第104話 戦士の休息。こってりラーメンはトンコツ味

<放送中>


 基地からの報告を聞いたラングは一瞬の間の後、小さく首を横に振って『不許可』の意志を示した。


「あの子には認可するかまだ揉めている、とでも説明しておくわ。弾いておいてちょうだい」


 通信を終えたラングは開いたままにしていた電子データの閲覧に戻る。


 パイロットの出撃認可など本来はラングが扱う案件ではないが、そこに玉鍵たまが絡むなら他人に任せるわけにはいかない。


(休み無く戦いたがるというのは本当なのね。地表に上がって、学園で揉めて、ずっとゴタゴタしていたのに。たまには学生らしく遊びに行くとかしたくないのかしら?)


 ラングまで上がってきたその確認は『玉鍵たまからの出撃申請と機体申請の認可について』。彼女はそれが当たり前であるかのように、今週もまたSワールドへと赴くつもりでいたようだ。


(せめてもう少しサイタマが落ち着いてからにしてほしいの。貴女が動くと決まって色々と起こりすぎて大変になるみたいだし。ごめんね、タマ)


 玉鍵の活躍により織姫と彦星の親族がトップを牛耳る軍事アーマード・トループス企業『ギルガメッシュ』は、事実上彼ら一族を切り離す形で会社と社員たちを守る姿勢をとった。


 S課と連携を取ったフロイト派によって次々と暴かれた両家の罪状は、今の時点でさえ10万件を超えてさらに加速している。その中にはやや冷淡な思考をするラングさえ証拠品を見るだけで嘔吐したくなるような事案もあり、エリートと呼ばれる自分たちと同じ世界に、ここまでおぞましい怪物が巣食っているのかと身震いするほどのもの。


(人間のクローンを――――愛玩動物ペットにしていたとか、どんな異常者よ。それも……もう処分している分を含めると1000人以上の可能性があるなんて)


 若いうちの一定期間を飼い、飽きたら処分する。それを両家が代々繰り返して1000人以上のクローン体を殺してきたという事実。部隊が突入したときには証拠隠滅を図ろうとした彼らは、部下に命じて『死体を溶かそうとしていた』という。


 これまでは星天という下位組織に死体を放り投げ、タンパク質フードペーストへと加工して隠ぺいしていたと思しき彼ら。だが、その下位組織の壊滅によって『いつものサイクル』が機能不全を起こしていたため、止む無く自分たちの手で処分する必要があったようだ。


 両家の地下はまさに人の悪徳が濃縮した地獄の窯のよう。厳しい訓練とサイボーク化手術によって精神的動揺を抑える事ができる精鋭たちでさえ、そのあまりの惨状を目撃したために心が不安定になってしまった者が続出していた。


 およそ人が理性で理解できる世界ではない。それが権力によって肯定され、止める者を許さずに今日まで行使され続けてきたのだ。この事実に人間・・なら耐え難い恐怖と嫌悪を覚えるのは当たり前であろう。


 そのうえ規模が大きすぎて調査が追い付いていない。エリート層を担当するS課職員と協力体制をとったフロイト派のエージェントだけでは手が足りず、近日中に一般層付きのS課職員からも極めて有能な人材を応援として呼び寄せるという異例の形になっているくらいだ。


 この調査遅延によって証拠隠滅を達成し、罪を逃れる者たちが出るだろうことにラングさえ義憤を感じてしまう。両家の取り巻きへの捜査は必ず念を入れて行ってほしいと願ってやまない。


(一般層に根を張っていた銀河派の下位組織を壊滅させる一手は、まさしくあの子がもたらしたもの。そして織姫と彦星のことも。やっぱりタマが動けば動くほどこの星が良くなる――――でも、いかんせん後始末係こっちの手数が追い付かないのよねぇ……)


 あまりに改善が劇的過ぎても体制破壊後の整備が追い付かず、しゃしゃり出てきた小悪党が利益をかすめ取る社会を再び作るだけ。初めからシャットアウトしなければすぐにまた腐ってしまう。


 それ自体は人間社会の常としても、あまりに早すぎては困るのだ。せめて自浄機能の種だけは初めに植えなければならない。それがラングの考える組織構築のセオリーである。


 いつか腐敗しても、いつか改善するように。常に這いよる悪意の目を躱し、小さくても正義の芽が残るように。


<市長、サイタマ基地より通信が入っております。〈秘匿回線です、対策措置を取るため通信ラグが発生します〉>


 端末に入った補佐AIの言葉と、通知された表示にラングが眉を寄せる。相手はラングが選出して役につけた相応の人材、よもや伝え忘れなどというミスがあるわけでもないし、そんなことに秘匿回線など使うわけもない。


<またお時間を頂き、申し訳ありません>


「そういうのはいいから、何?」


<はい。先ほどの玉鍵たまの件なのですが――――『Fever!!』の介入があったようです。コンピューターによって勝手に許可が出され、取り消しが効きません。入念に調査したわけではないので確実ではありませんが……少なくとも人間によるハッキングの可能性は限りなく低いはずです>


「……分かったわ。ハッキング調査のほうは打ち切って。基地にケンカを売るアホStupidがいたら、それこそ『Fever!!』が出てくるはずよ」


<わかりました……市長、その、彼女・・は何者なんでしょうか? 一般層での件といい、あの存在が目をかけているような気がしてなりません>


「美人で腕利きのパイロットだから注目してるんじゃない? 別に悪いことじゃないわよ」


 深刻そうな声を出す部下にあえて軽口で答えたラングは、そのまま早々と通信を切った。秘匿しているとはいえあまり長く話し込むものではない。その時間が長いほど秘匿された通信の不自然さが消せなくなるのだから。


(一般層にいたときも電子界の情報操作に介入した形跡があるって、法子の報告にあったわね。『Fever!!』も本当にタマがお気に入りなのかしら)


 玉鍵に関する『黒い報告書』の中には、彼女が殺害した襲撃者14名の件も記載されている。


 夜間部前の中央道で堂々と起きたCARS車両の襲撃事件。記録されている現場のシミュミレートから割り出した玉鍵の戦闘記録予想は劇的なものである。


 たったひとりの少女がCARSから引き摺り出した機関銃で12名を殺害し、さらにナイフ戦闘で2人を殺傷しているというとてつもない記録。特に最後の1人は軍で戦闘訓練を受けていた人物であり、14才の少女が白兵戦で簡単に倒せる相手ではない。


 ましてあまりに性格が異常として軍から追い出され、外でも殺人と暴行を繰り返していた凶暴な男と記されているのだ。生まれ持った人を傷つけることに躊躇いのない残虐性は、ちょっと戦える技術がある程度の常人・・の精神で迎え撃てるものではないはずである。


(その胆力が訓練で培ったものじゃないとしたら……タマも生まれつき心のどこかが壊れている・・・・・子なのかもね)


 常に戦いを求める彼女の欲求が、そういった壊れた部分が来ているのだとすれば明らかな危険人物だ。戦場にあって適応の早い人間というのは往々にして平和な生活に向かない人間であるように、命を賭けてまで戦いたがる玉鍵たまという人間が、平和な社会に馴染めない人間である可能性を示している。


 しかし、そうであったとしても当面は問題にもならないだろう。


(タマが戦いたいなら存分に戦ってもらえばいい。人を殺すわけでもほかの国や都市を襲うわけでもないんだから。あの子が立ち向かうのは敵だけ。むしろありがたい話じゃない)


 これが人間同士の話であれば問題もある。戦争、犯罪、倫理、いずれにおいても周囲を巻き込んでの破滅への誘いに他ならない。


 だが玉鍵が相手にするのは人以外、敵の無人ロボットだ。それなら戦争でもないし犯罪でもない、倫理のうえでも咎められる謂れはない。そして彼女が活躍すればこの星が資源で潤い人々の生活が楽になる。何の問題もない。


(ううん、悩ましい問題がひとつあるわね――――この調子で戦われたら国庫が空になりそうだわ)


 すでに玉鍵に渡す報酬は都市や国にとっても頭の痛い問題として議題に上がっていることだ。今の時点でさえ金銭では追いつかないため、国や都市に対して行使できる『特権』を与える形で報酬代わりにしているくらいである。


 彼女が前回撃破したSRキラー、『BLOOD・VLAD』と『ダークウィング』の報酬さえまだ決まっていない。一応の落としどころとして現在の『一般層での特権』を『エリート層でも行使できる権利』をベースとして与え、ほかに細々とした報酬を与えるという形で調整に入っている。


 玉鍵は報酬額にさして興味が無い、という情報を鵜呑みにするのは危険だが、今のところこのくらいしか与えようがないのが実情だった。


(VLADからは現在の医療技術では治癒不能の病の治療知識と技術、ダークウィングからは遺伝子組み換えによって汚染されていない食用できる鳥の家禽群かきんぐん。どっちもすべての国が喉から手が出る戦利品。特に家禽かきんは慢性的な食糧難を改善する一助になる。繁殖させるのに手間と時間が掛かることなど問題にならないわ)


 過去に『楽に大量に』を合言葉に遺伝子組み換えを行ってきた食料品の数々は、ある日を境に申し合わせたように全滅した。弄り回した遺伝子の限界か、あるいは汚染か、なにが原因かを調べる時間さえなく育たず、生まれなくなった。


 そこに追い打ちをかけたのが様々な要因からくる技術と現物の喪失である。戦争や災害といった大きなものばかりでなく、社会不安から強盗などの襲撃事件が多発し、混乱の中で多くのも失われることになる。


 その中には、各地にわずかに保存されていた遺伝子改良前の穀物や家畜も存在していた。


 こういった経緯から戦利品として稀に表れる遺伝子組み換え前の動植物は、国にとって貴金属よりも極めて高い価値のあるものとなっている。それも交配繁殖で増やせる現実的な数がまとめて出たのは初めてのことだった。


(タマのおかげで鶏肉が安くなりそうね)


 そういえば朝に今日の夕食はチキンカレーだとアスカが嬉しそうに言っていた。


 ラングに連れられ、おいしいカレーなど専門店でいくらでも食べているはずの姪っ子。しかしアスカは味が良い悪いでなく『家庭で作ったカレー』というものに憧れていたのだろう。


『チキンなんてケチらないでビーフカレーにしなさいよと文句を言ったら、『他所は他所! うちはうち!』と玉鍵に怒られた』と、通信の画面越しにニヤけながら言っていたのを思い出す。


 ――――もしも玉鍵がエースでもなんでもなく普通の少女であったとして、そのときラングは興味を持たなかっただろうか。それはおそらく否だ。


(……あんなに屈託なく笑うところは久しぶりね、アスカ)


 可愛い姪っ子の心に安らぎを与えてくれる友人としての玉鍵。それだけでラングには価値がある。人を自然と良い方向に導いていくこの少女がいれば、アスカはきっと自分の幸せを掴めるだろう。


 ……数時間後、そのアスカからひとつの報告と恨み節がラングに届いた。それはまたも玉鍵が起こしたトラブルの話。


 しかしこちらはすでに解決したも同然のようで、問題の相手がアスカにも何かしたのか個人的な怨念は感じるものの、ごく簡素な報告である。


 しかしそれに続く報告は無駄に長かった。つまるところが『チキンカレーは1日寝かせるから今日は食べない』と言ってきかない友人への恨み節であり、帰りにラーメンを食べることになったという報告である。


 明日は仕事を繰り上げて夕食に帰ろう。ラングは無意識にそう考えている自分がいることに堪え切れず、フフッと苦笑を零すと少しだけ楽しい気分で積まれている仕事に向きあった。









(GARNETは無理か。中枢の損傷はそこまでじゃなかったんだがなぁ)


 やっと出撃申請が通ったことで遅ればせながら乗り込むロボットの選定に入ったんだが、エリート層ここに乗ってきたGARNETは修理が間に合わないらしい。


 まぁーな、これはしょうがねえとオレも思う。所詮オレはこの基地じゃお客さんだ、何もかも後回しになるのは仕方ないだろうしゃああんめえ。ただでさえエリート共が張り切ってるらしいし、そこに一般層から来たロボット相手なんてしてらんねえんだろうよ。


《パーツの在庫が足りないみたいだね。もう生産は打ち切ってるみたい》


(量産型の強みも、強みの元になる数が無いんじゃ意味ないな。型落ちもレトロと呼ばれるまでになったら逆転現象が起きるってワケか)


 別にGARNETはそこまで古いわけじゃないが、物が物だからな。街の大衆車みたいな数を生産してるわけもない。1機ワンオフのロボットに比べれば数があるってだけ。修理用のパーツだってそこまで在庫が多いわけもないんだろう。


「盛ったわねぇ……ひとりで食べられるのソレ?」


「ここくらいのラーメンなら余裕よ? 麺が見えないのが当たり前みたいなところはさすがに無理だけど」


「ベルって意外と食べるのよ。このお腹のどこに消えるのやら……んー、ここかぁ?」


「ちょっ、バカ、おなか掴まないで!」


《ムフ、すばらC。助けた価値があるねぇ、低ちゃん》


(妙な部分で同意を求めるな……まあ、揃ってお通夜みたいな雰囲気よりかはいいさ)


 せっかくうまいトコらしいラーメン屋に来たんだ、知り合いのいない会食みたいな空気でいられたらどんなにうまいスープでもマズくなるっての。それにしても店の前から行列も出来てて期待値爆上がりだったぜ、ブーブー文句垂れてたわりにはイイ所に連れてきてくれたな敷島。


(ただよぉ、なんでオレは注文が全部出てくるまで伊達眼鏡とマスクで変装しなきゃイカンのだ? ーか眼鏡ってラーメンと相性最悪の装備じゃね?)


 もう今の時点でレンズ曇ってんだけど。せっかくのきれいな味玉の断面が見えねえわ。これはニンニク醤油に漬け込んでんのか?


 黄身もテロテロの半熟加減でいい感じだなぁ。このくらいなら家で試してみてもいいかもな。さすがにスープをイチから作るとなると無理があるもんよ。家主とご近所からにおいと油で一発で苦情がきそうだから無理なんだわ。


 オレの頼んだラーメンはここのスタンダードらしい油分たっぷりの豚骨のヤツ。スープはトンコツに魚介類の合わせらしい。


 前のオレならペロリと食える量なんだが、いかんせん今の女子腹になっちまったオレにはドッシリくるボリューム……勝鬨かちどき、おまえスゲーな。中身が入りすぎてドンブリの喫水線がおかしいぞ。


《低ちゃんは男のナニが入ってるかわからないスープでいいのカネ?》


(ナニって……じ、従業員の倫理観に期待しちゃダメなのか)


《もちろん全店舗がアカンとはいわないけどサー、倫理で済んだら混入事件なんて起きないのだヨン。その辺がちょーっと心配だからアスカちゃんも変装させたんでない?》


 ぐへぇ、性欲全開の野郎がどんな性癖炸裂させるかなんざ想像したくもねえが、そういう話自体は昔から嫌ってほど聞くからなぁ。


「タマ、さっと食べてさっと帰るわよ………やっぱこの程度じゃ隠せないわ、なんでマスクしてダサ眼鏡までしてこんなオーラがあるわけ?」


 なんか途中からブツブツ籠った声で言ってて聞き取れん。店の中も活気があって騒がしいしな。


 いやぁ、それにしても小物ひとつ取っても雰囲気あっていいなぁ。赤い紙で貼ってあるお品書きの数々とか、もうそれだけで『オレはうまいぜ?』って訴えかけてくる。これ食う前から当たりの店と分かるわ、また来よう。


「(んじゃ、餃子も来たし。)いただきます」


「……あっ、いただきます」


「いただきます」


「沸点低いわりにこういう行儀はいいわよね、あんた。いただきます」



 そうだよ、こういうこってりラーメンが昔から食いたかったんだ。漫画でよく見る塩分と油分のテロ行為みたいなヤツをなぁ。


「おいしい……」


 あっついスープから感じるこのクセと深みのある味わい。うどんやソバじゃ絶対出てこないこのレベル。まさに健康と引き換えの美味しさだぜ。


 無作法だがスープの次に麺じゃなくて、いきなり味玉行かせてもらおう。どうしてもこの輝く黄身が目に留まってしょうがねえ。あ゛ー、やっぱニンニクの風味が黄身の奥まで効いてるわ。


 オレもごはんの友用にニンニク卵黄でも作ってみっかな。熱い白飯の上にトロンとした卵黄をちょいと乗せて、後はニンニクの香りを邪魔しないお吸い物と、軽い漬物でもありゃいい感じだろ。


「「「…………」」」


《低ちゃん低ちゃん》


(あん? どうしたよっ――――て、なんでこいつら揃って箸持ったままトローって鼻血出してんだ!?)


「お、おい、大丈夫か? 鼻から出てるぞ?」


「……ギャップが凄すぎる」


「おいしいの最上級を見た……」


「こ、このバカタマ。不意打ちすんなっ」


 は? 殴っても蹴ってもねえぞ? もしかしてこの店ニンニク効き過ぎなのか? いや、とりあえずティッシュか。チッ、持ってるポケットティッシュじゃ間に合わねえな。店員に言ったらくれるか?


「おぉ、マジでたまさんたちじゃん」


「……春日部? バイト( ってやつか)?」


 聞き覚えのある声がしたほうを見ると、そこには腕まくりして店のエプロンをした春日部がいた。


《ムヒョウッ! ギャルが中華店でバイトしとる! 定番!》


(スーツちゃんの興奮ポイントが分からん)


《ミニのチャイナじゃないのが残念! でもギャルなのに野暮ったい学生バイトスタイルってところがまた良し! ヒーハー!》


(オチツケ)


「そっスよ。これどーぞ」


 こっちの惨状を見た春日部が店の中からティッシュボックスを持ってきてくれる。


 おい鼻血ブー女ども、恥ずかしいのかもしれんが憮然とした顔してんじゃねえよ。お礼くらい言え。


 ……ったく、思春期のガキはこういうトコあるよな。


「助かる、ありがとう」


「うぐぅ……く、訓練帰りっスか?」


 バイトかと思ったら、なんとここが春日部の実家らしい。従業員が臨時で休むときなんかに『家族割した薄給小遣い程度』でヘルプとして駆り出されると笑っていた。


 さすがに厨房へ立てるほどじゃないから、配膳や掃除とかが主な仕事のようだ。


「ああ、そ―――春日部、おまえも」


「え? ……うわっ。ご、ごゆっくり」


 鼻からトロッと溢れてきた血を思わず手で拭っちまった春日部は、慌てて手洗いに走っていった。


 ……ニンニクの量もだが、ここの賄いってカロリーも高いんだろうなぁ。若いうちでも油断してると一気に成人病まっしぐらだぞ春日部よ。


 こういうラーメン店だと追いニンニクもあるらしいが、さすがに体調が心配なので全員辞退した。オレは入れてもよかったんだがな。一人だけやたらニンニク臭いのもアレなのでやめとこう。






「すまんCARS、におうかもしれない」


 オレだけじゃなく敷島たちも送り迎えにはしばらく訓練ねーちゃんの車か、もしくはCARSを使う事が赤毛のねーちゃんから厳命された。

 リボンども自体はブッ潰したが、それでもう安心とまでは言えないようだ。まあ、あいつらの取り巻きだった連中に恨まれてるのは考えなくても分かる。会場でリボン女あいつら側の席にいた数くらいは敵ってわけだな。


<問題ございません。気になるようでしたら衣類の消臭サービスを実施いたします。お口直しにヨーグルトドリンクでもいかがでしょうか? こちらはクールボックスにご用意してございます>


 ちなみにCARSの利用はオレから提供を申し出た。最高級プランだと座席分は誰を乗せようと値段変わらねえしな。オレだけじゃ勿体ねえ。 


 ついでに店の会計の時に春日部にも使うよう言っておいた。スゲー遠慮してたがマジで危ないって言い聞かせて、事情を説明してあいつの親からも説得させた。


 経験上、こういうとき一人でポツンといると碌でもねえ連中に狙われるからよ。そんなクソみたいな人間は可能な限り相手にするもんじゃねえ。


「おいしいとありがとうだけで、あの威力……」


「早く慣れないと死ぬ……冗談抜きで」


「ちょっと、タマを変な目で見てんじゃないわよ」


 この開き直った鼻栓ガールズはさっきから何を揉めてんだ? ……まあいいか。それにしても乗機はどうすっかな。持ってきたGARNETが無理となると、贅沢言わずに空いてるロボットに滑り込むしかねーか。


(スーツちゃん、サイタマ基地でオレが使えそうなロボットって、後は何がある?)


《……そうさね、いっそ戦闘用のバスターモビルでも使ってみる? あれなら和美ちゃんやランちゃんもすぐオッケーくれそうじゃろ》


(近接機かぁ……まったく趣味じゃねえが、他所様の土地で贅沢も言ってらんねえな)


 もう習熟時間が明日しかねえもんな。訓練機で実機の感覚もある程度は掴めたし、そう悪い選択でもないか?


 あのロボットだと戦場は必然的に宇宙フィールドだな。こりゃ今回は小型機の1、2機でも軽くボコって戻ってくるしかねえ――――――――って、いやいやいや! いいんだ、オレはそんくらいでいいんだよ。


 チッ、今回のリスタートは初めのっけから難度がおかしいからな。いいかげん感覚が麻痺しちまってるぜ。


 さっと戦ってさっと撃破してさっと戻る。これがオレの本来のパターンだろ。粋がるな、欲張るな。中身はザコパイロットだろう、オレは。


 決めた。明後日の出撃はどんなに余裕があっても軽く流して終わっとこう。どのみち戦闘用でも10メートル級のバスターモビルじゃ大して戦えねえもんな。楽そうな戦場選んで気楽に行こっと。

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