第102話 昭和時代の主人公はスケベがデフォ!? スカートめくり野郎には制裁を(未遂)!!
(うーい、思ったより堪えたな。やっぱ実機はシミュレーションより負荷が大きいわ)
こういう日は温めよりちょい熱めのシャワーで頭皮から脇から、体のいたるところを残らずさっぱりしたい。すると出た後のエアコンの風が最高なんだわコレが。
《おっさん臭いのぉ。女子のシャワー室でおっさん臭いのは犯罪では?》
(中身は正真正銘のおっさんなんだからどうしようもねえよ。それをどっかの国であった、ぬいぐるみのワタに産業廃棄物を混ぜ込んでた物体みたいに言われてもなぁ)
元から風呂もシャワーも嫌いじゃないが、やっぱ大量の安全な水で体を洗えるのはいいもんだな。底辺層だとこうやって排水溝に流れてる汗やら垢やらがボディソープと混ざった水でも十分きれいなレベルなんだぜ?
ちなみに飲用はこれに加えて塩素剤がしこたま入ってる。石鹸水に消毒液ぶっこんだみたいな吐き気がする味だった。スーツちやんがやめとけと警告するだけはある酷えもんだったぜ。
《どちらかというとバタ臭い人形に悪霊が入ってるホラー系だナ》
(誰が悪霊だコラ。せめて強化外骨格に入ってる英霊にしてくれ)
《その設定は続編でカットされたぞなもし。あれは幽霊が強化スーツのコンピューター代わりになってるのがわりと説得力あったね》
「い゛っ!? ……たた」
あん? 今の声は
「
「あ、ご、ごめんなさい。気にしないで。ちょっと肩が……」
「ベル、大丈夫?」
「だらしないわねぇ。後で医務室付き合ってあげるわ」
他のヤツにも聞こえたか。若いだけに全員五感が良いようだな。
おまえいっつも口で何かと損してんじゃねえの? いや、これはブーメランだな。口で余計なトラブル招いて、あげくロボットで殴り合ったオレが言うこっちゃねーか。
(訓練で肩回りを痛めたか? ずいぶんガッチャガッチャやってたからな)
《ふむふむ、肩と背中の筋肉が引きつって頭がうまく洗えないみたいだヨン》
(情報はありがたいがその情報の入手経路が気になるんだが? 覗いてんじゃねえよ)
バスターモビルはモーションセンサー搭載の訓練機。最小のアクションでも動きはするんだが、調子が乗ってくるとつい体を大きく動かしちまうのが人情ってもんだ。
特に今日の
「く、……ぐ」
あー、あー、無理に動かすな。筋肉とスジが炎症起こしてんだろ。無理にやると変なクセがつくぞ。
「(しゃあねぇ、)
一度自分のシャワーは中断して
「「「《え》」」」
バスタオルは……まあいいか。女子のシャワー室だし。変な顔で振り返った
「まずは頭皮をよくあっためような」
「「「《え》」」」
「これ終わったらシップ貰ってこい。背中側を貼ってやる」
「「「《え》」」」
「今日はもう無理するなよ?(こんな怪我で操縦誤って死んだら泣くに泣けねえぞ)」
「っ! は、はひ……」
「「《え》」」
って。さっきからなんだよそこの二人は。お湯がもったいないからこっちガン見してないでチャッチャと洗え。
<放送中>
(……か、体がキツい、なんか全身ギシギシ言ってる。今日は特にキツかった)
強い筋肉疲労のために勝手に震えてしまう体を引き摺り、アスカに支えられつつベルフラウはどうにか更衣室に辿り着いた。全身は余すところなく汗でびっしょりであり、今も止めどなく塩分を含んだ球のしずくが零れ落ちている。
「ちょっと、さすがに裸でシャワーまで連れてくのは勘弁よ」
ベルフラウのためにここまで手を貸してくれたアスカだが、さすがに汗をかきまくっている相手と肌を密着させるのは抵抗があるようで、一人でなんとかするよう促してくる。
彼女自身も訓練で大量に汗はかいたものの、そこはフロイト派の秘蔵っ子。高い身体能力は体力にも言えるようで、すでにベルフラウほど疲労を引き摺ってはいない。
もっとも、ベルフラウと同じくツインテールを解いた赤い髪の毛は『早くシャワーを浴びたい』と訴えているように乾いた汗でボサボサだが。
(くぅぅぅ……体が重いうえにスーツが汗で肌に張り付いて脱ぎにくい!)
ベルフラウ、アスカ、ミズキの三人は学園でパイロット科に属する生徒で、訓練教官である元エースパイロットの天野和美の直弟子と言える存在である。
彼女は『実機での訓練はパイロットスーツで』という信念があるらしく、他の訓練ではトレーニングの妨げにならない格好なら何でもいいのだが、こと実機訓練においては三人にスーツの着用を命じていた。
三人が着用しているスーツは一見すると、およそパイロットスーツとは思えないレオタードのような装備。しかしSワールドの法則によって見かけとは比べ物にならない機能性を誇る。
特筆すべきは着用したパイロットの保護能力で、あらゆる過酷な環境、高温・極寒・放射線に極めて高い耐性を『着用中のパイロット自身に付与する』という機能を持つ。
布地の有無に影響を受けず防御能力を得られるこの機能は多くのパイロットスーツに搭載を試みられており、研究段階では布地の面積をどこまで減らせるかのテストもされている。
その結果、特定の条件を満たしていれば水着のスリングショットのような面積でも付与されることが確認されていた。
ただしそこまで無茶なデザインとなると羞恥心の強い若いパイロットからは絶不評であり、そのため可能な限り運動を阻害せず着用に抵抗感の薄いデザインが模索された。
そしてその解答例のひとつがベルフラウたちが着ている水着やレオタードのような形状を持つ『TOP・ACE』シリーズである。
この前身となる『TOPスーツ』は天野や高屋敷、ラングの世代が着用したスーツで、身に着けたパイロットからエースを輩出したことにあやかり『TOP・ACE』と名前を改められていた。
基本的なデザインこそ同様だが性能を落とすことなくコストダウンが図られており、エリート層でも決して裕福ではない新人パイロットたちにとって、金銭的に優しいスーツとしても一定の人気を誇っている。
これは天野がベルフラウとミズキの家庭の経済事情を加味し、このスーツを勧めた理由のひとつでもあった。
もちろん弟子に自分と同じスーツで戦ってほしいという、師匠としての願望もある。ただしもっとも大きい理由は、あくまで自身が着用して生還した実績があることだ。天野はそういった装備の良し悪しで弟子たちに死んでほしくなかった。
――――余談だが、『TOP』時代から女性用のスーツは腰の横のデザインがきわどいことや、股の布地の切れ込み角度に関しては賛否両論がある。
汗で張り付いたスーツとその下のインナーを脱ぎ、この時点でフラフラになりながらタオルとソープボトルを抱えてシャワーに向かう。アスカは口で文句を垂れながらもベルフラウを律儀に待っており『足下、気をつけなさいよ』と素っ気無いながらも気遣った。
(う、腕が、シャワーのボタンが遠い……)
無理にスーツを脱いだときにいよいよ体に限界がきたらしく、ベルフラウの腕は小刻みな痙攣を起こしてうまく動かなかった。
そうして四苦八苦しながらシャワーのボタンを押したとき、更衣室のほうから明るいミズキの声が聞こえてきてベルフラウは内心でほっとする。
(よかった、玉鍵さんとはうまくやれてるみたい)
訓練後の機材の片づけは機体以外は持ち回り。使ったグラウンドに穴が開けばそれを埋め立てるのも訓練の一環として、すべて生徒たちで行わなければいけない。そして今日の担当はミズキと玉鍵だった。
花代ミズキは玉鍵の乗る
それが周囲に対する優等生ポーズではなく、本当にミズキを赦しているのだと感じたベルフラウは友人のために心から安堵した。一度は玉鍵との付き合いの距離感について意見が合わずギクシャクしたが、今ではほとんど元の関係に戻れている。
……ほとんど、という文言がついてしまうのは、ミズキの中の『周囲の目への恐怖』が抜け切れていないからである。事情があったとはいえ裏切ったという事実が心にしこりを残し、ミズキ本来の言動や行動にブレーキをかけているのだ。
ただ不思議と罪を許した玉鍵自身には強い信頼を寄せるようになっており、二人の時はベルフラウの知る快活なミズキに戻る。ここにベルフラウやアスカなどが入ると遠慮がちな余所行きのミズキになってしまうのが昔からの友人として――――歯がゆい。
(何かこの真綿で絞めてくる空気みたいなものを、ぱっと払拭できるイベントでもあればいいんだけど……)
おそらく切っ掛けさえあればミズキも元に戻りたいに違いない。自分はみんなに赦されたと実感できる交流ができれば最高なのだがと、ベルフラウはシャワーから出るぬるま湯に頭を打たれながら一人で思い悩む。
(……その前にデビュー戦の心配をしたほうがいいか。3体1で勝てないのはもう『玉鍵さんだから』でいいとして、なんであんなに教えるのがうまいのかしらね)
今回の訓練でベルフラウがこれほど消耗した理由は、ひとえに玉鍵の参戦にある。
ただし、それはエースに叩きのめされたからではない。
ほんの1時間程度の訓練の中で、これまで感じたことがないほど自分の腕が上がっていく自覚があったからだ。
ごく短期間でグングン腕が上達していくという、パイロットにとって麻薬的といえる多幸感と高揚感に引っ張られ、自身の体の限界以上の訓練をしてしまったのである。
玉鍵は言葉は少ないが、極めて的確で適切なタイミングでアドバイスをしてくれた。しかもそれをすぐ実践できるシチュエーションへと戦闘の中で自然に持っていくのだ。
連動したアクションの中で自然と要求される行動を体に覚えさせる。これはひとつの動作をブツ切りで練習していてはとても出来ない訓練だ。
もちろんこの方法は覚え方を誤れば悪いクセがついてしまうだろう。だがそんな事は絶対にないと信じられる。
何せ教わった相手は世界1位のパイロット、ワールドエース玉鍵なのだから。
「い゛っ!? ……たた」
髪を洗うために液体ソープを付けた手を頭まで持ち上げようとしたところ、背中と肩に引きつるような激痛が走り、ベルフラウの口から思わず苦悶の声が出た。
バスターモビルは近接仕様ということもあり、さらにポールウェポン系の武器を振り回すため上半身を大きく動かすモーションが多い。
普段から訓練でやっている事とはいえ、悲鳴を上げた体から今日は完全にオーバーワークだったらしいと痛感する。
「
シャワーの音に紛れることもなく、透き通るような声が耳に届く。向かい合わせの個室で髪の泡を洗い流していた玉鍵が、つい痛みから声を出してしまったベルフラウのほうを気にかけてくれたようだった。
ベルフラウは反射的に玉鍵の方を振り返り―――すぐ真正面に向き直った。
湯気と樹脂製の衝立の向こうに見えた玉鍵の肩と背中、そして黒髪が流れるうなじは、彼女の名前の通りの玉のような艶やかさ。
その瑞々しい肌をお湯と白い泡が流れていく様はどこか背徳的で、自分と同性のはずだと言うのに見惚れそうになってしまったのだ。
眼鏡が無くともこの威力。ベルフラウにこの少女の肢体はとても直視できそうになかった。
見続けたら、我を忘れそうで。
「あ、ご、ごめんなさい。気にしないで。ちょっと肩が……」
「ベル、大丈夫?」
「だらしないわねぇ。後で医務室付き合ってあげるわ」
玉鍵が気付いたことでミズキとアスカも気遣いの言葉をかけてくる。そのおかげでここには他にも人が、知り合いがいるという事実を思い出したベルフラウは、己の中で弾けそうだった何かに急ブレーキをかけることができた。
「
「「「え」」」
お湯を浴びてやっと落ち着いてきた心臓が再び跳ねる。いつのまにか背面に来ていた玉鍵が、衝立越しに滑らかな指先で肩へ触れた。
しかも衝立越しでは身長の低い玉鍵にはうまくないのか、ベルフラウが何か言う前に同じブースへするりと入ってくる。
(な、な、な)
「まずは頭皮をよくあっためような」
「「「え」」」
ベルフラウが突然の事に混乱する中、アスカとミズキがシャワーを浴びたままこちらをガン見しているのが見えた。
(ちょ、違、あっ)
なぜか発作的に言い訳をしたくなったベルフラウだったが、頭に触れた玉鍵の指先はまるでベルフラウのツボを押さえているかのように心地よく、強く押さえられているわけでもないのに抜け出すことが出来ない。
それから――――シャワーを出てしばらくの記憶がベルフラウにはほとんど無い。
気が付けば休憩室で誰かに渡された飲み物にチビチビと口をつけつつ、同じくパックのイチゴ牛乳を飲むアスカに『おまえは私の敵か?』とでも言いたげな目で見られ、苛立ち紛れに炭酸飲料をグイグイ飲むミズキからは、『並んでいた自分のすぐ前で高額当選した人』を見るような妬ましげな顔をされていた。
体から香るボディソープのにおいに紛れて漂うのは、パイロット科に入ってすっかり馴染み深くなったシップのにおい。
その香りの中に思い出せるのは、背中に触れた白く清い指の感触。
―――今後のあらゆることをうっちゃって、ベルフラウは今、ただ思う。
「鼻、膨らんでるわよ」「ベルって、結構ムッツリだよね」
ピンクの液体を輸送するストローから口を離したアスカと、口を押えて静かにゲップしたミズキの口調は、自販機の飲み物よりも冷たかった。
(ありゃ、こっちは工事で通行止めかよ。横着して変な所を通るんじゃなかったな)
ちょいと探検感覚で基地を見て回るつもりが、エリート様の基地は思ったより通行規制が多くて参ったな。
パイロットはだいたいの基地施設は利用できるんだが、もちろん制限の設けられた場所もある。
発行されているパイロット用の身分証にはレベルがあり、基本的に機密度の高い場所には入れないのだ。
まあ物理的にドアのある場所以外は入れなくは無いんだが。さすがに重要度の低い場所まで分厚い障壁で隔離するほど手間はかけてらんねえわな。
それにドアの無い場所でも監視カメラくらいはついているし。壁や床も色分けでレベルをペイントされているから、まともなヤツはそうそう間違って入ったりもしない。
それでもこいつは割と厳格で、利用不可の場所に入ると自動音声で警告も飛ぶし侵入を記録される。1回程度ならうっかりで済むが、何度もやるとペナルティが課せられるからガキのイタズラでは済まなくなる。
決まってアホなガキがやりたがる、何度も境界線を跨ぐおふざけとかをしたら一発でアウトだ。古今東西人種を問わず、なんかお調子者のアホがやりたがるよなアレ。
ちなみに、より高レベルの場所は保安が24時間守っている。こっちはパイロット以外には警告なしで銃を撃ってくるから、ガキのおふざけでも基地関係者以外はやめたほうがいい。
一般層での話だが、過去に度胸試しとかいう理由でやらかしたガキが保安に撃たれて死んだケースもあるくらいだ。
たぶん自業自得のバカに関しちゃ、たとえパイロットでも守ってやる気は無いってことだろう。
まあな、仮に度胸試しなんてくだらない理由でミサイルの信管を殴るフリをする遊びをしているガキがいたら、そんなタコすぎるガキは撃ち殺してもいいとオレなんかは思うがね。うっかり殴ったミサイルの爆発でたくさんの被害が出るよりマシだろうよ。
入るなってところに入らないだけのことが、
そりゃこれが創作の中の話なら、主人公とかのキャラクターがあんまりお行儀がいいとストーリーが進展しないからって、物語上の理由があるんだがな。現実だとそんなヤツは頭が悪いか運が悪いか、あるいはどうしようもなく自分勝手ってだけだ。
《だから言ったじゃん。
(一人で自由にしたかったんだよ。もともとオレはどこに行くにもゾロゾロ連れ立って歩くのは好きじゃねえ)
訓練と赤毛のねーちゃんズに確認したんだが、どうもサイタマ基地でのオレの立場はまだハッキリとは決まってないらしい。
オレはパイロットだがサイタマ基地のパイロットじゃない、市民だがサイタマ市民じゃないってな。とりあえず法に抵触しないよう、滞在のために留学用の身分をでっちあげたって感じらしい。
まあこれに関しちゃしかたない面もある。過去にパイロットがゲートを通って階層を移動してきたケースは無く、前例が無いなら大抵は決まり事を作っていないもんだ。
(あーあ、工事とセキュリティのダブルパンチか。ゲストには格納庫までが遠すぎるぜ。こりゃエリート様が誇るロボットを間近で拝むのは無理そうだ)
エリート用の最新モデルを見たかったんだがな。一般層に降りてくるロボットは基本的にエリートの型落ちだからよ。
たまに一般層の基地で設計案を出して新型を建造してもらうケースもあるが、これはかなりレアケースのようだ。まずロボットの設計者が一般層にいることが珍しいからな。普通はそんな優秀な人間ならエリートに行く。
行かないヤツはよほどの変わり者か、一般層を離れられない事情があるヤツだけだ。
《
06ベースは一応基地とはいえ、一般層に送る予定のロボットやそのパーツが置かれている倉庫みたいなところだからな。他にも一般層から上げられてきた修理待ちのロボットが置かれていたりもする。
見えるところには無いが、たぶんブレイガーやプロトゼッターも一時的にここに置かれているはずだ。
なんかエリート様が妙にやる気を出して新型の建造に掛かり切りになっていて、一般からの修理や建造依頼が後回しになっているとかなんとか、元ガンドールの花鳥が言っていたっけ。
あいつら異母兄弟の月影と会いはしたようだが、その後はどうなったかな。まあ数日で埋まる溝じゃねえし、無理して仲良しこよしで丸く収まるのがいい話ってワケでもない。他人はお節介を焼かずにほっとくしかねえな。
(しゃあねえ、探検は切り上げだ。敷島連れてラーメン食いに行こうぜ、ラーメン)
あいつ昔から外食やデリバリーばっかだったらしくて、あっちこっちの飲食店に詳しいらしいんだ。学食で食った残念ラーメンのリベンジといこう。
《ラーメンはいいけど、その前にトラブル対処かな?》
あん?
踵を返した廊下の先に、いかにもケンカっぱやくて小生意気そうな
《…? 空間に波動を検知。大気が対流する予兆あり。対流先は――――低ちゃんのスカート》
(はあ?)
《気流の流れを表示するから、とにかく回避ジャ。たぶんこれ、超能力を使ったスカートめくりだナ。網膜にエネルギーの流れを表示するヨン》
……バカじゃねえの?
赤く表示された極小の風みたいなものを避ける。エロガキが。
「!?」
ニヤニヤしていたエロガキは期待していた光景を見れなかったのが、ものすげえ意外だったようだ。信じられないとでも言うように目を剥いてやがる。
とりあえずブン殴るでいいか。捲られたワケじゃねえし証拠もクソもねえが、やられたらやり返すがオレの流儀だ。特に世間ナメてるクソガキには厳しくいくぜ?
《ストップ、空間の歪曲を検知。背後に何か出てくるよ。質量、約60キロ》
ケッ、もう何が出てくるかは想像がつくぜ。
「もろたっ――――ぎ!?」
案の定、揺らいだ空間から出てきたのはアゴの細い男。その手はアンダースローの体勢で、今まさにオレのスカートを捲ろうとしている直前。
その手首に問答無用で蹴りをいれる。跳ね飛ばされた右手に引っ張られ、姿勢が崩れた細いアゴめがけて
「ごげっ」
床で顔面を1度バウンドさせた細アゴは、そのままぐったりとして動かなくなった。
危ねえ、思わずグーで殴るとこだった。オレはうっかり拳で殴ると手を痛めちまうから面倒だぜ、クソ。
しかし……これが
で、エロガキの方は
その力をスカート捲りに使ってるんじゃ程度が知れるぜ、クソガキが。
「こ、コージ!? やろう、よくもコージを!」
うるせえよ。ポツポツと赤い流れがオレの体に巻き付こうとするのを振り切り、一気にダッシュで間合いを詰める。
急に片膝をついて腕を交差した変なポーズをしていたエロガキ。その顔面に左フック、いやサイドスロー気味の掌底を振りかぶる。
「がぶっ!?」
超能力頼みの素人が!
「やめなさい貴方た―――あっ!?」
廊下の向こうから顔を出した女が何か口走るのと、オレの掌底がエロガキの鼻を潰してブッ飛ばしたのは同時だった。
現れたのはこいつらと同年代っぽい女と、やたら体格のいい太っちょの男。
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