第112話 不穏な予知! 三度、不死鳥の影!?
(興味が無かったから知らなかったが、リボンからすると春日部と同じ1個上の2年坊か。ジャリンガー4の反町ハルミ)
《
(前者は今その漫画読んでるから知ってるけど、後者はわっかんねえ)
《事務所の入門テストで、他の芸人候補から完全に面接官と間違われてたらしいナ》
いやだから分らんて。なんでこの無機物は人間のオレよりニッチな人類社会に詳しいんだか。
それで2年坊が1年のクラスに何の用だ? まあオレを名指しって事はオレに用があるんだろうけどよ。他のチームメイト置いて一人で礼を言いに来たってワケでも
一応タコ共との悶着で顔は見てるが、あのとき話していたのは主に太っちょで、この女とはまともに喋ってないんだよな。
オレ的には一応の謝罪はしたし、こっちとしてはもう手打ちって事で後はお互い関わらねえつもりだったんだが。
「なんの用よ」
オレの机にケツを乗せていたアスカが立ち上がる。声と気配からして臨戦態勢一歩手前ってトコか。この女はスカートめくったタコ共自身ではないし、ちょっと話を聞くくらいには許せる気分のようだ。
同じく花代と
「先町さんだったっけ? 勿体ぶってると休み時間が終わっちゃうよ? あーしたちもクラスに戻るとこだったしね」
一番端にいた春日部が優しい口調で水を向ける。こいつわりと社交性が高いようだな。そういや3年のリボン女とやりあった時も、お互いにとって建設的な言動をしていたのはこいつだったか。
《何しに来たんだろうネー。ジャリンガーチームは帰ってきてから大変だったみたいだよん。あちこちに謝りにいってるみたい》
(戦闘の疲労が抜けてないのもあるんだろうが……まあ心労だよな、これは)
明らかに疲労の濃いやつれた顔。髪はやや乱れていて、分かっていても
ここは大勢のクラスメイトの目があるところだ。前に一般層のトイレで仕掛けてきた連中みたいな意図は無いだろう。マジで何を口走るか予想できないな。
「玉鍵さん……まず私の話を聞いてちょうだい。これは私なりのお礼の気持ち。だから受け取るのも受け取らないのも自由でいい――――貴方に関係する予知が見えたの」
(……そういやこの女、予知能力の持ち主だったか)
《予知自体はすごく高精度みたい。ただ見えた映像の解釈が難しいみたいだね》
だろうな。予知で全部分かってるならあんな殺し間に飛び込んでるわけは
「はあ? 何よそれ、もっと先に言うことが―――」
「(あ゛ー、いいからいいから。)どんなことだ?」
引き延ばしてまで知り合いの小姑めいたセリフは聞きたくねえ。嫌な事ほどチャッチャと終わらせようぜ。そんな不満そうな顔すんなって、アスカちゃんよう。
……こっちが促したのに先町は口を開かない。なんだぁ? ずいぶん勿体ぶるじゃねえか。
また何か言おうとしたアスカに手をやって抑える。オイオイ、こいつわりと怒りっぽいんだから頼むぜ。
「まず、私が見えたイメージだけ。『転機』『不死鳥』『帝王』『鍵』『子供』………それと『バイク』」
アスカたちから困惑の気配が漂ってくる。まあ連想ゲームにしても方向性やら前例とかが無いと、イメージだけじゃ漠然とし過ぎているもんな。オレもさっぱりだ。
(スーツちゃんは何か浮かんだかい?)
《わがんにゃい》
(わがんにゃいかー)
「これは今まで見てきた予知からの経験からくる予想だけど、『転機』は極端なイメージ。とても好転するか、ものすごく悪くなると思う」
「玉鍵さんを予知で脅してるの? 仕返しのつもり?」
「
「……そう取られてもいい。私は私のケジメとして、お礼のために伝えるだけ」
「続けてくれ」
「タマ、これ聞く価値ある?」
「アスカ」
少し強めにいうと、アスカは両手でハイハイというジェスチャーを返してきた。
悪いな、これが超能力ってやつが胡散臭い世界の話なら聞く気はないんだがよ。特定のスーパーロボットを操る条件にあるくらい、れっきとして存在してるならバカにできないんだわ。
「『不死鳥』と『帝王』は、たぶんどちらも強い力のイメージ。人間なんて簡単にコナゴナにできる何か」
(……なあスーツちゃん。帝王は思い当たらねえけど、不死鳥はイヤーな心当たりがあるんだが)
《不死鳥王ファイヤーアークの事カニ? 確かに今まで低ちゃんが関わった何かとするならアレだけど、未来に出会うものかも知れんジャロ》
(人間なんて簡単にコナゴナにできる、ってのがなぁ)
《精神だけコナゴナにできる幻覚の拳かもよん。フェニックス・ハルシネイションナックル!》
(ロボットの世界に小宇宙バトルはお呼びじゃねえよ)
「『鍵』と『子供』は……ごめん、朝からずっと考えていたけどどっちもよくわからない。でも……たぶん貴方に必要。危険だけど」
「「……玉鍵さんの子供」」「たまさんの子供……」「た、タマの、子供……」
おう、テメエら。子供と口走って一斉にオレの腹を見るな。入ってねえし産んでもいねえよ。
《うぅーん、女の子同士で出来るなら………アリ!》
(ねえよっ! 中身が男の人間を経産婦にしようとすんな! あとDNAの限界に挑戦すんな、今の技術で女同士は繁殖出来ねえよ)
「それで最後の『バイク』なんだけど、これが一番はっきり見えてるの。映像的に06基地のどこかだと思う、そこにある『バイク』がすべての『転機』になる」
06基地? あの半分倉庫みたいなトコか。区画内をホワイトナイトの組み立てで使わせてもらったな。
……そういやあの
んー、春日部が新しい部活を作ったはいいが機材が全然足りないとかぼやいてたし、ホビータイプでもいいならその部活に譲渡するか。ボディも腕を変えればほとんど軍用と変わらねえし、練習機くらいにはなるだろう。
「私が教えられるのはこれだけ。玉鍵さん、敷島さん。助けてくれてありがとう」
そう言って踵を返した先町は、遠巻きにしていたクラスの生徒たちから好奇の目を向けられつつ教室から去っていった。
「どう思う?
「何か企んでる風ではないけど……」
花代が振った話題は
――――バイク、ねえ。
今のオレが知ってるバイクとなると、ちょっと前まで乗っていたあいつだけ。でも一般層のロボットと紐付きになってる備品がエリート層に上がってくるわけはないし、あくまで基地から借りてただけでオレの所有物でもない。
まあイメージがバイクだからって本物が関係してるとは限らないか。壁に貼ってあるバイクのイラストやら、休憩所のインテリアとして飾ってある模型なんて線もあるよな。そもそもどう関係してくるのかもわっかんねえ。
「アスカ、ラングさんからの返信は?」
「まだよ――――ホントに向かうの?」
具体的に理屈を聞かれたら困っちまうが、頭のどっかに引っかかるもんがある。この感覚はよく知ってる。オレが一手たりとも下手を踏むとわけにはいかないときに出てくる、いつもの馴染み深い感覚。
死の予感だ。
……けど今感じてるコレは、たぶんオレ
幽霊のように生気の無かった先町の後ろ姿。そのすぐ背後に、そっと死神が立っている気がした。
「ちょっと予定を変えたい。ジャリンガーの誰かの連絡先、分からないか?」
《放送中》
「すいませんでしたっ!」
普段は首回りの太さに辟易して緩めているネクタイを、自分自身を締め落とさんばかりに引き締めた制服姿の大石大五郎は、玄関先で太い手足をついて年配の女性に精いっぱいの謝罪を示す。
これまで巡った相手の対応は様々だった。激しく罵られたこともあれば、泣きながら物を投げつけられたこともある。中には静かに空っぽの棺が置かれたご霊前の前に通してくれた家族もいたが、多くはひたすら謝るしかできない大五郎に遠慮なく怒りをぶつけてきた。
本当は初日ですべての家を回りたかった謝罪行脚。しかし自分でも想像以上の精神的ストレスに参ってしまい、登校を言い訳に数日に分けて訪問することにした。
また、できればこの間にユージとコージ本人、そして子供を庇う親を説得して謝罪に連れて行きたかったということもある。
二人は学園への登校はおろか、絶対に外へ出てこなかった。
ユージに関しては折れていた鼻を再び大五郎に殴られ入院という形であったため、まだ言い訳はたつ。しかしコージは『自分のせいではない』と、頑として謝罪への同行を拒んでいた。
バシャリと、下げている大五郎の頭に水がかけられる。次いで水を入れていた陶器製のカップが投げつけられ、過たず頭にぶつかって割れた。
…昨日謝罪に付き合ってくれたテルミには、今日はわざと合流時間をズラして伝えた。後で聞かれても間違えたとうそぶくつもりで。
これが大五郎一人で訪問した理由である。この家だけは初めから危ういと思っていたからだ。
すいませんですむか、女性の絞り出した奇声のような一言が何もかもを物語っている。
彼女の息子は大五郎よりも年下の15才だった。そんな少年が遺体さえ帰ってくることなくSワールドの塵となった。母親からすれば、どうか悪夢であってほしいと願う現実だろう。
だが、彼はもう母の下には帰ってこない。髪の一本さえも。
奇声のような罵りはさらに大きくなり、ついには大五郎の頭を踏み抜くような足蹴に変わっていく。
ゴン、ゴン、と踏みつけられるたびに大五郎の広い額が玄関の床に打ち付けられる。部屋の奥から騒ぎを聞きつけた別の家族がやってきたものの、彼らは誰も狂う母親を止めなかった。
おまえが、おまえが、おまえが、死ねばよかったんだ、死ねばよかったんだ。大五郎は自分の母親と同じくらいの年齢の女性に、グチャグチャの声で叫ばれるのが痛ましくてしかたなかった。
やがて大五郎の頭を踏み外した足が玄関に落ちていたカップを踏んでしまい傷つく。しかし、そこで冷静になることなく母親は玄関に置かれていた誰かの杖を掴むと、それを大五郎の体に叩きつけだした。
もう彼女にとっては理屈ではない。自分でカップを踏んで切った足でさえ、目の前の少年が悪いと感じて逆上しているのだ。
大五郎の周りに飛び散り出した赤いものは彼女の足からの血か、あるいは自分から出た血なのか。
強烈なストレスとたび重なる頭部への殴打によって痛みを感じない段階になっていた大五郎は、頭のどこかでこれ以上は危険と思いながらも、されるがままに殴られ続ける。思考はもはやぼんやりとしていた。
「―――――やり過ぎだ」
大五郎の遠くなっていく耳に、この地獄のような空気を切り裂く清涼な声が聞こえた気がして――――そのまま意識がプツリと途絶えた。
ジャリンガーの
でも誰にも繋がんねえ。しょうがねえからスーツちゃんに頼んで、ガキの中で一番話が分かりそうな力士くんの行先を絞り込んでもらった。
で、辿って来たのがこの邸宅。広い庭付き一戸建てで駐車場は4台分か。
裕福層ではあるけど上流と自認したら本当の上流に鼻で笑われる、ってランク帯のお宅かねぇ。なんて、言い回しに悪意が出ちまうくらいには成金の家だな。
力士くんは昨日から先町って女と一緒に、前回戦死したパイロットの遺族の下に詫びを入れて歩いているらしい。あの死神背負ったようなやつれ具合も納得だよ。
自分たちが関係した話で死者の出た家に謝りに行って、それが一日で何件続くとか、ガキじゃなくても精神にくるだろう。力士くんは余計な責任まで背負いこむヤツのようだ。
開き直るクソよか立派とは思うが、ちと真面目すぎるな。変に我慢強いトコとか初宮を思い出す。こういうやつは外部が軌道修正してやんねえと潰れるまで我慢するから危ないんだ。
……家のほうからふわっと香ってきたのは線香のにおいか。今はエリート層でも葬式はかなり簡略化されていて、死体になったら葬式してすぐにサヨナラが普通だ。
逆にどっかの偉い社長だとか議員とかは、大昔の権力者みたいに大々的にやったりする。
生前に本人がやれって言ったのか、後釜の人間が政治利用するために盛り上げてんのかはしらんがね。
棺桶の前に何メートルもあるクソデカい遺影とか臆面もなく飾られたら、オレならこっ恥ずかしいだけだけどなぁ。死んだ後の扱いがそんなに気になるもんかね。
「お節介ね。まともな方だからって、あんたが気にしてやることないのに」
《アスカちんの言う通りやで、デブ専は悪い文化》
(教室に来た女が捕まらねえから、ひとまず力士くんの方に来ただけだ。せっかく助けたのに心労で発作めいた自殺でもされたら後味が悪いだろ)
《ム。女呼びとは、さてはもう名前を忘れてるナ? いかにも超能力者っぽいカチューシャ付けてる先町テルミちゃんゾ》
(人さまのセンスに物申すのもアレなんだが……ダサいよなアレ。UFOと交信でもしてそう)
《デッデッデッ、デデデ》
(ストップ。なんかヤバイからそこまで)
《ウィ》
普段はそこそこセキュリティとかしっかりしてそうな、まあまあデカい家。
でも身内の訃報で親戚やら知り合いやら集まってきてるようだ。複数の車が場に溶け込まない感じに道路のあちこちに停まっていて、ちょっとしたカオス状態になっている。
ここが一般層なら爆速で
……けどちょいと失敗したな。CARSのちょっと開けた窓越しに家を見ていたら、この家の身内らしい大人に声を掛けられちまった。
制服姿のこっちを学園から線香を上げに来たと思ったようだ。付いてくると言ってうるせえアスカたちと連れ立って、女5人でゾロゾロと来たのは失敗だったかもな。
「ちょっと、どうすんのよ?」
後ろでアスカが小声で確認してくる。いや、この段階で違いますも何かアレだろ。
用があるのはここに来ているらしい力士くんだけとはいえ、流れ的にお悔やみのひとつも言って線香くらい上げて帰るべきだろう。同じ学園に通う生徒で同じパイロットだ。まったく無関係でもないし、一応、
――――底辺で死んでいったあいつらだって、おざなりでも拝んでほしかったろうしな。
ただお行儀よくインターホンって前に、中からおかしい音と声が聞こえてきた。
(なんだ? この肉でも叩いてるみたいなドチドチした音は?)
《ドチドチって……擬音が新しすぎじゃネ?》
いや、実際ぶ厚い肉とかそんな感じの音だぞ。ガンでもドンでもない。半端に柔らかいものが固いものに『ドン』と叩かれて、潰れ切らないせいでキッチンに『ドチ』って響くっていうか。
声の調子からするとちょっと年のいった女か? 感情的になりすぎていて声になってない、獣の唸り声みたいな奇声だ。
食いしばった歯の間から涎が飛び散ってそうな、つまりヤベー状態のおばちゃんがドアの向こうにいる気がする。
……葬式の玄関先でステーキ肉の下準備や、臼と杵使って餅つきでも
「待ってろ」
こりゃドア開けたらいきなり刃物が飛んできてもおかしくねえな。いつもスカートのポケットに突っ込んでるパイロット用の手袋をはめる。これを付けていれば最悪ナイフを振り被られても、刃を掴んだり受けたりできるだろう。
「え゛、な、何かあるの?」「玉鍵さん?」
《オープン、セサミ》
(開けゴマってな……アレ原文でも本当にそう言ってんの?)
《アラビア語の直訳でもそうみたいだよん? ニュアンス的には『ゴマよ、汝を開け』って感じみたい》
(ほーん。今日はゴマタレ風味で何か食いたいな。豚しゃぶあたりなら適当に肉と野菜を切って、後は昆布入れた鍋に突っ込めばいいし楽だろ)
《アスカちんが騒ぎそうじゃのう》
(肉焼きは意外と繊細なんだよ。ただ焼けばいいって形じゃ良い肉が台無しになる。ステーキは本調子になってから気合い入れて焼きたい)
それにまだステーキみたいな肉ッ! って感じの飯はもたれそうで遠慮したいし、前哨戦ってことで野菜多めの鍋で胃を慣らす――――ってなんだこの状況?
足元には土下座状態で血を流す土饅頭、じゃなくて力士くんか。それとドアが開いたのにこっちの事なんてまったく目に入ってない中年女が棒切れを振り被っていた。
まるで畑を耕すクワみたいに力士くんの頭を目掛けて。
「やり過ぎだ(ぞ、おばちゃんよ)」
振り下ろした杖を止めるとちょっと腕が持っていかれそうになった。おい、どんな力で殴ってんだよ。図体がデカいとはいえ中坊相手だぞ。
……血まみれじゃねえか。チッ、いい加減に杖を放せって。
(なんだこの杖? 突く箇所が
《足の悪いご年配用だナ。一本足より安定するんだろうね》
まあ杖はどうでもいいか。しかし玄関に土下座してるガキを血が出るまでしばいてる鬼女とエンカウントって、どんな状況だよ。
《完全に錯乱状態だネ。興奮しすぎてるし、ちょーっと鎮静剤打っとこうか》
(…頼む。キレてるおばちゃんって人類最強だからよ。まともに相手はしたくねえわ。あと力士くんは大丈夫か? これ……気を失ってんぞ)
《んー、打撲は多数だけど怪我は皮膚の表面だけだね。部活とかかな? 運動で鍛えてるみたいだし、贅肉アーマーと筋肉アーマーでだいたい平気ゾ。失神は脳震盪よりストレスかも》
(1人で10人以上の遺族巡りじゃなぁ……大人でも辛かろうよ)
スーツちゃんがスカートの内側からスルッと伸ばした細い一本の糸が、目を血走らせて杖を離さないおばちゃんの指の先に入る。するとたちまちおばちゃんは詰まったような呼吸をして、クタリと玄関にへたり込んだ。
(助かる。でもなんでスカートから?)
《女の子のスカートは戦乙女スカートだからデス。あと制服が夏服で袖が無いからナ。距離的にスカートのほうが近かったのジャ》
(理由の説明、前半いらなくね?)
「あ、あんたっ、玉鍵ってやつか!? 地底人のっ」
奥から来たのはこのおばちゃんの旦那か? いや、後ろにもう何人か年配の男がいるな。親戚のうちの誰かって線もあるか。
「一般層の玉鍵だ」
…ケッ、実際地下に住んでるんだから、地表の連中からすれば地底人ってのも間違ってないだろうがよ。もろバカにしてる空気がアリアリで鼻につくぜ。
「なんで息子を助けてくれなかったんだ! あんたが、あんたが間に合っていれば!」
ああ旦那のほうか、知らねーよ。
《投擲モーション。液体アリ》
投げつけてきたカップを掴んでいた杖で叩き落す。中身のお茶の一部はルート上にへたり込んでるおばちゃんが被ることになった。悪い、さすがに今のはワザとじゃねえよ。
「こ、この! こっちは息子――――」
うるせえ。
《筋力補助、はしなくていいか。たいして重いものでもないし、思い切り投げても相手は大怪我しないジャロ》
槍投げの要領でクソ親父、その顔の真横に杖を投げつける。葬式中だ、怪我させずにおいてやるよ。
三又の杖先がすぐ後ろの壁に当たってビクついたおっさんは廊下にヘナヘナと蹲った。
「お、おい、あんた! ひどいじゃないか! 彼は息子を亡くしたんだぞ!」
チッ、今度は誰だよ。後ろで様子を伺っていた親戚か誰かがまぁーた騒ぎ出しやがる。めんどくせえ、一気に来い一気に。
「だからなんだ?」
「なっ……」
「パイロットは自己責任だ。Sワールドに飛び込んだ時点で、自分の命は自分で守るのがパイロットだ。他人のこっちには何の責任も無い」
「ぐ、あんたそれでもワールドエ―――」
……くだらねえ事をゴチャゴチャと。死人が出てるからおとなしくしてやるが、本来こっちが殊勝にしてやる義理はねえんだ。せいぜいパイロットのよしみってだけだ。
「身内が死ぬのが嫌なら、初めからパイロットになんかするな――――死ぬんだよ、パイロットは」
故人の2年坊がどんな理由でパイロットになったのか、オレは知らねえ。家族がどんな理由で止めなかったのかも興味
自分でSワールドに行って、そいつは死んだ。結果はそれだけだ。底辺と違って強制的に操縦席に押し込まれて放り出されるわけじゃない。自分で戦いに行って死んだんだ。
超能力者気取りのタコガキに
自分から戦場に入った時点で、テメエの命は自分の責任だろ。
それなのにこの力士くんはクソ真面目に責任感じて、チームメイトのボンクラの仕出かしたことを謝ってんだぞ? テメエ自身のヘマじゃねえのによ。
それを何だよ、遺族ってのはそんなに偉いのか?
こんなになるまで謝ってる中坊のガキ相手によ、ずっと遠目でボコボコにしてるのを黙って見てるテメエらみたいな連中の、何がどう可哀想なんだ?
たとえお可哀想なご遺族ってやつだろうが、ガキ相手にここまでする連中なんざ、オレは相手にする気はねえわ。バカバカしい。
(スーツちゃん)
《重量はともかく低ちゃんの低身長で担ぐには全体的に太すぎるナ。みんなと協力して肩を貸すくらいにしとき》
「すまん。運び出すから手伝ってくれないか?」
「いいけど、これ大丈夫? 治安呼んだほうがいいんじゃない?」
「まーまー、たまさんに考えがあるんじゃないスか?」
「う、
「……男の人って、どこ掴めばいいのかしら」
ドアの後ろから覗き込んでいた面々に頼むと、四者四様の態度で手を貸してくれる。血だらけのやつ触らせて悪いな、制服のクリーニング代は後で払うからよ。
「………う…………?」
なんだ、気付いたか。当人が歩けるならそれが一番楽でいい。
「帰るぞ(力士くん)」
「……たま、かぎしゃん?
思考が罪悪感で固まってんな。でも地道に説得してやるほどお人好しじゃねえよ。さっさと立て。
「おまえはやるだけやった、もういいだろ」
「だ、
……チーム内でも年上で、手の掛からないやつだから、裏で周りの無責任な大人とかに言われてんだろうな。『バカな弟分たちを面倒見てやれ』ってよ。
だからってな、てめえも中坊だろ? まだギリギリ面倒みられていい側なんだよ。何もかも抱えることは
「「「「「《!?》」」」」」
「よく耐えたな。頑張ったよ、おまえは」
でっけえ頭をワシワシと撫でてやる。
「……ふ、ぐ……ぐぅ……う゛ぅぅぅぅ……」
力士くんは最初のうち、オレに頭を撫でられた事に戸惑ったようだ。けれど、そのままフルフルと唇を震わせ、押し殺し切れない声と共に涙腺が決壊した。
キツかったな。もういいんだ、おまえは義理は果たしたさ。
《おで、Ode、おディーヴ男の分際で、美少女なでなでイベントとな!?》
(ガラじゃねえけどしょうがねえだろ。こういういつも周りの面倒みてる真面目くんこそ、何かのときはオレみたいな大人が面倒見てやんねえとよ)
《ちーがーうー、スーツちゃんが言いたいのはそうじゃナイッ》
「……」「……」「……」「豚……解体……道具……」
あー、悪いな4人とも。漢泣きが落ち着くまでちょっとだけ待ってくれや。
けど
うーん、CARSのスペース的にギリギリだな。力士くんは助手席に乗せて、オレらは後部座席に詰めるか。もしくはオレだけ送迎レーンでも使うとしよう。
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