第120話 超能力合体! 狂乱のジャリンガー!
<放送中>
サイボーグとの戦いで窮地に陥っていた玉鍵は、コンテナから持ち出したらしいバイクによって見事に逆転を果たした。しかしそこへ休む間もなく新たな珍客、所属不明の航空機と4機の小型ロボットによる空挺強襲を受ける。
だが、それさえ彼女は退けた。驚くべきことにロボット形態へと可変したバイクによって、瞬く間に3機をレーザー銃によって撃ち落としのである。
「
笑いものどころか非難の的だろう。複数のモニターに映る中でもっとも注目すべき動向を見せる映像に向けて、ラングは半ばヤケクソで笑うと強く机を殴った。
S基地とは厳格な国際法で守られた法の城壁を持つ施設。この施設への攻撃はすなわち世界の敵と宣言するに等しい。それにこの法律は法的な制裁能力の無い形だけの代物とは訳が違う。
『Fever!!』の介入うんぬん以前に、下手をすれば国際法を盾に他国が都市を占拠しかねないほどの強権が発動してしまう。派閥を越えた負債を生みかねない諸刃の剣なのだ。
発動すれば銀河派閥とて根こそぎ処刑台行きになるだろう。だが他の都市や国の介入があればフロイト派もまた培ってきた権力基盤がメチャクチャにされてしまう。
そのまま他国や都市の傀儡政権のような街にされてしまえば、待っているのは地表に居ながらにして一般層のような見えにくい貧困に沈む社会だ。
だからこそ、これまでは銀河もフロイトも暗黙の了解としてひとつの都市と、その下層にある直轄の一般層ひとつだけの争いに治めていたのだ。
治安回復の名目で侵略されることのないように。
(銀河の連中、何か急ぐような事でも出来たの? いくらあいつらでも雑すぎる)
無意識にいくつもの仮説を組み立てるラングの脳細胞のサーキットたちは、いずれも情報の欠落を指摘して急停止する。すべての謎はコンテナが握っている、ここでどれだけ考えても無意味だと。
(あれがクンフー……じゃないわよね? 資料のフォルムとは明らかに違うし、サイズが小さすぎる)
スポットしているカメラの位置が少し悪く、変形の過程はいまいち見え辛かったが、かなり無茶な変形でパイロットを胴体へ納めていた。あそこまで小さな機体がSワールド仕様なわけはない。
サイズは
スーパーロボットの中には稀に変形前とは似ても似つかない色や形状に変化する物や、ボディサイズさえ変わってしまう物もある。また極めてレアケースだが、唐突にパワーアップする現象も確認されており、資料に記載されていない新機能の可能性はあった。
「バスターモビルは不要だったかしら。けど、今後は基地に防衛用の対空砲と
強盗役のサイボーグは敵のトリモチに無様に捕らわれており、残り1匹の小型機などに玉鍵が後れを取るとは思えない。およそ決着のついた戦局を前に、ラングは皮肉気な言葉を吐き捨てる。
小型ロボットを降ろしたVTOL機は回収までは任務外なのか、あるいはもはや不可能と判断してか基地から離れていく。その悠長な尻にミサイルや高射砲を撃ち込みたくてしかたないラングは、内心で何度もトリガーを引いて溜飲を下げた。
一般の航空基地から迎撃機がスクランブルで上がってきたとしても、おそらく接敵できなかったと称して逃がしてしまうだろう。S基地に比べて一般の軍隊は銀河寄りのため頼りにならないのだ。
―――――まだまだ気は抜けない。そう気合いを入れ直した矢先に現れた突然の闖入者。
作戦室の全員が画面にアップで映った
それが04基地から無断で飛び出したジャリンガー4の
スーパーロボットのフォルムとしては人型をやや逸脱した、頭でっかちのコミカルな機体。そのサイズは50メートル級の頭部とは思えないほどの大きさで、実寸は20メートル近い巨大な顔面である。
「今さら何をしに来たの!? 出撃の許可も無しに!」
スーパーロボットは総じて基地から一定距離を離れると機能不全を起こして墜落する。逆に言えば基地の一定範囲であれば活動は可能だ。ラングがこの騒動の鎮圧にバスターモビルを出動させようとしたのも当然動くからである。
ラングがバスターモビルを迎撃に選抜したのは、信用できる身内がパイロットだからというだけではない。その性能と特性をよく知っているからだ。
スーパーロボットとは超兵器。その戦闘力を地表で発揮されては未曽有の大惨事となりかねない。Sワールドでは撃ちまくっているビームの流れ弾1発とて、都市が標的となれば壊滅的なダメージを負う滅びの光なのだ。
「ジャリンガー4緊急停止! コード発動!」
理由は機体のサイズと、その武装。
バスターモビルは射撃兵装を持たない白兵戦特化のスーパーロボットであり、大きさもほぼ最小サイズである10メートル級の小型に分類される。
一般層から送られた資料にある『クンフーマスター』のような、外部の建造物へ配慮した衝撃緩和装置を持たない機体ばかりのエリート層のロボットの中で、バスターモビルであれば基地の敷地で動き回ったとしても比較的損害が低いと分析しての事だった。
「!? こ、コード受け付けません! 応答無し!」
命令を実行したオペレーターから悲鳴のような狼狽えた声が上がる。
平時の00基地は二線級の基地として雑務に近い運用がなされている。しかし有事にラングの発動する権限によって優先度は逆転し、他の基地管轄のスーパーロボットに対しても上位命令で上書きし、パイロットの操縦さえキャンセルして緊急停止を行うことが可能な統括基地である。
その基地の命令が無視された。機材の故障か、あるいは――――
「04基地呼び出し! そっちからも試させて!」
無駄だろうけど、という言葉を飲み込んでラングは手早くオペレーターに命じる。
ジャリンガー4の発進はそもそもが04基地の不始末。とっくに緊急停止を試しているはずである。管轄ロボットが格納庫から飛び出して気付かないわけがないのだ。
しかし、ラングの脳裏に酸化した皮脂油とアルコール、そして耐え難い加齢臭が蘇り嫌な予感がした。
04B.<――――さ――――――うる―――――――わか―――――――分かったから酒を返せ! 人殺しめ!>
モニターの奥からのそりと出てきたビール腹の中年。彼は画面の外いるらしいスタッフに向けて怒鳴りつけると、カメラの前だろうとお構いなしにお気に入りのスキットルから酒を仰いだ。
男の名は水瓶元蔵。肩書の上では04基地の長官であり、ジャリンガー4を始めとする複数のロボットを設計者した科学者でもある。
ただし、その外見は知性という言葉からはかけ離れ、言動はそれ以上に肩書から乖離している男でもあった。
04B.<こっちは研究で忙しい。後にしてくれ>
「状況が分かってて言ってる? 脳が麻薬とアルコール漬けにしても、やることやってから急アルでくたばってちょうだい。ジャリンガー4の緊急停止コードは試し―――――」
ラングの言葉を遮り、ゲェェェェップッという最悪の音声が作戦室に響く。酒と口臭の混じった臭いさえしてきそうな音にラングだけでなくその場の全員が顔をしかめた。
04B.<緊急停止? そんな無駄な機能はついとらんから無――――やめろ! 儂の酒だぞ! 返せ!>
介護スタッフらしき人物にスキットルを取り上げられ、餌を取られた猿のようにモニターを離れていく水瓶。ラングの手が耐え難い苛立ちにブルブルと震えて、そのまま爆発した。
「04基地! 話の分かるヤツはいないの!? おまえら豚の集まりかっ! もぉーいい! バスターモビル全機発進! タマと連携してジャリンガーを叩き落しなさいッ!」
「いい加減にしろ! 本当に家族揃って底辺落ちになるぞ!」
〔うるせぇぇぇ! オレに命令すんな! おまえこそ
急降下してくる顔面をサイドステップで躱す。ファイター形態はバイク形態ほど直線速度は出せないが、ロボットらしく脚部を使った細かい移動は得意だ。あんな捻りの無いもん当たるかよ。
(……ギリギリ理性は残ってるか? 前のジャスティーンのタコよりはマシだな)
ジャリンガーヘッドはいくつか搭載されているであろう射撃兵装を使わず、さっきからこっちに日和った体当たりを繰り返している。
これで完全にキレていたらお構いなしに火器をブッ放しているはず。それをしなくても体当たりだってもっと強引にきてもいいはずだ。それこそ多少自分がダメージを貰おうが、地面にブチ当たる勢いで加速してくるだろう。
なのにこいつは撃たない。同様に体当たりもおっかなびっくりに感じる。
ただしオレの心配って感じじゃない。こいつはバイクと周囲への被害にまだ一応配慮してるフシがある。
……テメエもバイクかよ。こんなガキまでサイボーグ共と繋がってるのか?
《でもさっきから低ちゃんの説得に応じないナ。イライラし始めたらタガが外れるかもよ?》
さっきからやめるようオープン回線で言ってんだけどなぁ。帰ってくるのはバイク降りろと恨み節ばっかで聞きゃあしねえ。そろそろ力士くんとの義理もリミットだぞテメエ。
こっちの命を狙ってるうえに周辺被害を考えたら撃破一択なんだ。元よりガキでもロボットに乗って暴走するやつは、国際法で殺しても無罪って決まってんだよ。
スーパーロボットが本気で暴れだしたら街なんて一瞬で壊滅だ。未成年だヒューマニズムだと言えるような余裕なんざ無い。この人類が生み出した以上の破壊の権化の前ではな。
度胸試しにハンマーで核爆弾の信管近くを叩きまくるバカがいたとして、それが冗談や遊びだったと言い訳されて許されると思うか? そんなバカを相手に子供だからと時間かけて説得するヤツが本当にまともだと思うか?
オレはまっっったく思わないね。面白半分にハンマーを持ち上げた瞬間に、装填されてる鉛玉を全弾叩き込んでやるわ。タコ1人のために巻き添えで死にたくないんでな。
《で、どうするたい? 相手は空中。パーツ機とはいえこっちの4倍から5倍近い大きさでゴワス。
(見たところ明らかに前回の戦闘で受けたダメージを引きずっちょう。
《たぶん方言間違ってるゾ》
(スーツちゃんに言われたくねえ)
スーパーロボットといえど、装甲の修理されてない箇所なら剥き出しの精密機器の集合体だ。撃破は無理かもしれないが、そこを狙えばある程度機能不全を起こせる可能性が高い。
元より頭だけの状態だ、飛べ無くなりゃあ文字通り手も足も出なくなるだろう。問題はむしろ敵にどう取り付くかだな。
前の戦いを見る限りジャリンガー4には二重のシールドがあるようだ。ロボット側に依存する通常のエナジーシールドと、超能力による物理的な影響をカットするらしいバリア。このふたつ。
まあシールド・バリアと言い分けてるが、開発者たちからしても厳密な分け方は無いらしいぜ? 観測してるやつがシールドと言ったらシールド。バリアと言ったらバリアってなもんだ。
特にシールドは『攻撃を受ける何か』でひとまとめっぽい。実体型の盾でもシールド呼びするし、どっちも通例で使用してるから今さら区分してもってトコなんだろうよ。
エナジーシールドはロボット本体よりやや離れた場所に形成される。
これは主に射撃に対する防御のための代物で、一定以上に接近すると形成された範囲の内側に入り込めるから、その中でのダメージには無意味になる。
小型のロボットがシールド持ちの敵の大物を食う時なんかは、肉薄戦法が有効とされている理由はこの辺だ。バスターモビルなんかがやってる戦法がまさにそれ。度胸一番、急接近してシールドの内側に入りブッ叩くってなもんだ。
けど超能力バリアとやらはオレも知識が不十分。入り込むどころか、近づいた端から跳ね飛ばされる可能性もあるか。
(スーツちゃん、ファイターの飛行可能時間は分かるかい?)
《ライダー形態と同じ。キッカリ10秒。それ以上は液体窒素が切れてノズルが溶けちゃうゾ》
バイクでありながら
ただこの方式はかなり強引で、高熱の噴射を受けるノズルが熱に耐えられない。これを強制冷却するために積まれた液体窒素の量は10秒ぶん。さっきコンテナから出るときちょっと吹かしたから、残りは9秒から8秒ってトコか。破損覚悟ならプラス5秒くらいはあるかねえ。
(ん? レーダーに感。また敵か? 他のパーツを呼び出したとかじゃねえだろうな)
画面が近すぎて見辛いモニターに3つの光点。サイズ的に10メートル級のロボット? 識別信号は味方だが、それ言ったら目の前のジャリンガーヘッドも味方判定だからどうなんだか。
敵なら合流前に1体くらい潰しておきたいってのに。
〔たま! 来てやったわよっ〕
「アスカ?」
ブースターを吹かして跳ねてきたのはバスターモビル3機。こっちと通信回線設定をしていないからか、スピーカーを使って呼びかけてきた。後の2機は
〔ジャリンガーチーム、蟹沢ユージに警告する。これ以上の暴走行為を続ける場合、パイロットの生死を問わず撃墜が許可されている。ただちに機関を停止し、武装を解除せよ〕
〔あなた何やってるのか分かってるの!? もう基地で死人まで出てるのよ!〕
(……理には叶ってるが、ガキにこんなことやらせるなよ。クソっ)
《スーパーロボットを迎撃できるのは、やっぱりスーパーロボットだけだかんネ》
緊急停止はできるならとっくにやってるか。これもサイボーグ共の妨害工作か? おおかた04基地に内通者でもいるんだろうな。
そしてジャリンガーのリーダーは自発的か強制かはしらんが、こうしてバイクの強奪に協力している。
――――どこのクソ野郎か知らねえが、テメエのしたいことにガキを巻き込んでんじゃねえよ! 大人だけでやれや!
「アスカ!
《例のストリームアタックを仕掛けるゾッ》
「(余計なオマケがついてるから違うな!)行くぞ!」
〔もうっ、説明無しとか勘弁してよね!〕
〔了解。4機フォーメーション〕
〔フォ、フォーメーションは前のヤツだよね!? 4機はあれしかしてないし!〕
敵の正面に1人が配置し、斜め後ろに2機の包囲基本パターン。これに4人目のオレが加わり、必ず1機が敵の対処し難い背後から攻撃する。オレは地上でしか動けないから援護射撃だけだがな。
〔ち、ちくしょう! 4対1とか卑怯だろうがッ!〕
〔どの口が! あんな小型機相手に粋がってたくせに!〕
常に背後から攻撃されることを嫌がったジャリンガーヘッドは、一度仕切り直そうと完全な飛行能力の無いバスターモビルが上がれない高度へと急上昇しようとした。
〔〔〔トリプル!!!〕〕〕
それこそがこのフォメーションの罠。2基の強力なブースターを背負ったバスターモビルにとって、飛行こそできなくてもジャンプによる垂直上昇は得意分野だ。慌てて上昇しようとした鈍重なパーツ機など一瞬で追い抜き、三位一体の電磁ロッドが被せるように叩きつけられる。
〔うわぁッ!?〕
(バリアが無い?)
スーパーロボットの持つシールドやバリアの発生時には視覚的に観測できる発光がある。色や形状は様々だが、発光するのは共通だ。落ち着いて計器類を読んでいられないような緊迫した状況なんかだと、分かりやすく攻撃を受けていると分かるので未熟なうちは結構ありがたかったりする。
二重の膜に守られているはずのジャリンガーヘッド。しかしアスカたちの攻撃は装甲へと諸に突き刺さった。
《サブパイロットがいないし、防御にまで超能力を回せないのかも》
(そういや4人乗りか。逆に1人で動かせてる事がビックリかもな)
墜落したヘッドが地面に落ちて振動を起こす。けどウィークポイントと思って目をつけてた一番デカい装甲の裂け目が下になっちまったか。別の細かい亀裂に突っ込むしかねーな。
(初戦のハイドザウルスの時みたいにライフルをブッ刺して撃ちまくるぞ)
超能力で動かしているロボットと言ってもそれは機材込みの話。パイロットを殺さなくても内部の機械をある程度壊せばすぐ操作不能になるはずだ。
《はいな―――って、ちょっとタンマ!? ヘッドにエネルギー収束! 退避! 離れて!》
「!? 離れろ!」
〔―――に―――めに―――――じん! 類! のぉぉぉぉぉぉ! ためぇぇぇぇにぃぃぃぃぃ!〕
局地的な竜巻!? いや、超能力バリアのエネルギーの奔流か! 見る者を不安にさせるような不吉な赤い光を巻き上げて、墜落していたジャリンガーヘッドを包み込んでいく。
《04基地から10メートルサイズの物体、複数射出確認!》
こいつ……まさか!?
破れかぶれでレーザーを放つも、すべてはエネルギーの竜巻にかき消されてしまう。それをあざ笑うかのように腕が、足が、胴体が。ジャリンガーのパーツだけはなんの障害もなく暴風の中へと飛び込んでいく。
〔ちょ……ウソでしょ!?〕
エネルギー風に押し出される形で退避していたアスカが慄く。竜巻の消えたその場には、合体したジャリンガー4の姿があった。
(1人で合体まで……どう考えても無茶だ。それにパイロットのガキ、あの忌々しいセリフを叫んでたな。あれってまさか催眠暗示か何かか?)
マインドコントロール? 誰かに何か刷り込まれてこんなことしてるのか? クソッ、『Fever!!』はここ最近のパイロット動向には興味が無いのかねえ!
《パイロットの状態考察は後、なんか状況がマズいゾ。アレが武装を使い出したら
(バイクが欲しいようだから平気……とは言えないか。とうとうキレちまったようだしな。けど思ったより
ピンチでパワーアップとは主人公みたいな野郎だが、いかんせん残りの体力や超能力を使うための精神エネルギーか何かが枯渇しかかってるように見える。さっきの竜巻だってロウソクの最後の煌めきってヤツにも思えた。超能力に依存しない武装は使えるかもしれないからまだ危険ではあるけどよ。
合体こそされちまったが、おそらく倒せる。経験上、間違いなくあと一押しだ。
しかしどうする? さすがに50メートルものデカブツが相手じゃ、ファイターの貧弱な武装で正面撃破は無理だ。アスカたちのバスターモビルなら、数で押せばなんとか倒せなくはないか?
〔ビビんな! もう一回よ!〕
こっちが思考し終わる前に、持ち前のセンスで
〔うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!〕
だがジャリンガー4も大人しく殴られるわけはない。図体がデカくなったことで必然的にリーチの伸びた体を生かし、腕を振り回してバスターモビルの接近を防ぐ。
アスカたちは頑張ってるものの、攻撃位置にたどり着く前に腕が伸びてくるので迂闊に近寄れないようだ。バスターモビルはジャンプが得意とはいえ、飛行能力がそのものは無いから空中ではあまり細かく動けないからな。
(めんどくせえ!)
加えてコイツ、執拗にオレを捕まえようとしてくる。キレていても思考の端にバイクの確保は引っかかったままらしい。そのあたりも何か精神をコントロールされてる感じで気味が悪いぜ。
〔アスカ! まず手足から!〕
〔ダメ! パイロットを潰すのよ! ここでロボットのパーツなんて爆発させたらタマが!〕
クソ、ここに来てオレが足を引っ張っちまってるか。見る限りファイターの防御力はスーパーロボットとしちゃ無いに等しい。敵とここまで近いと撃破の爆発でも致命傷を負いそうだ。
なんとか引き離したいところだってのに、サイズに差がありすぎて簡単に追いつかれちまう。それに周りは基地の重要施設だらけ、その向こうには街があるときたもんだ。軽くネズミみたいにチョロっと逃げ込める場所が
時間切れを待つか? 相手はもうヘロヘロだ。このまま逃げ回ってればいずれ力尽きるだろう――――だめだ。そういう相手に手番を渡すような発想は思わぬアクシデントを生む。
ついさっき倉庫で自殺しやがった女みたいに、最後の最後でこのタコがどんなバカをやるか分かったもんじゃねえ。マインドコントロールされてるとしたら猶更だ。
《うーん、ここからどーすんの低ちゃん? 逃げ回るのは難しくないけどサー》
(どうにかアスカたちに倒してもらうしかねえな)
《えー、難しくネ? ならこっちはどうする? 建物の陰にでも隠れれば爆風はやり過ごせると思うけどさ。ただ近くに燃料用のパイプとかあるから二次被害がマッハだナ。まあそれはしょうがないか》
二次被害無しで可能にするための前提条件は『この敷地でオレが逃げ込めてロボットが吹き飛んでも大きな被害が出ない場所』か。あるか? そんな都合のいい場所。
(――――いいや。ここは欲張っていこう。オレも助かって被害も抑える方向でよ)
それにまだ春日部が近くにいるかもしれねえしな。生身で燃料の燃える高温の火に巻かれたら死んじまう。
アテはある。ちょうど基地間の移動で見たあれがいい。
《……ウヒョヒョ。魂のチップの蓄えは十分です? まだリスタートは無理ポ。無茶しないほうがいいんでナーイ?》
(アテが外れても結果は同じさ。どうせロボットに乗ったときから命って種銭は残らず払ってんだ。実入りのいいほうに賭けようぜ)
これがおまえに伝わるかどうかは分が悪い賭けだ。だから失敗しても恨まねえよ。とんでもねえ馬鹿野郎と組んじまったとあきらめてくれや。
「アスカ!
〔えぇ!? ちょ、タマ!〕
悪い。罠にかけたいんだから言えねえんだよ。ザンバスターと今から向かう先で察してくれや!
「ライダーモード!」
バトルモードと叫んでロボットに変形するからと安易に叫んじまったが、案の定というか
いや、これで正解なんだがよ。長官ねーちゃんの思考、いや嗜好が読めちまったのがなんか嫌だなぁ。
〔ば い゛く゛ぅぅぅぅ! よ゛こせ゛ぇぇぇぇぇ!!〕
バイクの視覚情報がトリガーになったのだろう。泡を吹くような濁った絶叫をあげてにじり寄ってくるジャリンガー4を背に、
頼むぜ
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