第121話 トリプル・ユニゾンアタック!!!

<放送中>


 ザンバスター。それはアスカにとって、玉鍵たまと共に死地を戦い抜いた最強のスーパーロボット。


 ザンバスター。それはアスカにとって、玉鍵たまを相棒と認め、認められた最高のスーパーロボット。


 ザンバスター。それはアスカにとって、玉鍵たまとの絆を築かせてくれた最愛のスーパーロボット。


(タマは私に何を伝えたいの? ザンバスター……ザンバスター……)


 アスカ・フロイト・敷島の脳裏を、あの日の記憶が駆け巡る。


 苛烈を極めた戦いからまだ1週間と経ってはいない。手袋越しの固いスティックの手触りも、急造した計器のごちゃ付き具合も。真新しいコックピットシートのビニールのにおいさえ克明に思い出せる。


 いや、たとえどれだけ月日が経とうとも、アスカは鮮明に思い出せることだろう。


 己の14年の人生でもっとも激しく、力と心、そして絆が生まれた炎のようなひと時を。


 解を求めるアスカの意識は、深く深く思考の海へと浸かる。


 それでもモニターに映る映像は、常に眼球を通して少女の頭脳に訴えかけていた。相棒の姿からわずかなヒントでも取りこぼさぬようにと。


 モニターにズームアップした映像では、乗機を超小型ロボットからバイク形態へと変形させ、散乱物だらけの敷地を苦も無く走り抜けていく玉鍵のバイクが映っていた。


 その加速は通常のバイクとは完全に別物で、およそ人が乗っていられるようなスピードには思えないほど。変形の事と合わせて考えれば、Sワールドの技術が用いられたスーパーバイクであることは間違いないだろう。


 合体したジャリンガー4もまた、餌に釣られるように玉鍵を追っていく。


 ただパイロット1人では飛行もままならないのか、足を使っての歩行による追跡は挙動がどこか不安定でおかしい。それでも50メートルの巨体が地面を踏みしめるたびに、バスターモビルに乗っているアスカにもズシンズシンという振動が伝わってきた。


B2.<玉鍵さんは基地に向かってるの!? 別の機体に乗って応戦するつもりなら援護しないと!>


 玉鍵の行動を見た花代ミズキの判断は、乗り換えのための一時退避。


 確かに玉鍵ならば10メートル級のバスターモビルあたりでも、動きの悪い50メートル級になら十分対抗できるだろう。さらに自分たちも加われば、たとえ完動状態のジャリンガー4さえ倒せるはずだ。


 ただしこの判断にはミズキの致命的な勘違いが含まれている。


 アスカの記憶が正しい限り、現状で即出撃できる機体は自分たちの乗っている3機だけで他はもう無い。


 サイタマ基地は他に見ない規模で複数の基地が密集した、世界有数のスーパーロボット拠点。


 各基地には多くのスーパーロボットが格納されている。前回の出撃で損傷した機体が多いとはいえ、稼働できる機体はまだまだあった。


 しかし、今はテロリストと内じる者がいることが確定した状況。誰であろうと信用はできないし、ましてロボットの発進など簡単には許可できない。


 そんな中で自分たちが出撃できたのは、ラング直々の指名パイロットであることと、バスターモビルはそのラングが直接指揮を執り、急ピッチで立て直している00基地に属する機体であったからだ。


 だが残念ながら玉鍵が訓練で使っていた4機目の訓練用バスターモビルは、コックピット周りが分解されていてすぐに稼働できる状態ではなかった。


 なぜなら4番機は内装の計器類を建造途中でパーツが足りなかったザンバスターへ、その場しのぎで流用するためパーツ取りに使われていたからである。


 では別の機体なら動かせるかというと、これは完全に無理だ。


 Sワールドでの戦闘は完全に定期的なものであり、軍の戦闘機のような常時一定の機数を待機させてスクランブル出撃に備えたりはしていないのだ。


 出撃日以外のロボットたちは整備や修理、補給のために整備士へと預けられており、緻密なスケジュールの上で格納庫から出し入れされている。


 つまるところ、平時は即時発進できる状態のロボットなどほとんど無いのだ。バスターモビルは訓練でも使う機体であることから、例外的にスタンバイ出来ていただけに過ぎない。


 では逆にジャリンガーヘッドが出撃でき、あまつさえパーツまでも発進できたのは何故か?


 理由はいくつか考えられるが、まず04基地が保有する機体は水瓶博士のお手製ばかりで、保有機数が少ないことがあげられる。

 さらに04基地のすべてのロボットは格納庫が専用の物で、そのため他の基地のようにロボットの出し入れの順番を組み替える手間が無い。


 また特定のロボット専用の格納庫は、そのまま発進カタパルトになる物も多いのため、ジャリンガー4は即発進させやすい形式だったからと思われた。


B3.<ミズキ、たぶん違うわ。使える機体は無かったはずよ。……アスカさん分かる?>


 焦って飛び出そうとする親友を抑え、ベルフラウ・勝鬨かちどきは玉鍵に指名されたアスカへ謎かけの解答を急かす。


 ベルフラウの声はやや挑発的で、アスカの回転し続けている思考の中に若干のいら立ちが生まれる。

 しかし玉鍵がアスカにだけ呼びかけたことに無意識の嫉妬が混じっていることは事実だが、急がなくてはならないことも本当の事だった。


 あれは玉鍵たまという一流のパイロットが、その相棒である『パートナーのアスカ』を信じて託した言葉。


 たった一人で戦うことばかりが続く彼女が、自分を相棒と認めて頼ってくれている。その信頼をアスカは確かに感じとった。


 つまり彼女はアスカが解答に辿り着く前提で動いている。ならばここで分からないなどと口走るのは、玉鍵の相棒を自負するアスカには決して許されない。


 ――――玉鍵は言った。『ザンバスター』と。


 二人の絆を結んだロボットの名を。それは何をどこまで含んでいるのか?


 加速する思考の中でも無慈悲に時間は進み、相棒の乗るバイクもまた遠ざかっていく。


 道順など守らず、ほとんど一直線に。その先にあるのはミズキが予想したように00基地。


 だが、あの玉鍵が乗り込める機体が無いことを知らないわけはない。つまり用があるのは格納庫では―――――


「――――違う! タマは乗り換えなんて考えてない! ザンバスター! そうよ、あいつはザンバスターで戦地・・を指定したのよ!」


<えぇっ!?>


「行くわよ! これは私たち・・・だけ、私たち・・・だけが出来る必殺技・・・のリクエストよ! 和美の弟子の私たちだけのね! ――――ラング! ザンバスターの格納庫から人員を大急ぎで退避させて! これで死んでも知らないんだから!」


 アスカの脳は辿り着いた答えに覚醒したかのように、基地へ向けて次々と段取りを伝えていく。


 間違いない。玉鍵はあの空洞・・を利用しようとしていると直感したアスカは、まだ困惑気味のミズキとベルフラウを引っ張るようにしてバスターモビルを静かに走らせた。


00B.<OK。言ってることはさっぱりだけど、なんとか出来るならやってみなさい。退避は1分で終わらせるわ……発進口は開けばいいのかしら?>


「ええ! よろしくね」


 アスカにさっぱりと言いつつも、姪と同じく天才肌の叔母は話の要点を直感で見抜く。


 さしものラングもまだ全容は分かっていない、ただそうするべきだと己の内側の何かが叫ぶ声を信じて、親代わりに育ててきた姪の実力を信じて動くのみ。


 そしていつものように、結果は後でついてくるだろう。常人には理解しえない閃きを受けて、天才たちはそれぞれに動き出す。


 行動による結果が世間にラング・フロイトを天才と呼ばせたように、結果が伴い続ければ、アスカもいずれそう呼ばれることになるに違いない。


B2.<わ、私たちは何をすればいいの? アスカや玉鍵さんが何を考えてるのか分かんないんだけど!?>


「私たちのすることはジャリンガーの撃破よ。でもここで爆発させたら基地や街に被害が出る。だから汚い爆風はぜんぶ真上・・に上げてもらうわ!」


B3.<も、もしかしてザンバスターの格納庫にアレを突き落とすの? でもそれは……>


「できるわ!」


 懐疑的なベルフラウに向けて、アスカは可能だと明言することで気弱な空気を捻じ伏せる。この作戦は及び腰では成功しないと判断したからだ。


 たしかに相手は50メートルもの巨体で、ここは重力のある場所。軽量のバスターモビルの攻撃では転倒させることさえ難しいだろう。


 だが今のジャリンガーは明らかに動きが悪く、通常の状態とは思えない。それに定員割れの状態で操縦しているせいか、まともに飛行させることもできないようだ。


 機体自体も全体的に損傷が激しく、十分な修理がされていないことが見て取れる。先ほどの手応えも踏まえて、あと一度だけでも強力な一撃を入れれば、転倒どころか破壊さえできるだろうとアスカは分析していた。


「タイミングを見て仕掛けるわよ。躊躇したらタマが危ないわ。私たちでタマを――――仲間を助けるの!」


 今からやることを荒っぽく言えば落とし穴作戦だ。そう複雑なものではない。


 ただし落とすべき穴は相手にも見えている。だから落ちるのを待たずに、こっちから動いて突き落とす・・・・・


 餌役の玉鍵はそれを踏まえて、ジャリンガー4を穴の間際まで引っ張るためにギリギリの動きをするだろう。タイミングがズレれば彼女が捕まるか、ジャリンガー4と共に奈落へと落ちて爆死する危険さえある。


(おまえなんかにタマは指一本触れさせない……一気に突き落としてやる!)


 仲間を助ける、そう強く口にしたのはアスカなりの覚悟を決めるための、いわば自分自身に向けた宣言だった。


 ……悪い印象しかないとはいえ、仮にも顔を知っている同年代。本当のところアスカだって、人殺しに抵抗が無いとはいえない。


 だが玉鍵の命とどちらを取るかと言われたら、そんなもの迷う余地などなかった。


 それにどうせ生き残ってもジャリンガー4を操る蟹沢と、その家族の底辺行きはもはや確定であり、むしろここで死ねたほうが感謝されるかもしれないくらいだと自分に言い聞かせる。


 あるいは蟹沢ユージ当人が死ねば、家族は一般層落ち程度に減刑されるかもしれないのだから。


B3.<……了解>


B2.<わかった。私、玉鍵さんに恩返ししないと>


 今からすることがどんな結果を生むか理解しながら、それでもなお二人は賛同した。


 殺人を許可されている事と、実際に殺すことには天と地の開きがある。


 けれど躊躇ったことで失うかもしれない人の命と比べれば、彼女に関わってきた時間に比べれば。


 今日、ここで己の手を血に染めてもいい。


 自然と異様な気配に包まれた少女たちは、バイクを追走するジャリンガー4のスキを静かに伺う。


 見えてきたのはザンバスターの格納庫。


 頭部まででさえ200メートル。肩から突き出た装甲を加えれば全高で240メートルという巨神を収める器は、直下500メートルもの大空洞。


 ザンバスター本体は破損が激しかったことから、既に分解されてほとんどの部位は運搬済み。


 細かい部品や機材はまだまだ残っているだろうが、あの格納庫はほとんどもぬけの殻と言っていい。突き落とせばジャリンガー4の機体は自身の十倍の高さから、あのボロボロの状態で落下することになるだろう。


(……見に行ってよかった。どうせならタマと見たかったけどね)


 数日前に体験した高揚を忘れられず、ザンバスターの格納庫にアスカがつい立ち寄ってしまったのはつい先日のこと。

 あの時点で昼夜を問わずに行われていた機体の分解作業はほとんど完了していて、発進の噴射の影響で溶けかけた外壁を持つ垂直の空洞がポッカリと空へ向けて広がっていた。


 その光景はアスカの望んでいたものとは違ったが、滅びの美を内包した廃墟を見るような、どこか背徳的な美しさを感じた。


 蟹沢ユージなどという、下らない男の墓標にはもったいないくらいに。


<―――――今だぁ!>


 オープン回線に玉鍵の絶叫めいた呼び声が聞こえ、その瞬間にアスカ、ベルフラウ、ミズキのバスターモビルはありったけのブーストを吹かして飛翔した。


 アスカたちはここまでに段取りなど一切していない。作戦など欠片も話し合っていない。


 だがしかし、3人はまったく同じ高さに跳んだ。


 大空へと舞い上がった3機のロボットは、青い空を掻き回すように機体を捻って切り返し、槍のごとく脚部を敵へと向けて突き付ける。


 そして3人は同時に叫んだ。


「「「サ・ン・ダァァァァーッ! キィィィィックッ!!!」」」


 地獄へ続いているのではないかと思える黒い大穴には、そのど真ん中を切り裂くように飛翔するバイク。


 捕らえようと伸ばしたジャリンガーの手を逃れ、その身を大きく穴に向けさせた玉鍵の姿がアスカには確かに見えた。


 そして3本の脚部はわずかに発生したエナジーシールドを突き抜けて、ジャリンガー4の背面へと突き刺さる。


 これこそ元エースの訓練教官、天野和美仕込みの必殺技。


 玉鍵・アスカペアの駆るザンバスターの決定打ともなったスーパーサンダーキック。その原型となる必殺技、『サンダーキック』である。


 天野のパートナー高屋敷法子の必殺技であり、後に天野も習得して次世代のアスカたちへと伝えるために尽力している。まさに時代を超えた大技であった。


 その必殺技を3身1体の同時攻撃で繰り出したアスカたちの一撃は、重量で大きく勝るはずのジャリンガー4の巨体を大きく仰け反らせた。


 わずかにも耐えることなく、ジャリンガー4は全身から火花を走らせ、壁を擦るようにして転げ落ちていった。


「よっしゃあ!」


 轟音を立てて落ちたジャリンガー4に手応えを感じたアスカは、思わず操縦棹を離してガッツポーズを決めた。


 サンダーキック自体は鬼教官による執拗な訓練で3人とも習得していたものの、同じ目標へ同時に繰り出す訓練などしたことはない。寸分のズレなくここまで完璧に息が合うとはさすがに思っていなかった。


「どうよタマ! あんたの無茶なオーダー、キッチリこなしたわよ!」


 アスカは顔がニヤけるのを抑えられずに上機嫌で玉鍵に呼びかける。彼女に感心され、褒められることを予想すると湧き出る喜びを抑えられなかったのだ。


 ――――――だが、スピーカーから外に響くアスカの声に返す者はいなかった。


「………………タマ?」


 ザンバスターを収めていた格納庫周辺は、扱う物の大きさに見合うようにひらけている。


 視界を遮るようなものは無く、いかに高速を誇ろうと短時間で大型バイクが見えなくなるほど遠くに行くなどありえない。


 たがしかし、玉鍵と彼女の乗るバイクの姿はアスカのバスターモビルのモニターに映る限りどこにも無かった。


「――――まさか!」


 格納庫の縦穴を覗き込むため慌てて機体を動かそうとしたとき、強烈な振動と共に穴から火柱が吹き上がった。


 やがて空へと飛び散った残骸は重力に捕らえられ、雨のように地面へと降り注ぐ。


「た、タマぁぁぁぁぁぁーッ!!」


 バスターモビルを叩く破片の打撃音は、アスカの声をかき消した。







 


「あっぶねえ……ギリギリだった」


 こんなガキ見捨てておけばよかったぜ。つい目に入ったから助けちまったわ。


《無茶するなぁ。ジャンプでそのまま向こう岸に降りればよかったのに、途中で垂直降下して人間2人を拾うとか曲芸のいいトコだゾイ》


「そのつもりだったけどよぉ。見ちまったらしょうがねえじゃん」


 空中で手に引っ掴んだのはジャリンガー4のパイロットの、えーと、タコいほうの2人。アスカたちに蹴られて落っこちていくロボットを眺めてたら、その近くに急に現れやがってよ。


 んー、あー、……名前がまったく思い出せん。転移テレポートの超能力者らしい元出っ歯のほうの力かね?

 どっちも失神してたようでそのまま落ちていくから、つい拾っちまったってワケだ。


 たぶん失神したリーダー拾って、爆発前に脱出しようとしたんだろう。けど途中で自分も力尽きちまったんだろうな。


 ……オレに取ってはどうしようもねえタコどもだけど、味方を守ろうとしたテメーの気概だけは認めてやるよ。だから一度だけ助けてやらぁ。


「それはともかく助かったよスーツちゃん。あのままボケッとしてたらオレまで爆死しちまうところだったぜ」


 空中でなんとかこいつら拾ったはいいが、ジャリンガー4が爆発するって警告されて、慌てて近くのエレベーターシャフトに逃げ込んだからな。


 こいつら助けるために飛行時間を使い切っちまったから、功夫クンフーのアンカー使ってどっかの蜘蛛男みたいに移動することになって大変だったぜ。


 壊れて『KEEP OUT』のテープが張られた搬入用のエレベーターのドアが半端に開いたまんまだったから、さっと飛び込めて助かったわ。

 それでも功夫クンフーのカウル精製機能でちょっとした密閉シェルターを作れなきゃ、中まで吹き込んできた爆風と熱でヤバかったろう。


《男と心中など許さなナーイ。低ちゃんは百合の花に包まれてイクべき》


「どっちも御免だ」


 死ぬなら操縦席を棺桶に1人で死にてえ。余計な道連れはいらねえよ。


「まあ、ちょっとした答え合わせになったな。さすがに1人じゃ合体状態は動かせなかったか。最低2人ってトコか?」


《どうかな? ものすごく無理してたみたいだし、本来は2人でも無理なんじゃネ?》


「かもな。命まで絞り出すって感じの動きだったしよ……見た目からしてこりゃヤバそうだ」


 邪魔だったから両側のカウルに張り付くように除けたガキは、どっちも目から鼻から耳から血を流して、おまけに肌が爺さんみたいにシワシワだ。分かりやすく『力を使い果たしました』って状態に見える。


 まあ、あのクソみたいな科学者だか博士だかの作ったロボットだもんなぁ。パイロットの安全なんて二の次だったんだろう。


「早く治療しないと死ぬか?」


《わがんにゃい》


「わがんにゃいかー」


 超能力者の消耗が命に関わるかどうかなんて、オレもわっかんねえ。できるだけ助けてやるつもりだが、途中で死んだらそれはそれだ。どうせ底辺行きだろうしな。


 助けたヤツの言うこっちゃねーが、ここで死んだ方がマシかもしれんしよ。


「あらかた爆発は収まったか?」


《みたい。でも飛び込んだエレベーターの入口近辺、ジャリンガーの残骸と瓦礫で埋まっちゃったナ》


「一瞬遅かったらその残骸に撥ねられてハンバーグだったな」


 功夫クンフーのアンカーを使って、シャフトから下に降りることで爆風と熱はなんとかやり過ごせた。そんで、ここからどうしたもんか。


 通信を試したものの届いていないっぽい。地下だし、施設内の中継器周りが壊れちまってたらこんなもんかね。

 ザンバスターは落ちるわジャリンガーは落ちて爆発するわで、格納庫周辺の通信機器がブッ壊れてもしょうがねえか。


「もう1階分上に上がるなり下がるなりすりゃ、開くドアもあるかねえ」


《なら下かな。飛行はもうできないし、アンカーを巻き取ってもプランプランするだけじゃドアは破れないよ》


 ドアが開いてるならさっきみたいに飛び込めるかもしれんが、閉まってたら身動きが取れないからな。


 一応、ロボット形態になればこじ開ける事も可能だろうけど、変形するにはガキども荷物をどっかに下ろさにゃならん。この状態で無理やり変形したら肉団子プレスになっちまう。


 ああ嫌だ。たしか一般層で飯作ってるときに観たアニメ映画で、超能力が暴走したガキが恋人を自分の膨張した体で押し潰すシーンがあったよなぁ。あんな目に合うのは御免だぜ。


「んじゃ、下に参りまーす」


《地下は格闘技場でございまーす》


「原始人は出るわいにしえのソードマンは出るわ、格闘ってより完全にファンタジー漫画だよな、あれ」


 キュリキュリというワイヤー音を立てて功夫クンフーが下に降りていく。あの時点でほぼ最下層だから、もう大した高さはないはずだ。

 どうにか一番下まで降りたところでガキどもを下ろして、閉じているドアをファイターに変形してこじ開ける。


 しかしなんだ、細かいトコで面倒な形態だなこりゃ。


「よもやバイクにならなきゃ降りることもできないとは……」


 こいつ変形がキツキツすぎて、ロボット形態だと乗り降りするためのハッチさええでやんの。体が露出するバイク形態が実質のハッチ代わりかよ。


 まあいい。後はなんとか連絡つけて、下までエレベーターを下ろしてもらって解決だな。


《とにかく内部回線のあるところを見つけようか。こういう遠回りってホラーゲームだとよくあるよネ》


「確かに雰囲気満点だな。ゾンビや幽霊よりかは、エイリアンか殺人鬼が出て来そうな通路だけどよ」


 故障か、もしくは事故防ぐために全体でカットしたのか? 非常灯の赤い光が目にうざったいぜ。ガキどもは……いちいち積み直すのが面倒だ、エレベーターの横に転がしとこう。


 最悪は非常階段とかで行くしかねーな。功夫クンフーで通れるかねえ? 防壁扉は破壊するしかねえな。


 こういう建築物なら必要な機能はイラストなりで強調されてるから、通話機も非常階段もすぐ見つかるだろ。隠すようなもんじゃねえしな。


 案の定バイクで通路をトロトロ進んでいくと、通路の一角に非常用の通話機を見つけた。基地のオペレーターが連絡を受けてくれる。


 停止している複数のエレベーターのうち、被害の少ない一基であるさっきの搬入用のヤツを復帰してみるということだった。


「ラング、さんを出してくれないか」


<申し訳ありません。ラング様はただいま非常にお忙しく――――>


「ああ、ならいいんだ。そのエレベーターを待っていればいいんだな。衰弱したジャリンガーチームの2名がいる。救助を頼む」


 春日部や力士くんは大丈夫か聞きたかったんだが、ここでトップ張ってる赤毛ねーちゃんに聞くことでもない。やること山積みだろう。


<わかりました。ただ現在そちらの施設は非常に危険な状態です。通話は切らずその場でお待ちください>


 後はエレベーターがうまいこと動いてくれれば良し。動かない時は大人しく救助が来るまで待ってるしかねーか?


(スーツちゃん、エレベーターが来るまでに軽く周辺を調べてくれないか?)


《おっけぃ。崩落しそうなところがあるかも知れないしネ》


(気付いた時には生き埋めってのは勘弁だ)


 そうでなくても空調が止まってるから長居はしたくねーな。


《……? さっきのエレベーターシャフトの下、ここで一番下かと思ったら、薄い床の下はまだ空洞が続いてるネ。あと亀裂が入ってて崩落の危険あり》


(さっき不用心に降りたのはヤバかったな。けどそれって配管とかある整備用の小さいスペースじゃねーの? 中一階的な)


《ううん、もっと長い。探査できないくらい深いナ》


(ははっ、一般層あたりまで続いてんのか? そんな深いのはセントラルタワーの中央シャフトくらいかと思ってた)


《深さはわかんないけど、位置的には一般層区画の外壁に掠るくらい近いゾ》


 都市のなんらかの初期工事で深く作ったけど、計画変更して途中までしか使ってないエレベーター? それも何か変な感じだが。


(ほーん―――お? 点いた)


 赤の非常灯から通常光源に切り替わる。どうやらエイリアンに遭遇しなくてすみそうだな。


《電源復旧。指定のエレベーターが降りてきてるよん》


(下に何があるか知らねえが、わざわざ探検するほど酔狂じゃねえ。忘れちまおう)


 明かりのついた通路で待っていると、やがて到着したエレベーターのブーッて感じの警告音が聞こえた。


 そこで急に思考加速が始まり、エレベーターのドアがことさらゆっくりと開いていくように感じ出す。


《警告。これたぶん味方じゃないナ》


 どうやらドアの隙間から見えたエレベーター中の光景が、スーツちゃん的にヤベーと感じたらしい。


(マジか)


《数6。ランチャーグレネード持ち1。おそらくガス弾とかじゃないかナ》


 そりゃ敵だ。逮捕者の威嚇用にライフルくらいは持ったとしても、救助に6連グレネードなんていらねーよな。


 んじゃ、ポンポンと投げ込まれる前に潰すとすっか。


 タイミングを見てアクセルを回し、通路を功夫クンフーで爆走する。


 ドアが車体の通るギリギリで滑り込み、正面の二人をはねることでブレーキ代わりにして、そのまま中にいた敵ごとドリフトターンをかまして残りも跳ね飛ばす。


「じんるっ―――」


「スパイク!」


 打撃がやや浅く、銃を構えようとしたヤツを壁と前輪で挟んでスパイクを出す。胸から顔にかけて数本の棘で貫かれた男は、一度ビクンと痙攣したあと口から血を吐いて絶命した。1発だって撃たせるかよ。


《制圧か―――あ》


(あ?)


 珍しいスーツちゃんの思考停止したような声。その次の瞬間、ガクンという衝撃と共にエレベーターが落下した。


「《落ちる!?》」


 その速度が自由落下と呼ばれる速度になるのに、時間は掛らなかった。

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