第118話 ブッ込みアタック!
レトロなのは
さっきから遠くでギャリギャリ鳴ってるのは、これはグランドホイールの音じゃねえな。けっこうな面積で金属か何か、固いもんが
(警報は鳴ってるのに保安の姿が見えねえぞ。
《ちょーと待ってチョ……テロ? 職員の一部が決起して反乱を起こしてるみたいな内容の通信が飛び交ってるナ》
「はあ!? 基地でかよ? どこのバカだ」
気持ち
これがカルトってやつか。オレたちとは違う世界を見て、
《鎮圧自体は問題なくできそうかな? そこまでの規模じゃないみたい。でも保安や職員の動員が
「チッ、それがこの空白地帯の正体か」
どんなイデオロギーで行動してんのか知らねえが、こりゃ基地の乗っ取りなんざ初めから失敗前提のようだな。暴れてる連中はコンテナを奪うための目くらましでしかないんだろう。
……あのコンテナ、本当に何が入ってるんだ? いくらカルト狂いのタコでもあいつらなりの損得ってのがあるはずだ。
せっかく今まで基地の中に潜り込ませた信者を使い潰してでも、連中にはコンテナを奪う意味があるって事になる。ちょっとやそっとの物品には思えないぞ。
ロボットのパーツか? あるいは現物なんて見たことないが、
何が入ってるにしても、どうしてあのコンテナに『玉鍵』なんて書いてあったんだ?
クソ、わっかんねえ。こういうときはシンプルに行動するしかねえ――――春日部たちの安全を確保した後で、オレはカルト共がやりたいことをトコトン妨害する。
よし、方針は決まった。火事場泥棒どもからコンテナを奪い返してやる。こっちは力士くんが怪我してんだ、落とし前をつけてもらうぞ。
(スーツちゃん、これはしばらく保安には頼れそうにねえ。オレたちでなんとかするぞ)
最悪でも時間を稼ぐ。相手はS基地で使うようなモンスタートレーラーだ。クソデカいから目立つし、サイズ的に基地のどこからでも外に出られるわけじゃない。地上で通れるのはメインゲートくらいだろう。
基地のゴタゴタ終わるまでゲートを潜らせなければ、いずれはテロも鎮圧されて保安もこっちに目を向けるはずだ。
《ハイハーイ♪ 次の角を左折でース》
「あいよっ」
重心移動でスクーターを傾けて、工業地帯のようなパイプだらけの中を抜けていく。この辺は燃料関係の区画か? 未知の液体燃料どころかガソリン使って動くロボットまであるからな。
あー、クソ。ヘルメットをしてないから風圧でバタバタなびく髪の毛が邪魔でしょうがねえぜ。
「髪縛る。ちょっとハンドル頼む」
《
スーツちゃんが糸でアクセルを固定してくれているうちに、スカートのポケットに入ってる髪留め用のゴムを漁って、とりあえずひとまとめにする。さすがにきれいにはいかねえわ。乗る前に結んどけばよかった。
「サンキュ」
《片手で使える髪留め用のバレッタでも買おっか? いちいちゴムで結んでると、せっかくのサラサラヘアーが痛みやすいしのぅ》
「まさかオレの人生で髪留めを検討する未来が待ってるとはなぁ……」
視界を妨げるパイプ群が開けてくると、のっぴきならない状況がすぐに目へ飛び込んできた。
「火!?
あちこちに大小無数の機械の部品らしいものが転がっている道。さらにそこを彩るのは燃え上がるPR溶液特有の蛍光色の炎。
それらをスクーターの細いタイヤでなんとか縫っていく。
さらに路面には何かを引きずった跡がずっとある。これが今も続いているガリガリ音の正体だろう。そしてPR溶液を使っているロボットと言ったら―――
《あっちゃー。低ちゃん、これカラーリング的にたぶんホワイトナイトの残骸だよ。それに装甲だけじゃなく中枢のパーツも転がってる、足あたりかな?》
「―――やっぱりか。パイロットは無事そうか?」
今のところ血痕は無いが……
《胴体部位は無いし、たぶん引きずられてる真っ最中でない?》
さすがに銃火器を装備してないホビー機で、トレーラーなんてデカブツを止めるのは無理だったか。
右手のアクセルを最大まで回す。もう道が
《お、やっとトレーラーのお尻が見えてきたネ。ホワイトナイトは――――牽引車両の左側。ターンスパイクが巻き込まれた形、なのかな? 仰向けに倒れた姿勢で引き回されてるネ》
攻撃手段が無いなりに、せめて杭打ちでタイヤの駆動部を壊そうとしたか?
ライト級のスコープダックタイプには初めから内蔵火器は無いし、ホビーATだから手持ちの飛び道具も買ってない。ズームパンチも借りていた腕パーツを春日部機に返したから、こっちも元のホビーパーツに戻しちまったからなぁ。
だがホワイトナイトが重りになってくれてるおかげで、こうして追いつけたぜ。
乗ってるのがどっちか知らねえが、オレがATを取りに行かせた理由である時間稼ぎって当初の目的は、奇しくもキッチリ果たしてくれている。
(よし、次のカーブで追いつけそうだな!)
広い敷地内とはいえ建造物はそこそこあり、トレーラーが通れるような道幅のあるスペースは限られている。
やつが道なりに進んでくれれば、こっちは小さいスクーターの強みを生かして建造物の隙間を縫っていき、ショートカットすることで追いつけるはずだ。
《追いつくのはいいけどドースンノ? ホワイトナイトで戦うのはもう無理っぽくネ?》
(なーに、ATにはグランドホイールがあるんだ。足なんざ片っぽ残ってればまだ走り回れるさ。敷地の外に出る前ならなんとか片足走行でも追い付ける。それに足を引っこ抜いて車両に取りつくくらい、壊れかけでも難しくねえよ)
うまいこと取り付いたら嫌がらせ開始だ。たとえズームパンチは無くても、運転席あたりをガッツンガッツン殴ってればドライバーにかなりのプレッシャーを与えられるだろう。
こっちを振り落そうとハンドル切ったら、それを利用してトレーラーごと横転させてやんよ。
乗ってる
ぼちぼちホワイトナイトの脚部がダメになって、噛みこんでるスパイクも外れちまうだろう。そうなったら足かせの無くなったトレーラーはすぐに速度を上げて、さっさとゲートを出ちまうに違いない。
スピードに乗っていない段階であれば加速の良いATのグランドホイールなら追い付けるが、一度速度に乗られたら最高速100キロそこらのホワイトナイトには、走る専門の車相手じゃ勝ち目が無い。
まして片足だ、バランス取りながらでは何キロ出せるか。
《低ちゃん、トレーラーの助手席が開いた》
(……ヤッベエな)
この段階で敵が車両の外に出てくる理由がこっちに都合の良いことのはずがない。おそらく引っかかってるATをタイヤから取っ払うために出てきたな。
乗ってるのが
だが、乗っているのが春日部で、あいつがSワールドのパイロットじゃないと敵に知られていたら……
(スーツちゃん、ホワイトに乗ってるのは誰だと思う?)
《乗ってるのは、たぶんつみきちゃんだネ。ホワイトナイトを置いてた倉庫からの通信、まだメガネの子って表現が出てくるから》
思考加速のゆっくりした景色の中で、助手席のドアから姿を現したのは妙にマッチョな男。今日ブチのめした黒づくめどもの誰よりも体格のいい、嫌な感じの気配がある。
―――見れば分かる。ガキでも平気で殺せるヤツだ。
奪ったスタンガンはまだ持っている。追走しつつトレーラーかATに飛び乗って、肌が露出してる場所を狙って押し当ててやるか?
いや、そんな悠長に乗り込む算段してる余裕は
最速が必要だ。ここから最速で突っ込んで、野郎の思惑を阻止するしかねえ!
(
《
スーツちゃんの機能によって網膜に投影されたルートは、オレが狙ってたルートと同じ。そこに目掛けて突っ走る。
位置的に建造物の陰にトレーラーが入ってしまうため、ここからはもう目標物を視認することができない。もうオレにできるのはしくじらずにスクーターを走らせ、資材とやらでスクーターごとジャンプすることだ。
《タイミング、ちょい減、ちょい……止め! アクセルそのまま》
奥にあったのはブルーシートを被せて積まれた建築資材か何か。これでジャンプは厳しいなオイ! しかしもう止まる段階じゃねえや!
「行くぞぉ!」
後ろに体重をかけて資材の直前でウィリー走行へ移行。若干のデコボコをタイヤに感じながら空に向けて駆け上がる。
《拓ちゃん仕込みの
(誰だよ拓ちゃん!? ああクソ! 気が抜けるっての!)
角度! 高さ! タイミング! ドンピシャだこらぁ!!
スーツちゃんの誘導で飛び込んだスクーターは、ATの頭部カバーを開いて今まさに中のガキに危害を加えようとしていた男の側面にモロにブチ当たった。
そのまま車体をマッチョの体に預ける感じで、空中へとダイブさせる。
(感触がおかしい? なんとか跳ね飛ばせたが、異様に重いぞコイツ!)
スクーターを手放し、男がしゃがんでいた辺りに入れ替わる様に着地。カバーが開いてるから操縦席に足を突っ込まないよう縁を踏む。
開いた操縦席にいたのは―――春日部か。ヤバかった、オレの頼み事でこいつが殺されちまうところだったぜ。
《動力付きの強化服? じゃないナ、戦闘サイボークってやつかも》
(実在すんのかよサイボーグ!? 医療関係だけって話じゃなかったか?)
《医療と軍事はワンセット。よくあるよくある》
チッ、ごもっともだ。野郎、スクーターぶつけられたのにうまいこと着地して、転びもせずに膝のプロテクターから火花を出して路面を滑ってやがる。ありゃすぐに向かってくるぞ。
「春日部! 無事か!?」
「――――縞」
は? 島? おまえ鼻血が出て……そうかい、オレは間に合ってなかったか。1発脅し程度に殴られたな? スパイクを外せってよ。
「やってくれんじゃねえの! (中坊の女相手に粋がったツケ、全額払ってもらうぞカルト野郎がぁ!)」
どうせもう何人か死んでるんだ、寂しくないようお仲間のところに送ってやらぁ! テメーみたいなのを残してると春日部が人質に取られそうだしなぁ!
「春日部! スパイクを切り離せ、(オレと)交代だ!」
「はっ、はいっ!」
キィン! という軽い音と共に脚部に取り付けられているターンスパイク機構の接合部が外れ、トレーラーに散々に引きずられていたホワイトナイトがようやく解放される。
動力を失ったことで、見る間に減速していく鋼鉄の体が路面を削る悲鳴を聞きながら男の挙動に目を向け続ける。さあ、どう出るよクソマッチョ――――こっちには来ずにトレーラーへ一直線か。
《トレーラー減速。あの男を拾うつもりっぽい》
(そりゃ一番いい展開だな)
こっちを切り離したことで目的は果たしたと、トレーラー側に戻ってくれるのが一番楽な展開だ。あの野郎を拾うために車両が止まるか減速すれば、この後でオレが追いつくのが楽になる。こっちも危険なく春日部と交代ができるってもんだ。
「よし、交代だ! 基地はまだ危ないかもしれない。春日部はアスカたちと合流を目指せ」
「……ごめんなさい。あーし、ホワイトナイトを壊しちゃった」
あ? 戦ってんだからそりゃ壊れるだろ。謝るにしても後にしろ、後に。
それにロボットなら人よりは楽に直るさ。これ以上ガキから怪我人出すほうがタコいってもんだ。ほれ、鼻血出てるぞ。
「おまえが無事ならいい」
ハンカチは力士くんに使っちまったから手袋の指で悪いな。これは殴られたんじゃなく鼻を指で弾かれたのか? 骨は折れてないようだし、かわいい顔を腫らすことにならなくてよかったな。
春日部を操縦席から引っ張り出し、入れ替わりでゴーグルを貰ってホワイトナイトの狭い胴体に飛び込む。まだゴーグル処分してなくてよかったぜ……ちょっと座席をイジられたか? 足の位置が遠いな。まあ操作できなくは
「こっちが見えなくなるまでATの後ろに入れる位置で伏せてろ!」
最後っ屁で春日部に銃でも撃たれたらたまらねえ。なるべくホワイトナイトが盾になる形で走らないと思わぬことになりそうだ。
《右脚は全損。フレームまで歪んでるから動かすのは無理ポ PR溶液も不足気味。走りすぎるとせき込むかも》
(しゃあねえ、片足走行は覚悟してた。PR溶液不足の方は片腕あたりの供給をカットしてなんとかするしかねーな)
むしろダダ漏れになってないだけ春日部はリカバリーが出来ている。下手すると引火して垂れ流した元にまで火が回っちまってたかもしれねえからな。さすがAT乗りだ。
(座席調整の暇は無い。このままいくぞ)
《バランサーを調整。アクションプログラムから『仰向けから起きる』を呼び出し。プログラムは弄らないから、バランスは低ちゃんの腕でヨロ。走行するより立ち上がりからスピードに乗るまでが難しいから気を付けてネ》
(あいよっ)
ゴーグル被ってスティックを引き起こし、ATをスタンディングモードに。頭部カバーが自動的に閉まり、連なっているスコープの機能を確認するためにガシャガシャと回す。
各部の重心を感じ取りながらスティックとペダルで微調整してやり、なんとかホワイトナイトは転ぶことなく立ち上がった。
おいおい、休みたいってギシギシと文句を垂れるなよ。テメーは立派にお姫様を守った騎士だろうが、もう一仕事だけ頑張ってくれや。
「たまさんっ、頑張って!」
〔任せとけ〕
左のグランドホイールは正常に動作して、片足のポンコツを加速してくれた。
取りつくチャンスはトレーラーが再加速するまでの1回。これを失敗したらもう追いつけないだろう。クソ、オレの人生はワンチャンスばっかりか。リスタートできる分のハンデかねぇ?
《正面から保安所属のATが2機》
「やっとおでましか。遅いっつーの」
《これ、道を塞ぐ格好じゃないゾ? トレーラーの横をすり抜ける形でこっちに正対するっぽい》
「敵か、クソッ!」
後ろにはそう遠くない位置に春日部がいる。人質の可能性を考えると1機だって取りこぼせねえ。
装備は短銃身のマシンガンだけか? まあ防衛する場所を流れ弾で傷つけてたら世話ねえもんな。ここの配備機は長射程で威力のある銃火器は持ってないんだろう。ならやりようはある!
(トレーラーを逃がすわけにはいかねえ、足を止めずに2機とも倒す。スーツちゃん、タイミングよく腕のPR溶液供給を復活させてくれ)
《あいあい。時間をかけるとポンプがブクブクいって動きが悪くなっちゃうから、4秒くらいでオナシャス》
敵は展開してこっちを挟む形はとらず、通り抜けていくトレーラーの行先に蓋をするように配置する気だ。
道に立ちんぼで追いかけてくる相手に対して、自分の命を使って砲台と障害物の代わりってか。カルトらしい戦い方だぜ。
撃ってくるか? 誰が乗ってるのか知らないなら撃てないはずだ。パイロットじゃない可能性に賭けるには負けた時の負債が大きすぎる。
いかに異常者連中でも、その指導者あたりはパイロットは殺すなと厳命しているはずだ。でないと指導者自身が『Fever!!』に殺されちまうからな。どんな狂った連中でも上にいるやつほど自爆特攻しないもんだ。
さあ! テメエらに構ってる暇は無え! タコはタコ壺に帰りやがれ!
《供給再開いつでもドーゾ。ラグ予測1秒》
撃てないと
(スーツちゃん!)
《再開》
片方だけに抑えていたPR溶液の循環を両腕に。装甲内に秘められたマッスルチューブが膨れ上がる。それをパワーへと変換したホワイトナイトの左拳が、向かって右側の保安カラーのAT、その手首関節の内側に命中した。
ATは人工筋肉とモーターで挙動を行う異色のロボット。特に手足は筋肉が多く、その反応は人のそれにひどく酷似している面がある。
たとえば手首周りがバカになると物を掴む握力が無くなって、
ショートカットのアクションプログラムから『掴む』を選択、返す右手で敵のショートバレルマシンガンを強引に毟り取る。
ターンスパイクを起動して足底のホイールをブン回し、最小半径で回転。左のタコの頭部から胴体にかけてマシンガンでナメる。さらにそのまま回転して右のやつにも大口径の銃弾をまとめて叩きつけ、スパイクを解除してトレーラーを追う。
《パイロット無力化、撃破2》
「しゃあ!」
時間のロスは回転分だけ。残弾は多くないが銃も手に入った。いくら戦闘サイボーグでもAT用のマシンガンならコナゴナに出来るだろ――――いや、意味無いか? そこらのトレーラーとは違う感じだ。
動く要塞に入ってるのに、わざわざ外に出てくる理由はあいつらにはもう無い。
(スーツちゃん、
《車種検索……酷似したものが軍用であるけど、さらに手を入れてる特別製っぽい。無理かもナー》
(……ならトレーラーじゃなくコンテナのほうを撃つか。さっきから追い足が思ったより利かない。こりゃ相手が減速しないと追いつけん)
要はオレもあいつらも中身が欲しいんだ。壊れ物じゃないなら外に吐き出してもらえばいい。
なんであれコンテナの中に直接剥き出しで入ってるわけでもないだろう。それでも落としたら壊れるか? いっそ荷台のコンテナロック部分だけ壊して、丸ごとズリ落としたほうがいいか。
メインゲートはもうすぐそこ。
あの保安AT以外しか出てこないと思ったら、火を噴いて擱座してるのが2機ほど転がっていた。さっきのやつらに不意を撃たれて殺されちまったようだな。
さらにあちこちに飛び散ってる赤いのは――――ATの銃器で撃たれた生身の職員たちの
チッ、
「スナイプモード!」
音声認識でスコープターレットが回転し、精密射撃用の照準へと切り替わる。片足で走りながらやるこっちゃねえが、ただでさえ短い銃身で敵の銃。さらに狙撃が下手のオレな射撃だ。とれる手段はなんでもとらねえとな。
《固定部4。お尻側はいいけど、トレーラー側のは左右に移動しないと射線が取れないジョ》
なら難しいほうからだ。ホイールを鳴らしてまずは右へ。
《残弾26》
トレーラー側のコンテナを固定する
《Hit! 破壊確認。残19》
クソ、思ったより弾がバラける。バラまくのが仕事の機関銃だからって甘い仕事してんじゃねえよ整備!
《Hit! 破壊を確認。残13》
(次は左だ!)
今度は左とホワイトナイトを傾けたとき、ガクンと脚部が揺れて、粘りのない嫌な感覚が来た。
《左足に負荷が掛かりすぎて関節にダメージが蓄積してる。破損しそう》
「踏ん張れホワイト! てめえ騎士だろうが!」
ゴーグルに送られてくる映像は精密射撃用にズームされた分、余計に照準がグラグラと揺れる。3D酔いするやつならとっくに吐いてるところだぜ!
《Hit! 破壊。残り6発》
お祈りクラスの残り弾。それをコンテナの最後の連結部に撃ち込んでいく。
《Hit! アカン、破壊出来てへん!》
クッソ、ミリ残りってやつか! 固定1基でもコンテナを落とさないとは、このトレーラー作ったやつ良い仕事してるぜ!
《―――! トレーラー減速!》
チャンスだ! コンテナの異常に気が付いて高速を出すのが不安になったな! ここで追いつく! 根性見せろホワイトナイトォ!
「ブッ飛べぇぇぇぇぇ!!」
トレーラーの真後ろにホワイトナイトでタックル、いや、体当たりをブチかます。すでに破損し掛かっているコンテナの固定部が壊れるように。
《コンテナ固定部、破損。これで走ってもズリ落ちるだけゾ。やったぜ低ちゃん、明日は三遊間抜けヒットだ!》
「痛って……ツーベースも無理かよ。ホームランは遠いなぁ」
ATはシートベルトさえ無いから、激突も転倒もかなわんぜ。顔を庇わなかったら鼻が折れるところだった。
《それでここからどうするの? ホワイトナイトは左脚部も破損。残弾ゼロ。もうホントに動けない。そしてトレーラーには怒り狂ってるだろうヤバそうなサイボーグだゾ》
メインゲートもこの有様じゃ、しばらく救援も期待できないしな。諦めて逃げてくれれば御の字だが。
体当たりで少しゆがんだ頭部カバーを押しのけて操縦席から這い出る。
満身創痍でうつ伏せに倒れたホワイトナイトは、まさに最後の最後まで前に進もうとしたやつの倒れ方だった。
「……傷の無いおまえより、ずっとカッコイイぜ。ホワイト」
無茶に応えてくれてありがとよ。しばらく休んでな。
トレーラーはぶつけたオレに構うことなく走り去ろうとしたものの、走る振動でついにコンテナがずり落ちた。
派手な音を立てた四角い箱は、ATの体当たりと射撃による破損も手伝ってか大きく歪み、扉が弾けるような形で開いてしまう。
これに気付いたトレーラーは停車しやがった。ここまで下手こいて逃げずに止まるのかよ。まだコンテナを持っていく方法があるってか? あるいは中身だけでも持っていくつもりか。
(スーツちゃん)
《ハイハイサー。筋力補助開始、100メートルを7秒フラットだべ》
力士くん、春日部、ホワイトナイト。これだけやられて黙ってると思うな。意地でも妨害してやる!
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