第116話 強盗団!? トレーラーを止めろ!
「アスカ! 警報と連絡! あれは賊だ!」
オレは端末を持って
《ランちゃんのサプライズかもよん? 下から届いた荷物をデコレーションしてるだけとか》
(まあな。ただ倉庫を移動させてるだけかもしれないし、勝手な決めつけって気もするが――――なんか強烈に嫌な気配なんだよ。こういうカンは当たる! 違ってたらひたすら謝るさ!)
「えぇ!? ちょっとタマ!」
説明してる暇はない。搬出口前に向かう先行車両に反応した倉庫の扉が自動で開いていく。あの開閉速度なら徐行しているトレーラーでもノンストップで潜れる程度まで開いちまうだろう。
こりゃバカ正直に猫渡りを降りてたら間に合わねえな。だが、この高さなら十分飛び降りられるぜ。
「きゃあああっ!?」「玉鍵しゃん!」
手すりから身を投げ出したとき、後ろにいた先町たちの悲鳴が上がった。
大丈夫だって。スーパーロボット関連部品用のデカい倉庫とはいえ、床まで8メートルも無い高さだ。これならスーツちゃん支援無しでもなんとでもなる。さすがに着地をしくじったら堪えるだろうがな。
思考加速の中なら落ち着いてタイミングを取れるから、オレでも5点接地ってやつで着地できる。倒れるように転がって衝撃を殺し、最小限のロスに抑えてそのままトレーラーへと走る。
強盗と断定する以上、賊相手にいちいち『待て』とか『泥棒』なんて声はかけない。そんなこと呼吸の乱れにしかならん。
《トレーラーを除く3台の車両、いずれからも複数の声と銃器の撃鉄を起こす音……む、銃はやめたみたい、『よせ、パイロットだ』だって》
(よっしゃ、銃さえ撃たれなかったらこの数でもなんとかなる)
《なんとかって、相手にされずに走り続けられたら追いつけないし、どの車両も外から素手じゃ開けられない感じだヨ。窓はたぶん防弾。こじ開けるには爆薬くらいほしいゾイ》
「つみき! AT持って来い! ロックはかけてない! 場所は
オレの買った
さすがにアレの保管場所との距離を考えると、ちょっとこの騒動に間に合うとは思えないが、なるべく保険をかけておこう。
(スーツちゃん、他に使えそうなモンはないか? せめてもうちょい足止めしたい)
《倉庫扉の開閉妨害はもうやってるジョ。対物センサーだからこれは簡単だよん》
スーツちゃんの言う通り、開き出していた扉は人間が2人並んで通れるくらいまで開いたところで軋むように扉が止まり、後は開く、閉まるを繰り返し出した。あれって扉のモーターがイカれるんじゃねえの? 今回は都合がいいけどよ。
開かなかったら強引に扉を突き破っていく可能性もあるかと思ったが、どうやら連中はなるべくトレーラーの積み荷を手荒く扱いたくないようだ。
追走していた不審な車両の1台がトレーラーを離れ、扉のコントロールパネルがあるらしき保安員用の
おうおうゴツい車だな、いかにも軍用車両らしい分厚いドアじゃねえか。装甲車ってヤツか。
それを開けて中から出てきたのは、どっかのB級ガンアクション映画に出てきそうな、ごく簡素なプロテクターとグラサンをした『エージェント』って感じの黒づくめの連中。
持ってる銃はオートマチックのハンドガン程度か? いや、1人が後部から長いケースを出そうとしてる。アサルトライフルあたりか? 確かに拳銃より脅しの材料になるかもな。
「とまれぇーっ!! Freeze!!」
うるせえよ。1人が扉のコントロール復旧を試み、もう1人がその護衛。他は銃を構えてこっちを脅しにかかってくる。
けどお生憎だ、そんなハッタリでビビるガキは初めからパイロットに向いてねえんだよ。
パイロットは撃てない。うっかり殺せない。もしもやっちまったら、てめえらのボスまで『Fever!!』によって皆殺しだ。ここはそういう
それを理解してれば鉛玉なんざ怖くねえだろ? これで思わず怖気るようじゃ、そんなパイロットはSワールドでも判断ミスして死ぬっての。
6人小隊のリーダーらしい1人が、こっちに実銃と理解させるためか、あるいは音で脅すつもりかで天井へ向けて1発の威嚇射撃をした。
室内にダムッという金属板を打ち抜いたような硬質の音が響く。後方から驚いたらしい先町の声の悲鳴が聞こえた。
さらにオレから離れた場所を狙ってもう1発。射撃音に加えて床に当たった音と跳弾音も耳に響いてくる。
それでもお構いなしに突っ込んでくるオレに、ハッタリは効かないとやっと理解したやつらは、銃を片手で持ちつつも素手で応戦する構えを見せた。
そうだよな、そっちがパイロットにできるのは殴って押さえつけて失神でもさせるか、せいぜい足を折るくらいだよなぁ。命は怖くて取れないはずだ。
《正面4、奥の詰め所に2 別の車両からはまだ誰も出てきてない》
数が多いし、技量も装備もそこそこ手強い感じだ。時間かけてられねえ。殺すつもりでいくぞ!
「しぃっ!」
こっちの飛び込みに合わせ、気迫を乗せた銃底の一撃が振り下ろされようとしている。うまく当たらなくても、大人の体格で抱え込む形にできれば抑え込めると踏んでの二段構えの攻撃。
それを嫌って飛び込みを躊躇すれば、それこそ四方から複数の手が伸びてオレを押さえつけに来るだろう。
だから一切の加減無し――――少しだけ抑えてプロテクターの無い脇腹目掛けて突進の勢いをつけた右肘を抉り込む!
ドロリとした思考加速の中、男の体内で骨が何本も折れるのを肘に感じる。口が内臓を吐き出すのではないかと思うほど開いて、粘質のつばがスローモーションで空中に飛び散っていく。
《肋骨4本骨折。でも、もう少し踏み込めばそのまま内臓を骨で刺せたんでない? 殺すつもりでイクんじゃなかったの?》
(こっちにはガキがいる。さすがに殺しの場面は見せたくねえ。一発目だけは勘弁してやらぁ!)
正面のこいつで目をつけていたナイフと銃を奪い――――ついさっき使ったな? 黒い艶消しナイフの刀身に拭き取れ切れてない血糊が残ってんぞ、クソどもがぁ。
そのまま4人全員の両手首と片膝を狙って、1人頭で3発。計12発を撃ち込む。
《無力化4。でも意識はあるから油断はするナヨー》
(あいよっ)
足を撃たれて崩れ落ち始めた別の1人から、新しい拳銃をもぎ取って蹴倒し、奥で泡食ってるタコ共に全弾叩き込む。
パネルの前にいた女だけはあえてプロテクター部分を狙い、怯んだところで近寄って拳銃の底を使ってブン殴っておく。意識を刈り取るには十分だが、感触的に骨折まではしてないはずだ。
《無力化2。女のほうは普通に手足が動くから危険ジャネ?》
(……起き上がってきたら次は容赦しねえよ)
《野郎との落差w 一応は全員急所を避けてるけど、死ぬほど痛いナ。特に防具の無いところに9発も貰った最後のオッサン》
(この班のリーダーっぽいからな。おまけしといたぜ。誰かグレネードの類は持ってるか?)
《そのリーダーが破片手榴弾1 他にスタンガンと注射器セット。中身は成分調べないとわかんにゃい》
(大方睡眠薬か鎮痛用のモルヒネあたりだろ。スタンガンと手榴弾は没収しとくか。道連れ上等でピンを抜かれたらたまんねえ)
残りは護衛2台とトレーラー。まだ10人はいるかしら――――チッ、さすがに病み上がりで無茶だったか、一瞬だが頭がクラッときたぜ。体にちょっとばかりガタが来てるようだ。
けど今さら止まるわけにもいかねえ。もう2セットだけお代わりといこう。
威嚇とはいえ実弾を撃ってきた時点で赤毛ねーちゃんのサプライズの線は消えた。基地の保安の装備とも明らかに違う。これは確実に招かれざる客だ。
…S基地ってのは犯罪者にとって鬼門の場所。国有数の権力者だろうが、ここで犯罪を犯せば国際法で裁かれる。
それなのに、これだけの人数と装備で盗みをしようとしている。何がこいつらをそうまでさせるんだ?
あの『玉鍵』のペイントがされたコンテナの中身、ちょっと気になってきたぜ。
<放送中>
「06基地の8番倉庫に大規模窃盗団! 車両4! 約18人! 保安を寄こして! 銃所持、銃も持ってるわ!」
「この警報鳴らない!? 壊されてる!? 他は!?」
「かっちゃん! ホワイトナイトはどこっスか!」
「誰がかっちゃんよ!? ぐっ、今は……こっちよ!」
まだ展開についていけない大五郎と先町の周りで、弾かれた様にアスカたちが動いていく。
日頃から密度の高い訓練を受けてきたかそうでないか、その違いが如実に動きに出ていた。
「な、何かがどうなってる《どうなっと》
頭の包帯を外しながら大五郎なりに大急ぎで走る。
すでに玉鍵は着地から復帰して賊らしき一団へ猛然とダッシュしている。その体の速さとしなやかさは、かつて地表に存在していたチーターという猫科の肉食獣さながらだと大五郎は思った。
(くそう、この高さから飛び降りるんはおいには無理たい!)
高所から躊躇いなく身を翻した玉鍵。彼女は人が落ちたとは思えないほど軽い着地音をさせて、側転するように転がると一瞬で体勢を立て直してダッシュした。
あれは身軽かつ運動能力抜群の玉鍵だからこそできる技。大五郎も鍛えてはいるが、ああいったパルクールめいた事をする筋肉でも体格でもない。
「銃っ!? た―――」
ドスドス走りながらも瞬きせずに状況を見ていた大五郎の目に飛び込んできたのは、何丁もの拳銃を構える訓練された動きの大人たち。『止まれ』という男の大声が響く。
思わず玉鍵の名を呼んで警告しようとした矢先、倉庫内に銃の発砲音が響いた。
「大さん!」
「テルミしゃんは動くな! 頭ぁ下げとれぃ!」
続けざまにもう1発。今度は玉鍵のほうを狙っての発砲。それは当たる軌道ではなく床に命中したが、これを見た瞬間、大五郎の肉厚の肌にブワリと鳥肌が立った。
「おんどれらぁーっ!」
心臓に氷を入れられたような感覚の後にやってきたのは、自分でも信じがたいほどの強烈な怒りだった。
あの心優しい少女を傷つけようとする人間がいる、そんな理不尽を突き付ける現実に例えようもない怒りが湧いてくる。
しかしいかんせん大五郎の体は鈍重であり、どれだけ気がはやっても体はいつも通りの速度でしか前に進んでくれない。
そんなもどかしさの中で狂いそうになりながら走る大五郎を尻目に、ついに玉鍵が扉を開けようとしている一団と交戦を始めた。
(無謀じゃあ!? 玉鍵しゃん!)
相手は成人の女性ひとりを含んでいるが、それ以外は明らかに屈強そうな男ばかりが5人もいる。いくら玉鍵であろうと素手で制圧できる数ではない。
柔道を学んでいる大五郎はよく知っている。相応の訓練を受けた人間とは、数発の打撃だけでは簡単に倒せないものだと。
まして玉鍵ほどの小さく軽い体ではいよいよ無理だ。どれだけうまい場所を打っても頭をグラつかせる程度の威力にもならないだろう。
それでもひとりが相手なら、彼女の類まれなる戦闘センスによって打撃を積み重ねて倒すこともできるかもしれない。
だが、敵が2人以上となればもう厳しい。軽量で数の少ない側は1人目にもたついているうちに囲まれて、ただ順当に数と体力差に押し潰されることになる。
飛んで跳ねて、群れなす男たちを少女の戦士が華麗に倒す。そんな創作のような事ができるほど、現実の人間が持つ性差と体格差の暴力は甘くない。
少しでも格闘を学んだものなら、その潜在的で決定的な差をすぐに実感する。本気同士の戦いで女が男を倒すなら、せめて殺す覚悟と刃物なりの武器が必要だと。
―――――ただし、それは並みの少女であったならの話。
玉鍵が考え無しのような全力疾走で、正面の男に体当たり気味に踏み込む。
その体という弾丸は、彼女を拳銃の尻で殴ろうとした一人目の男の脇腹に破城槌のごとく突き刺さった。
細いサングラス越しの男の目が、そのフレームの端から飛び出そうなほどに剥かれ、口がカハッと開いていく。
だがその一撃は、玉鍵たまという少女の姿をした暴力の先触れに過ぎない。
続けざまに、いつのまにかその白い手に握られていた相手の拳銃を持って、玉鍵の体がクルリと回転する。
たった一回転のうちに、それまで少女の体を、髪を、衣服を掴み倒そうと群がっていた男たちは、己の手と膝に次々と銃火を浴びせられた。
閃光に例えるなら13の瞬き。最初の男への打撃から始まって、彼女を囲んでいた男たちは1人残らず手首の内側と膝を撃ち抜かれ、苦悶の声をあげながら倒れ伏す。
奥の2人がギョッとする間にも玉鍵の行動は続く。その手はすでにひとつめの銃を離し、いずれかの男からか奪った銃を再び構えていた。
躊躇いなく連続の発砲音が響く。その射撃は奥で扉のコンソールと格闘していた女1人と、護衛のもう1人を的確に射線に捉えていた。
(ひ、1人で6人全滅させよった)
撃ち切った拳銃をあっさりと投げ捨て、倒れている男から別の拳銃を奪った玉鍵は、休むことなく今度は別の車両へと突っ込んでいく。まるでそう動くことをプログラムされた作業工程のように。
賊が相手とは言え人への攻撃に一切の躊躇が無い。
あの優しい、大五郎を慰めてくれた相手と同一人物とは思えないほどの冷徹さと大胆さ。
(これがエースってことなんかい……いや、玉鍵しゃんは間違っておらん。少しでも躊躇っていたら捕まっとったき)
あまりに衝撃的な光景を見て、思わず緩みそうになる足に活をいれた大五郎は玉鍵の向かう先に急ぐ。こちらのほうが先ほどより自分に近い。なんとか加勢が間に合うだろう。
もろちんあれほどの戦闘力を発揮した玉鍵には、大五郎の手など余計な加勢かもしれない。だが、それでも大五郎は走った。
それでも、それでも、それでも。自分が彼女を守りたいという気持ちは本当のことなのだから。
<放送中>
「あれが玉鍵たま……信じがたい戦闘能力だ」
トレーラー内で指揮をしていた
(私の部下でもあんな動きができるものは1人もいない。本当に生身の人間なのか? 遺伝子操作された強化人間や戦闘用のサイボーグ兵でも、あそこまでにするには相当の訓練が必要だぞ)
遺伝子操作を受けた兵士や、戦闘用の機能を持つパーツを体に移植したサイボーグ兵の存在は公には否定されている。
しかし、それはあくまで世間にはだ。先天的な遺伝子異常の治療のためと称した医療技術は、人工的に超人を生むための方法として各国で研究がされており、一定の成果がすでに出ている。
また四肢欠損などを補うための義肢はより公然と開発されていて、それを隠れ蓑に手足のみならず全ての部位で、戦闘用の調整や装備を施した義肢は古くから考案されている分野である。
魚目自身、戦闘用に調整された頑丈で高出力の義肢を持つサイボーグであり、主人の命令で健康な体にメスをいれてでも手に入れた力によって、ここまでのし上がってきた男だった。
<香車、発砲許可を! 手足であれば!>
「ダメだ、憂国2。発砲を禁じる。我々の大義が潰えるような可能性を生むことは許されない。なんとしても拘束しろ――――憂国1、ランチャー用意。トレーラーも発進だ。扉を破れ」
ここで通信を切る。交戦に入った憂国2はおそらく憂国3と同じ末路を辿るだろう。
だが、その間にトレーラーは倉庫を潜り抜けて外に出られる。06基地の防衛施設は外向きの物であり、内側から出る車両を止められるものはない。
また外にある門とて銀河帝国の陰の協力者たち、『憂国の士』が開け放してくれる手はずになっている。
そして一度スピードに乗ってしまえば、もうこの特殊車両を阻める設備も車両も存在しない。
<香車! 後方にパイロットらしきガキが!>
「見えている。向かって来るようなら殴るなりして放り出せ」
保安の人間なら撃ち殺せば済むが、相手がパイロットでは死なない程度に殴るなりして優しく排除しなければならない。
もちろん手間こそ掛かるものの魚目の預かった部隊に、あんな中学生に遅れをとるような無能はいない。こちらの兵を圧倒する玉鍵たまのような存在は、本当に例外中の例外でしかないのだ。
(確かリストで見た顔だ。ジャリンガー4のサブパイロットだったか? さすがにまだ憂国の士たちの
魚目たちの主人による国民の選別にはいくつかの段階がある。そのひとつが
後に全人類の希望として興される銀河帝国の国民には、その権力の絶対性に異を唱えるような人間は不要なのだ。
だが、そんな神聖な行いを阻むのが『フロイト派』と『Fever!!』の存在である。
フロイト派は実力主義という混沌社会を人類に押し付け、魚目たちの主人という絶対的な指導者の下に人の力を結集しようとする偉業を阻んでいる。まるでグノーシスの悪魔のような存在だ。
そして『Fever!!』はまさしく悪魔だ。銀河帝国が使うべきS技術の入手を阻み続け、パイロットという優秀な子供たちの
このふたつが存在していなければ、魚目の主人はとっくに人類の頂点として素晴らしき未来のために神の采配を振るっていただろうに。
…魚目の思考に『Fever!!』が存在していなければSの技術も何もないという考えは浮かばない。
なぜなら、彼の主人を否定する要素は思考に上がらないよう、脳に埋め込まれた回路によって思考を誘導されるからである。論理の矛盾など気にならず、すぐ疑問を忘れてしまうのだ。
魚目は自らを主人の側近と疑っていない。彼の預けられた部隊もそれは同様である。
後者は教育と薬物によって忠誠を植え付けられ、そして前者は脳に埋め込まれた回路によって服従していた。
考えるまでもなく、いずれ使い捨てられる駒であると推測できることさえ、この『魚目』と名付けられた哀れな
かつてはあった多くの技術は喪失して久しい。
過去には国に、あるいは反社会団体でさえ簡単に行えた非人道的なサイボーグ手術も、歯抜けになった今の人類の技術水準では精度があまりにも怪しい。
手術を受けた者の現在の生存年数は、成功例でも3年未満である。
《ランチャー!? 低ちゃん!》
「うおっ!?」
お代わりの5人目を片付けたところでスーツちゃんの警告が飛ぶ。あろうことか、最後の護衛車両から1発撃ちのロケットランチャーとおぼしき筒を持ち出すグラサンの姿が見えた。あんなモンまで持ってんのかよ!?
狙いはこっちじゃねえ? アレで扉を無理やりブチ破る気か! 広い倉庫とはいえランチャーの
しかもやや左斜めとはいえ、ランチャーの後方がこっち向いてんじゃねえか。
ロケットランチャーは重い弾頭を飛ばすために複数の工夫がされている。このひとつが発射の反動を殺すため、真逆の後方へウッドチップを発射して相殺するバックブラスト機構だ。
後ろへ発射される弾は発射と同時にバラバラになるが、高温の噴射煙はしっかり撒き散らされる。広いとはいえ室内で使う得物じゃねーよ!
「人類のためにぃーっ!」
「うるせぇ!」
最後の1人の手足に鉛玉を叩き込み、走りながら今まさにランチャーを構えようとしている男にも残りの弾を撃ち込んでいく。
こいつら二言目には人類のためにって、カルト教団か何かか? 神様の否定された今の世界で、こんなタコいやつらが生き残ってることが驚きだぜ!
《うわ、ダメだ。また次が引き継いじゃったゾ》
(撃たれた味方の救護もそっちのけって、やっぱヤベー宗教やってる連中のようだな!)
クッソ、弾がもう無い。考えなしに走り出さないで、連中から銃をもう一丁くらい奪えばよかった。
(しゃあねえ、スーツちゃん! グレネードいくぞ!)
ここまで来たら殺しだなんだと言ってられねえ。
《ウィ、筋力最大補正。ドアを跳弾して車両内へ送れる投球コースを網膜に表示》
「しゃあ、食らぇぇぇぇ!」
ピンを外して球体型の手榴弾をブン投げる。ランチャーを撃つためにドアを開けたのが運の尽きだ!
車両の外側はライフル弾でも通さない防弾仕様でも、内部で炸裂したら意味は
狙いはバッチリ、手榴弾はドアのデコボコに当たって車両内へと飛び込んだ。射撃は下手だが投擲のほうは昔から得意なんだぜ、オレ。
―――だが、手榴弾という爆弾には致命的な欠点がある。
それは投擲するために必要な時間、爆発までに数秒の
筋力補助を受けてどれほどの剛速球を投げようと、手榴弾が炸裂する時間に変わりはない。
驚いて逃げるなり、慌てるなりしてくれればこっちの目的は達成できたってのに。
「人類のぉ! たぁめぇにぃぃぃぃっ!!」
ランチャーを持った男には、目の前を通って車内に飛び込んできた手榴弾が見えたはずだ。それなのにコイツ、撃つのをやめようとしねえ!? ヤバイ、ここはブラストを被る!
「玉鍵しゃん! 伏せい!」
不意に横から現れた大きな陰がオレに覆い被さる―――――同時に、車両の後方に炸裂した強烈な噴射煙。
もうもうと撒き散らされた煙の中、すぐに耳が痛くなるような爆発が起こった。
扉に命中したロケット弾の弾頭が炸裂し、扉の上側にあるレールが歪む。
そしてアクセルを強く踏み込み過ぎてキュリキュリと空転していたタイヤの音が変わり、トレーラーの巨体が加速する。
30トンを超える質量に激突された扉は爆発で破損した接合部から、バキリと破けるようにして前へと倒れていく。
鋼鉄の扉が完全に倒れるのを待つことなく踏み越えていく12本もの大型タイヤ。それは迷うことなく外界へと突き進んでいった。
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