第115話 観光名所 基地間交通線カプセルトレインで行く、空から眺めるサイタマ基地群
「……ごめんなさいね。博士は研究以外に頭を使わない感じの人なの」
申し訳なさそうな大町が溜息をついて首を振る。
別に他人でガキのおまえが謝るこっちゃないと思うがね。ありゃ近くに誰がいたってダメだろ。人の話なんて最初から一切聞かないタイプだ。
それでもああいう性格だからこそ、常識も何もかもブッチ切って、常人には辿り着けない突き抜けた成果を出すのかもしれんがよ。
(おー、この『カプセルトレイン』って見晴らし良くて悪くないな。ちょっと良すぎて恐いけど。けっこう観光名所にも使えそうじゃね? ここからならいろいろな基地が見えておもしろいしよ)
《低ちゃん、ちょっとはテルミちゃんの謝罪に付き合ったりーナ。さすがにカワイソス》
(そうは言うけどよ、二言目には謝ってくるからいいかげん辛気臭くてさ)
「もういい。忘れるから(オメーも気にすんな、モコ町)」
《先町テルミな。なぜか一気にオイリーな感じになったゾ。これは水着でオイルレスリングということでOK?》
(中坊相手に変な妄想すんな。まあ、顔が中坊にしては大人顔だとは思う。ロボットの開発者がアレってのが原因かねぇ? しかもあんなんで基地の長官だってんだから。所属する連中は苦労してんのかもな……)
「………ありがとう、ごめんなさい」
基地間の移動は複数の手段があるが、基本的には『移動レーン』と呼ばれてる建物内を走る電車みたいな半開放型の箱を使うことが多い。
たぶん正式名称はちゃんとあるんだろうが、いちいち覚えてないので分からん。
「………」
他には床自体が自動で動く場所もあって、こっちは基本ノロいから近場向けだ。
これらとは別に、今乗ってる透明なチューブの中を高速移動できる一人から数人程度で使うカプセルみたいな乗り物『カプセルトレイン』ってのもある。
「………」
なんせスーパーロボットの基地ってやつは、大なり小なり利便性をまるっと無視したような個性的な形状してる基地が多いんでな。各所でこういうショートカットができないと移動が面倒でかなわねえんだ。
「………」
あ゛ーっ、クソッ! 女に黙って泣かれるの苦手だぜ! そのハンカチもうグッショグショじゃねえの? 貸してやっからこっち使え。鼻水つけんなよ。
「あ、ありがとう……やっぱり優しいのね、玉鍵さんて」
《ダメだこいつ、早く何とかしないと》
(あん? だから手早くハンカチ貸しただろ。あ、ティッシュのほうがよかったか? 鼻すすってんもんな)
こいつの仲間の力士くんは前の席だ。泣いてるのを察して何かしてやりたいが、位置的にやり辛いって感じで困ってるオーラを出していた。
なら手近のオレが構ってやるしかねえだろ。ガキは大人が面倒みてやるもんだ。せめてこういうときくらいはな。
《アカン、処置無しデス。続けてドーゾ》
(よくわからんのだが? まあ先町が落ち着いてきたからいいか)
泣きやもうとしてるところをジロジロ見るのも何だな。先町の精神が整うまで引き続き景色でも見るか。
うーん、それにしてもこういう透明なチューブで空中移動するシステムって、最新ぽいのにレトロな雰囲気があるよな。
未来人と言ったら決まって全身タイツを着てるような、古臭い未来のイメージ画だとこういう移動手段が描かれてることが多い気がする。
この辺の技術の応用なのか、専用ロボを抱える基地なんかでロボットの搭乗に使っていたりもするんだよな。
あれだよ、
ちなみにこの方式の場合、ロボットに飛び乗ることはできるが逆は想定してないようだ。降りるときは普通にタラップなりをロボットの操縦席あたりに持ってきて降りる。
オレの正直な感想として、こういう大仰な設備って無駄もいいとこだと思う。事故率も高そうだしよ。
まあ、これはまだこっちの世界に敵がやってくる可能性について、真剣に憂慮していた時代の方式だからなぁ。緊急の迎撃で可能な限り素早く出撃するためにって、当時の偉いさんなりに考えた設備なんだろう。
ただよ、こういった基地ほど外観からしてトンチキな代物が多いのは何でなのかねぇ? さっきまでいた04基地なんか最たるものだわ。
(お、あっちの00基地の中心にあるクッソデカいミサイル発射口みたいなのがザンバスターの格納庫か。こうして肉眼で見ると……ホントにデカいな)
《モニターからだと実寸が意外とわかんないもんね。低ちゃん出撃前にザンバスターのある格納庫は通ってるのに、収まってたロボットにはぜんぜん気付かなかったでしょ?》
(ああ。まったく分からなかったよ。なんか整備士がたくさんいて、配線がスゲー走ってるなってくらいしか思い出せん。今思えば、エレベーターが最初に止まったトコはザンバスターの足の辺りだったんだな。壁の色が違ってた場所、まんまロボットの足だったわけか)
でもあれは認識できなくても無理ないぞ。何せ物が全高200メートルの超巨大ロボットだもんよ。
しかも両肩の真上に突き出たアーマー部分から測ると、プラス40メートルだ。実質は縦に240メートルもあるんだぜ、アレ。
作るやつも作るやつだけど、建造許可を出すやつも間違いなくバカだよなぁ。男的には好きな種類のバカ野郎だけどよ。
(……んー? ちと破損してんのか、あれは?)
開閉口の端のほうが歪になってるな。上から何か落としてヘコんだ感じだ。
《アスカちんがザンバスターをやっとこさ降ろしたときに、うっかり肩の端をぶつけた跡だネ。でもよくやってたよ? なんとか足を膝あたりまで入れたけど、そこで完全にエネルギーが切れてガシャンって落ちちゃったノダ》
なるほどな。あんときはこっちのモニターはほとんど死んでたし、オレも操縦席内に籠った熱で茹で上がってたからなぁ。意識が朦朧としちまって、最後のほうがどうなったか覚えてない。
戻ってきたザンバスターは修理を兼ねて、あのミサイルサイロみたいな格納庫でちょっとずつ分解しつつ、他の基地や建造棟あたりに運搬してるらしい。
出撃時に発生した衝撃や熱で、あの格納庫自体が色々壊れちまって、あそこの設備単体だけでは修理作業が難しくなったからだ。
(動かすのも大変だったが、動かせるまでに持っていく整備士たちの苦労はその比じゃないな。ホント、ちゃんと働く整備士ほどありがたいもんはねえよ)
本来ザンバスターってロボットは、100メートル級の戦闘機2機が合体して活動するスーパーロボット。
けど今回はまだ未完成だった状態から、分離機であるバスター
そのせいで合体機構にどうしても不安要素があったようで、Sワールドでトラブるくらいならと、最初からドッキング状態で準備されていた。
しかし合体した状態での出撃なんて、ザンバスターを置いてあった格納庫側が想定していなかったらしい。
せいぜい本格的に動かさない状態で、ドッキングテストのためにくっ付けたりするのがせいぜいだったようだな。
もちろん200メートル級を飛ばすカタパルトだってありはしない。だからザンバスターは格納庫から直接に、自前の推進装置を使ってゲートまで飛んでいくしかなかったのだ。
1機づつロケットみたいに打ち上げる形で出撃するはずの分離機が、初めから200メートル級ロボットとして6基の超大型ノズル吹かしてカッ飛んだ―――そりゃあ格納庫が破損するのもしょうがねえわなぁ。
あのせいで想定外の遠い地区で窓ガラスが割れちまったりしたらしい。基地の近場にある建物は強化されたガラスが義務化されてるので平気だが、今回は予想半径を超える地区まで衝撃波が届いたせいだ。
いっそ『毎度お騒がせしております。これよりサイタマ基地から超大型機が出撃いたします。衝撃に備えて頂けますよう、よろしくお願いいたします』とか、お断りのアナウンスする必要があったかもな。
……色々と新記録を打ち立てたザンバスター。その力は実際に乗ったオレもスゲーもんだと思う。
だが残念ながら、基地が使い続けるかどうかと言ったら微妙だろう。
間違いなく強いとはいえ、儲けより経費のほうが掛かっちまうとなるとどうしてもって話でよ。出撃させなくても維持費だってデカいロボットほど掛かるはずだ。運営する側としちゃ頭が痛い金食い虫だろう。
決戦用超弩級合体変形マシン、『ザンバスター』か。
どうせ最初で最後なら、おまえが全力を出せる状態で動かしてみたかったよ。ギリギリのコンディションで酷え戦場を引き回しちまって悪かったな。
(あばよ、ゆっくり休んでくれや。ザンバスター)
《フラグ乙》
(ないない。エリート層でももう使わないだろうさ)
《よしんば! それでもあったら?》
(なんだよしつこいな。ま、そんときは続投祝いにアスカが持ってきたハイレグのパイロットスーツでも何でも着てやんよ)
《ハイッ、言質とりました》
ハハッ、絶対
なぜなら何があろうと断るからだ! 二度と乗るかあんな殺人兵器。キックとサウナ地獄で死ぬかと思ったわ。
いや、もちろん分かってる。ザンバスター、おまえは良いロボットさ。
けど、操縦適性にフィジカル全振りが過ぎる。根性と体力お化けにしか乗れないキワモノに作り過ぎたおまえの開発者を呪ってくれ。
それにやっぱスーパーロボットの花形と言ったら50メートル級だろ。この辺が一番性能バランスもいいし、出撃枠も現実的だ。
……そういう意味じゃあ、持ち駒を50メートル級で統一してる04基地の方針は意外とロジカルなのか?
(なあスーツちゃん。04基地って、古いアニメの宇宙戦艦みたいな見た目だよな。あれってもしかして、初期に開発してたっていうSワールド侵攻用の移動基地なのか?)
―――まだSワールドの特性があまり分かっていなかった頃、向こうに人間が滞在できる施設を作る計画があったって話がある。
だがこれはうまくいかなかった。持ち込んだ機材は軒並み
こいつはSワールドの残飯処理係みたいな存在で、ロボットが向こうで長い事擱座しているときなんかにやってくる。
壊れたロボット内に留まり続ける、死にきれなかったパイロットを殺すために。
そしてもうひとつの役割として、人間がSワールドに住めるようにする活動を妨害することも含まれるらしいと分かっている。
持ち込んだ資材はもちろん、向こうの世界で採取した資材なんかを使った設備でも、やはり執拗に壊される。
もちろん防衛のための重火器設備や、護衛のスーパーロボットなんかも投入はされていた。しかし、いずれの試みも無限に湧いてくる大量の敵機という、圧倒的な物量差に押し潰されることになった。
ちなみにこの戦いで敵を撃破しても、穀物の欠片さえ戦利品は出なかったらしい。
『Fever!!』からすればその戦いはシロアリみたいな事をする人類への懲罰でしかなく、報酬を与える理由なんて無いってことなんだろうな。
《その一部、だね。見えてるのは艦橋と、あとは甲板の一部かな。船体の大部分は地面の下に埋まってるみたい。でも飛行するための動力部分は解体されちゃったっぽいナ》
(ロボットの格納や整備に使う部分は残したって感じか。
主要な装備はレーザートーチというかカッターというか、とにかく工業機材めいた物体を溶断して破壊するタイプの装備だ。射程は極小だが、スーパーロボットの装甲にさえ時間をかければ穴を開けられる超高温を発揮する。もちろん人間だって一瞬で消し炭だ。
あくまで擱座したロボットの解体と、残っている無力なパイロットを想定した殺し屋でしかなく、過去の戦闘記録では人が携行できる程度の銃火器でも倒せたケースもあったりする。
ただし、あれが厄介なのは大量に湧く事と、驚くべき精度で無力化したロボットや人間の持ち込んだ機材を見つけ出してやってくる探査能力にある。
そして一番恐ろしいのは、種類を問わずに敵を際限なく呼ぶ警報装置の機能を持っていることだ。
発見されれば最後、無限にわいてくる大小問わぬ敵によって、執拗に攻撃を受けて機材ごとすり潰されることになる。前人たちはかなりしつこく試行錯誤したようだが、いずれもうまくいかなかった。
―――そこで別のアプローチとして、橋頭保となる
つまり空母なんかに代表される『移動し続けられる大きな居住施設』を、Sワールドに突っ込むことにしたわけだな。
まあ、こっちもまるで成功しなかったみたいだがね。
最後には思い余って、人型に変形する空中母艦なんてトンデモロボットを作ってみたりもしたらしい。スーパーロボットだけは普通に持ち込めるから、変形できたらいけるんじゃね? と思ったのかもな。
こっちも何かの理由でダメだったんだろうなぁ。人類は『Fever!!』のOKとNGの境界を、いまだに把握し切れていない。
《ちなみに三連装砲っぽく見えるのはロボットの射出口やで》
(あれでカタパルトかよ。大砲のハリボテにしか見えん)
《はぁーりぼぉてぇーはりぼぉてぇーぃ♪》
(どんな歌だよ)
《顔が付いてる機関車のナレーションさんが歌った、ロケット打ち上げ場の歌》
(まったくわからん)
04基地から斜め上に伸びている、3本のクッソデッカイ筒がそうか。下に砲塔にあたる部分が無いから、回頭どころか射角も俯角もとれそうにないじゃん。パフェなんかに突き刺さってる棒菓子かと思ったぜ。
《厳密にはカタパルトとは違うみたい。発射口から格納庫に渡ってグネグネ曲がったトンネルがあって、そこをロボットやパーツが自分で飛んでピョーンと出るみたいだヨン》
(……いや、事故るだろ。なんで狭いトンネルをグネグネ曲げてんだよ。射出通路ならなるべく真っ直ぐに作るもんじゃねえの?)
《基地の構造上の問題じゃない? ガス管とか迂回する感じで。それに発進からゲートを出るまでは完全に機械任せみたい。とりあえず今まで出撃中に事故ったことはないみたいだよ》
そりゃそうか。たいして訓練もしてない
そういう意味ではこの基地を設計したやつ、センスと常識のベクトルはおかしいが、一応まともな技術者なんだろうか?
……いや、自動車にブレーキ機構の代わりに逆噴射装置をつけて解決、みたいな感性だ。まともではないな。基地もロボットもネタ枠みたいなフォルムしてるわけだぜ。
こうして眺めていると、なんの意味があるのかわからんパーツや意匠が山のようにあって、見てるこっちが混乱してくるもんよ。たぶんデザインしたやつ独自の世界観があるんだろう。
「あれは『磁力騎士マグネッタ』の格納庫よ」
オレの視線を勘違いしたのか、同乗している室……先町が注釈をいれてきた。先町、だよな? どうも人名は何回か言われないと覚えられないぜ。
カプセルはどれもだいたい4人乗り。このカプセルにはオレと先町、そして前の席には縦にも横にも太ましい力士くんが乗っている。
一応力士くんの隣に乗れなくもないんだが、近いと
コンパクトな座席だから肘乗せも当然細いんで、力士くん側は彼の腕の肉で埋まっちまうくらいミッチリ感がすごい。
まーね? 別に混雑してるわけでもないしオレらは7人だ。どのみち1台は3人で乗るんだから、太めの彼が1人で2席占拠したほうが無理がないだろう。
アスカたちはどの席順で乗るかで騒ぎ出したから放っといた。力士くんの横以外は大して変わらんだろうに。そりゃあ景観の良いほうに乗りたい気持ちは分からんではないがよ。
「あいつらも玉鍵しゃんたちには
前の座席からあるかないかわからん太さの首を曲げ、こっちを振り返って礼を言ってくる力士くん。
「『星天騎グナイゼナウ』はあっちね」
……ほーん。
(たまたま、か? ちと判別がつかんな)
《星天って名前がアレだにぃ。ちなみにグナイゼナウはイモとソーセージの国で使ってた戦艦の名前っぽいナ》
オレ的には後ろ半分は陸奥でもワシントンでもどうでもいい。まあスーツちゃんにも分からねえならいいや。
(まあそれはいいとして、基地の真後ろにあるケツの穴みたいなシャッターは何だ? ガーッと開いて、そこから帰還したロボットが格納庫に入っていくのか? 謎すぎる)
《低ちゃん。女の子がケツの穴なんて言っちゃいけません》
(脳内会話なんだからいいだろ。中身も野郎なんだし)
《ダメです。せめておヒップホールと言いなサイ》
(違いがわかんねえよ……)
《スーツちゃんの! 目が! 内視鏡なうちは! 低ちゃんにお下品な言葉は使わせない!》
(ソーデスネ。性別が女になってからというもの、現在進行形で検閲され続けてる真っ最中だったわ。というか、ああいう魚の罠みたいな形状のシャッターって、どういう名称なんだろうな?)
《本社から末端店に送られてくる、キャンペーン用の安っぽいクジ箱の
(厚紙だけど切りたては固いし三角だから、手を入れると引っかかって絶妙に痛いよな。知らんけど)
割引が当たっても次に利用する前に期間が過ぎたり、会計まで存在を忘れてて、ああもういいやって使わなかったりするよな。特に後ろに他の客が並んでるとよ。
《そーいやその2機、低ちゃんたちが交戦中に基地へちょっかいかけに行こうとして、敵を釣りだしちゃったおバカさんたちと、ザンバスターで機動戦力が殲滅されたあとに、何機かで横取りする形で基地に攻撃しようとしたヤツだよん》
……チッ、どっちか知らんがこいつらかよ、あのタコは。
前者はオレも見てるから知ってるが、後者はアスカが愚痴ってたヤツらか。
ただアスカには悪いが、オレは後者のほうはあんま気にしてない。オレたちの戦果に乗っからず、自分らで敵を倒して帰ろうとしてたのかもしれないからな。
腹が立つのはエネルギー管理の予定を狂わせた前者だ。おかげでアスカ共々、体を張った一発に賭けなきゃいけなくなっちまった。順当に行けばビームだけで済んだのによぉ。
さすがにガキ相手だから死んでりゃよかったとまでは言わねえが、世の中迷惑かけるバカ野郎ほどしぶといからイラッとくるぜ。
「玉鍵しゃん、たぶんとは思うが……あいつらは挨拶に
「うん? どうかな。アスカからは聞いてない(ぜ)」
オレがダウンしてるときに来てた可能性は……無いな。来てたらアスカが話題に出すだろう。
へっ、別にいらねえわ。正直オレたちからすりゃあ、花代たちのついでだったしな。
「大さん、おそらくどっちも行ってないと思うわ……あの連中よ?」
《む、やっぱ性格に問題があるみたいだナ》
(そのようだ。
「あいつらは……すまん! 礼はおいが必ず言わせるっ」
「いい( 、いらねえよ)。そこまでして聞きたくない。それに(おまえら)他のチームの面倒まで見れる状態じゃないだろ?」
力士くんよ、真面目なのはいいんだがほんとお節介な野郎だな。バカは放っときゃいいんだって。
「ごめんなさい。うちのユージとコージにも、なるべく早く謝らせるから」
「(違げーよ、そうじゃねーよ)バカは放っとけ(って言ってんだよ。そもそもこっちだってバカとは関わりたくねえんだっての)」
クソガキが反省するまでいちいち付き合ってられるか。
それにあのバカ具合じゃあ、オレがエリート層にいる時間で解決するとも思えないしな。
06基地の倉庫区画。搬入出用のでっけえエレベーターの見える踊り場に来た。
後ろのカプセルからやってきたアスカたちと合流して、なんか全員から視線を向けられ、ふと肝心なことに思い至る。
(そういやゾロゾロ連れだって、06基地に何しに来たんだっけ?)
《ズコーッ》
(いや、当初の目的は覚えてるぞ? 赤毛ねーちゃんに会いに来たんだ。それと
で、だ。
あの場に置いて行ってもアレだから、なんというか
《もうひとつあるでショ。ヒント、テルミちゃん》
(…………あ、予知)
《
(うるさいナリ。体は覚えてたんだからいいだろ)
《まだら○ケの症状では?》
(誰がボ○老人やねん。この新品の脳はまだ壊れてねえよ)
「先、町。予知で見えたバイク、06基地のどのあたりか分かるか?」
《先町テルミ、先町テルミ、先町テルミ》
(分かったっ、もう覚えたから)
「……暗くて狭い場所。たぶん、たぶんだけどコンテナとかに入ってるんだと思う」
コンテナか。模型やポスターじゃなくて、実物のバイクなのか?
「たまさん、そのバイクを探すんスか? バイトの時間までならあーしも手伝いますよ」
春日部がそう言うと、他のやつもアスカを除いて手伝いに手を上げてくれた。ありがてえ。
「え゛ーっ、マジでやんの? 基地なんて06じゃなくてもコンテナだらけよ? 総当たりなんてしてたら切りが無いし、そもそも勝手には開けさせてくれないわよ」
ああ、それもそうか。パイロットとはいえ権限違いだよな。強行するにしても先に赤毛ねーちゃん辺りに許可を出してもらってからがスジか。
そこにエレベーターの警告音が鳴り、黄色いランプが回転を始めた。どうやら地下から荷物を上げてきたよう―――――なんかおかしくねえか? 倉庫とはいえ、普通ここまで人がいないってあるか?
(なあ、変に静かすぎないか? 基地なのに作業員のひとりもいないって変だろ)
《そういえば………この区画、15分くらい前から空白地帯みたいに人がいないみたいだネ。まるでそうなるよう作業員のスケジュールを
「……ねえべル、何か変じゃない? 私たち以外誰もいないよ。視線を感じない」
花代の言葉にピンとこない者もいるが、
にわかにきな臭い雰囲気が漂い出したところで、重たい音をさせてエレベーターが到着する。
ドアが開き、二枚目の網状のドアも開いて、中から出てきたのは数台の装甲車めいた大型車と、それに守られる形の大型のトレーラー。
「あれは……」
キャットウォークにあたる場所にいたオレたちは、出口へと徐行していく車両を上から見下ろしている形。
トレーラーにはひとつの赤いコンテナが積まれている。その真上にはデカデカと白いペイントで―――――『玉鍵』と、丸っこい文字で描かれていた。
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