも。このレールを使って作業用アームとかを壁に這わせて行き来させてたんでない?》
ああ、スーパーロボットの修理とかで整備が使ってる、天井や壁に張り付いてる感じの重機か。ロボットアームが基本だが、人が乗れる
「なるほど。それを動かせれば天井からの脱出の足掛かりになるかもな」
非常灯さえ点いてない真っ暗の中を
そういや
《低ちゃん、レールの先をデッカイもんが塞いでる》
「おう、こっちも見えた。作業機……には見えないな」
降りていく先でライトに映ったのは、白い金属製の光沢を持つ角ばった物体。
作業アームを格納した重機、には見えないな。作業機にしちゃデカ過ぎるし形も変だ。なんだこれ?
なんにせよ降下するルートを塞がれては一旦止まるしかねえや。レールの次はこいつにアンカーを引っかけるか。
「乗れそうかい?」
物体の上は余裕でライダーを降ろせる面積がある。だがこんなところに放置されている代物だ。乗った途端に壊れて下に落っこちるとかありそうで怖いな。
《解析してあげやう…………ん? これってスーパーロボット?》
「は? マジか、こんなトコに放置かよ」
いや、ありえねえだろ。スーパーロボットは
《材質的に一般の物じゃないよ。ただこれはごく一部、たぶん胴体パーツだね。というか、この格納庫の音の反響からすると同じような出っ張りが他にも壁に付いてるヨン。サイズ的にぜんぶ合体したら50メートル級は固いナ》
「封鎖された空間に大型スーパーロボット、か。なんだかキナ臭えなぁ」
そのロボットの胴体パーツとやらの上にバイクを降ろす。下まであと20メートルってトコかね。こいつが置かれているのが一番底らしく、ライトを反射する床の
形状的に有人機っぽくねえな。こいつジャリンガー4みたいに有人パーツを1機で飛ばして、残りのパーツをSワールドへ向けて射出するタイプのロボットか?
パーツはそれぞれ背後の壁から天井へ向けて伸びているレールに設置されている。やっぱりパーツを上に運搬するための装置に見えるな。一種のカタパルトみたいなもんか?
《低ちゃん、このロボット使って脱出してみる?》
「無理だ。上にジャリンガー4の残骸がつっかえてんだろ。それにガキどもが救助されずに残ってるかもしれねえ。天井は壊せねえよ」
なんとか上と連絡を取りたいトコだが、さっきの件もあるしなぁ。またカルトの実働部隊を送り込まれちゃかなわんぜ。もう自力で脱出するしかねえわ。
ここが
バイクからファイター形態をとって降下。周囲を軽く探索する。
……しかし、壁には通路やドアのようなものが見当たらなかった。埋められちまったのか? スーツちゃんも壁に大きな反響の違いはないと言っていて、埋めたにしても相当厚いようだ。
「参ったな。期待薄とは思っちゃいたが、壁に電源盤さえありゃしねえ」
《完全に外部からコントロールする施設なのかもナ。残るのはやっぱロボットだニィ。
「起動すればな。炉心落として何年経ってるか分かんねえぞ」
見た感じ状態は悪くなさそうだが……胴体のデカい穴はビームの発射口か何かか? となると操縦席は頭あたりかねえ。超レアケースだと股間にあったりするんだよなぁ。
アンカーを使って胴体パーツの上に這い上がる。今いるのが人でいうと胸元の鎖骨と鎖骨の中央あたり。つまり奥にある複雑な構造を持つ出っ張りが首や頭部に当たる部分のようだ。
よく見ればいかにもスーパーロボットらしい、アンテナめいた突起が
《ここだね。人の通れる大きさのハッチがある。開けられそう》
首にあたる部分の背後にこいつの操縦席へ入るための出入り口があった。BULLDOGもこの辺りが出入り口だったな。
ブルと開発系統は全然別物のようだが、技術ってのは煮詰めていくと似たような回答に辿り着くもんらしい。
非常用のハッチ開閉パネルを弄り、中にあったレバーを回して人力で開いていく。こういう電源が入ってなくても動かせる装置は安全上必須だよな。
「んじゃ、お邪魔しますよっと」
当然内部は照明なんてまったくついてない。まあスーツちゃんが音の反響から作った大まかなグラフィックモデルを網膜に投影してくれるから、変なところに頭をぶつけたりはしなくて済むがね。
「炉心のスターターはどこだ? 外部電源から初期パワーを引っ張るタイプだったらどうしようもねえけどよ」
ザンバスターも炉心起動に外部電源が必要なロボットなんだよな。
一度点いてしまえば後は自前でエネルギーを蓄えられるが、本体も武装も膨大なエネルギーが必要で、その分チャージに時間が掛かる代物だった。おかけで最低限チャージした量だけで戦うことになって大変だったぜ。
《起動装置
「誰がしゃくれヤンキーだ。あと勝負と言いたいんかい。デュエルは決闘って意味だろ?」
隠れるようにあった起動用のスイッチを入れる。動かすとき以外に用のないスイッチだから、あんま触らんとこにあるんだろう。逆によく触るスイッチ群はすぐ手が届くコンソール周りや、操縦棹の近辺にあるのが普通だ。
「――――よし! 動いた」
真っ暗だった操縦席に照明が灯る。1人乗りとしてはかなりスペースに余裕があるな。各ボタンの仕様はハードスイッチ系。いいね。オレ好みだ。
メインモニターは横長で180度をカバーしておりフレームレス。左右も切れ間なくスッキリと見える。
全周囲型よりこのくらいのほうが『操縦席』って感じで、これまたオレ好みだ。おいおい、ツボついてくれんじゃねえの。
《この子は80メートル級スーパーロボット『テイオウ』。
「4つ? 3つじゃないのか? この胴体の他には2基しかなかったじゃん」
《メインになる炉心パーツが完成してないみたい。今動いてるのはサブエンジンだけだネ》
「それで放置? 80メートルクラスとなればプリマテリアルだって膨大に使ってんだろ。未完成で放っぽっとくわけがねえ。何があったんだ?」
……まあ、ロボットに残ってるログ程度じゃ分かりっこない話か。ここで何があったのやら。
《責任問題を恐れたプロジェクト責任者が必死に隠蔽した結果、ゴーストマシンになったナリ》
「はあ?」
《隠蔽に関わったらしい開発チームの上司に対する罵詈雑言と愚痴が、それはもうズラーっとログに綴られてるゾ。で、最後にせめて後世で暴いてくれってサ》
「いや、知らねえよ! 場所的にエリートどもの負の産物なんだろうがよ、隠して済むもんじゃねえだろこんなもん! 名前にスーパーが付く巨大ロボットだぞ!? むしろよく隠蔽できたなオイ! クッソ、たった一言にどれだけ突っ込ませる気だ、酸欠になるわ! 偉いヤツってのはどいつもこいつもクルクルパーか! テメーらの出世とか進退のために大事なプリマテリアルを無駄にしてんじゃねえ! こいつを回収するために私たちが何度殺されたと思ってるのよ!」
《……オチツケ低ちゃん。女言葉になってるゾイ》
「――――おっと。いかん、あまりのしょうもない理由に瞬間的にストレスマッハになっちまった」
この体になってからというもの、周りをやたら女ばっかに囲まれてるからなぁ。無意識に言葉が移ってきてるのかもしれねえ。
おお怖い怖い。オレは男、オレは男。中身は男なんだ。気を確かに持てオレ。
「よし落ち着いた。さて肝心の通信機は――――使えそうだな」
コードを何通りか試していくとクリアな音声で聞こえるものがあった。さすがにデカいだけあって通信機能はしっかりしてるようだ。
《なんかものすごく無線が飛び交ってるナ。んー、銀河帝国とかいう変な団体が海軍抱き込んで、飛行船使って街の上空で騒いでるみたい》
「……待った。何て? 頭の悪い単語がポンポン出てきた気がするんだが」
銀河帝国? 海軍抱き込み? おまけに今どき飛行船? どれひとつ取っても脳が消化不良になるわ。
《銀河帝国を名乗るエリート層の『銀河派閥』が、街の上に巨大な飛行船を乗り付けてる。大日本海軍はその銀河帝国に組したみたい》
「……赤毛ねーちゃんたちとやり合ってる派閥だっか? そっかー、敵は
ホントにコメントしようが
まして集団でとち狂ってる連中なんて、まともな人間は絶対に相手にするもんじゃねえ。
《でもわりとピンチみたいだゼイ? スーパーロボットまで保有してるみたいだし》
「待って! ホント待って、小刻みに出さないで。いっそ分かってる事は全部ぶちまけて。半端なジャブを食らい続けてるみたいでスゲー気持ち悪いっ」
《えー、まず、銀河帝国はS基地の機能を持った飛行船を保有していて、そのおかげでスーパーロボットを地上基地に比べて広範囲に動かせるみたい。OK?》
「お、おう。スーパーロボットの泣き所『基地から離れすぎると動かなくなる』を基地自体が移動することでクリアしたってか?」
《正解。さすがに積める重さがギリギリみたいで、50メートル級が1機ってところみたいだけどナ》
「飛行船の積載量なんてどんなに高性能化してもたかが知れてる……けど何気にスーパーロボットは見た目よりずっと軽いから、案外楽に積めたのかもしれねえな」
50メートルもの巨体でたったの550トンとかザラだからなぁ。
《次、銀河帝国はサイタマ基地の明け渡しを要求してる。それと基地全体でロボットの発進ができない状態みたい。内通者のハッキングだって》
「国際法……今さらか。こんな狂った事してるんだ。時間稼ぎも無理だろうな」
《ウィ。10分、残り7分26秒で回答しないと保有するスーパーロボットで基地を攻撃するって脅してる》
「パイロットを巻き込むかもしれないのに? チッ、これってパイロット同士の争い扱いになると踏んでるのか」
ごく最近にオレとサイコパス野郎との諍いで、『Fever!!』の出てこなかった実例が出来ちまったしな。
うへぇ。最悪、本当に最悪の話、オレがこの暴挙の最後の引き金を引いちまった可能性まであるのかよ……。
《基地ではバスターモビルで外にいたアスカちゃんたちが、一応迎撃にあたる手筈みたい》
「無理だ。バスターモビルは飛び道具が無いし、背後に守るもの背負って戦う戦場にはまったく向いてない。敵はどんなタイプか分かるかい?」
《テルミちゃんの予知が当たったヨ。新たに建造でもしたのかな?》
「……おい、まさか!?」
スーツちゃんは返答の代わりに通信機の周波数を変えてボリュームを上げた。
〔これぞ我らが銀河帝国の守護神。不死鳥王ファイヤーアークである〕
不死鳥――――おまえ、何度蘇ったら気が済むんだよ……。
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